舞台になじみのないミステリファンにも見てほしい謎だらけの作品 疾走感ある展開をアトラクションのように楽しんで

舞台になじみのないミステリファンにも見てほしい謎だらけの作品 疾走感ある展開をアトラクションのように楽しんで

 2014年に主宰・相馬あこが旗揚げして以来、ミステリやコメディ、ファンタジーなど幅広いジャンルの作品を上演してきた「100点un・チョイス!」。10周年記念公演第1弾となる第20回公演『フール』は、謎に満ちたミステリ。3月13日(水)からの開幕に向けて稽古が進む中、作・演出の相馬あこ、本作に出演する國島直希、三浦海里にインタビューを行った。

―――まずは今回の作品について教えてください。

相馬「ミステリとサスペンスってジャンル分けが難しいですが、今回はミステリです。誰かに呼ばれたり何かの理由があったりで12人が別荘に集まり、不測の事態で脱出できなくなる。その後どうするか、というお話です。現時点では台本の3/4までしか渡していません。ミステリをやる時に、お客様と同じ目線で役者にもやってほしい。一緒に結末を考えて、初見のお客様に強い印象を与えられるように。稽古をしながら若干台本を変えたりもできるので数年前からこの方法にしています」

―――ということは、國島さんと三浦さんもまだ結末は知らないんですね。

相馬「ただ、海里はミステリが好きでミステリマニアみたいな役。役作りとして今回の作品に関わる作品を読んでいるのもあって、結末を当てていました」

國島「すごい!」

相馬「お客様の中にも当てられる方がいるかもしれません。でも、今回は本当に謎に包まれています。サスペンスはおどろおどろしい世界、ミステリは謎解きを楽しむという違いがあるそうです。サスペンスも進行していますが、コメディ要素も入っていて見やすいと思います。SNSで『怖いのかな?』と心配する声もあったけど、そんなに怖くはないです」

國島「カレーで言うと中辛くらいですよね」

相馬「そこまでいかない。中甘辛くらい」

三浦「なんの話ですか(笑)」

相馬「他の作品で例えると、『ミステリという勿れ』は甘口寄り。『屍人荘の殺人』も、グロテスクな部分はあるけど甘口に近いのでテイストが近い気がします」

―――ネタバレにならない範囲で、演じるキャラクターについて教えてください。

三浦「僕はミステリマニアの役で、とにかくミステリが大好き。別荘に足を踏み入れた時に、自分が知っているとある作品に状況が似ていることに勝手に怯えたり、勝手に考察したり。それによってみんなが『え、本当にそうなの?』と勘違いしてしまう。悪気はないけどミスリードしちゃうみたいなキャラクターです」

相馬「みんなは知らなかったのに、『その作品ではこういうことが起きた』という情報を持ち込んで、『本当にそうなのか?』と思わせる」

三浦「周りを困惑させてるよね」

國島「確かに掻き乱してる(笑)」

相馬「2人はセリフ量も多いんです。演出的にもセリフが多い役は経験者にしたい気持ちがあって」

國島「前半の台本をもらって稽古に入り、昨日改めて3/4まで台本をもらったんですが、『次はこれを言うだろうな』と予想していたセリフが本当にありました。あこさんの作品に参加するのは3回目で、だんだんわかってきた気がします」

相馬「2人は3回目なので、私の台本の癖とかもわかってるんですよね(笑)」

國島「リアルさがある脚本なので、自然とセリフが出てきます」

相馬「喋りながら台本を書くので。そのキャラクターになってセリフを言いながら進めるから、人前では書けない(笑)」

國島「僕が演じるのは、1億円を取りにきたチャラくて気性の荒い男。僕自身とは違いますが、さっきも言ったようにリアリティのある造形なので、そのキャラクターとして素直にいられます。演じていて楽しいですね。今までヤンキーっぽい役はやったことがなかったので挑戦的な役でもあります。最初は苦戦しました」

相馬「最初は優しく喋っちゃっていたけど、どんどん変わっていって役者さんの凄さを実感しました。役作りで私に対しても『あ?』とか言い出して」

一同「(笑)」

相馬「初めましての人にそれをやられたらドン引きするけど、わかってるので(脚本を)書きながら『こう演じるだろうな』というのもわかっているので」

國島「僕の舞台初主演があこさんの作品だったんですよね。僕の役は、ミステリによくいる、最初に死にそうなやつ(笑)」

相馬「いるよね。皆さんもある程度“ミステリあるある”を知っていると思うので、よくいるキャラが作中でどうなっていくのかを楽しんでもらえたら」

―――國島さん、三浦さんが思う相馬さんの脚本や演出の魅力はどこでしょう。

三浦「あこさんの演出を受けるのは今回3回目になりますが、難しいことを言ってるけど、役者として演じる上で根幹の部分を中心に教えてもらえます。中々そこまで細かく時間をかけて役について演出してくださる方っていない。どちらかと言うと見栄えなどに関する指示が多くて、役の感情などを細分化して指摘してくれるのは珍しいんです。そういう意味では、3回目でも新鮮に感じますね。そのぶん稽古の進みは遅いけど(笑)。最初に役を固めていくのでやりやすいです」

