宅間孝行が主宰するエンターテインメントプロジェクト「タクフェス」の最新作『北の島から』。宅間にとって、5年ぶりの新作となる本作は、日本最北の島・礼文島を舞台に、静かな島で暮らす1人のおやっさんと、彼を慕う若手漁師たちを中心に描く、家族の物語。本作が舞台初主演となる関口メンディーが主人公の小坂翼を演じる。宅間と関口に本作への思いを聞いた。
―――関口さんは、本作が舞台初主演となりますね。改めて、意気込みを聞かせてください。
関口「今回の作品は宅間さんの中でも挑戦的な、これまでの作品ともまた少し違う家族の話がメインとなっているとお聞きしています。大きな事件が起きるわけではなく、ある種、淡々とお話が進んでいく物語ですが、だからこそ役者にゆだねられる部分も大きいのではないかと感じています。キャラクターの心の繊細な動きや間(ま)をきちんと表現しなければ、作品の世界観を表現しきれないと思うので、言葉の一つひとつの解像度を上げて、気持ちの動きを突き詰めて演じていきたいと思います」
―――宅間さんにとって、5年ぶりの新作となります。本作はどういった発想から生まれた物語ですか?
宅間「何年か前に『みんな元気』という映画を観てグッときて、こうした世界観をきちんと描かないといけないなと思うようになりました。それで、調べていくうちに、その作品は、小津安二郎監督の『東京物語』のオマージュだということが分かって。『東京物語』は昔に観たことがあったのですが、当時はそれほどピンときていなかったんですよ。ですが、自分が年を取り、3年前に父を亡くしたこともあり、改めて家族の話に取り組んでもいいかなと思って描いた物語です。これまでの新作というと、毒を持っていたり、社会的な問題を描いて、意識的にメッセージを盛り込んでいたところがありましたが、今回は家族をテーマに純粋に面白い話を作りたいと考えています。原点回帰ではないですが、悪人が出ない、楽しい作品がいいなと。それは逆に難しいんですよ。でも、それがいい。メンディーも言いましたが、役者によるところが大きいんです。落語と一緒で、演じる人、語る人次第で面白くもなれば大したことがない作品にもなる。その幅は役者に委ねられているところがあると思います」
―――今回、関口さんは若手漁師の小坂翼役を演じますが、宅間さんから見て、関口さんは翼のイメージがあったのですか?
宅間「今日、衣裳を着ている姿を見て、全然違和感がないですね。家族の話だとは言っていますが、ウィットに富んだ笑いがたくさんある楽しい作品にしたいと考えていますので、その中心に彼がいるのは、絵になると思います。メンディーの持っている華やかさやキャラクター性は、楽しいことが起きるのではないかという期待を持たせてくれます。かといって芸人さんでもない。彼が出てくると楽しめるという意味でも、翼にぴったりだなと思います」
―――関口さんは、宅間さんのお話を聞いて、今、どんな楽しみがありますか?
関口「(宅間が脚本を務めた)『くちづけ』の映画を観させていただいたのですが、すごく素敵な作品だったので、その生みの親である宅間さんの作品に出演できるというのはすごく嬉しいです。今日、こうして取材をさせていただいて、いい意味でどんどんハードルが上がっている感覚がありますが(笑)、それもまた自分の人生らしいなと。そのハードルを絶対に超えられるように頑張ろうと思っています。今のご時世、動画はすぐに観られますし、簡単に摂取できるエンタメがたくさん生まれていますが、数時間を使って、劇場でこのお芝居を観てもらうというのはすごいことだと思います。そして、そこでお芝居をすることの意義も今、感じています。そういった意味でも、この作品をより良いものにできるように頑張りたいです」
―――今回の脚本を読まれた感想は?
関口「大きな事件が起きずに、淡々と物語が進んでいくので、これを面白くするためには相当稽古を積まないといけないなとすごく感じました。映像と違って、舞台は生ものなので、その場の空気1つで笑いになるかならないかが変わってくるほど、シビアなものだと思います。なので、稽古を積み重ねて、そうした空気を生み出せるようにしていきたいです。家族愛を描いた温かい物語なので、その温かさをたくさんの方に感じ取っていただきたいなと思います」
―――モト冬樹さんが演じる花村清三郎を中心とした花村家を始め、とても人間味あふれるキャラクターが魅力の本作ですが、今回描かれている花村家は、宅間さんにとっての理想の家庭が反映されているのですか?
宅間「『東京物語』で小津さんが描いたこともそうだと思うのですが、理想というよりは非常に一般的な家庭をイメージしています。僕自身、親も高齢になり、子どもはだんだんと大きくなってきたという今になって、親が思っていたことがつくづく分かってきました。今の立場になったときに、理想というよりは一般的な感覚の日本の人たちを描いていこうと思ったのです。お互いを思いやっているけれども、一緒に住むわけではないし、地元にもなかなか帰ってこない。特別いい家庭でもなければ、特別悪い家庭でもない。でも、その中にはたくさんの愛があることが映し出されていたらいいなと思っています。親の世代でも子の世代でもいいので、お客さまたちがどこか自分の家庭に投影できて、共感できると感じていただける作品にしたいです」
―――関口さんは、翼という役柄を今、どのようにとらえていますか?
