
脚本家・演出家・俳優の粟島瑞丸が、小さいながらも質の高い、オリジナルの舞台を作りたいと考え、2012年に旗揚げした演劇集団Z-Lion。2017年に上演された『きっといいKotoあるravel』が新たなキャストを迎え、待望の再演を果たす。
物語の舞台は、とあるリサイクルショップ。店に捨てられてくるガラクタを材料に、そこへ集まる若者たちが、ある日「コトラベル」と呼ばれる不思議な装置を完成させた。その発明をきっかけに、町中を巻き込む予想外の事件が次々と起こり始める。
脚本・演出の粟島、主人公の谷口祥太を演じる松井健太、藤原めぐ役の紡木吏佐に本作への思いや意気込みを聞いた。
―――粟島さんは、初演当時、本作にどのような思いを込めて書かれたのでしょうか? また、今回、再演に至った思いも聞かせてください。
粟島瑞丸(以下、粟島)「最初は、こういう話を書こうと思って書いたわけではなかったんですよ。これまで、Z-Lionではファンタジーの世界観を持った作品を上演してきたので、その進化版のようなイメージでした。この作品は家族のお話ですが、僕自身、家族の話をずっと書きたいと思っていて。それで書いている中で、ファンタジーになっていったというところです。今回、永山たかしさんと真辺幸星さんが出演してくださいますが、彼らは初演にも出演していて、永山さんはZ-Lionに一番多く出てくれている方なんです。そんな永山さんが、この作品が一番好きだと言ってくれていたこともあり、どこかでやろうとタイミングを探っていました。温めていたわけではないですが、タイミングを見計らっていましたね」
―――そのタイミングが今、やってきたということですね。
粟島「そうですね。前回のZ-Lionの公演から2年経って、そろそろ公演をしようと思ったときに、どうしても新作を書く時間がなかったので、何を上演しようかと考えて、この作品を、と思った次第です」
―――家族の話を書きたいという思いはずっと以前からあったんですか?
粟島「今回の作品は、家族の話ではあっても、大きな家族の話なんです。そうしたものを書きたかった。自分の友達と自分の親がすごく親しいというような、大きなくくりでの家族。松井くんが演じる主人公の祥太の友達も、祥太のお父さんとお母さんと同じ家族だというような、そうした話をずっと書きたいと思っていました。それぞれの家族というよりは、作品全部をひっくるめて、1つの大きな家族の話をイメージして書いたものです」

