
音楽座ミュージカルの作品として1992年に初演され、「日本のオリジナルミュージカルの到達点」と評されたミュージカル『アイ・ラブ・坊っちゃん』が、東宝製作として5月に上演される。
夏目漱石の生涯という史実と代表作の小説『坊っちゃん』の世界を交錯させることで、執筆の裏側にあった漱石の孤独や葛藤、そして家族との絆が描かれる。
夏目漱石役にはミュージカル界トップランナーの1人である井上芳雄。坊っちゃん役には井上とはミュージカル初共演となる三浦宏規。そして土居裕子が初演に続き漱石の妻・鏡子役を演じる。
井上「お話をいただいた時、自分の年齢で演じるには早いと思っていたんですけど、早いどころか漱石の方が年下で、これはやるしかないなと(笑)。しかも文豪というあまり演じたことのないタイプの役だったので、挑戦という意味もあって、有難くやらせていただくことにしました」
三浦「音楽座さんの名作ということで、やりたいなと日頃から思っていましたし、何よりも芳雄さんとミュージカルで共演できることが嬉しくて。普段からいつもパワーをいただいていますから、作中ぐらいはエールを送れる坊っちゃんになりたいと思って取り組んでいます」
土居「まさかこの物語に、しかも同じ役で出演する日が来るとは全く思いませんでした。お話をいただいてパッと頭に浮かんだのは清役の方で、ファンの方も私を清役だと思っていたそうです(苦笑)。ヨッシー(井上)とは『リトルプリンス』での共演が忘れられないくらい楽しくて。幸い漱石が書いた本を読むと、鏡子さんはベッピンさんではなかったそうなので、『じゃあいいかな』と思い(笑)、出演を決めました」
3人に本作の魅力を聞いてみた。
土居「漱石が一番筆が乗っていた時期に書かれた『坊っちゃん』という名作の世界と、精神状態がデリケートな時期があった漱石の実生活とクロスオーバーさせているところが、この作品の魅力だと思います」
三浦「キャラクター性では漱石と坊っちゃんは似ていないんです。でも同じタイミングで、パッと坊っちゃんと漱石が同じセリフを言うところがあって、いいなと思いました」
井上「ミュージカルとして贅沢な作りだと思うんです。“坊っちゃんパート”はミュージカル的な魅力があって、“漱石パート”はお芝居メインで、どちらも楽しめるのが魅力ですし、漱石は日本を近代化しようとしている時に、どう西洋に近づけばいいのかを日本で初めてというくらいに真剣に考え、作品として具現化した人で、作品の素晴らしさに加えて、そこで描かれている問題に学ぶところがありますね」

井上と土居は、音楽座ミュージカル『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』、『リトルプリンス』が東宝製作にて上演された際に共演している。
井上「音楽座の空気感や実際どうやって作ってきたかを直接聞けますし、初演からの積み重ねやご苦労があって今があると思います。演技をしてくださるだけで感じ取れることはたくさんあって、座組に土居さんがいらっしゃることの重みを感じます」
三浦は『レ・ミゼラブル』で革命を志す学生・マリウスとアンジョルラスとしてバディを組んだ小林唯(山嵐役)と再び共演する。
三浦「坊っちゃんにとって山嵐は大事な存在で親友。唯さんとは、『レ・ミゼラブル』劇中では絡みがありませんでしたが、今回はガッツリと一緒にお芝居します。唯さんは『プライベートでは僕と仲が良い』と言うんですけど、プライベートで会ったことないんですよ(苦笑)。ただ稽古場ではずっと一緒でしたし、気心が知れた先輩と一緒に役を作れるのは楽しみです」
土居は演出を務めるG2との裏話を語ってくれた。
土居「G2さんは一番最初に『僕は夏目漱石が大好きです』と仰いました。本当に漱石のことを熟知されていて。G2さんから『漱石のこういうところがすごい』というお話を伺う度に、まるで初めて作品に向き合っているかのような感覚になりました」

3人に“お互いの俳優としての魅力”を聞いた。
井上「土居さんは奇跡のミュージカル女優です! 本当に伝説級の方ですけど、威張るわけでも謙虚すぎるわけでもなく、土居さんにしかできないバランスで自然に演じられていますし、歌声もどんどん研ぎ澄まされているので、そういう意味でもすごいことだと思います。三浦君は、元々素晴らしいダンサーでガッツがあって、きっと悔しい思いをしながら歌やお芝居にも取り組んできただろうし、踊りはもちろん歌もお芝居もさらに精度を上げているし、貪欲だなと思います」
土居「今や“井上芳雄なくしてミュージカル界は成り立たない”というぐらいこの業界を背負っていて、しかも公演の合間にディナーショーをやったりして、『この人どうなってるの?』と本当に思うぐらい。それだけ自分の中にクリエイティブな心を持っていらっしゃるんだろうなといつも思います。三浦君は今回初共演ですが、今や若手ミュージカル俳優の中で飛ぶ鳥を落とす勢いで、これからも楽しみですし、大好きな音楽座の作品で坊っちゃんを演じてくださることがすごく嬉しいです」
三浦「大変おこがましいですけど、芳雄さんは“働きすぎ”です! トップスターがこれだけ働いていたら、『疲れた』なんて言えないですよ(笑)。でも僕は何よりミュージカルで芳雄さんと共演することが夢でもあり目標でもあって、芳雄さんを近くで見られるというのが自分にとって一番の財産だと思っています。土居さんは最初に本読みをした時、最初の第一声で『土居さん、すごい!』と思うくらいの佇まいや存在感がありました」