國島「自由にもできるしね」

三浦「こっちの意見も聞いてくれるので、一緒に作っている感覚があります。3回目なので言いやすい関係性にもなっている。他の人の芝居を見ていても勉強になるし、いい演出家だと思います」

國島「めっちゃ上から目線(笑)」

一同「(笑)」

國島「理屈でちゃんと説明してくれる演出家さんって意外と少ないんです。もちろんこちらが汲み取って理解できれば問題ないんですが、あこさんは誰でもわかるように教えてくれるから、新人にとってはすごくいい現場だと思います。海外のやり方を日本に持ってきているからだと思います。信頼できるし言っていることがわかって納得できる。それが根底にあるから信用して意見を出せるし、自分でも違うと思っていることを指摘してくれる。これからの芸能界にとってすごくいい団体だと思います。理論を持ってやっているところって意外とないので。俳優の理屈も理解して教えてくださるので楽しいし勉強になります。久々のストレートで出演できてよかったなと思います」

―――相馬さんから見たおふたりの印象はいかがですか?

相馬「今回、仮に劇場が満員だったら170人が見るので、170人の目を意識して演出しないといけない。変な言い方かもしれませんが、2人にはある程度の信頼があるから、『ここは大丈夫だろう』と任せられるところがある。

 直希は憑依型なので、役を掴んでしまえば物語から外れない。不器用なところもあるけど、役を生きてくれるし、ある意味その不器用さが今回の役にはまっている感じがします。新たな境地への挑戦も見ることができていて面白い。

 海里は役通りというか。本当に難しい役だけど、見ている人たちからすると疾走感がある役。お芝居になると、会話をしながら疾走感を出すのが難しいけど、海里には相当言ってきているのでいけるだろうなって感覚がある。『お客さんがここを見るだろう』という部分を全部見るのは難しいけど、2人にはいい意味で任せています。直希は新たな挑戦の役、海里はこれまで出演してくれた2作を足して割ったような役ですね」

―――稽古がスタートして1週間半くらいということですが、現時点での手応え、稽古場エピソードがあったら教えてください。

國島「いい人が多い!」

相馬「みんな芝居が好きです。さっき言った通り、心情を追って脚本を書いていくので、ある程度みんなが作りそうな心情を汲み取って書いているんです。脚本の段階で苦しんでいるので、あとはみんなが苦しんだ時に寄り添うようにしています。だからみんなも、『そんなに自分の役を理解しているなら』っていう信頼を寄せてくれる。それによってやりやすくなるし、座組の雰囲気もよくなります。会話劇で難しい脚本なので、みんなで作ろうっていう感じですね。すごく緊迫しているシーンもあるのに、みんな大爆笑しているシーンもあるんですよ。昨日は『あまりにも緊迫感がない』って注意しました」

國島「1人キャラの濃い人がいて笑っちゃうんですよね。大事なセリフもあるし、外的要素もあるし大変だと思うんですけど」

相馬「お客さんは笑わないと思うんです。起きてることがシリアスだから。でも、言い合えるカンパニーになっているのはいいよね」

國島「ずっと舞台に出ているので、最初がブレるとブレっぱなしになるなんですよ。最初が肝心」

相馬「2人とか3人だけのシーンが少ないからね。日本人ってクローズドサークル好きだと思っていて。ずっとやりたかったので叶っている感じ。緊迫感があるシーンが続く部分もあるので、役者は大変だと思います」

國島「ト書きで『疲弊しているみんな』って書いてある10ページ前からもう疲弊してる(笑)」

一同「(笑)」

三浦「テンションが高いタイプのキャラがあまりいないんです。驚いた時に声を出すキャラクターが少ないので、いける人がいかないと。

相馬:お客様は今回は何がクローズドサークルなのか気になっていると思います。ちょっとトリッキーなので、そこを楽しんでいただけたら」

國島「確かに、今までにあまりない形ですよね」

―――2回以上観にくる方もいると思いますが、物語を把握した後に注目してほしいポイントなどがあれば教えてください。

三浦「これは絶対、喋っていない時ですね。例えば僕らが会話しているとして、それを聞いている人たちを見る方が面白い。昨日、なんとなく関係性を当てたので今日の稽古がすごく楽しみなんですよ。知った上でみんなの芝居を見られるので。人間って喋っていない時に思っていることが出ると思うんです。目線とか、誰と目が合っているかとか、どうやって話を聞いているか・いないかとか。今回は特に、喋っていない人を見ると2回目、3回目は『だからこうなっていたのか』とわかると思います」

相馬「1回目は話を聞かなきゃって思うので、目が逸れていると思うんです。ある人たちにだけ『こうやっておいて』と伝えている部分があって、演じているキャストには見えていないんです。2回目、3回目はそれがわかると思います」

國島「僕はまだ何もわかっていないんですよ。でも、伏線がすごく多いし会話劇なので、2回目を落ち着いて見たらわかることがたくさんあると思います。もしかしたら2回目の方が面白いまであるかもしれない」

相馬「映像になっちゃうと編集が入るので、自由に見られるのは劇場ならでは。ぜひ劇場で、生で見てほしいです」

―――個人的にお気に入りのキャラクター、シーンはありますか?

