ミヒャエル・エンデの名作と、ドタバタ人形コメディーを2本立てで ひとみ座が創立75周年を前に送り出す、新シリーズ

ミヒャエル・エンデの名作と、ドタバタ人形コメディーを2本立てで ひとみ座が創立75周年を前に送り出す、新シリーズ

 日本の人形劇団のなかでも長い歴史と伝統を誇る人形劇団ひとみ座。1948年創立で来年度は75周年を迎えるが、直前となる今年『White Sketchbook』という新シリーズを送り出すという。いつもとは少し違ったひとみ座作品を生み出していこうということだが、その幕開けに選ばれたのは、ドイツの作家、ミヒャエル・エンデの名作『モモ』と、どんぐりが大好きな仲良し3人組が駆け回る『どんぐりくらぶ』の2作品。一見したところ全く関係がなさそうにみえるが、実は同じコインの裏表のように、共通する何かが秘められているのだという。それが一体何なのかは劇場で探るとして、『モモ』の出演者が11人、『どんぐりくらぶ』8人と人形劇としては大きな規模となるこの2作品。それぞれの魅力を出演者に語ってもらった。


―――――まずは『どんぐりくらぶ』に出演する齋藤俊輔。

齋藤「この作品はひとみ座が伝統的にやってきた蹴込み芝居というスタイルです。蹴込みという衝立に人形遣いが隠れて操作するスタイルですね。でも最近は人形遣いが見える出遣いが増えたものだから、ちゃんとした蹴込み芝居は久しぶりです。その技術を若手に継承する目的も持っています」

―――――もうひとつの『モモ』からは主人公モモの親友、ジジを演じる松本美里。

松本「『モモ』は出遣いになりますね。役者は身体も顔も見せつつ、人形とともに世界を作ることになります。実はこの作品は私と因縁があって(笑)。子どもの頃に読もうと思ったのですが読み切れなくて、その後もう一度トライしたけど駄目だったことがありました。今回上演が決まったので手にしてみたら、さすがに成長したのかいろいろ感情移入をしながら読むことができました。だから私みたいに本では読めなかった子どもでも人形劇なら入りやすいと思うんです。原作を元に佃典彦さんがいい脚本にしてくださいましたから」

―――――その『モモ』の演出は、演劇ユニット「空 観」を主宰する扇田拓也。ひとみ座とは日生劇場のファミリーフェスティヴァルが縁でつながっているという。

扇田「ひとみ座さんとは日生劇場で2作品演出していますから、人形を使った演技には馴染みがあるのですが、今回はひとみ座さんの企画に呼んで頂いて嬉しく思っています。その日生劇場でも出遣いでしたが、僕は人形を遣う役者の姿や顔が見えた方が面白いと思っています。お客さんも最初は遣い手を気にしているのに、観ているうちに気にならなくなる。そこが面白いところですし、遣い手の顔の表情と人形の表情をミックスしてみているのも魅力のひとつです」

―――――そして両作品の人形製作や舞台美術を手がけるのは小川ちひろ。人形の大きさや構造から雰囲気まで、全く違ったものを用意したという。

小川「2作品全く別のスタイルですね。『モモ』は人間の造形に近いデザインですが、『どんぐりくらぶ』の方はシンプルにそぎ落としてデフォルメした人形になりました」

―――――チラシに出ている人形を見ると確かに全く違う。しかも『どんぐりくらぶ』の人形はひとみ座の代表作でもある懐かしの『ひょっこりひょうたん島』を彷彿とさせる。そう小川に伝えると「どちらもデフォルメした人形なので、そう感じるのかもしれませんね。『モモ』の人形も、『どんぐりくらぶ』の人形も、持っている力を全部出して作っています。もちろん舞台美術も全然違ってきます。今はようやく人形の製作が落ち着いて、舞台美術を検討中です」と話してくれた。

―――――さて、人形劇と聞くと子ども向けの舞台だと思いがちだが、ひとみ座の作品は大人にも、いや、もしかしたら大人にこそ訴えかけるものがある気がする。役者、演出家、美術家それぞれの立場からどんな観客に、どのように楽しんで欲しいと望むのだろう。

齋藤「小さいお子さんから大人まで楽しんで欲しいですが、観た後に子どもが真似してくれるような、そんな印象に残る舞台にしたいですね。そういうことが起きるとその舞台は成功だったと思っています」

松本「コロナ禍以降、人と人との距離が離れがちな世界になった気がしますが、悲しいけれどそれと『モモ』の物語は似ている部分があると思います。大人はそこに気づくかも知れませんね。でも子どもはもっと純粋に観てくれるでしょう。どちらも見終わって単純に“楽しかった、モモが好きだった”と思ってくれたらいいですね」

小川「アニメやテレビではなく、生の舞台で、劇場にいる時間、一回きりの世界を感じてもらえればいいですね」

扇田「僕は劇団員ではないので外側から見ているわけですが、ともかくひとみ座さんの技術は素晴らしいものがあって、人形を遣いながら演じるのはまさに職人技です。それをまだ未体験の人には是非ご覧頂きたい。また人形は時に生身の人間よりも表現が豊かなことがあるんです。そして“時間”がひとつのテーマになっている両作品ですが、お子さんはもちろん、連れていらっしゃる大人の皆さんにも、時間について何か考えてみて欲しい、何かを感じ取って欲しいです」

―――――上演スケジュールも続けて見やすいようにプログラムされている両作品。大人ならではの発見もあるはずなので、ぜひ劇場に足を運びたい。

(取材・文:渡部晋也 撮影:山本一人(平賀スクエア))

プロフィール

扇田拓也(せんだ・たくや)
東京都出身。日本大学芸術学部演劇学科卒。在学中に自身が脚本・演出を手掛ける劇団「ヒンドゥー五千回」を旗揚げし、活動を展開。2018年の最終公演を機に劇団名を「空 観(くうがん)」に改め再起動。てがみ座や名取事務所、日生劇場ファミリーフェスティヴァルなど、多くの劇団やプロデュース公演にて演出を担当。「楽しく幸せな演劇創作」をモットーに、身体の使い方に注目する演技ワークショップを様々な場所で積極的に行なっている。

齋藤俊輔(さいとう・しゅんすけ)
1995年に入団後、『大どろぼうホッツェンプロッツ』、『弥次さん喜多さんトンちんカン珍道中』などで主演を務める。近年では演出・脚本等、さらにその活動の幅を広げている。

松本美里(まつもと・みさと)
2005年入団。『ズッコケ時間漂流記』や日生劇場制作『エリサと白鳥の王子たち』などに出演し、多数の作品で主演を務める。また自身のプロデュース作品『おしいれのぼうけん』などでも全国巡演中。

小川ちひろ(おがわ・ちひろ)
多摩美術大学で染織を学んだ後、2003年に入団。創立70周年記念公演『どろろ』から、日生劇場制作『ムーミン谷の夏まつり』まで、数多くの作品で人形美術を務めている。

公演情報

人形劇団ひとみ座 モモ/どんぐりくらぶ

日:2023年3月23日(木)~29日(水)
※公演日時によって演目が異なります。詳細は団体HPにて
場:『モモ』シアターグリーン BIG TREE THEATER
  『どんぐりくらぶ』シアターグリーン BASE THEATER
料:大人3,000円 子ども2,000円
※他、各種割引あり。詳細は団体HPにて(全席指定・税込)
HP:https://hitomiza.com/
問:人形劇団ひとみ座 tel.044-777-2225(平日10:00~18:00)

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