書き下ろし最新作は新機軸のタイムリープ人間ドラマ 天賦の才ってなんだ? 晩夏の湘南を舞台に時が巡る大人たちの青春群像劇

 計算された言葉の掛け合い、パワフルで疾走感あふれる展開のハイスピードコメディを主軸に、数々の名作を輩出している劇団6番シード。その最新作は代表・松本陽一が約2年ぶりに書き下ろす新機軸のタイムリープヒューマンドラマだ。
 ある湘南の古民家に引っ越してきた村字元(むらじ・はじめ)は、テレビやラジオ番組の内容を書き起こしてネット記事にするフリーライター。”こたつ記事”と揶揄される切り取り記事を量産する日々に疑問を抱いていた。しかしある夏の昼下がり、ラジオから流れるDJの声に既視感を覚える。「このフレーズ、さっきも聞いたような……」 古民家を訪れる様々な人々が語る夢と現実、繰り返される時間の中で、元は自身の天賦の才能“Gifted”を見つめていく――。
 本作にかける意気込みを松本と、初の単独主演を演じるオオダイラ隆生に聞いた。


―――人に与えられた才能“Gifted”を本作のテーマにされました。その着想は?

松本「マツコ・デラックスさんがテレビ番組内のトークで『あんた、自分のギフト(才能)を使い切ったわね』という面白おかしいツッコミをしていて、面白い言葉だなと思いました。
 夢や希望を追いかける姿勢は若い時の専売特許だと思っていたのですが、いざ自分がいい年齢になってみると、今でもあまり変わりはないぞと。そこで夢を追ったり、諦めたりすることをテーマにした物語をつくりたいと思い、“Gift”という言葉を思い返してタイトルに決めました。人が生まれ持った才能ってなんだろう?という視点から着想を得たお話です。
 夏の終わりを舞台にしたのは、大人たちの遅れて来た青春群像劇と重ねて、茅ヶ崎あたりをイメージしました。ビジュアル的には少しくすんだ青をたくさん使おうと思っています。タイムリープという技法と物語で描かれる生き方の普遍的なものの掛け算が面白いと思います」

―――主人公を、ネット記事を量産するフリーライターにした経緯とは?

松本「よくネットで、テレビやラジオの内容がそのまま文字起こしされた記事があるじゃないですか。取材の手間もなく、お手軽に書かれたものなので、”こたつ記事”なんて言われていますが、1件につき幾らという単位で請け負っている人はかなりいるそうです。そういう人たちの日常ってどうなんだろう? どんな感情を持って日々パソコンと向き合っているんだろう?という着想で決めました。
 主人公はかつて、少しだけ創作活動をした時期があって物書きになったのですが、現在やっていることはテレビやラジオの書き起こし。そういう夢と現実の壁をタイムリープと他の登場人物たちの境遇と重ねわせることで、色々なことが見えてくるのではないかと思いました」

―――物語の設定についてどんな印象を持ちましたか?

オオダイラ「キャッチコピーの“天賦の才ってなんだ?”を見た時に、果たして自分の才能ってなんだろう?と思いました。日頃から自分は人並みと思うことが多いので、あたかも松本さんに見透かされたというか、自分の悩みをガツンと言い当てられた感じがして結構衝撃でしたね」

松本「それは見透かしていたかもしれないね(笑)」

オオダイラ「やっぱり! どんなお話になっていくのかはまだ分かりませんが、自分にぴったりな役柄ではありそうで、この主人公と一緒に自分の才能を探していけたらいいなと思っています」

松本「彼が初めて主演をやった『Life is Numbers』のカーテンコールの挨拶で、彼が『何者でもない自分が……』という言い方をしたんですよ。主演経験も豊富で長年役者をしてきた実績もあるのに、そういう風に感じていたんだと印象に残っていました。そのことがあって、本作の主演を任せようと思った1つの理由でもあります。彼は色んなタイプの役ができるバイプレーヤーで、その無色透明さがこの役に良い感じに投影されるのではと期待しています」

オオダイラ「これまで松本さんが書かれた作品で癖の強いキャラクターを頂いていたのですが、今回のお話を頂いて、この地味な主人公はすごく自分っぽいなと初めて思いました。僕自身も学生の頃は何かに挑戦したい。やってみたいという目標がありましたが、自分にはできないだろうなという理由で諦めることがありました。それが自分の取柄が無いというところに繋がっているのかもしれませんが、この役がそのように諦めたり、挫折したりしてきた自分の姿と重なる部分があるんじゃないかと思っています。でもその分、難しさはあるような気がしますね」

―――松本さんが新作を創作する上で大切にしているものはなんでしょうか。

松本「面白いものやろうと思った時に新しい要素を考えるのは、やはりホームである劇団6番シードですね。その分のしんどさはありますが(笑)。でも新要素はあくまでも“味付け”という調理法の1つなので、ずっと描いてきた普遍的なヒューマンドラマを柱にしつつ、演出と配役を試行錯誤しています。挑戦的なことができるのもホームならではですし、メンバーから『今回は結構野心的だぞ』という声も上がっています」

―――オオダイラさんは入団されて4年が経ちました。ご自身の変化を感じていますか?

