朴璐美プロデュース LAL STORY が3年ぶりに再始動! 今まで描かれなかった人間・宮本武蔵、最後の物語とは

朴璐美プロデュース LAL STORY が3年ぶりに再始動! 今まで描かれなかった人間・宮本武蔵、最後の物語とは

 女優・声優として活躍している朴璐美率いる LAL STORYプロデュース『剣聖』―運に見放された男―が、6月から7月にかけて上演される。原作・脚本に藤沢文翁を迎え、老いてもなお満たされぬ飢えと渇きを抱く男・宮本武蔵と、苦悩する養父に忸怩たる思いを抱く宮本伊織を二人芝居として濃厚に描いていく。武蔵役・山路和弘、伊織役・牧島輝、そしてプロデューサー・朴璐美に話を聞いた。


出演オファーは本番中!?

―――某作品で全国統一が終わり、まさに地ならし中の今、サンモールスタジオが静かに発火しそうな濃厚な作品が生まれそうです。本作の解禁時は大反響でした。

朴「そうですね。すでに小劇場の規模感ではなくなっているので、どうなるのかちょっとビビっています」

―――LAL STORY念願の再始動ですが、題材として宮本武蔵を選んだきっかけなどについてお聞かせください。

朴「一番最初は藤沢文翁さんと『ゴリゴリの山路の芝居を観てみたいね』という雑談から生まれた話なんです。武蔵といえば剛腕で剣豪なイメージですが、そうではない老いた宮本武蔵、晩年の宮本武蔵を山路に描いてみたいと。そこで私も鳥肌が立ち再始動の火が付いたのですが、山路が初め嫌がりまして(笑)。再度藤沢さんと話して別の題材になりかけたのですが、『見えない話を藤沢に描いて欲しい、その見えない道を俺に示して欲しい』と山路から藤沢さんへのオーダーがあり、宮本武蔵に決まりました。
 その中で山路と真っ向から対峙できる若者っているのかなという話になり、藤沢さんから舞台『キングダム』の牧島くんを観て彼だったらと。ただ牧島くんはスケジュール的に無理ではないかと思っていて私が二の足を踏んでいたのですが、相手役が決まらないことには企画が進まなくてどうしようかと。そんな時、その舞台の公演で劇場と一体化した牧島くんの嬴政のパワーに感銘を受けてしまい、思わず博多座でカーテンコールの前に袖でやらないかと衝動的に声をかけてしまいました(笑)」

―――凄いところでアプローチを!

朴「私もここじゃなかったなと思いながらも」(一同爆笑)

牧島「だいぶハラハラしましたね」

朴「もちろんその後に楽屋を訪ねてちゃんとお話をさせていただいたんですけど、牧島くんはアイシング中で、氷を入れたバケツに足を突っ込んでいて、そこに私が正座をしながら熱く話すという、よくわからない絵づらだったね(笑)。それを小関くんに目撃されるという」

牧島「これはなんですか?って(笑)」

―――貴重なオファー現場のエピソードをありがとうございます。山路さんはどの段階で受け取るのですか?

山路「実現するかわからないところから始まりですね。宮本武蔵? 剣豪!? ダメだろうと(笑)。他の題材の方が自分に近いところもある。ところが見えない物、霧に包まれている部分を描くと聞いて、それはいいなと思ってそっちにいっちゃったのね。武蔵とは距離がありすぎて自分に似合わないと思っていたので、それをあえて選んでしまったという後悔(笑)」

―――武蔵なのにサブタイトルが「運に見放された男」。introductionからも今までにない要素にザワザワしました。老いと若さ、年齢を重ねたからこそ辿り着く表現など、様々なテーマや意図が盛り込まれているように思いました。

朴「私が在籍していた演劇集団円で、先輩たちに色々教えてもらった中で、やはり橋爪功さんの存在が大きくて『あと何年芝居ができるかわからない、お前たちみたいに時間はないんだ』と言っていて、20代で聞いた時はぜんぜんピンとこなかったんですけど、年齢を重ねてわかってきて、山路も同じことをポツポツと言うんです。自分の旦那さんではありますが、演劇人として山路をリスペクトしていますし、それは藤沢文翁も同じ想いだと思っています。この世代の人たちは、もの凄い技と情熱を持っていて、この人たちのアクセル全開を見てみたいという欲が一番強くあります。

 さらに橋爪さんが『お前たちがテクニカル的なもので俺に敵う訳がない、情熱でこい』と言っていたのですが、山路も同じ想いなのではないかと感じます。自分をピリつかせて欲しいのではないかと。それが山路と重なるところがあって、世代を超える情熱のバトルみたいなものを、まずは私が観たいですし、皆様にも観て欲しいです。このお芝居は幅広い世代の方に観ていただいて、生きる事に対して嫌な思いもしつつ情熱を持っていただきたい、そんな想いが込められております」

