現代社会にも通じる“家族”の形 清水邦夫の普遍的な戯曲を今上演する意味や意気込みとは

現代社会にも通じる“家族”の形 清水邦夫の普遍的な戯曲を今上演する意味や意気込みとは

 タカイアキフミが主宰を務めるプロデュースユニット TAAC(ターク)による傑作戯曲演出シリーズの第2弾として、清水邦夫作『狂人なおもて往生をとぐ』が、2023年10月27日(金)~11月1日(水)まで下北沢 小劇場B1にて上演される。
 演出のタカイアキフミと、本作において父・善一郎役を務める三上市朗と長男・出役の永嶋柊吾、母・はな役の千葉雅子にインタビューを行った。

―――まずは意気込みを教えてください。

千葉「三上さんはほぼ20年ぶり、他の方はタカイさん含めて初めまして。それも嬉しいですし、近年だと自分の劇団や若い方が書いた本をやることが多かったので、昭和40年代に書かれた戯曲に挑戦できるのもワクワクします」

三上「タカイくんとご一緒するのは2回目。前回は彼のオリジナル作品をイチから作り、すごく楽しかったです。今回はいわゆる日本の古典のような作品。今まであまり携わるチャンスのない作品だったこともあり、改めて気を引き締めていきたいと思います」

永嶋「皆さん初めましてですし、先輩と一緒にお芝居するのも久しぶりでワクワクしています。三上さんも仰ったように、こういう作品をやる機会は中々ない。僕が20歳くらいで三島由紀夫先生の『熱帯樹』に出演した時は考えすぎて頭でっかちになってしまいました。それも貴重な経験でしたが、今回はそうではなく、楽しめたらいいなと思っています」

―――傑作戯曲演出シリーズ第2弾を清水邦夫さんの作品にしようと思った理由、本作を選んだ理由を教えてください。

タカイ「いくつか理由はありますが、まず三上さんが『賞がほしい』と仰っていて」

一同「(笑)」

タカイ「以前TAACの作品に出演していただいてからお世話になっていて、もう一度ご一緒したいと思う中で、僕の新作もいいけど既存の戯曲もありだなと考えました。いろんな戯曲を読む中で、『狂人なおもて往生をとぐ』の善一郎は元々教授で威厳のある父親だけど、落ちぶれてヘタレていて、でもチャーミングさもあって、三上さんにピッタリじゃないかと。
 清水邦夫作品は『楽屋』や『タンゴ・冬の終わり』など有名なものがたくさんありますが、なかでもこの戯曲は現代社会にも通じると感じたんです。時代とともに家族の形は変わっているけど、現代の家族にも引きこもり問題や8050問題などがあるように、家族という関係性はいつも何か問題を抱えている。60年近く前に書かれた作品ですが、今やる意味があると感じて選びました。
 第1弾は1960年にハロルド・ピンターが書いた『ダム・ウェイター』という不条理劇をやりましたが、国が違ったり翻訳を挟んだりすると、本来は喜劇的なシーンが喜劇にならないジレンマも感じ、次は日本で書かれたものをやりたいと思ったのも理由です」

―――台本を読んだ印象、感想はいかがでしょう。

千葉「まだくるくる変わるというか何度読んでもちょっとずつ更新されています。最初はヒリヒリした家族劇という印象でしたが、国家権力や父親的権力についても感じるし、伝統の中で心中していく人たちについて考えもする。全く古くならない強さを感じました」

三上「セリフ劇ですが、すごく不条理。実際に皆さんと読み合わせやお芝居をしないと見えてこない部分がありますし、それくらい力のあるセリフです。脚本のパワーに負けずに会話を成立させたいし、面白い部分はちゃんと面白くしたいですね」

永嶋「何も考えずにバーっと読んだときはコメディだと感じました。ニヤニヤしながら書いたんだろうなと。ツッコミじゃないけど合いの手みたいな部分もあって、日本らしいと感じましたね」

――徐々に見えるものが変わっていく構成ですが、どう作るか考えていらっしゃいますか?

タカイ「入れ子構造が複雑になっていて、売春宿だと思っていたものが家族で、売春宿の体裁は保ちつつ家族ごっこに興じるという。何が本当で何がフェイクかわからない形になっていくと思います。劇中劇とリアルの演じ分け、またはそこが混ざっていく部分は整理が必要なのかなと思いますね」

――舞台セットについても、「リアルでもいいし省略して穴だけにしてもいい」とト書きがあります。

タカイ「具体的には劇場で見ていただきたいですが、具象的な美術でやろうとは思っていません。ただ、劇場の関係で穴は作りにくいので、なぜ清水邦夫が穴を設置したかを考え、別の形でアプローチしたいですね」

―――今回のキャスティングの意図を教えてください。

タカイ「昭和の学生闘争が盛んな時に書かれた作品で、良くも悪くも日本人がエネルギッシュだった時代の家族を描いています。
 母のはるは戯曲上では古風な女性。でも、僕としてはもう少し自由というか、夫や長男と対等の関係になる瞬間があってもいいじゃないかと思うんです。それが今の女性像かなというところで、千葉さんの柔らかさと時折見せる鋭さに期待しています。
 三上さんは先ほど言った通り、チャーミングさとその裏の狂気をどう演じるのか興味がありました。
 柊吾君は以前僕のオリジナル作品に出てもらった時と全く対極にある激情的な役を見たいと思ったのと、役と年齢が近くていいタイミングだと感じてお願いしました」

