俳優・小林且弥が初演出に挑む意欲作 廃業することになったサーカス団の最後の日を360度ステージで濃厚に描く

俳優・小林且弥が初演出に挑む意欲作 廃業することになったサーカス団の最後の日を360度ステージで濃厚に描く

 歴史エンターテインメント舞台など数々の話題作を手掛けてきた「る・ひまわり」が、次代を担うクリエーターとタッグを組むシリーズ企画として舞台『象』を上演する。本作で初の演出に挑むのは俳優・小林且弥。
 7人の個性豊かな俳優たちとともに、廃業するサーカス団を舞台に、コロナ渦で日々変容していく価値観や社会へのメッセージを、取り残された1頭の象「アドナイ」に込めて描いていく。作品を代表して小林に話を聞いた。

自分の中でそろそろいいのかもしれないと思った

――くせ者ばかりのキャラクターが揃った作品ですが、稽古場の雰囲気はいかがですか?

 「人間模様が作品のままで面白いですね(笑)。全員のことを客観的にみていることに、これまでとは違う立場で作品に携わらせていただいてるなぁという実感をあらためてしているというか。この世界に入って22年目で初めての視点ですね」

――初演出の手応えとしてはいかがですか?

 「想像とは違うだろうと思っていたので驚きは無くて、僕が解釈しているものと役者さん本人達の解釈のどっちを生かした方が効果的かな、とか考えますね」

――今回演出をするきっかけや背中を押す何かがあったのでしょうか?

 「数年前からプロデューサーさんからお話はいただいてたんですけど、都度、無理ですと断っていたんです。でも自分の中でやろうと思う瞬間があって。その時はうまく言語化できなかったんですけど、今あえて言語化するなら、自分の中でそろそろいいのかもしれないと思ったんですよね。 自分のやることにカテゴライズしすぎるのもどうだろうと。一度の人生の中でもっと違う角度や関係性から作品に携わることができないかと。やっぱり新しい景色って見てみたいじゃないですか? あとは、恐れ多いことなんですが、自分が携わることで、無理かもしれないけど、何かこの世界に還元できたらという思いが自分の中に芽生え、やらせて頂きますと返事をしました」

円形舞台で“「生」の面白さ”をより近くに感じてもらえたら

――この作品はエレファントの「象」、イメージの「像」など、色々な要素が込められています。最初の印象や、稽古が始まって変化したことがあれば教えてください。

 「脚本については作業中からこうして欲しいとか話し合いながら作りましたが、実際動いてみて、計算通りのところもあるし、違う方向に行ったものもあり、ただそうなることを予想していたので、どちらも擦り合わせをした上でどうやっていったら面白くなるのかの調整中です。酷いという面白さ、なんだこれはという面白さ、いろんな“面白い”のコントラストが入っていて、そこに個性的な7人の役者さんによる、ひとつの大きなうねりみたいなものになっていけば。
 今回は自分自身が好きな円形舞台です。逃げ場の無さが好きというか。プロセニアム(※前にステージがあり客席がある劇場)と伝わり方が違いますよね。ドキュメンタリーじゃないんだけど、目の前で勝手に起こっている一つの事象をお客さんが覗き見する感じというか。今回もひとつの事件なんです。滑稽な。舞台における『生』という絶対的な側面に関して、円形というのはその感じがより近く感じるというか。同時にそうなったらいいなと思ってます」

――演出家として意識している事、大切にしていきたいと思っていることは?

 「もちろん色んな事があって微調整も必要ですが、基本的には俺がお客だったらこの人のこれが面白いだろうな、この人のこれが見たいとか、それにつきます。僕は映像から始まった人間なので、一面的に役者さんとお客様が受け取るやり取りよりも、360度の多面的なコミュニケーションに、より舞台としての面白さがあるなと思ってます。席によって見え方が違いますし、これをやったらお客様は観えづらいかもとかありますが、全部見えることが良いとは決して思わなくて。普段の生活で後ろの人が何をしているか見えないように、背中でも多少声が聞き取れなくても、見えなくても伝わるものがあると思っています。そういうものが煙のようにみんなの中に蔓延していったらそれだけで面白いのかな」

――インタビュー冒頭で稽古場の様子を人間模様が作品のままで面白い、と仰っていましたが、小林さんの思う本作の見どころは?

 「僕的には全部が見どころです! リピートで観てくださると毎回見え方が違いますので楽しめると思います。是非この舞台『象』を観に来てください!」

(取材・文:谷中理音 撮影:石田 航)

※本公演に出演予定でした菅原健さんは体調不良により、大事をとり降板となりました。主催者からのお知らせについてはこちらをご覧ください。

プロフィール

小林且弥(こばやし・かつや)
1981年12月10日生まれ、山口県出身。2002年、ドラマ『東京ぬけ道ガール』(NTV)でデビュー。2013年の映画『凶悪』で注目され、数々の映画やドラマなどで活躍中。近年に、映画『マエストロ!』、『あゝ、荒野』、ドラマ『メディカルチーム レディ・ダ・ヴィンチの診断』、『頭取 野崎修平』など。る・ひまわりの舞台公演は、祭シリーズ『聖☆明治座 る・の祭典』主演、『忠臣蔵 討入・る祭』主演などのほか多数出演している。

公演情報

舞台「象」

日:2022年4月6日(水)~17日(日)
場:KAAT神奈川芸術劇場 〈大スタジオ〉
料:9,800円(全席指定・税込)
HP:https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00611
問:る・ひまわり mail:info@le-himawari.co.jp

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