いっぱい頑張って闘いたい

―――山路さん、牧島さんに伺います。台本を手にした時の印象をお聞かせください。

山路「やれるのかなと思いました。それが一番正直な気持ちですね。プロデューサーたちが買いかぶるから、そんなにハードルを上げないでくれよと思うんですけどね(笑)」

牧島「わかってはいたけど、自分の理解できる範囲を越えていて、出来ないことの方が多い作品だろうと、お声をかけていただいた時になんとなくその感じは伝わっていました(笑)。きっと難しいんだろうなって。できることばかりではなく、今できないことをいっぱい頑張って闘いたいと思いました。でもいざ台本を手にした時はどうしようと思いました」

―――5月中頃に読み合わせがあったとお聞きしました。牧島さんの魅力についてお聞かせください。

山路「ガツガツ来てくれたらいいなと思いましたね。まず1回目読み合わせて、2回目読んで『こんなにすぐ変わるんだ!』と、ちょっと驚いて。きっと頭が良いんだな!」

牧島「いやいや」

朴「それずっと言ってたね」

山路「今上げとかないとね」

牧島「あははは! 勘弁してください! 『これはもう頑張らないと!』と思いました。自分に重なる部分がたくさん見つかりそうで、読み合わせではとても想像を膨らませていただきました。必死でしたけど、楽しいと思いました」

―――サンモールスタジオが究極な空間になりそうです。二人芝居は初挑戦ですか?

牧島「二人ミュージカルや、130人位の劇場で三人芝居をしたこともあったので、初めてではないですが、その大変さは少しわかっているつもりです。劇場が変わると違う雰囲気になりますし、かなりエネルギーを使う作品になると思っています」

―――読み合わせの時から空間を想像できたりするものですか?

山路「ぜんぜん見えなかった。どうしたらいいのかと」

牧島「え~、想像して見えていると思っていました」

山路「なわけねーじゃん(笑)。まだこれからなので、少しずつ見つけて繋げていけたらと。芝居のスタートはいつもこんなもので、文字で読んでいる時と声を出してみた時と全然変わって来ちゃうんで、2人で絡んでみてこれからコロコロと出てきたらいいな」

ドロドロと渦巻いているものを出しちゃってもいい?

―――何を意識して演じようなど考えていることをお聞かせください。山路さんはご自身の年齢に近い時期になるのでしょうか?

山路「昔の60代といえば、今の80代くらいなのかな。でも老いはよくわかります。若者に対する適度な嫉妬ってあるじゃないですか。そういうのをどこまで抑えてどこまで噴出すればいいのだろうと、楽しみだね。自分の中でドロドロと渦巻いているものを出しちゃってもいい?(笑)」

―――それは観客側も楽しみだと思います。

山路「凄く嫌なジジイになったらいいね。俺がやるならそうならないと意味がないよね」

朴「だからね、山路世代の人たちにも観て欲しいんです」

―――牧島さんはいかがですか? 伊織はストーリーテラーのような、歴史の目撃者のような立場でもあります。

牧島「演じる伊織は自分の想いが強い役で、憧れや希望、そして怒りとか、色んなものが渦巻いている中で、武蔵にこうなって欲しいとか明確になるんです。でもそのために自分ができることに葛藤があって、読み合わせではまだ理解が追い付かず、声に出して読むことが怖かったんです。彼の中で渦巻いている想いをもっと深く理解して挑んでいけたら役者としても演じることがもっと楽しくなりそうな予感がしていいます」

朴「武蔵より伊織の方が大人なんです。色んなものを我慢しなくてはいけない中で、過去と今を行ったり来たりもするので、難しい役どころになると思います。でも稽古で見えているので何も心配はしていないです」

白と黒、嘘と誠、そして剣聖の聖と鳩

―――キービジュアルについても伺います。美しい加工が主流な中でのアナログ仕様、2色の鳥が複雑に絡み合う様子に、プロデューサーのこだわりを感じます。切り絵作家・下村優介さんとのコラボは、芸術家としての顔を持つ武蔵からのインスピレーションなのですか?

朴「下村優介さんとはTwitterでフォローし合っていますがお知り合いではなくて、単純に私が作品のファンだったんです。一度コラボしたいと思っていた中、今回の武蔵では影絵とか切り絵のイメージがありまして、いきなりオファーしても無理だよねと思いながらも、はじめましてとDMを出してしまいました。すると即答がきまして10分くらいで色々決まってしまったんです。切り絵は全て手作業で切られていて、それが何枚も並ぶ様は圧巻でした」

―――黒と白の鳥は2人を表しているようです。

朴「そうですね、鳩で2人を表しつつ、武蔵の中での白と黒、伊織の中の白と黒。嘘と誠、そして剣聖の聖。鳩にして正解だったと思っています」

―――するとタイトル文字はどなたの手によるものですか?

