【稽古場レポート&インタビュー】東啓介 × 斎藤瑠希によるリーディング『鳥ト踊る』

【稽古場レポート&インタビュー】東啓介 × 斎藤瑠希によるリーディング『鳥ト踊る』

リーディング『鳥ト踊る』が、2023年11月27日(月)~30日(木)、I’M A SHOW(東京)で上演される。

ノゾエ征爾が作・演出を務める、男女2人による少し不気味で滑稽なサスペンス風コメディに、村井良大 × 優河(Aバージョン)、東啓介 × 斎藤瑠希(Bバージョン)の2ペアが挑む。

11月某日、東京都内の稽古場を取材した。この日は東と斎藤ペアの初稽古。ほぼ初対面という東と斎藤だが、二人の人柄もあってか、変な緊張感はなく、終始和やかな雰囲気が漂う。

長い髪が扇風機に絡まって動けない「女」と、そこに迷い込むようにやってきた「男」。その二人による会話で物語が進んでいく。ノゾエは、基本的には俳優が提示したセリフの言い回しやニュアンスを優先しているように感じたが、ときどき「もう少しこうしてみましょうか」と演出の提案をする。東と斎藤はその提案をすぐに理解し、実践する。素直さと柔軟性、そして集中力を必要とする作業だろうが、笑いながら楽しみながら表現を探っていた。

譜面台に脚本を置いてセリフを読むリーディング(朗読劇)とはいえ、決して椅子に座ったままというわけではなく、必要に応じて動きをつけたり、小道具を使ったりしているので、想像するよりも“演劇的”で“立体的”な作品になりそうだ。

20分ほどの稽古見学ののち、東、斎藤、ノゾエに話を聞くことができた。

―――東さんはノゾエさんの演出は久しぶりですね。本日の稽古はいかがでしたか?

東啓介(以下、東):2人芝居ということもあって、脳みそがいっぱいいっぱいですね。活字量に今ちょっとやられている感じがしますけど、でも久しぶりにノゾエさんとご一緒できることを本当に心待ちにしていたので、稽古が楽しかったです。

―――斎藤さんはノゾエさんとは初めてですね。

斎藤瑠希(以下、斎藤):はい。リーディング(朗読劇)は初めてだったので、内心ド緊張しながら稽古場まで来たんですけど……楽しいですね!朗読劇は動きが少ないから、観ている側はどういう気持ちで楽しむのかな?演じる側もどんな心境なんだろう?と思っていたんですけど、今日1日本読みから実際に立って読むまですごく楽しくて。ぜひ客席から観たいと思うくらい、楽しい時間でした。

―――稽古を見ていると、割と体を動かすシーンもあって、確かに朗読劇らしからぬ感じもありました。

東:うん、もしかしたら朗読劇じゃないかもしれない(笑)

斎藤:終わった後は2人とも汗だらだらだったりして(笑)

―――お二人のお稽古をご覧になって、ノゾエさんはいかがでした?

ノゾエ征爾(以下、ノゾエ):実は昨日は(村井良大さんと優河さんの)別チームの稽古をやったのですが、いい意味で2チームとも全然違うと思いました。解釈の違いもあれば、一つひとつの単語の乗っかり方も違って。物語設定がはっきりしてるので、どうしてもそれに縛られてしまうかなという危惧もあったんですけれども、何の心配も要らなかったです。

―――A(村井・優河)バージョンとB(東・斎藤)バージョンの違いを言葉にするとしたら?

ノゾエ:そうですねぇ……Aが「素朴」、Bが「グルーヴ」かな。Aが「素朴」というのは、別に大人しいという意味ではなくて、よりお人柄が出ているなと感じましたし、東さんと斎藤さんも今日が初めてのはずなのに、何かグルーヴィーなものが感じられて。

―――リリースのコメントでは、斎藤さんは脚本を読まれているときに不思議な体験をしたとお話されていました。

東:え、大丈夫?(笑)

斎藤:大丈夫です(笑)。いや、すごくクセになる台本だなと思いまして。何回読んでも、感じることが違う。こんなに何回も読んでても飽きずに、言ってしまえばスルメのように、噛めば噛むほど味が出てくる。そんな経験は初めてだったんです。すごく面白い作品に関わらせていただけるんだという高揚感がすごくあったんですよね。

―――東さんは脚本を読まれての印象はいかがでしたか?