関口「翼は、おそらく島から出たことがなく、ずっとそこに住んで漁師を続けているのだと思います。年齢のせいなのか、だんだんと『ずっとここにいていいんだろうか』という葛藤を抱くようになり、自分の人生を考え直そうとする姿が描かれています。ただ、結果的には、僕は翼は島を出ないのではないかと思います。彼にとっては、どこにいるかではなく、誰といるかの方が大事なのではないかなと。ちょっと不器用なところもあり、口下手で、周りをかき乱すところもあるので、そうしたキャラクターをどう演じていくのかすごく楽しみです」
―――翼に共感できるところもありますか?
関口「そうですね。僕も翼と同じように『自分はここにいていいんだろうか』という葛藤を抱いた時期もありました。『今の人生は楽しいけれど、ここが居場所じゃない気がする』という気持ちがどこかにずっとあったんですよ。それが事務所から独立して1人になったときに、『自分はどこに行ってもいいんだ』と頭の中にある何かがパーンと晴れたように感じました。それが自分の中でも大きな変化になりました。なので、そうした葛藤を抱えている彼の気持ちはすごく分かります」
―――宅間さんは、花村家の長男・隆を演じます。隆はどんなキャラクターですか?
宅間「隆は、没個性の人物として描いています。親や仕事に対する態度も、一般的な行動ラインに乗っているような人物です。ただ稽古をしていくと、笑いを取りにいきたくなってしまうので、変わってしまうかもしれませんが(笑)。登場人物全員に共通していることですが、『人間はみんな欠けているところがあって完璧ではない。だからこそ、愛される』という人たちが集まっている話にしたいと思っているんです。お客さんが、この作品を観た後に『登場人物全員が好き』と思っていただけたら、今回は勝ちかなと思っています。だから、どこか欠けていたり、抜けている人たちが、必死になって足掻いている物語にしたい。隆も典型的な銀行員のようなキャラクターですが、エリートというよりは、だんだんサラリーマンの終わりが見えてきて、だんだんと切なくなってくる年齢で、きちんとしてそうでしていない。もしかしたらあの島に行ったらそういう人たちがいるのではないかと思ってもらえるくらい親近感を覚えてもらえたらいいなと思っています」
―――確かにどのキャラクターもすごく人間味がありますよね。
宅間「ダメなところもあっていいんですよ。人間ってそういうことだよねって。それでも、必死に生きていたり、一生懸命に人を愛そうとしていたり……でも、何かが足りないからもがいていたり。そういう人たちの集まりをお見せしたいと思っています」
―――ありがとうございました! 最後に改めて読者へのメッセージをお願いします。
関口「今、宅間さんがおっしゃったように、人は不完全な存在だと僕も思っています。だからこそ、繋がりやすい。全員が四角だったらくっつかないですよね。いびつだからこそ、くっつくことができる。それがこのキャラクターそれぞれの愛おしさにつながると思います。そうしたキャラクターたちが織りなす物語を通して、自分と似ているところを見つけて、自分を認めようと思っていただけたらと思います。ぜひ、この温かい物語をたくさんの方々に観に来ていただきたいです」
宅間「今回、5年ぶりの新作ですが、タクフェスでは再演をすることも多いんですよ。なので、初演に立ち会っておけば、自慢になると思います(笑)。なかなか初演を観るという機会はないと思いますので、ぜひご来場いただければと思います。しかも、今回は適材適所でいいメンバーが集まっています。再演したときに、全く同じメンバーで集まるというのはなかなか難しいんですよ。なので、このメンバーによるこの初演にぜひ立ち会っていただければと思います」
(取材・文:嶋田真己 撮影:友澤綾乃)
プロフィール
宅間孝行(たくま・たかゆき)
1970年7月17日生まれ、東京都出身。タクフェス主宰。役者としてドラマや映画に出演する一方、脚本・演出家としても活躍。劇団作品の映像化が多く、ドラマ『歌姫』『間違われちゃった男』、映画『くちづけ』『あいあい傘』など多数。その他、監督、脚本作品では映画『LOVE HOTELに於ける情事とPLANの涯て』『THE RIGHT MAN 正義の男』、連続ドラマ『THE BAD LOSERS』シーズン1&シーズン2、『素晴らしき哉、先生!』など多岐に渡る。
関口メンディー(せきぐち・めんでぃー)
1991年1月25日生まれ、米・ニュージャージー州出身。大学在学中に「GENERATIONS」のメンバーとして芸能活動を始める。その後、「EXILE」等複数のグループにおいてパフォーマーとして第一線で活躍。2024年6月、在籍していた全てのグループと事務所を離れて独立。現在は、ソロアーティスト・俳優として国内外で活動中。主な出演作に、ドラマ『コーチ』、『ムショラン三ツ星』、映画『パリピ孔明 THE MOVIE』、『ババンババンバンバンパイア』など。
公演情報
タクフェス第14弾『北の島から』
【プレビュー公演】
日:2026年11月12日(木)12:30開演
場:練馬区立練馬文化センター 小ホール
料:7,900円(全席指定・税込)
問:サンライズプロモーション tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)
【大阪公演】
日:2026年11月26日(木)~29日(日)
場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
料:8,900円(全席指定・税込)
問:キョードーインフォメーション tel.0570-200-888(平日12:00~17:00/土日祝休)
【東京公演】
日:2026年12月11日(金)~20日(日)
場:サンシャイン劇場
料:S席[特典付]12,000円 S席9,900円 TAKUFESシート4,900円(全席指定・税込)
問:サンライズプロモーション tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)
※他、名古屋・小樽(北海道)公演あり。詳細は下記HPにて
HP:https://takufes.jp/kitanoshimakara