朴「これは『呪術廻戦』などの題字を描いていらっしゃる筆アーティスト・雪駄さんに書いていただきました。もの凄いスジの剣さばきのような文字と、無骨で原始的な文字お願いしまして、原始的な方を使わせていただきました。本当に今回携わってくださっているスタッフ全員が大作規模の方々だらけで。この出演者、スタッフ全員がアクセル全開になったらどうなってしまうのだろうと(笑)」

役者の仕事は感情を揺さぶること

―――現段階で気になるシーンを教えてください。

山路「宮本武蔵は剣豪で乾いているイメージがあるんですよね。少なくても涙は絶対に出したくないと思うんだけど、読み合わせで親子のやり取りのシーンはちょっとダメでしたね。どのシーンとは言いませんが本番で確認してください。我慢できたら褒めて! ウエットを越えたドライができるようになったら面白いなと、自分の目標かな」

牧島「演出的にどうなるのかな?と思うシーンがたくさんある中で、武蔵の心の中の葛藤や自分に問うている、自分と闘って抗っているシーンがありまして、これはどんな見せ方になるのだろうと、凄く楽しみですね」

山路「ここどうするんだろうってところだらけだよね」

朴「出演しない代わりに私の中ではこうやりたい、ああやりたいという希望はあり、それが実現できるかはまだわからないのですが、まずはやりたことを全部出してみてスタッフさんと相談ですね」

―――この企画は皆さんにとってあたためて試す実験の様な場所ですね。

朴「そうですね、LAL STORYはLALラボとしたかったくらい実験的なことをしたくて、お客様にはそれを目撃して欲しいと思っています。アナログとデジタルをうまく融合させたいです。飾るものではなく生の手触りが感じられるマッピングにしようと思っています。皆様の感覚を揺さぶるような作品にできたら」

牧島「この剣聖という文字のように、色濃く出る部分もあればカスレてしまう部分もあって、途切れているようで繋がっていたりとか、色んな要素があり1つの作品として完成します。
 人生やイキザマを目撃できる作品になると思うので、限られた空間と限られたチケットですが、お客様に楽しんでもらえるように頑張ります」

山路「感覚を揺さぶる、いい言葉だよね。感覚を揺さぶるのはプロデューサーにお任せして、役者の仕事は感情を揺さぶること。こっちはそれしかないけど、ただ出がらしだからね俺(笑)」

朴「大丈夫、新芽の緑茶(牧島)がいるから!」(一同笑)

山路「新芽の緑茶を観にきてください(笑)」

(取材・文&撮影:谷中理音)

プロフィール

山路和弘(やまじ・かずひろ)
1954年6月4日生まれ、三重県出身。青年座研究所を第1期生として卒業後、1979年に劇団青年座に入団。舞台・ミュージカルに出演する他、映画・テレビドラマの出演など俳優として幅広く活躍。第36回菊田一夫演劇賞・演劇賞を受賞など受賞歴がある。声優としてもジェイソン・ステイサムをはじめ、数多くの洋画吹替やアニメなどで活躍中。近作に、ミュージカル『メリー・ポピンズ』、『ゴヤ-GOYA-』、ドラマ『エルピス—希望、あるいは災い—』、NHK連続テレビ小説『ちむどんどん』など。

牧島 輝(まきしま・ひかる)
1995年8月3日生まれ、埼玉県出身。2016年、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンにて海堂薫役を演じ人気を博す。以降、舞台・ミュージカルを中心に、映画・ドラマなど幅広く活躍。2021年には、シングル「かくれんぼっち」でメジャーデビュー。近作に、舞台『セトウツミ』、『キングダム』、『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』、ドラマ『海岸通りのネコミミ探偵』主演など。10月12日より、舞台『ドクター皆川~手術成功5秒前~』に出演予定。

朴 璐美(ぱく・ろみ)
1972年1月22日生まれ、東京都出身。桐朋学園芸術短期大学演劇科卒業後、演劇集団円に所属し2017年に独立。現在はLAL代表。古典劇から現代劇、ミュージカルや舞台、声優、吹替、アーティストなど活躍は多岐に渡る。主な出演に、アニメ『鋼の錬金術師』、『NANA』、『進撃の巨人』、舞台『レ・ミゼラブル』、『千と千尋の神隠し』、『キングダム』など。吹替では、ノオミ・ラパス、ヘレナ・ボナム=カーター、レディー・ガガ、ほか多数。

公演情報

LAL STORY -sp-『剣聖』-運に見放された男-

日:2023年6月30日(金)~7月9日(日)
場:サンモールスタジオ
料:7,800円(全席指定・税込)
HP:https://kensei19.wixsite.com/musashi00
問:LAL STORY mail:lalstory.info@gmail.com

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