俳優やその人物に焦点を当てた、素描シリーズの第1弾公演 「悲願だった」鈴木裕美が描き出す、名作戯曲の美しさ

俳優やその人物に焦点を当てた、素描シリーズの第1弾公演 「悲願だった」鈴木裕美が描き出す、名作戯曲の美しさ

 演出家・鈴木裕美主宰の「鈴木製作所」が、新企画「素描シリーズ」をスタートする。第1弾となる作品は、テネシー・ウィリアムズの『ガラスの動物園』。トムを須賀貴匡、ジムを黄川田雅哉、ローラを村井友映、アマンダを西尾まりが務める。演出の鈴木、出演する須賀・村井に本作への思いを聞いた。

―――「素描シリーズ」は、どのような思いからスタートした企画なのでしょうか?

鈴木「私も年齢を重ね、好みが明確になってきて、“好きなものはどうしても好きなんだな”と思うようになりました。私は俳優さんという生き物がすごく好きなんです。“役同士の間で起こることが見たい、そこに強い興味があるんだ”と改めて思うようになり、俳優が役を演じることにのみ特化した演劇がやりたいと考えていました。そうしたところから、ストイックな舞台美術で、“俳優” “その役”、2つの“人”に焦点を当てたシリーズを始めようという思いに至りました」

―――この『ガラスの動物園』は、まさに役者・人に焦点を当てるのに最適な戯曲だったということですね。

鈴木「そうですね。そして、何十年もやりたいと思っていた、悲願だったんです。
 正直なところ、この『ガラスの動物園』は、プロデューサーが若い演出家に演出をしてもらいたいと思う作品だと思うんです。テネシー・ウィリアムズが若い頃に書いた作品ですから、それはもちろん当然だと思います。だとすると、もう人から演出を頼まれることはないんじゃないかということに気づき、どうしてもやりたいなら自分でやるしかないじゃないかと。『なんでこんなに頭が悪いんだ』とか『なんでこんなに可愛いんだ』という関係性や、人の有り様が書かれている作品だと思うので、その瞬間を自分の目で見たいと思っていたんです。
 すごく性格が悪い話になりますが、テネシー・ウィリアムズやチェーホフが好きな演出家は、自分の頭の中に“my『かもめ』” “my『ガラスの動物園』” “my『欲望という名の電車』”があるんですよ。なので、他の人が演出したら、絶対に気に入らないんです(笑)。
 観劇すると『(自分の頭の中にあるものと)あそこが違う』と思いながら帰ってくる。きっとみなさん、口に出さないだけで、私以外の演出家も絶対にそう思っていると思います。でもそこが素晴らしいじゃないですか。それがあり得るのは、戯曲の強さがあるからです。とにかく、自分はこう思ったんだというシーンが俳優さんによって現れてくるのを死ぬまでに見ておきたいということが企画意図でした」

―――そうしたシーンを立ち上げるにあたって最適なキャストさんたちが今回揃っているのですね。須賀さんは出演が決まり、いかがでしたか?

須賀「裕美さんがおっしゃったように、何年も前から『ガラスの動物園』をやりたいという話を聞いていたんですよ。いつやるのかなと期待していて、今年に入ってからお話をいただきました。裕美さんとはこれまでにも6作品でご一緒させてもらっていて、演出家としてとても信頼のおける方だと感じていますので、快く引き受けさせていただいたという次第です」

―――村井さんは今回、オーディションで出演が決まったとお伺いしています。どんな思いからオーディションを受けたのでしょうか?

村井「ローラは、私くらいの年代の女優からしたら、演じられるなら演じたいと願う役柄だと思います。ただ、そうした機会はあまり得られるものではないので、演じられるなら……という思いで応募させてもらいました。
 裕美さんと初めてお会いしたときに、いろいろなお話を聞かせていただいて、『この方が考えるローラって面白い』とすごくワクワクして、演劇の楽しさを改めて感じました。二次審査、三次審査と進んでいくうちに、難しいところもたくさんあると思うようになりましたが、この作品への考えやお話を聞いて、この作品に関われたらいいなという思いがどんどん強くなっていたので、選んでいただけたことが、嬉しくて嬉しくて。頑張らなくてはいけないと思っています」

―――『ガラスの動物園』という作品には、どんな印象をお持ちでしたか?

須賀「実は一度も生で観劇したことがないんですよ。もちろん戯曲は読んだことがありましたし、『欲望という名の電車』は何度も観ていますが、どうも縁がなかったんですよね。最近上演されていたのも知っていましたが、いつもタイミングが合わなくて」

村井「須賀さんと一緒で、舞台を観たことはないんです。戯曲は、大学の西洋演劇史の授業で『欲望という名の電車』と『ガラスの動物園』を読むという課題がありました。読んでみると、登場人物がみんなおかしい。『なんでこんなに1人で長く話すんだろう』という疑問から始まり、わからないことだらけでした。でも、今回オーディションを受けると決めて読み返したら、すごく面白いなと。これまでとは全く違う視点で読むことができ、新たな発見がありました」

―――鈴木さんは、おふたりにどんな期待を寄せていますか?