東:いい意味で、変だなって。その変が、どんどん気になっていくというか、入り込んでいってしまうというか。僕の「男」という役は、1を100ぐらいに広げてしまうボキャブラリーや、のめり込んでしまう集中力があって、「たまにこういう人いるよな~」と思うんですよね。それを自分がやるのは、確かに不思議な体験だなと。

もともとこの作品は本公演があるので、それを今回どうリーディングで表現するのだろうと思っていました。案の定、少しは動きましたが(笑)、リーディングはリーディングで言葉の良さがより伝わったり、「小説を聞かされているんだけど、日常会話を覗き見している」ような感覚になったり。いろいろな景色が見える作品だなと思いました。

―――ノゾエさんがこの脚本を書かれたのは10年以上前だと思います。改めてこの作品について思うことはありますか。また、何か時代によって変化したものがあれば教えてください。

ノゾエ:書いたのは、それこそ15年前ぐらいになりますね。最初はもっと衝動的なところで書いていってたと思うんですけれども、改めて、自分が年を重ねて、演者の言葉を通して再び本と向き合っていくと、自分では気づいていなかった根っこにあるテーマや本質を知れた気がします。

つまり、2人の人間がどうしようもない行き詰まった状況になっている。そういうどうしようもない行き詰まった状況は、戦争もしかり、今、社会の中でたくさんあるわけですよね。行き詰まった中で、それぞれの欲求があり、正義があり、言い分がある。どうしても譲れない、どうしても交われない。殺人や性犯罪といった絶対にダメなことは排除した上で、どうしたって交われないのかーー。その先に僕が触れたかった本質があったんだということに気づきました。陳腐な言葉になってしまうけど、それは愛なんです。

奥深いところで作品を感じるようになったのは、社会の変化なのか、僕が単純に年をとったからなのかは分からないですけど、執筆したときとは随分違いを感じますね。

―――お二人はどんなところに朗読劇の魅力を感じていますか?

東:読んでいる面白さ、聞かせる面白さがありますよね。実際に演者が動く本公演とはまた違った捉え方をされるお客様もいると思います。

本公演もやってみたい/観てみたいなとは思いました。だって、女性の髪が長くて、それが扇風機に絡まっているという状況だけでもうすでに面白いし、インパクトがあるじゃないですか。“言葉の殴り合い”を本公演で改めて観てみたいなとは思います。

とはいえ、リーディングだからこその魅力も確かに感じています。短い期間ではありますけど、こういう作品が増えたらいいなとも思いますね。本公演だとどうしても時間がかかってしまいますが、リーティングだったらよりスピーディーに届けられるので。

斎藤:朗読劇は観客も演者も想像力を働かせますよね。動いたり踊ったりということではなくて、シンプルに言葉で届けるという感覚があります。

―――ノゾエさんからお二人に期待されることは?

ノゾエ:まず東くんは『命売ります』以来、ぴったり5年ぶりにご一緒しているんですけど、成長しか感じないですね。たまにお芝居を見させてもらってましたけれど、いざ作品でご一緒するとなると、随分頼もしく感じました。技術的なものだけではなく、彼の中で厚みを増して、確実に積み上げてきたものがあるんだろうなと感じました。

ルッキーは……あ、斎藤さんはルッキーと呼ばれているらしいんですけど(笑)、今21歳なんだよね?いや、信じられないと思って!若いのに頼りがいがあるし、ちょっとした演出にもすぐに応じられる力もあるし、正直驚きました。

―――東さんと斎藤さんはお互いの印象はいかがですか?

斎藤:前に本当に一瞬だけご挨拶させていただいたことがあって。身長が高いので「ちょっと怖い人なのかな?」と勝手に想像して、妙な緊張感を持ったんですけど、でも稽古をしてみると呼吸を合わせることがすごく楽しかったです。

「(東さんが)変化球で来たとしたらどう対応しよう」などとその場で感じながら、合わせていく。その作業が新鮮で、楽しかったです。

東:僕は彼女の歌声の印象が強かったので、もっとパワフルなのかなと思っていたんですけど、セリフを聞く限り、すごく真面目だし、ストレートだなと感じました。稽古日数は少なめですけど……お互いどのように変化できるか楽しみです。

―――最後にメッセージをお願いします!

ノゾエ:僕も思っていた以上に2チームとも全然違うんです。皆さんが想像している朗読劇をいい意味で超えて、生き生きとした息遣いや生々しさが届くような舞台になると思うので、ぜひ同じ空間で感じていただきたいなと思います。

斎藤:4公演という少ない公演数ですが、ぜひAチームもBチームも見にきていただきたいですね。私が初めて台本を読んだときに味わった不思議な感覚を、ぜひみなさんにもその身で体感していただきたい。1回見たら、また2回目が見たくなると思うので、ぜひ見に来てほしいです。

東:僕の話になってしまいますが、リーディングが久しぶりで、またこうして朗読劇ができることが本当に嬉しいです。そして、ノゾエさんとも5年ぶりということで、あの当時の僕はできなかったことがすごく多かったんですけど、時を経て成長した姿をノゾエさんにも見せたいですし、皆さんにもまた新しい景色を見せたい。

この『鳥ト踊る』はシュールだけど、「今のちょっと刺さるかも」と思える部分がある作品。両チーム見られるのであれば、その違いも楽しんでいただき、素敵な時間になったらいいなと思っています。ぜひ楽しみにしてください!