國島「桑原勝くんのまっすぐさがお客さんの目にどう映るのか気になります。僕も彼の役が何を担っているかわかってないけど、気になるキャラクターの1人ですね。ストレートは初らしいけど、飲み込みがすごく早いので、千穐楽までにすごく成長しているのではないかと思います。色んな意味で気になりますね」

三浦「僕は國島くんとの掛け合いが楽しいです。トムとジェリーみたい。テンションがお互い別ベクトルで上がっていってぶつけ合うので」

相馬「海里は歩み寄ってる。好きなのかも(笑)。助けてあげてるよね」

國島「なのに俺は全力で突っぱねるっていう(笑)。人狼でもたまにある構図だよね」

三浦「守ってるのに疑われるっていう(笑)」

―――最後に、楽しみにしているみなさんへのメッセージをお願いします。

國島「やっていてすごく楽しいし、みんなちゃんとお芝居ができる方です。台本はまだ最後までもらっていませんが、すごくリアルに描かれているしキャラクターがポップ。見やすいし、演出も素敵で、起きている出来事を覗き見ている感覚になれると思います。老若男女、芝居好きもミステリ好きも、ストレートを見慣れていない方も楽しめると思います」

相馬「ドラマや映画は見やすいけど、演劇というものが区切られている。でも、舞台が好きな方だけじゃなく、ミステリや謎解きが好きな方が見にきてくださったらいいなと思います。日本推理作家協会とか劇作家協会とか、そういうところにもアプローチできたら。『舞台は見たことがないけどミステリが好き』な方にも気軽に来てもらいたいです」

國島「脱出ゲームが好きな人にも刺さりそうですもんね。アトラクション感覚で」

三浦「今回、同年代のキャストが多くて、稽古場から活気があります。個性豊かなキャラがたくさんいますが、演じる役者の個性を引き出すようにあこさんが書いてくださっている。役を通して一瞬その人が見える部分もあって、色々な見方ができます。それに、スピード感があって怒涛の勢いで進んでいくミステリ。舞台を見たことがない人たちも見やすいと思いますね」

相馬「ラグがなくて疾走感があるからね」

三浦「見終わった時に『あ、終わった』くらいの感じ。それに何より、100点un・チョイス!10周年記念の特別な作品。あこさんがやりたかったことを詰め込んだ作品に出られるのが光栄です。精一杯盛り上げたいと思いますので、もし迷っている方がいたらぜひ。舞台は生ならではの良さも絶対にあるので、見に来ていただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

相馬あこ(そうま・あこ)
北海道出身。AB型。米倉涼子の付き人を務め、自身も舞台『黒革の手帖』、『風と共に去りぬ』などにも出演する。同時に、東京セレソンDX(現タクフェス)にて演技を学び出演する。その後、多数舞台出演を果たし、同時に演出助手なども務めながら演出を学ぶ。2013年から本格的に演出活動を始め吉本興行プロデュースの舞台などを演出する。その後、専門学校講師や各劇団のWS講師などを経て、2014年9月、100点un・チョイス!を旗揚げ。主宰を務め、演出・脚本も担当し、現在までに19作品を上演する。旗揚げから10周年を迎え本作品で20作品目となる作・演出を担当する。[公式X @acosouma]

國島直希(くにしま・なおき)
1994年8月1日生まれ、岐阜県出身。2013年に第26回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞。2014年に舞台『BLACK10』で俳優デビューし、ドラマ・映画・舞台など幅広く活躍。主な出演作にスーパー戦隊シリーズ『動物戦隊ジュウオウジャー』、ドラマ『モブサイコ100』、映画『あの頃、君を追いかけた』、舞台『8』、『Starry☆Sky on STAGE』シリーズ、音楽劇『黒と白 -purgatorium-』、ミュージカル『刀剣乱舞』など。

三浦海里(みうら・かいり)
1996年10月26日生まれ、埼玉県出身。2015年より『少年ハリウッド』の楽曲パフォーマンス公式非連動型ユニット「ZEN THE HOLLYWOOD」のメンバーとして活動。2016年にユニットを卒業してからは俳優として舞台を中心に活躍している。主な作品に、映画・ドラマ『八王子ゾンビーズ』、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー‼』シリーズ、舞台『青空ハイライト』、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』THE STAGEなど。

公演情報

100点un・チョイス!10周年記念公演第1弾 第20回公演『フール』

日:2024年3月13日 (水) ~17日 (日)
場:赤坂RED/THEATER
料:S席9,500円 A席7,800円(全席指定・税込)
HP:https://unchoice.wixsite.com/fool
問:100点un・チョイス! 
  mail:100ten.un.choice.ticket@gmail.com

Advertisement

限定インタビューカテゴリの最新記事