
紀伊國屋書店創業100周年記念公演『わたしの書、頁を図る』が7月、紀伊國屋ホールで上演される。国内外から注目を集める脚本・演出家の小沢道成が構想を温めてきた完全オリジナル作品。“主人公は木村さんしかいない”という小沢からのラブコールを受け、図書館職員の主人公・柳沢町子役に臨む、木村多江に話を聞いた。
―――オファー時からご出演を決めるまでの思いをお聞かせいただけますか。
「オファーをいただいて嬉しい反面、歌があると聞いて正直、怯みました(笑)。だけど、小沢さんとお話していく中で、役者にすごく寄り添ってくださる方だと強く感じたんですね。上手い・下手ではなく、役を生きることにきちんと焦点をあてて演出してくださる希望が見えたのでお受けさせていただきました。実は小沢さんから、『ロックな木村さんが見たい』と言われて驚いていたんです。その直後に、小沢さんとの会話を何も知らないはずの友人の坂井真紀さんから『多江ちゃんって、ロックだよね』って、急に言われたりして。これはもう“私のためにある役だな”と。恐れ多い気持ちもありながら、そんな風に感じています」

―――図書館で退屈な日々を送っていた町子は、突如現れた青年・慶太によって大きく心を揺さぶられていきます。木村さんが演じる町子の人物像をどのように捉えていますか。
「町子さんは人と関わりを避けて図書館という心地のいい居場所から動かず、俯瞰で人を観察しながら、鎧を着て自分を保っている。そんなところは、仕事現場で自分をさらけ出すことを怖がっていた過去の自分と重なる部分があります。町子さんの自分への呪いは、ある男性の存在で、“鎧にはチャックが付いていて、脱げるんだっけ?”と思うほどに変化していく(笑)。でも、長年積み重ねた鎧は彼女の肉としてこびりついて、チャックがあったとしても、血を流していく痛みや苦しみはある。そんな町子さんの姿は時に滑稽に見えてしまう、でも人としてすごく愛おしい人だと思っています」
―――町子のように周囲に自分をさらけ出すことを避けていた、かつての木村さんが変わるきっかけには、どのような背景があったのでしょうか?
「やっぱり私は役者だから、自分に鎧をつけていると芝居ができない。大きなきっかけは、映画『ぐるりのこと。』に出演させていただいた時ですね。“もっと自分を吐き出さないといけない”と強く感じて、実行していったんです。私と同じように、生きづらさを抱えている方たちの希望になりたいという気持ちもありました。いざシャッターを開けてみると、自分の中に少し余裕ができる時もあったりして。木村商店なるものがあったとしたら、シャッターはなるべく開けた状態にして、そこに来る人がいたり、いなかったり……。オープンなスペースとして自分が存在していたい。以降、そんな思いが根底にあるように思います」

―――近年、映像作品に軸足を置く木村さんにとって、“舞台”はどのような位置付けのものでしょうか。
「スケジュールの都合で叶わないことも多いのですが、本当は1年に1本は舞台をやりたい気持ちがあります。自分が成長できるチャンスですし、毎回やり直しがきかない挑戦で、お客様との一期一会もありますから。私が舞台に触れた原体験は、小学校5年生の時に観た演劇部のお芝居。あまりにも感動して号泣するほどの体験だったんです。舞台にはお客様を巻き込んで、宇宙に誘うような力がありますし、そんな感覚を忘れられなくて、私は役者を続けているのかもしれません。ただ、私にとって舞台のお仕事はやっぱり怖い存在ですし、清水の舞台どころか、富士山から飛び降りるぐらいの相当な覚悟がいるものです(笑)。
私は元々、役と私生活の切り分けが苦手なタイプ。2024年に出演させていただいた舞台『台風23号』の時も、“心も体も健康に保ちながら、その瞬間は役を生きてお客様を楽しませるんだ”と、自分への課題にしていましたが、結果的に反省点もあったりして。映画と違って、舞台では同じシーンを連日何度もやり続けないといけないから、瞬間ごとに心の傷をきちんと消化していく必要がある。今回の町子さん役を想像すると、やっぱり私自身が傷つくこともあるだろうと覚悟はしていますが、俯瞰で見ながら、きちんと役を生きたい。小沢さんもそれを望んでいらっしゃるのかなと想像しています」
―――最後に本作の見どころ、読者へのメッセージをお聞かせください。
「私にとって“本”は、ふっと入り込んできて人生の節目節目で助けてくれる大切なもの。そんな本や図書館を題材にした本作は、小沢さんの台本によって登場人物を表面的なアイコンにせず、人間の持つ二面生をきちんと描いているところが面白さのひとつである気がします。登場人物一人ひとりの価値観が違って、愛おしいですし、観ている人にとっても自分自身に矢印が向くような素敵な舞台になるはず。是非、劇場までいらしてください」
(取材・文:山田浩子 撮影:間野真由美 スタイリスト:森 保夫(ラインヴァント) ヘアメイク:谷口ユリエ)

プロフィール

木村多江(きむら・たえ)
東京都出身。1996年にドラマデビュー。以降、数多くのドラマ・映画に出演し、2008年公開の初主演映画『ぐるりのこと。』で、第32回日本アカデミー賞 最優秀主演女優賞をはじめ、数々の賞を受賞。主な出演作に、NHK 連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、『映画ラストマン -FIRST LOVE-』、Netflix 映画『This is I』など。NHK Eテレ「木村多江の、いまさらですが…」ではMC、NHK BS「美の壺」ではナレーションを担当。6月5日に、映画『Never After Dark /ネバーアフターダーク』、6月12日、映画『おそ松さん 人類クズ化計画!!!!!?』が公開予定。
公演情報

紀伊國屋書店創業100周年記念公演
『わたしの書、頁を図る』
日:2026年7月3日(金)~19日(日)
場:紀伊國屋ホール
料:12,500円 ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.watashinosho.jp
問:メディアミックス・ジャパン 公式HP内よりお問合せください
https://www.mmj-pro.co.jp/contact/stage/
