日豪友好協力基本条約50周年という節目の年に、航空事故の原因究明に欠かせないブラックボックス(フライトレコーダー)を発明したオーストラリア人科学者デイビッド・ウォーレンの実話をもとにした作品『BLACK BOX』が、”1人ミュージカル”という形で上演される。
幼少期に航空事故で父を失ったデイビッドが、「なぜ事故は起きたのか」という問いの答えを探し続け、やがて世界中の航空安全を変える発明へとたどり着く一方、守りたかったはずの家族との時間は、少しずつ失われていく中で、過去の記憶を未来へ受け継ぐことの意義と、失われた声に耳を傾けることの大切さが描かれる。
舞台上に立つのはデイビッド役の俳優1人で、それ以外の登場人物はすべて録音音声で流れるという本作。主演は大音智海と”New Voiceキャスト”としてオーディションで選ばれた柴原直樹。声の出演には、北川理恵・戸井勝海・ひのあらた・今泉りえ・金子大介・千葉一磨といったミュージカル界で活躍する面々が務める。一人芝居は今回が初めてという大音と柴原に話を聞いた。
―――まずは大音さんに伺いたいと思いますが、本作へのオファーが来た時はどのような心境でしたか。
大音「もう嬉しかったですよ。この作品は、自身の発明品を地球上の全飛行機に乗せるという野望を持った実在の男の話ですけど、僕も去年『ジャージー・ボーイズ』で、主演のフランキー・ヴァリをやらせていただいて、10年前から抱いて追い続けてきた夢を叶えた瞬間は最高でしたが、それまでの道のりは自分にとって苦しい面もありました。
『BLACK BOX』を持ってきた演出の渋谷(真紀子)さんが、この野望を追う男を演じる上で、『大音さんは本当に自分の人生でも本気で夢を追って、そして叶えた人だから、きっと説得力は半端ないと思うんですけど、いかがですか?』と言っていただけて。僕の歌やダンス以上に、僕の人生を評価して、この役のオファーをいただけたことがものすごく嬉しくて。そして台本を読んだら、自分の10年間とリンクしていて、”俺、お前の気持ちわかるぞ!”と思って、渋谷さんに『是非やらせてください。デイビットの気持ちは痛いほどわかります』と伝えました。
僕が苦しんだ10年間が無駄じゃないかもしれない、自分にしか出せないものを出せるかもしれないと思って、デイビッドを受ける覚悟を決めました」
―――運命の作品に出合ったんですね。台本を見たら、『これってご自身の自叙伝じゃん!』と思ったのではないでしょうか。
大音「本当です! 『70年前に仲間がいたのか』と思いましたね(笑)」
―――そして柴原さんは、オーディションでデイビッド役の座を獲得しました。合格の連絡が来たときはどのような心境でしたか。
柴原「オーディションがすごく刺激的でして。渋谷さんとご一緒したのは1年前の『songs for a new world』という作品で、その時もオーディションで選んでいただきました。課題曲を歌う審査で、『今度はこういう風に歌ってみて』といった指示を何度も受けて、結局4回も歌うことになったんです。
最初は”間違えないように”、”うまく歌わなきゃ”という気持ちで臨んだんですけど、そのうちに”このシーンはこういう風に”、”こういう思いで”みたいなものが少しずつ想像できて、すごく心に残ったオーディションでした。結果が出るまでは『自分ができたらいいな』という気持ちでいたんですけど、実際に合格することが出来て、チャンスをいただけたことが本当に嬉しいです」
―――取材時は、まだ稽古が始まったばかりで、お互い会うのが2回目と伺いました。こんな質問をすると大変恐縮ですが、お互いの印象を教えていただけますか。
大音「最初に会った瞬間は『なんか優しそう、楽しくやれそう』という印象でした。共演歴もないですし、今日がまだ2回目なので、まだ”さん付け”ですけど(笑)」
柴原「大音さんが先輩なので、全然好きに呼んでください(笑)」
大音「最初に会ったその日に、渋谷さんの稽古プランで、2人で即興芝居をやったんですけど、本当に柴原さんがめちゃくちゃ面白くて、声を上げて笑っちゃったぐらいで(笑)。『この人と一緒に出来てよかったー』と思いました」
柴原「大音さんは『ジャージー・ボーイズ』をはじめ、いろいろな作品で拝見しいて、もちろん存じてはいました。今回先に大音さんが出演されるということを聞いて、『これはきっとすごい作品になるし、自分がダブルキャストとしてご一緒できるなら、本当に嬉しい』という思いでオーディションを受けまして。実際にお会いして、とにかくアグレッシブでパッションに溢れて、エネルギーがすごいんです! 僕自身、普段は大人しい人間ですけど、大音さんに触発されて内なる部分を少しずつ解放しようとしています。すごく尊敬しています!」
大音「言ってよー! 今初めて聞いたよ(笑)」
―――上演時間が約90分の1人ミュージカルという形での出演で、こういったスタイルは初めてだと思いますが、”ワクワク”と”プレッシャー”、現時点ではどちらの方が比重が高いですか。