鈴木「今回、美しいと思うものが似ているなと思っている方たちにお集まりいただきました。友映ちゃんは、オーディションで決めさせていただきましたが、オーディションでは『一緒にものを作れるか、どうか』を一番、大事にしました。(オーディションで)『ローラは藤井風さんだと思うんだよね』という話をしたのですが、友映ちゃんは、そうした話にも乗ってくれたんです。『それだったらこういうこと?』と体に乗せて演じてみせてくれたので、一緒に作っていけると確信しました。
 友映ちゃんの大きな決め手が、そうしたローラのおかしさを最初から感じてくれていたことでした。私が説明する前から『この人、ちょっとおかしくないですか?』と。そのあたりの馬が合った。なので、すごく信頼しています。須賀さん、西尾さん、黄川田さんとは長いお付き合いなので、もともと信頼がありますし、今回は友映ちゃんも含めて、話し合えたり、意見を出し合えたりする方たちだなと思っています」

―――須賀さんと村井さんは、おふたりが演じる役柄にどんなイメージを持っていて、どう作り上げていきたいと考えていますか?

須賀「どこでどういうことが起こって、そこにはどういう気持ちの変化があって、誰にどういう影響を与えて、どういうふうになっていくのかを、今は想像しながら読んでいるという段階です。とにかくとても多くを語る役なので、一つひとつ立ち上げていくには、もちろん大変だろうなと思います」

村井「まだ稽古が始まっていないので、本を読んだり、こういう感じかなと想像する時間を楽しんでいる段階ですが、オーディションの時に、出演が決まっていた他のキャストのみなさんが、相手役を実際にしてくださっていたんですよ。(西尾)まりさんと一緒に演じた時に、台本を読んだ時には思わなかった『親子だ』という感覚があって。トムとトムのお父さんの繋がりは本の中でも感じていましたが、実際に読んでみたらローラとアマンダの繋がりも感じて、家族って似ているなと思う瞬間がありました。私は、普段生活していても家族の繋がりを感じる瞬間があるので、そうしたところを丁寧に作っていけたらと思います」

―――それぞれの役に共感できるところ、理解できるところはありますか?

須賀「あります。トムは、僕よりもずっと若い設定ですが、家庭の中で起こっている抑圧や社会的背景、貧困などを自分に置き換えて考えています。トムは男の子特有の、冒険的思考がすごく強い人だなと思いますが、自分の中にもロマンチックなところや『男の子にはみんなあるよな』というところがあって、そうしたところもすごく共感を抱きますね」

鈴木「『ここは自分の居場所ではない』とか『もっと違う、もっと美しいところに行きたいんだ』という気持ちや、リアルな世界に住んでいたくないという思いは、若いときは男性も女性もみんなあると思います。今、いみじくもロマンチックと言ってくれましたが、須賀さんもロマンチックな人だと思うんですよ。須賀さんは、すごく優しいけど、バカなんじゃないかというところも持っている。ロマンチックだったり、あかんたれだったりするところは、須賀さんご本人の中にもあるなと思います」

―――ローラについてはいかがですか?

村井「理解できるところと、本当にわからないというところがあります。なので冷静に読めない瞬間があって。でも、頑固なところはすごく似ているのかなと思っています」

鈴木「ローラは、すごく繊細で、とても美しい魂を持っているし、これまでもそうした人物として演じられてきていると思いますが、冷静に戯曲を読むと、危ないところもある。美しいけれども、すごくアーティスティックな人だと思うんです。芸術的な意味での危なさを持っていて、美しい。
 そうした人をイメージしやすい人物として、私は藤井風さんを挙げたのですが、とても美しい音楽を作っていらして、素晴らしいけれども、もし、音楽とピアノをとってしまったら、どこか危なさが残るのではないか。そうしたところが、ローラのイメージと似ています。もしかしたら、ローラにも絵筆や楽器を与えたら、何者かになったかもしれない。ある種、芸術的なセンスを持っている兄妹なんだなと思っています」

―――先ほど、自分の中でイメージしているシーンを見たいというお話がありましたが、そうすると、演出という点からもすでに見えてきているところがありますか?

鈴木「そうですね。ただ、そうしたイメージは、どの作品でもあることです。このシーンではこの美しさが見たい。このシーンではこのくだらなさが見たい。それは明確にあるけれども、それ以外は好きにしてほしいんです。
 よく話すのですが、演出家はゲームのルールを決める人だと私は思っているんです。例えば、かくれんぼをするとして、この部屋の中に隠れてといったら、あまりにも狭すぎて、きっとゲームとしてつまらないですよね。でも、この街のどこに隠れてもいいとなったら、絶対に見つからないからやはりつまらない。じゃあ、この建物の中からどこでもと決めたら、もしかしたら楽しめるかもしれない。そうしたルールを決めるのが演出家の役割で、『この範囲で遊んでほしい』と伝える。どこに隠れるかはプレイヤーそれぞれに好きに工夫してもらえばいいというイメージを、稽古の時にはいつも持っています。
 私は常に“この俳優ならでは”というものが見たいんです。今回もこの4人ならではが期待できる、キャスティングができたと思います」

―――キャスティングが固まった段階で求めているシーンや絵ができるなという確信があったのですね。

鈴木「もちろん簡単にできることではないですが、稽古を通して、作り上げていくのがすごく楽しみですね。美しさの本物が見られるのだと思うと」

―――具体的に演出面で、どんなことを考えていらっしゃいますか?

