一風変わった作風だけれど、変わらず“愛”を届けたい 懸命に生きようとする人間たちの物語 「もう1回観たい」という声に応え3回目の上演

一風変わった作風だけれど、変わらず“愛”を届けたい 懸命に生きようとする人間たちの物語 「もう1回観たい」という声に応え3回目の上演

 長戸勝彦を中心に設立された演劇ユニット 東京印。2019年に初演、2021年に再演された『蒼い薔薇のシグナル』〜人は燃え尽きるから面白い〜が新規キャストを迎え、この度再々演されることになった。
 2つの家族に隠された、秘密と欲望と憎悪と裏切り。それらが少しずつ暴かれていくとき、その真実を受け入れ、相手を許すことができるのか。それぞれがそれぞれの愛のために、懸命に生きようとする人間たちの物語。
 今回、作・演出を務める長戸勝彦、出演する冨家ノリマサ・久下恭平にインタビュー。作品へ懸ける思いを聞いた。

―――2019年初演、2021年再演で、今回再々演される本作。なぜ本作を再々演しようと思われたのですか?

長戸「この『蒼い薔薇のシグナル』はちょっと一風変わったお芝居なんです。初演をやったときに”お客さんにどう捉えてもらえるかな”と不安もあったのですが、予想以上に『すごく面白い』、『楽しめた』、『もう1回観たい』という声をいただきまして、前回の再演が終わったときに、すぐにでももう1回やりたいと思っていたので、今回、再々演する運びとなりました」

―――本作に出演するにあたってのお気持ちから教えてください。

冨家「再演では、僕も大好きな三浦浩一さんがやられた役を引き継ぐということで、ある種のプレッシャーはあるのですが、新鮮な気持ちでこの作品に臨みたいなと思っています。
 脚本を読んだときに、今までとはちょっと違うニュアンスを感じたんですよね。シュールというか、モノトーン的な感じがするというか……。昨今、俳優が自分の感情をバーンと曝け出すようなお芝居が多い中で、このお芝居はそういう感じではなく、内側を見せていかないといけない大人な芝居だなと。
 すぐにどんな感じでやればいいか分かる脚本って、あんまり面白くないことが多いんです(笑)。逆に、最初の1歩をどちらに踏み出せばいいか分からない本の方が面白いし、燃えるんですよね。今回の脚本は後者。何回も何回も読んで、最初の1歩をどう踏み出そうか考えているところですよ。挑戦しがいのある脚本だなと思っています」

久下「冨家さんのコメントが偉大すぎて、僕、もう喋れないです(笑)。でも、本当に楽しみです。とにかく楽しみです。
 僕は再演に出させていただきました。ハートフルで笑ってつい涙がぽろっと出てしまう、いつもの東京印さんの空気感がまるでない作品だったんですが……。それでも稽古場は和気藹々としていて、みんなで同じ方向を向いて作品を作っていっている感覚は強くて、自信を持って作品をお届けできた。今回も一生懸命みんなで前向きに作品をつくっていけたらいいなと思っています」

―――再演のときと配役は変わらないのでしょうか?

長戸「どうする?」

久下「え、変わる可能性があるんですか!?(笑)」

長戸「いや、ないです(笑)」

―――では、お役について、再演のときに感じられたことを教えてください。どんなところが難しかったり、演じがいがあったりしましたか?

久下「僕はアンドロイドの役を演じます。アンドロイドらしくいるために、人間的な生理現象を少しずつ抜いた状態でどうなっていくんだろうというアプローチをしていたんですね。でも、あの三浦浩一さんとお芝居をさせていただくのに、俳優として、心のやり取りをしきれないもどかしさがすごくあって……。与えてくださっているのに、それを受けている芝居をしきれない。『お芝居をやりたい!』という久下の欲を消すのが大変でした」

長戸「そうだね。アンドロイドには感情がない。つまり、役者として、相手からもらうものを受け取れないんですよね。確かに、それはしんどいよね」

―――長戸さんがお二人に期待されることは?

長戸「久下くんは僕の作品に何作か出てもらっていて、本当に信頼できる役者です。前回と同じ役でも、彼だったらまた違う何かを持ってきてくれるだろうし、稽古を通して見つけてくれるような気がする。
 冨家さんは初めてご一緒するのですが、取材が始まる前にね、喫茶店で1時間ばかりお話をして。脚本を持参して、質問事項を書いて、『このページのここは、こんな風にやってみたらどうですか?』なんて意見をくださって……いやはや、すごいなと! そういう前向きな気持ちが嬉しいです。稽古場で他の役者たちと絡み合ったときに、初演、再演とも違う作品になるだろうなと、今日確信しました。今から楽しみで仕方ないですね」

―――1998年に設立された東京印。改めて東京印にとって、本作はどういう位置付けの作品なのでしょう? また、長年続けて来られるなかで何か変化は感じられますか?