大音「90分間お客さまの集中力を1人で持続させなきゃいけない。途中で大音智海に飽きられたら”負け”なので、そういったドキドキ感はもちろんありますし、”上演中にいつ水を飲むことが出来るんだろう”という不安もありますが、それ以上にワクワクの方が強いですね。この作品のクオリティに関して、強力な録音による共演者はいますけど、自分にかなり責任がかかっているという状況は、役者としては、今まで鍛えてきた全てを出せる場所についに来たというのが僕自身ワクワクですし、”僕の歌と芝居を見届けてくれ!”という気持ちで、とてもモチベーションが上がっています」
柴原「僕はドキドキの方が大きくて、台本を読んでからドキドキの割合が80%ぐらいに上がりました(笑)。今日の稽古でも話が出たんですけど、音楽やボイスキャストの声などがこれから自分の味方になっていくと思います。もちろん大音さんの存在も自分の味方になるだろうし、1人だからこそ感覚を研ぎ澄ませて、いろいろなものを味方にしていって、本番までにどんどんワクワク度が上がっていけばいいなと思っています」
―――”ドキドキ8割”はすごく高いですね。
柴原「最初に台本を観た瞬間、『これは結構大変だぞ』と思いましたね」
大音「『これ覚えきれるのかな?』って(笑)」
柴原「自分だけでなく、ボイスキャストのセリフも全部覚えないといけないですから」
大音「90分丸暗記なんて人生で一度もしたことないからね。もうそういうのは考えず、楽しいことだけ考えよう。どうせ大変なんだから(笑)」
―――演出の渋谷さんからのアドバイスや印象に残っている言葉などはありますか?
大音「印象に残った言葉というか、普段のミュージカルは共演者が多くいて、立ち位置・動き・構成に多くの時間が費やされるんですよ。でも今回1人舞台で共演者の動きもないので、ストレートプレイをやるように、渋谷さんと柴原さんと3人で、セリフの1行ずつ、『これどういう意味なんだろう?』、『これよりふさわしい言葉はもっとあるのだろうか?』といったディスカッションが出来ていて、密度高く一つひとつの言葉に向き合うのが非常に楽しい作業です。
渋谷さんが脚本のポール・ホッジさんが書いた言葉一つひとつを大切にされてるし、それを僕らにも共有してくれている感じが楽しくて、”なんて贅沢な時間なんだ”と思いながら稽古をしています」
柴原「渋谷さんはディテールみたいなことをすごく言ってくださる方で、”朝起きて、まず何をする”ということをリアルにやってみて、『リアルだったらそんなに大きくは動かないんじゃない?』という感じで指導していただいています。僕自身、細かい演技は得意ではないんですけど、演じる役についてイメージするだけじゃなくて、自分の体の中に落とし込んでいく作業をする上で、渋谷さんからアドバイスをいただいて、少しずつデイビットに近づいてきているかなと自分でも感じています」
―――先日デイビッド・ウォーレンの息子さんとリモートでインタビューをしたそうですが、お話を伺って、改めてデイビッド・ウォーレンはどういう人間だと感じましたか。
柴原「インタビューの中で、”デイビットは白黒はっきりしている人”という言葉がすごく印象に残っています。きっと自分の役作りにも何か影響があると思うんです。デイビットが実際にいろいろ葛藤するのは、その白黒の間のグレーな部分に苦しめられていて、そういう部分が人間的で面白いなって思いました。自分との接点で言えば、そんなにアグレッシブさはないですけど、オタクな部分は似ているかもしれないですね。ミュージカルが大好きで、友達にミュージカルについて熱弁を振るって、いつもポカーンとされることとかはあるので(笑)。そういう部分は似ているかなと思います」
―――ミュージカルが大好きな柴原さんが1人ミュージカルに出演することは、オタクとして最上級の至福の瞬間でもありますね。
柴原「はい! 明るいオタクな部分をどこかで出せたらいいなと思っています」
大音「本当に空気を読まないというか、”周りなんて関係ねえよ”というタイプで、それゆえに『もっとうまくできたんじゃない?』と言いたくなるぐらい猪突猛進なところが面白い方という印象です。インタビューの時に『僕も夢を追っている身で、だからお父さまのことを尊敬します』と言ったら、息子さんが『夢を叶えるには、なりふり構わず、周りの言うことを聞かないぐらいの”我の強さ”が必要だと父を見て思ったよ』と言っていたのをすごく覚えています。
僕はボリビアからの帰国子女で、日本に来た時は空気に馴染めず、一種のKYみたいなところを持っていたんですけど、これじゃミュージカル界では生きていけないと思って、人付き合いを少しずつ自分なりに学んで、ここまでなんとか生き残ることが出来ました。役作りをする上で、あの時の全く空気が読めなかった大音智海をこの舞台のためにもう一度連れてこようと思っています(笑)」
―――本作の見どころや注目ポイントを挙げていただけますか。