――お互いの印象、共演にあたって楽しみなことはいかがでしょう。

永嶋「全部楽しみですね」

千葉「皆さんと顔を合わせたところから何が生まれるかワクワクですし、三上さんとは17年ぶりくらい。再び共演できて、しかもチャーミングなお父さんと夫婦役。稽古が待ち遠しいです」

三上「最初にお話をいただいて、他のキャスティングを楽しみにしていましたが、千葉さんと聞いてこれはもう楽しみしかないなと思いました」

永嶋「すごく楽しみですけど、同時に怖いです。初めてセリフを交わす時って変なドキドキがあって。そこを乗り越えてからかなという感じがします」

タカイ「最近の戯曲だと特定の人物としか会話しない場合もありますが、今回の戯曲は登場人物全員がそれぞれと芝居を交わすので全員で作り上げないと成立しない。そこが難しさでもあり楽しみでもありますね」

―――清水作品は、つかこうへい劇団やこまつ座のように継続して上演している団体がおらず、あまり馴染みがない方もいると思います。簡単にアピールポイントを伝えるとしたらどこでしょう。

千葉「新劇に対して小劇場が生まれて、熱を帯びていく過程をずっと走ってきた先輩の作品で、当時の熱や革新的なもの、時代の捉え方が詰まっています。古くならない熱を感じていただけたらと思います」

三上「セリフが格好いいですよね。今の戯曲にあまりない表現やかっこいいフレーズを楽しんでいただきたいです」

永嶋「僕も色々な作品を見ますが、自分の中で咀嚼しきれない作品ってあるんですよ。一方で、よく理解できなかったけどあのシーンがすごく格好良かったっていつまでも残ることも多い。この作品にはきっとそれがあると思いますし、そうできればいいなと思います」

タカイ「つかさん、唐さん、寺山さん、清水さんの世代の中で、個人的には清水さんが1番スッと言葉が入ってきます。この作品は誰にとっても身近な“家族”を描いていますし、今を生きる人たちにも届きやすいんじゃないかと思います。物語の構造としても面白いですから、楽しんでいただきやすい戯曲だと思います」

―――最後に、お客様へのメッセージをお願いします。

千葉「美しいシーンや言葉の中に、燃えるようなヒリヒリしたものが込められています。問いかけられることがたくさんあるこの作品、ぜひ劇場で体験していただきたいと切に思っています」

三上「芝居を始めた頃から演劇人口はどうしたら増えるだろうと考えていました。そうしているうちにコロナ禍で大打撃をうけ、いまだにお客さんは帰ってきていない。そんな中でも熱量を持ってお届けできる舞台になると思うので、ぜひ生で体感してほしいです」

永嶋「声色と表情が一致していないセリフなど、見ないと伝わらないシーンもたくさんあります。最近は配信もあって便利ですが、演劇は生で見た方が100倍面白いので、少しでも興味があったらぜひ来てください」

タカイ「家族が依存しあったりしがみついたり、その中で家族の形を考えていくようなお芝居です。ある種逃げ場のない物語ですが、今回は劇場が下北沢のB1で二面舞台。お客さんが家族を取り囲むように見るのはこの戯曲に合っていて、演劇的で立体感のある上演ができるんじゃないかと。非常に普遍的で身近な戯曲を役者・スタッフの皆さんと一緒に作っていくので、ぜひ劇場に足を運んでください」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

タカイアキフミ
1992年7月27日生まれ、大阪府出身。2018年に個人ユニット「TAAC」(Takai Akifumi and Comradesの略)を立ち上げ。TAACでは脚本・演出を担当。

三上市朗(みかみ・いちろう)
1966年2月15日生まれ、京都府出身。レディバード所属。舞台・テレビドラマ・映画など幅広く活躍。ドラマ・映画『踊る大捜査線』シリーズ、NHK連続テレビ小説『らんまん』、舞台『ドリアングレイの肖像』、『マクベス』、『キネマと恋人』、KERA・MAP #010『しびれ雲』などに出演。

永嶋柊吾(ながしま・しゅうご)
1992年6月12日生まれ。福岡県出身。テレビドラマや映画・舞台で幅広く活躍。ドラマ『ペットにドはまりして、会社辞めました』、『最高のオバハン 中島ハルコ』、映画『ある殺人、落葉のころに』、舞台 PLAY/GROUND Creation #2『Navy Pier 埠頭にて』、TAAC『世界が消えないように』などに出演。

千葉雅子(ちば・まさこ)
1962年5月16日生まれ、東京都出身。劇団「猫のホテル」主宰で、多くの作・演出を務める。「真心一座 身も心も」では座付き作家兼主演を担当。女優として他劇団への客演やテレビドラマ・映画出演も行っている。ドラマ『マルモのおきて』、『オクトー 〜感情捜査官 心野朱梨〜』、映画『ひとりぼっちじゃない』などに出演。

公演情報

TAAC『狂人なおもて往生をとぐ』

日:2023年10月27日(金)~11月1日(水)
場:下北沢 小劇場B1
料:TAAC応援!一般9,900円
  パンフレット付一般7,700円
  一般5,900円
  U-18[18歳以下]1,500円 ※要身分証明書提示
  (全席指定・税込)
HP:https://www.taac.co/kyoujin
問:ライトアイ mail:taac@righteye.jp

Advertisement

インタビューカテゴリの最新記事