オオダイラ「入団時に松本さんから、『楽しんでもらえる作品を創っていくので、役者として常に主役を張れるようであって欲しい』と言われたことを覚えています。先輩たちもガツガツ芝居に臨んでいて、常に前進している感覚は入団前の客演時よりも一層強くなりました。自分も負けていられないという気持ちもある一方で、自分は停滞していないか?という焦りも感じるようになりました。
 同期入団の高宗歩未が結婚と出産という人生の大きな転換期を経て本作でヒロインを演じるのですが、前作の日替わりゲストで出演した時に、とても楽しそうに芝居をしていたんですよね。その姿に自分も刺激をもらったので、チャレンジしてみたいことがあります。
 まだ諦めるには早い年齢なんじゃないかと。本作との出会いが自分にとって、贈り物の方の『GIFT』になればと思います」

―――観劇後にどのような感情を持ち帰って欲しいですか?

松本「挫折して夢を諦めることは誰にもあることですが、そこそこ叶ったけど目標には届かなかったとか、願った形ではなかったけども夢は叶ったみたいな部分を描いていきたいなと思っています。かく言う自分もこれだけ作品を書いてきても才能はないと思っています。才能と言えるものがあるならば、諦めず継続してきたことですね。その努力を才能とするならば褒めて欲しいですが(笑)。
 自分が意識していなくても、傍からみると才能に見えることがあるので、本作を通して色んな世代の方が人生の中の『GIFT』に思いを馳せてもらえたらと思います」

―――最後に読者にメッセージをお願いします。

オオダイラ「6番シードで初めての単独主演なので、すごくプレッシャーはありますが、本作の自分の姿を通して自分でもできることがあるんだと感じてもらえたら嬉しいです。
 自分には取柄が無いと言いましたが、松本さんの話を聞いて、自分も諦めずに役者を続けてきたことも才能だと誇っていいなと思えるようになりました。この年齢だし、新しいことはできないなと思っている人や若くても自分なんてと決めつけている人の背中を少しでも押せたらなと思っています。客演の方も含めてすごく素敵なキャストが揃っているので、夏の終わりの大人たちの群像劇を是非楽しんでください!」

松本「昔流行った“自分探し”という言葉じゃないですが、大人が夢について真剣に向き合う物語がこの時代に響くんじゃないかという気がしています。ともすると陳腐に聞こえてしまう夢や希望という言葉を、もう一度しっかり描き直すタイミングが僕にとっては今だと思っています。
 挑戦的ですけども代表作にしたいと思っていて、自分とお客さんの満足度が高かったら、僕は映画にしたいと思っています。僕たち舞台人の最大の長所である2時間ノーカットの芝居を映像で描けたら最高ですよね。乞うご期待です!」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

松本陽一(まつもと・よういち)
1974年9月18日生まれ、広島県出身。脚本家・演出家・劇作家。劇団6番シード代表。スピード感溢れるノンストップコメディを中心に、これまで50作品以上の脚本・演出を担当。映画『Deep logic』、『夜明けの記憶』などの映像作品の脚本のほか、数多くの演劇ワークショップを開催。

オオダイラ隆生(おおだいら・たかゆき)
1984年7月23日生まれ、千葉県出身。慶應義塾大学文学部卒。就職活動をするものの辞退し、俳優としての活動を始める。舞台を中心に活躍する他、Web CM「マイナビ2010」、資生堂「unoフォグバー」ヘアモデル、CM「静鉄不動産」などの広告にも出演。舞台『ザ・ボイスアクター2020〜アニメーション&オンライン〜』で劇団6番シード作品に初出演。2022年1月、劇団6番シードに所属。2024年、『Life is Numbers』にて、同期で入団した高宗歩未とW主演を果たす。

公演情報

劇団6番シード 第82回公演『GIFT』

日:2026年11月11日(水)~15日(日) 
場:新宿シアタートップス
料:S席[前方5列]8,000円 A席6,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.6banceed.com 
問:劇団6番シード mail:6banceed.info@gmail.com

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