神経質な漱石と純粋な坊っちゃん、どちらの性格がご自身と似ているか聞いてみると……。
三浦「坊っちゃんタイプです。純粋だからこその気持ち良さは見習いたいですし、自分の非はちゃんと認めた上で、言いたいことは言うところにすごく憧れます」
井上「僕は漱石タイプです。漱石は留学先のロンドンでは話が通じず、精神が病むほどでした。でも生活のためにやらなきゃいけないことはあるし、苦しみつつ、文句も言いながらやるというのは、僕も同じタイプです。普段は怒ったりしないけど、『演技で怒れるから、ま、いっか』という性格は漱石と似ていると思います」
土居「私も漱石タイプで、いろいろと言いたくなる時はありますが、後々面倒くさくなるなと思って、言わないで終わっちゃうことはよくありますね」
最後に「坊っちゃんの執筆を通して自己回復する姿を描く」というあらすじにちなんで、各自の自己回復法(セルフケア)を聞いてみた。
井上「普段からSNSで自分が褒められている意見を探しますが(笑)、時には心ない言葉を見つけることもあって、ちょっと傷つくじゃないですか。でも自分がそう感じた理由がわかれば対策ができるので、見つけた時に『何故自分はこれに傷ついたのか』というところまで考えるようにしています」
三浦「僕は仕事の日だと調子が良くて、休日になると体調を崩しがちです(苦笑)。どなたか自己回復法をご教示願います(笑)」
土居「私は“イス坐禅”をします。円覚寺の管長に教えていただいて、足が組めなくても、背筋を伸ばしてゆっくりとした呼吸をしながら坐禅をすると、頭の中がスッキリします。今度イス坐禅の本を差し上げますね」
井上・三浦「ありがとうございます‼」
(取材・文:冨岡弘行 撮影:NORI ヘアメイク:〈井上〉川端富生 〈三浦〉AKi 〈土居〉川又由紀 スタイリスト:〈井上〉吉田ナオキ 〈三浦〉小田優士 〈土居〉松本裕子)


井上芳雄さん
「『キャンディード』というミュージカルで僕は出ずっぱりの役だったのですが、ある日、汗でワイヤレスマイクが水没してしまいました。袖に引っ込むこともできず困っていたら、周りの役者さんがかわるがわる僕の近くに来て、自分のマイクで僕の声を拾ってくれました。舞台のチームワークのありがたさを身をもって実感しました」
三浦宏規さん
「10年ほど前の作品ですが、殺陣中にステージのセットから転落したことがあります。文字で書くと大事故のようですが、幸い無傷で済みました。
リカバリーですか、、何事もなかったかのように元の位置に駆け戻って殺陣を続行した記憶がありますが、、次の日の公演の際お客様から大量の湿布が届いていました。完全に気づかれてしまっているのでリカバリーは失敗です(笑)どんなに激しい殺陣でも冷静さを失わないようにしようと教訓を得た作品でした」
土居裕子さん
「『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』というミュージカルを演った時のこと。チャーリー・ブラウンは、小堺一機さん。私はいじわるルーシー役でした。袖から舞台を観ていると、小堺チャーリーがいつもにも増して大汗掻きながら1人でいっぱい喋ってます。そこへ舞台監督が、『土居さん、出て!』の声。ひゃーっ!とあわてて舞台に出たのですが、どのシーンだったか、何かを喋っていいのかわからず、やっと出てきた私にホッとした顔の小堺さんを置きざりにして再び袖に入ってしまいました!
後日、小堺さんが自身のラジオ番組で、『土居は出とちりしておきながら、『あんた、お笑いの人なんだからそのくらいちゃんと繋ぎなさいよ!』って言っていじめるんですぅ!』ですって。いえいえいえ! そんなこと言ってませーん!(笑)」
プロフィール

井上芳雄(いのうえ・よしお)
1979年7月6日生まれ、福岡県出身。主な出演作に、ミュージカル『エリザベート』、『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』、『大地の子』など。

三浦宏規(みうら・ひろき)
1999年3月24日生まれ、三重県出身。主な出演作に、ミュージカル『レ・ミゼラブル』、『のだめカンタービレ』、舞台『千と千尋の神隠し』など。2026年は、舞台『キングダムII – 継承-』、ミュージカル『ミー&マイガール』に出演。

土居裕子(どい・ゆうこ)
11月27日生まれ、愛媛県出身。主な出演作に、ミュージカル『TENTH /この森で、天使はバスを降りた』、『シャボン玉とんだ 宇宙(ソラ)までとんだ』、『リトルプリンス』、ブロードウェイミュージカル『モダン・ミリー』など。
公演情報

ミュージカル『アイ・ラブ・坊っちゃん』
日:2026年5月1日(金)~31日(日)
場:明治座
料:【土日祝日・千穐楽】S席17,000円 A席12,000円 B席6,000円
【平日】S席16,000円 A席11,000円 B席5,000円 ※他、各席種あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.tohostage.com/botchan
問:東宝テレザーブ tel.0570-00-7777