―――松井さんと紡木さんからは、今回のオファーを受けたときのお気持ちと、最初に脚本を読んだときの感想を聞かせてください。
松井健太(以下、松井)「僕はここ数年、ストレートプレイの舞台に出演していなかったのですが、久しぶりに出たいという話をマネージャーとしていた中でのお話だったので、すぐに『やりたいです』と。しかも主演でということでしたので、とても嬉しかったです。再演とお聞きしたので、初演がどうだったのかも自分なりにリサーチした結果、すごく好評だったことも分かったので、よりワクワクしました。最初はそんな感じでした」
―――粟島さんとは今回が初めてですか?
松井「初めてです。紡木さんとも初めましてですね。脚本を読ませていただいて、初演が好評だった理由がすごく分かりました。粟島さんが、大きな家族の話だとおっしゃいましたが、本当にひとつの大家族のようなお話で、めちゃくちゃ温かい。それだけでなく、あちこちにギミックが仕掛けられていて、何度も観たいと思える、リピーターの方にも刺さる脚本になっていて、素晴らしい作品だと感じました」
―――紡木さんはいかがですか?
紡木吏佐(以下、紡木)「オファーをいただいて驚きました。普段は声優として活動していて、最後に舞台に出演させていただいたのが、約5年前なんですよ。さらにいうと、その最後に出演させていただいた舞台の本番中に、殺陣で怪我をしてしまい、途中降板になってしまっていて。自分の中では、皆さんにすごく迷惑をかけてしまったので、舞台に立つのが少し怖いという思いもあったんです。そうしている間に、気付けば月日は流れ、4、5年経ってしまっていました。そんな中、今回のお話をいただいて、脚本を読ませていただいたときに、なんて素敵なお話なんだと思いました。1度だけでなく、2度、3度、4度、5度おいしい。家族の物語とおっしゃっていましたが、家族愛だけでなく、友情や恋愛もあって、さらにそこからファンタジーもあって、涙が出るようなシーンもあって、オードブルセットのような、1回で何度でもおいしい作品に出演させていただけるのであれば『頑張ってみよう』と、私自身も大きな一歩を踏み出すつもりでお引き受けしました。すごく楽しみにしております」
粟島「オードブルセットっていいですね。僕が言ったと書いておいてください(笑)」
松井「その言葉、使っていきましょう(笑)」
―――粟島さんは、おふたりにどんな期待を持ってお声掛けをされたのですか?
粟島「いつもキャスティングの方やスタッフさんに、初めての方や若い人と一緒にやりたいと伝えていて、候補の方を僕も皆さんと同じくリサーチをするんですよ。これまで出演されていた作品のPR動画などが、今はたくさんSNSに上がっていて、いくらでも観られるので、そうした動画を見て声を聞いたり観たりして、この方にお願いしたいとお伝えしています。お芝居に関してももちろん重要ですが、それはこれまでの経験があると思うので、自分に合うか合わないかを考えてお声掛けしています。おふたりにはかなり早い段階でお声掛けしているんですよ。きっとすぐにスケジュールが埋まってしまうと思ったので、早くにお声掛けしたのですが、おふたりとも出てくださるというので、非常に嬉しいです」
―――粟島さんにとって声が重要なんですね。
粟島「そうですね。それから動いている動画を観ると、役のイメージと合うか合わないかが分かるので、それも見ています。松井さんは、前回の祥太役のキャストさんとは全然イメージが違うんですよ。でもそれも、この方なら面白くできそうだなという直感があったので、いいなと思いました。僕はこれまでいつも直感でやってきているのですが、自分を信じてこれまで失敗したことは数回しかないので、そういった思いでお声掛けさせていただきました」
―――初演とはまた違う祥太やめぐになるのかなと思いますが、粟島さんからご覧になって、今回はどんな祥太、めぐになりそうですか?
粟島「実は、初演とは役名もすべて変えているんです。それは、初演と同じように役を演じて欲しいわけではなく、松井くんならば松井くん、紡木さんならば紡木さんの、祥太像、めぐ像を作って欲しいと思っているので。祥太は、ニートで全然仕事をせずに、だらけていて、すごく偉そうにしているという設定はありますが、松井くんが演じる祥太にしてほしいです。なので、セットもまるっきり変えてもらっていますし、再演ではありますが、大きくアップデートされたものにしたいと思っています」
―――そうすると、演出面も大きく変わるんですね。
粟島「そうなんですよ。セットが違えば、前回と同じことが通用しないので、また1から演出をつけていかなくてはならないですし、松井くんだったら、紡木さんだったらこうした方が絶対に良く見えるというように、本人と一緒に作っていくので、ディスカッションをしながら作っていければと思っております」
―――松井さんは、今現在、祥太という役柄についてどのように考えていますか?
松井「ニートで偉そうという話が今、ありましたが、僕としては結構似ている部分も多くて(笑)。僕は役作りをする際に、自分と似ている部分はどこなのかを根底に置いて作っていくのですが、今回、脚本を読んだときに祥太に共感する部分がすごく多かったんですよ。親との会話も『どこかで言われたことがあるな、この言葉』と実体験として感じられる場面もあって、すごく演じやすい役なのではないかと考えています。もちろん、これから粟島さんとディスカッションをしながら作っていきたいと思っていますが、きっと僕だからこそできる祥太が徐々に見えてくるのではないかと思います。難しい役というよりは、いろいろなことを試したいと思える役どころだなと感じています」