鈴木「舞台美術も衣裳もデザインを出しましたし、小道具の打ち合わせも進んでいるので、ビジュアル面はほぼ決まっています。舞台美術は“非常階段のある空間”です。この非常階段がキーだと思っています。家賃を多く儲けるために、本来の部屋の広さを2分割して貸し出していて。そのため片方の部屋には玄関がなくなってしまったので、非常階段が玄関になっている。そこから人が出入りするんです。すごく象徴的なものになると思います。それから、最後のシーンのアマンダの衣裳もぜひ注目していただきたいです。ト書き通りなのですが、『娘のお見合いに振袖を着てくるような女性』なんですよ。それをぜひお目にかけられればと思っています」

―――改めて、公演への意気込みと読者にメッセージをお願いします。

鈴木「今、翻訳作業をしているのですが、翻訳をしていると気づかなかった面白いところが見えてきます。きっとみなさん、この作品はシリアスなものだと思っていると思いますが、『これは笑えるだろう』とテネシー・ウィリアムズが思って書いているところが案外たくさんあるんですよ。
 この物語は自伝的要素が強いので、自分自身や自分の家族を笑ってバカにしつつ、それでも寄り添っている家族の愛のお話なのだと、翻訳をしていて改めて感じています。新しいものを目指しているわけではなく、ある意味では真っ当に作り上げるつもりですが、面白くなると思います」

須賀「鈴木さん自ら翻訳した、その戯曲をいただくのが楽しみです。非常に色濃く描き出されている部分もあると思いますし、ドラマチックになっているところも出てくると思うので、僕たちもまた新たな発見があると思います。それを読むのが楽しみです。こうした戯曲は、今の日本の演劇界で上演できるところはなかなかないので、骨太で普遍的な戯曲をやらせてもらえることはとてもありがたいことです。みんなで楽しみながらも、丁寧に時間をかけて作っていけたらと思っています」

村井「早く台本が読みたくてワクワクしています。そして、その台本を使って稽古できることが本当に楽しみです。“この4人でなければできない”ものを見たいと仰っていただき、その中に入れたことも嬉しいですし、その想いを噛み締めながら稽古をして、本番を迎えられたらと思っています」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

鈴木裕美(すずき・ゆみ)
1982年、日本女子大学在学中に「自転車キンクリート」を結成。「自転車キンクリートSTORE」を含め、ほとんどの公演を演出。現在は小劇場から大劇場、ストレートプレイ・ミュージカル・ダンスと多種多様なジャンルで精力的に活動中。2011年より個人ユニット「鈴木製作所」を立ち上げ、『ノミコムオンナ』を製作。近年の主な演出作品に、ミュージカル『ゴヤ-GOYA-』、『マリー・キュリー』、『アンドレ・デジール 最後の作品』、舞台『陰陽師 生成り姫』、『富士見町アパートメント2022』、『ひとつオノレのツルハシで』、鈴木製作所公演『おーい、救けてくれ!』、『更年期SHOWGIRL』、『小さな神たちの祭り』など。

須賀貴匡(すが・たかまさ)
東京都出身。1999年、俳優デビュー。2002年、『仮面ライダー龍騎』主演。主な出演作に、NHK連続テレビ小説『カーネーション』、『おむすび』、NHK大河ドラマ『麒麟が来る』、舞台『かもめ』、『富士見町アパートメント2023』、『炎の風景』、『12人の淋しい親たち』、『CLOSER』、『若き日の親鸞』、『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』、『エクウス』、unratoプロデュース朗読集『ヴィヨン』、中村京蔵 爽涼の會『フェードル』など。

村井友映(むらい・ゆえ)
2000年12月21日生まれ、東京都出身。桐朋学園芸術短期大学入学と同時に演劇を始める。在学中にコンテンポラリーダンスに惹かれ、卒業後はダンサー・俳優として舞台を中心に活動。2024年、コクーン アクターズ スタジオ第1期生となる。主な出演作は、COCOON PRODUCTION 2026『海辺の独裁者』、COCOON PRODUCTION 2025『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある』、舞台『ロミオとジュリエット』など。

公演情報

鈴木製作所 素猫シリーズ01『ガラスの動物園』

日:2026年12月9日(水)〜20日(日)
場:新宿シアタートップス
料:7,000円 U-25[25歳以下]4,000円 ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://suzukiworks.net/glassmenagerie
問:鈴木製作所 上記HP内よりお問合せください

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