
『花よりタンゴ』が22年ぶりにこまつ座で上演される。井上ひさしの盟友、栗山民也が演出を務め、高橋克実、朝海ひかる、南沢奈央、大原櫻子、平体まひろら、豪華なキャストが名を連ねる。物語は1947年の東京銀座、戦争の記憶が影を落とし、価値観や正義が揺らぐ激動の時代。懸命に生きる女と男の姿を、こまつ座らしく、コミカルにタンゴの音楽をまじえて描く。ピアノと共演者たちの歌声が聞こえる稽古場内にある取材部屋へ高橋克実が入ってくると、開口一番「『東京ヴギウギ』は聞いているだけで、元気になりますね」と、笑顔で話す。こまつ座作品への出演は1999年の『きらめく星座』以来27年ぶりで、井上作品への敬意と愛情溢れる高橋のインタビューをお届けする。
―――こまつ座作品への出演は27年ぶり、井上さんと、栗山民也さんのおふたりとは2001年に新国立劇場の『夢の裂け目』でもご一緒されていますね。
「『きらめく星座』は僕が39歳の頃なので、もうそんなに経っているんですね。今回共演する朴ちゃん(朴勝哲)とも一緒でした。稽古場最終日に、道具などの片付けをしないといけない中、井上さんのダメ出しがはじまったことがあったり、他にも思い出がたくさんあります。『夢の裂け目』も、僕にとってとても印象深い作品です。井上さんの作品は『紙屋町さくらホテル』をはじめ、ご一緒させていただく前から数多く拝見してきましたし、僕の養成所時代の師匠である、俳優で演出家の松本きょうじさんが僕にいつも自慢していたんですよ。『井上さんの新作の現場では、いつも栄養ドリンクの瓶に役者の顔写真を貼って、テーブルを舞台に見立てて動きの説明をされるんだ』と。だから井上さんの新作である『夢の裂け目』に呼んでいただいた時は、『ついに自分も……!』と、喜んでいたくらい(笑)。
栗山さんは、僕がかけ出しの頃に初めて出会ったプロの演出家の方。ある作品で初めてご一緒した時に、結婚式に行く夫婦役という設定で、革靴を結ぶシーンがあったんですね。アングラ系の小劇団をやって、とがりまくっていた当時の僕は、我を貫いてジャージに裸足姿で稽古に参加したら、『お前、裸足じゃねぇか。ト書きにあるんだから、ちゃんと靴を履きなさい』と、栗山さんからしっかり怒られました。そんな僕が、それ以降も何度かご縁をいただけているのは自分が一番びっくりしていますし、有り難い話です」
―――栗山さんとは、高橋さんが2024年に、読売演劇大賞 優秀男優賞を受賞された『海をゆく者』でもご一緒されていますね。
「毎回、栗山さんのエネルギッシュさには驚かされることだらけです。実際お会いすると、歩くスピードがとても速い方なんですが、休むことなく様々な作品で演出を続けて来られていて、“生きるスピードの速さ”のようなものも感じます。そんな第一線で活躍されている栗山さんの作品に呼んでいただけるのはやっぱり嬉しいですよね」

―――本作や高橋さんが演じる、ヤミ成金・高山金太郎についてはどんな印象をお持ちでしょうか。
「金太郎は、戦争や時代に翻弄された1人。高山がヤミ成金になったのは、ただ金儲けのためだけじゃなく、“恨み”があると思うんです。最初は縫製工場で地味に働いていたのに、多くのものを国に持っていかれて無一文になって、気持ちのぶつけどころがなかったのではないかと。実際の戦争が終わった後もみんなそれぞれが戦っていて、自分自身の中では戦争は終わってなかったりする。そんな金太郎たちの姿は、『お前ら、忘れんなよ』というメッセージのように思えてきたりもします」
―――井上さんの作品は、戦時中や戦後を描いたものが多いですね。
「台本を読みながら、戦争を経験した父親のことを思い出していました。うちの父親は、『戦時中はな』と、よく戦争の話をしていたんです。先日、若い俳優さんに『高橋さん、戦争ってどうだったんですか?』と、聞かれたんですよ。僕自身は戦後生まれで、もちろん直接戦争を知らないから、『俺も知らないよ!』なんて答えたりしながら。僕らは親から戦争の話を聞いていたけど、今の若い人たちからしたら僕が何歳で、日本がいつ戦争していたかなんて分からない話なんでしょうね。だからこそ、いい意味でスタイルを変えずに公演を続けていくこまつ座さんの作品は、いまの時代にこそ必要だと感じます。だから、この作品は特にうちの子供にも見せたいですね。まだ小さいですが、だからこそ見てほしいです」
―――こまつ座作品ではおなじみの、音楽や歌唱も気になるところ。
「こんな普通のおじさんが急に歌い出すところが井上さんの世界観というか、作品とお客さんとの“近さ”だと思うんです。『ミュージカルではなく“音楽劇”だから、歌が上手くなくてもいい。台詞がただ歌になっただけ』と、井上さんがよく仰っていたことにかこつけて、1人とんでもないのが混ざってます(笑)。だけど、安心していただきたいのは、他の共演者たちは歌がお上手な方ばかりです。朴ちゃんも普段はそこらへんに居そうなおじさんなのに(笑)、ピアノを弾かせたらもう腹が立つくらいかっこいいですから。楽しみにしていてください」

―――最後に観劇される方へメッセージをお願いします。
「井上さんの戯曲は初心者でもわかりやすい。台詞が綺麗で、観劇の帰りに思わずつぶやきたくなるような綺麗な台詞が詰まっているし、聞いているだけで元気になる歌があります。観劇された方には、井上さんが紡いだ戯曲から、素敵なことばを見つけて帰っていただけると嬉しいです」
(取材・文:山田浩子 撮影:間野真由美)

プロフィール

高橋克実(たかはし・かつみ)
1961年4月1日生まれ、新潟県出身。舞台を中心に活動後、ドラマ『ショムニ』で人気を博し、「トリビアの泉」をはじめとする番組司会やナレーションなどへも活躍の場を広げる。近年の出演作に、ドラマ『おコメの女』、NHK 大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、NHK 連続テレビ小説『虎に翼』、映画『新解釈・幕末伝』など。2023 年、舞台『海をゆく者』で第31 回読売演劇大賞 優秀男優賞を受賞。
公演情報
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こまつ座 第158回公演『花よりタンゴ』
日:2026年5月12日(火)~31日(日)
※他、地方公演あり
場:紀伊國屋サザンシアター
料:昼公演12,000円 夜公演11,000円 U-30[30歳以下]7,500円
※他、高校生以下あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.komatsuza.co.jp
問:こまつ座 tel.03-3862-5941