―――紡木さんはいかがですか?
紡木「私はまだすり合わせができていないのですが、最初に読ませていただいたときにすごくピュアな子だなと思いました。思ったことをすぐに口に出してしまうし、裏表がないけれど、祥太さんが関わると急に不器用になってしまう。遠回しな言い方ばかりで確信は避けていくというのは、女の子として気持ちが分かるところもあります。あまり話すとネタバレになってしまうので深いことはお話しできませんが、女の子っぽく、可愛らしいところもあるめぐちゃんを自分が演じたらどうなるんだろうと、今からすごく楽しみです。松井さんが演じられる祥太さんとのお芝居も多いですし、ほかの共演者の皆さんとどう物語が作り上げられていくのか、お稽古も今からすごく楽しみです」
―――おふたりとも粟島さんとも初めてということですが、今、このカンパニーやお稽古に向けてどんな楽しみがありますか?
松井「ビジュアル撮影のときに粟島さんと初めてお会いして、『脚本、どうだった?』とおっしゃっていただいたときに、『めちゃくちゃ面白いです、素敵です』と言ったら、『ここからもっと、100倍くらい面白くなるから』って(笑)」
粟島「それはそう。こんなもんじゃないよと思っているんで(笑)。やっぱり劇場に入るとテクニカルな部分も加わって、1段階グレードアップするものです。僕は基本的に、その役に対してどう思っているのかなどを、お互いにすり合わせをして、ディスカッションをして作っていきたいと考えています。僕が全部『これはこういうふうに演じて』と決めてしまうと、ふたりにお願いしている意味がないので。なので、僕の作品に出演してもらうというよりは、僕と一緒に作品を作っていくという感覚で来ていただけると助かります」
松井「とてもワクワクします」
紡木「めちゃくちゃ楽しみです」
―――おふたりも初共演ですね。
松井「はい、今日初めてお会いしたのですが、とても明るい方だなと思いました。この取材を受けていても、言語化がすごく上手で、きっとお芝居のこともたくさんお話しできるんじゃないかなと感じています」
紡木「今日の撮影でポーズを決めているときに、ぼそっと『すごいじゃん、これ』っておっしゃっていたんですよ。その言葉がすごく面白くて(笑)。お稽古もすごく楽しくなりそうだなと思っております」
―――紡木さんは5年ぶりの舞台出演ということですが、緊張もありますか?
紡木「緊張しかないです! 普段、声優はマイクの前で台本を読みながらお芝居をしているので、同じ芝居といえども、アプローチの仕方もお芝居のベクトルも違っていて。なので、かなり緊張していますが、頼れる方ばかりたくさんいらっしゃる現場なので、楽しんでいきたいと思います」

―――せっかくなので、作品にちなんだ質問もさせてください。もし皆さんが過去の自分に何か言葉をかけるとしたら、どんな言葉をかけますか?
粟島「歴史や社会を勉強しておけと言いたいです。僕が脚本家をやっていて、1番、苦労するのが、勉強をしていなかったことが多すぎるということなんですよ。この作品はホームドラマなので難しくないですが、例えば政治の話だったり、経済の話、歴史の話であれば、それを勉強して、理解した上で書かないといけない。過去にもっと勉強をしておけばよかったなと。今は倍の時間がかかっているので、しっかり勉強をしておくようにと言いたいですね。まぁただ、その頃に頑張って勉強をしていたら今の自分がいないかもしれないと考えると……思考が終わらないですね」
松井「僕は、ダンスをしておけと言います。ダンスが得意じゃなかったんですよ。レッスンをたくさんして、今やっと踊れるようになりましたが、もっと早くから踊れるようになっていれば、また別の道があっただろうし、踊りは大きな武器になるので。今、2.5次元舞台に出演させていただく機会も多いですが、歌やダンスは必ず必要になりますし、個人として生きていくためにも、ダンスを若いうちからやっていたら得するな、と。実際に未来の自分から言われてやるかどうかは別として、言ってあげたいですね。僕はバスケをずっとやっていたのですが、バスケばっかりじゃなくてダンスもしておけ、と」
紡木「私は、あまり人生で後悔することがないんですよ。失敗をしてもいい経験だったと思うタイプなので、あまり言うことはないですが、強いていうならば積み立てNISAは早めにしておけ、かな」
粟島「めちゃくちゃ現実的だ(笑)」
松井「誰よりも現実的(笑)」
紡木「お仕事に対しての気持ちはブレたことがないので、それに対してはいうことはないですが、お金はやっぱり(笑)。全てがお金ではないですが、あれば選択肢が増えますよね。それこそダンスを習いたいと思ってもお金がかかります。自分の可能性を広げるという意味でも大事なので、ぜひ、今すぐに口座を開設して積み立ててくださいと言いたいです」
―――最後に公演に向けた意気込みとメッセージをお願いします。
粟島「今回は再演ですが、今回のキャストでしか作れないキャラクターと作品を、1から作るつもりで臨みたいと思っています。12月の公演です。きっと皆さん、この1年でいろいろな観劇を経ていると思うので、最後にこの作品を観て『今年、1番良かった芝居だ』と思っていただけるような作品にしたいです。それから毎回思っていることですが、松井くんや紡木さんのファンの方で、飛行機などで時間をかけて、この2時間の舞台のために来てくださる方もいらっしゃると思います。そうした方たちに絶対にその2時間を後悔させてはいけないという責任感もあるので、妥協することなくいい作品を作ることを誓います」
紡木「素敵な2026年納めをしましょう。皆さん、年末になるとお忙しいと思いますが、粟島さんの素敵なお言葉通り、私たちキャストも素敵な作品をお届けできるように精一杯挑みます。個人的には5年ぶりに絶対に出たいと思わせていただけた素敵な作品でございます。ぜひぜひ楽しい時間を一緒に過ごしましょう」
松井「この作品は、オードブルのような詰め合わせの作品になっております。出演するからには、必ず観に来られた皆さんに楽しんでいただけるような作品にしたいと思っております。エンターテインメントは楽しんでいただいてなんぼだと思いますので、年末に楽しい時間を過ごしていただけるように、座組一同、全力で頑張りたいと思います。素敵な作品をお届けします」
(取材・文:嶋田真己 撮影:NORI)