(取材・文・撮影:五月女菜穂)

リーディング『鳥ト踊る』

公演期間:2023年11月27日 (月) ~2023年11月30日 (木)
会場:I’M A SHOW

ワンシチュエーション×男女2人による少し不気味で滑稽なサスペンス風コメディ

出演
Aバージョン:村井良大、優河
Bバージョン:東啓介、斎藤瑠希

作・演出
ノゾエ征爾

あらすじ
女は長い髪が扇風機に絡まって身動きができずにもがいていた。
近所で誰かが弾いているピアノの⾳が⽿障りで、焦る心を更にイラつかせる。
そこに迷い込んだようにやって来た男は、女の髪を解(ほど)くというのだが、
なかなか解(ほど)けない。
解(ほど)けないのか、解(ほど)かないのか・・?
両者の思惑が徐々に発露されていく。
ひょんなことから身動きがとれなくなった女。
ひょんなことから身動きがとれなくなった女と遭遇した男。
偶然出会った男女が織りなす、どこか不思議で必死で滑稽で愛おしい物語。

■ノゾエ征爾
脚本家、演出家、俳優。劇団はえぎわ主宰。
1999年に劇団はえぎわを始動。以降、全作品の劇作・演出を手掛け、俳優としても出演している。2012年、第23回はえぎわ公演『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞受賞。2010年より世田谷区内の高齢者施設での巡回公演(世田谷パブリックシアター@ホーム公演)や、故・蜷川幸雄の遺志を継いだ高齢者1600人出演の大群衆劇「1万人のゴールド・シアター2016『金色交響曲~わたしのゆめ、きみのゆめ~』」の上演、松尾スズキ原作の絵本を舞台化した『気づかいルーシー』など劇団外でも活躍。近年の演出作品に『ぼくの名前はズッキーニ』『物理学者たち』『明るい夜に出かけて』『ガラパコスパコス~進化してんのかしてないのか~』など。

■東啓介
東京都出身。2013年、ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンでデビュー。
190cmという長身と歌声を活かし、ミュージカルや舞台を中心に、幅広いジャンルで活躍中。
近年の主な出演作に、ミュージカル『ラグタイム』、『ジャージー・ボーイズ』、舞台『混頓 vol.1』、『TOHO MUSICAL LAB.』、MBS『女子高生、僧になる。』、MBS/TBS『闇金ウシジマくん外伝 闇金サイハラさん』、TBS『ファイトソング』などがある。

■斎藤瑠希
埼玉県出身。「最強歌少女オーディション2014」で育成クラスに選出され、2019年には渡辺ミュージカル芸術学院に1期生として入学。
卒業後の2021年には、ディズニー長編アニメーション『ミラベルと魔法だらけの家』日本語吹替版のヒロイン・ミラベル役に抜擢。
主な出演作に、舞台『アメリカの時計』、『After Life』、ミュージカル『LILIUM -リリウム 新約少女純潔歌劇-』、『BE MORE CHILL』などがある。

<作・演出 ノゾエ征爾 コメント>
自分の戯曲の中でもかなり好きな本です。
自己肯定感に関してはわりと低い方の私がはっきりと言うのだからそれなりの魅力のある本なのかもしれません。ニューヨークの俳優でニューヨークのお客さんにも喜んでもらえたことのあるこの本。きっとここでも力を発揮してくれるに違いありません。こんな素敵な俳優さんたちに読んでもらえるのだから。

<東啓介 コメント>
今回『鳥ト踊る』という作品に携わることができ、とても嬉しく思っています。
僕が以前、演出のノゾエさんとご一緒したのは、もう5年も前になります。こうしてまたお仕事ができることがとても幸せです。
そして今回のこの作品。独特な雰囲気を持ちつつ、いつの間にかのめり込んでしまう魅力があると僕は感じました。
シュールでありながら少しゾッとする?世界観を、是非楽しみにしていてください!

<斎藤瑠希 コメント>
台本を初めて読ませていただいたとき、なんとも不思議な体験をしまして、読み終えた後、息をし忘れていたことを思い出し深呼吸…
「板の上で、どうなるのだろうか」とドキドキハラハラソワソワ。
皆さんにも、この作品の中で体感する色んな感情に身を任せていただきたいです!

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