大音「とにかく音楽が”神”です! 脚本のポール・ホッジさんはオーストラリアの作詞家・作曲家で、本作でも音楽を担当されているんですけど、デモテープを聴いただけでも、すごいポップスなんですよ。日本では声楽系やクラシックをベースにしたミュージカルがすごい人気じゃないですか。でも以前ブロードウェイに行って衝撃だったのが、ポップスを元にしたミュージカルが流行っているし、俳優さんも声楽的な歌い方よりもポップスなロックな歌い方するミュージカル俳優さんがほとんどで、今回の曲がその流れに乗っかるような”ド”ポップで。で、とても耳に残るんですよ。1人ミュージカルですけれども、音楽が最大の共演者として、お客さまの興味を掴んで離さないぐらいのとてつもない威力があると感じています。
僕自身Vlogをやっているんですけど、ポールさんに連絡して『この曲、僕のVlogでも出していい?』とダメ元で言ったら、『いいよ!』とまさかの許可を出してくれて(笑)。で、ワンフレーズだけVlogで公開したら、ファンの方や知り合いから『この音楽、一度聴いただけで耳に残るんだけど。チケット買うね』みたいな連絡がどんどん来たんです。こんな魅力的な音楽をステージで歌えるなんて”なんて幸せなんだ!!”という気持ちです」
柴原「僕も音楽ですけど先に言われちゃいました(苦笑)。音楽以外だと、主人公以外の登場人物はすべて録音音声で表現されるところが面白くて、声の出演みたいな感じではなく、お芝居にがっつり入られるんです。楽曲の中でも声である必然性がある場面があって、僕らが演じるデイビットの声が流れるシーンもあります。フライトレコーダーのお話なので、知覚的な意味での音を深く感じられる作品なのかなとか思っていて、どこから音が聞こえてくるとか、自分にはどの音が聞こえているとか、聴覚がすごく研ぎ澄まされる作品だと感じています」
―――これから本格的に稽古がスタートしますが、より団結力を高めるために、例えば稽古終わったら一緒にご飯を食べに行こうとか、一緒にどこかへ行こうといったプランなどの予定はありますか。
柴原「もちろん、一緒にご飯を食べに行きたいです!」
大音「柴原さんとは、今は楽しいけど、ここから10月の本番まで、同じ苦しみを味わい続けると思うから、一緒にご飯へ行かなくても、余裕で仲良くなると思うし、多分ご飯に行っている余裕はないって、マジで(笑)。稽古が終わったらすぐに帰ってセリフを覚えたほうがいいよ! 一緒にご飯を食べるよりも僕はお互いにセリフを覚える練習がしたいです」
柴原「いいですね!」
大音「僕がデイビットをやって、柴原さんが他の役をやったり、その逆もパターンもやってみるとか」
柴原「稽古が既にそういう感じで進んでいます」
大音「ただやっていくうちに、片方が全然セリフを覚えられずに『あれ? そこまでしか覚えていないの?』とかになる可能性はあるかも(笑)」
柴原「いやいや、それはやめましょう(笑)」
―――セリフ覚え、頑張りましょう! では最後に公演を楽しみにされている方に向けてメッセージを柴原さんからお願いします。
柴原「オリジナルの1人ミュージカルの主演を務める機会をいただけて、本当に嬉しいです。自分の代表作にできるように、精一杯頑張りますので、ぜひ劇場に足を運んでください」
大音「SNSでいろいろな自分のことを発信するんですけど、僕の根本には、”ミュージカル”そして”俳優の楽しさや素晴らしさ”を知っていただきたいというところがあって、意図的に辛いものや苦しいものは出さないようにしています。今回、デイビットの人生に乗せて、僕の抱えていた”悔しさ”・”怒り”・”暗い感情”を、この作品で初めてお客さまにお見せできるかもしれません。僕が今まで意図的に見せてこなかった、そして必死に隠していたものを今回初めてお客さまに味わっていただけるなら、それはまた新たなみなさまとのコミュニケーションができるんじゃないかなと思っていますので、そういった部分も楽しみに味わっていただきたいです」
(取材・文&撮影:冨岡弘行)
プロフィール
大音智海(おおと・ともみ)
1990年8月3日生まれ、千葉県出身。2010年ミュージカルショー『La Musicale』でデビュー。主な出演作に、ミュージカル『ジャージー・ボーイズ』、『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』、ブロードウェイミュージカル『キンキーブーツ』、『ALTAR BOYZ/アルターボーイズ』など。
柴原直樹(しばはら・なおき)
1995年11月10日、神奈川県出身。明治大学文学部文学科演劇学専攻卒業。主な出演作に、ミュージカル『レ・ミゼラブル』、『フィガロ』、『songs for a new world』、『ハネムーン・イン・ベガス』、『キャメロット』、『ルーザーヴィル』、『エリザベート』、『るろうに剣心 京都編』など。
公演情報
日豪友好50周年記念1人ミュージカル『BLACK BOX』
日:2026年10月28日(水)~11月1日(日)
場:浅草九劇
料:ファーストクラス[特典付]14,000円 ビジネスクラス11,000円 エコノミークラス9,800円(全席指定・税込)
HP:https://en.makikoshibuya.com/blackbox2026
問:Luna Hana Theatre Company mail:lunahana.japan@gmail.com
12名限定!ビジネスクラス11,000円→8,600円+カンフェティポイント付き!