粟島瑞丸さん
「散歩とサウナ。2026年は1月から9月まで脚本の仕事でほぼ家で作業をしていた為、このままでは本当に不健康極まりないと思い、散歩とサウナを日常的に取り入れ、2026年は本当によく行きました。てかむしろそれくらいしか思い出がないくらいの散歩とサウナの9ヶ月を過ごしておりました。ようやく長い脚本の仕事が終わり、少し減りましたが今でも続けています。やはり汗をかく事は重要ですね。これからも続けたいと思います。皆様もぜひ」
松井健太さん
「個人的に流行っているのはタイ料理です。パクチーが苦手で、今までお店に入るのをずっと避けていたのですが、機会があって食べてみたら驚きました。パクチー抜きも当たり前のようにできるし、何よりとても美味しい。それ以来すっかりハマって、最近ではよくタイ料理を食べるようになりました。パクチー苦手なみなさんも是非」
紡木吏佐さん
「神社巡りはずっと好きなのですが、今年はいつにも増してよく足を運んでおりました。境内はとても落ち着きますし、ご朱印帳も気付けば6冊目になりました。そして、何事にも運はとっても大事ですからね! 『自分でここまでは全力で頑張った! あとは神様、お願い!』と、おねだりします(笑)舞台成功の祈願にも行かねばと思います。ご縁に感謝です!」
プロフィール

粟島瑞丸(あわしま・ずいまろ)
1981年9月2日生まれ、大阪府出身。2001年に俳優デビューを果たし、映画やドラマを中心に活躍。映画『ザ・ファブル』、ドラマ『半沢直樹』など注目作に出演。俳優活動と並行して2012年、演劇集団Z-Lionを旗揚げ。プロデュース・演出・脚本のすべてを自身で手掛けている。

松井健太(まつい・けんた)
1997年8月1日生まれ、東京都出身。主な出演に、舞台『おそ松さんon STAGE ~ SIX MEN’S SHOW TIME ~ 2nd SEASON』、Action Stage『エリオスライジングヒーローズ』-THE EAST-、新ミュージカル『スタミュ』シリーズなど。

紡木吏佐(つむぎ・りさ)
1996年7月5日生まれ、沖縄県出身。声優・DJ・ラッパー・歌手・俳優として活動。主な出演作に、アニメ『BanG Dream!』シリーズ チュチュ役、『D4DJ』シリーズ 出雲咲姫役、『アサルトリリィ B OUQUET』安藤鶴紗役など。
公演情報

演劇集団Z-Lion『きっといい Koto ある ravel』
日:2026年12月16日(水)~20日(日)
場:シアターサンモール
料:8,500円(全席指定・税込)
HP:https://kotoravel.com
問:style office mail:stage.contact55@gmail.com
30名限定! 一般8,500円→6,500円+カンフェティポイント付き!