長戸「そうですね、今までの僕の作品の中では、この作品だけちょっと変わっているというか、作風が違うんですよ。そういう意味では挑戦だったし、お客さんに受け入れていただけたからこそ、再演・再々演に繋がっていると思います。
 この作品を作るとき、今までのハートウォーミングな作品とは全く違うものをつくってやろうと思っていたんです。よく分からない人たちがいて、よく分からないセリフを喋って、お客さんもどこかおいてけぼりで、よく分からない芝居だったけど、面白かった。そんなものをつくりたいと思っていたんです。
 でもね、お客さんに言われたのは『そんな作品をつくりたいと思ったのだろうけど、結局、長戸さんだよ』と。それが嬉しいような、ちょっと悔しいような気もするんですけど、恐らく僕が変わらずやろうとしてること、東京キッドブラザースという劇団にいた頃から変わらないことは、“愛”がテーマなんだと思うんです。親子・親友・恋人といろいろな愛があるんだけど、その愛をお客さんに届けたいという思いは常にあるんですよね。この作品も根底に流れているものは、きっと愛。それは変わらないんだろうなと思っています」

―――ユニットをやり続ける原動力は?

長戸「これしかできないからというのが1番大きな理由かもしれないけど、周りにたくさん支えてくれる人や応援してくださる方がいるんですよね。作品をやるたびに、出会う役者仲間が増えていくし、人との出会いが僕を動かしてくれている。
 僕ひとりでは芝居なんか絶対できないですから。たくさんの人に助けられて、たくさんの役者やスタッフが支えてくれて、作品が出来上がって、またその出会いが次へと進ませてくれているんです」

―――冨家さん、久下さんから東京印はどう見えていますか?

冨家「最初に東京印という名前を聞いたときに、お菓子のメーカーのような面白い名前だなと思いました(笑)。長戸さんも初めてお会いするし、正直、東京印のお芝居を観たことがなかったので、知り合いに『東京印って知ってる?』といろいろ聞きましてね。そうしたら『○○さんも出ているよ』、『知っているよ』と言っていて。

 僕、実はアウェイに行くのがすごく好きで。慣れ親しんだ仲間とお芝居を作るのも嫌いじゃないんですけれども、全然知らない人とお芝居するのはワクワクするんですよね。今回は初めましての人ばかりのカンパニーなので、参加させてもらうことにしました」

久下「これまで出演させていただいた作品はどれもいつも客席から観ていたいなと思うぐらい、素敵な作品でした。それに稽古をするたびに毎度毎度好きな先輩、背中を追いかけたい格好いい先輩が増えていくんですよね。『この人のこれ、すごいな〜』、『これができるようになりたいな』と思うんです。めちゃくちゃ幸せな環境です。きっと、お芝居が好きな人たちが長戸さんの周りに集まるからでしょうね。今回もめちゃくちゃ楽しみです」

―――最後に観劇を楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いします。

久下「とにかく楽しみにしていてほしいです。間違いないものを必ずお届けします。何を受け取るかは皆さんそれぞれ違っていいと思うんですが、『すごい2時間だったね』と言ってもらえたり、何かのきっかけでふと思い出してもらえたりする作品になるように頑張ります。劇場でお待ちしています」

冨家「今の大人の人が観て楽しんでいただける作品になると思います。例えば1年、2年経っても、5年経ったときでも『あー、あの芝居のあのシーン、すごく脳裏に焼きついている』と思い出す。そんなお芝居がつくれたらいいなと思っています」

長戸「初めてこの芝居をご覧になるお客様は本当に楽しみにしていてほしいし、過去にこの芝居を観てくださった方も、間違いなく、よりパワーアップした“蒼バラ”になっていると思います。役者たちが舞台上で発するエネルギーを集約して、いろいろな愛の形があることを伝えたい。物語は悲しい方向に展開するかもしれないけど、それだけではなく、少しでもお客さんに元気を届けられればいいなと思います」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

長戸勝彦(ながと・かつひこ)
1963年8月30日生まれ、愛媛県出身。20歳のときに東由多加率いる東京キッドブラザースに入団し、退団まで主演を務め続ける。1998年、演劇ユニット 東京印を旗揚げ。役者・ナレーター・作家・演出家・プロデューサーとして多岐にわたり活躍中。

冨家ノリマサ(ふけ・のりまさ)
1962年3月4日生まれ、神奈川県出身。1983年、NHK連続テレビ小説『おしん』で俳優デビュー。2022年に冨家規政から冨家ノリマサと活動名を変更。2024年春、映画『最後の乗客』(堀江貴監督)、映画『侍タイムスリッパー』(安田淳一監督)が公開予定。

久下恭平(くげ・きょうへい)
1991年9月13日生まれ、兵庫県出身。2012年から芸能活動を始め、舞台を中心に活動中。

公演情報

東京印公演vol.25『蒼い薔薇のシグナル2024』~人は燃え尽きるから面白い~

日:2024年2月28日(水)~3月3日(日)
場:中野 ザ・ポケット
料:最前列席[特典付]8,500円
  一般[2列目以降]7,000円
  高校生以下5,000円
  ※団体のみ取扱/要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:http://tokyo-jirushi.com
問:東京印 mai:mail@tokyo-jirushi.com

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