第14回 無料放送局『BS松竹東急』 5月の演劇ラインナップをご紹介!
BS松竹東急は、映画・歌舞伎・一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、昨年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。
また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという……、なんとも謎に包まれた放送局である。
この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。
※過去回は下記リンク先にて公開中!
(第1回)4月のラインナップ
(第2回)5月のラインナップ
(第3回)6月のラインナップ
(第4回)7月のラインナップ
(第5回)8月のラインナップ
(第6回)9月のラインナップ
(第7回)10月のラインナップ
(第8回)11月のラインナップ
(第9回)12月のラインナップ
(第10回)1月のラインナップ
(第11回)2月のラインナップ
(第12回)3月のラインナップ
(第13回)4月のラインナップ
5月のラインナップはこちら!
日曜ゴールデンシアター
5月 7日(日)夜6時55分 中島みゆき『夜会VOL.13「24時着 0時発」』
5月14日(日)夜6時30分 音楽朗読劇READING HIGH『Chèvre Note2021~Story from Jeanne d’Arc~』
5月21日(日)夜6時30分 歌舞伎『御存 鈴ヶ森』(平成31年4月・歌舞伎座)
『権三と助十』(平成18年5月・歌舞伎座)
5月28日(日)夜6時30分 伊東四朗一座・熱海五郎一座 合同公演『こんにちは赤ちゃん』
週末ミライシアター
5月13日・27日(土)深夜0時30分~ 劇団壱劇屋 東京支部『猩獣』
湯浅「新年度に入って、5月ですね。今月のラインナップですが……」
吉田「すごいラインナップですね! 年度が変わって新生活が始まった人も多いと思いますが、この放送を観て、新たに“観劇”が趣味になるきっかけになってくれれば嬉しいです。いきなり舞台のチケットを買うのは気が引けるかもしれませんが、無料で舞台の魅力に触れられるのが、ずばりこの番組の良さですもんね」
湯浅「まだ演劇を観たことがないという方には、ぜひ新年度を迎えて新しい自分の趣味や好きなものを見つける機会となれば嬉しいです! まず、7日には中島みゆきさん出演の『夜会VOL.13「24時着 0時発」』です」
吉田「夜会は、シンガーソングライターの中島みゆきさんが、コンサートでもない、演劇でもない、ミュージカルでもない“言葉の実験劇場”をコンセプトとして、1989年から行っている舞台です。今でこそ、様々な他ジャンルとコラボしたライブエンターテインメントも増えつつありますが、当時でも今でも唯一無二と言っていいくらい、中島みゆきさんにしか出来ない画期的な企画だと思います」
湯浅「本作は主人公“あかり”が、過労のため生死をさまよう間に不思議な夢を見るところから物語が始まるのですが……本当に終始、目が離せません。中島みゆきさんの圧巻の歌唱力もさることながら、演技にも大変惹きつけられるものがあり……本当すごい作品です」
吉田「中島みゆきさんと言えば、数え切れないほどの名曲・ヒット曲を世に送り出し、その力強く説得力のある歌声で幅広い年代に人気ですが、テレビにはめったに出演されず、個人的にはラジオパーソナリティの印象が強いです。そんな中島みゆきさんをテレビでたっぷり堪能できる、またとないチャンスだと思います」
湯浅「先月にBunkamuraシアターコクーンの歴史をたどる特別番組を放送しましたが、本作も、シアターコクーンで上演された作品です。夜会シリーズのなかでは、Bunkamuraシアターコクーンで最後に上演された作品でもあります」
吉田「それは感慨深いですね。『夜会』は1989年からスタートして、2004年までは一貫して渋谷のBunkamuraシアターコクーンで上演され、チケットの入手が非常に困難だったことで有名です。それが誰でも観られるのはプレミア感ありますね」
湯浅「そして、14日には音楽朗読劇READING HIGHシリーズより、『Chèvre Note2021~Story from Jeanne d’Arc~(シェーヴルノート)』をお送りします。
吉田「READING HIGHとは、最先端の朗読劇を発信し続けている藤沢文翁さんとroom NB(Sony Music Entertainment)とのコラボによるプロジェクトです。緻密でドラマチックな世界観と生演奏、そして最新技術を駆使した演出効果で“3.5次元”エンターテインメントを標榜する音楽朗読劇。観劇好きの方でも、“3.5次元”という世界観を体験したことがある人はまだ少ないのではないでしょうか? 新たなジャンルとして要注目ですね」
湯浅「ただの朗読劇に終わらない作品で、本作は百年戦争末期のフランスを舞台に人と悪魔が織りなすダークファンタジーで、ジャンヌ・ダルクを軸に描いた作品になります」
吉田「出演されている声優が豪華ですね!」
湯浅「小野大輔さん、梶裕貴さん、沢城みゆきさん、梅原裕一郎さん、津田健次郎さん、諏訪部順一さん、大塚明夫さんです。朗読劇の枠をこえた圧巻の演出は必見です」
吉田「READING HIGHのオフィシャルHPで藤沢文翁さんが『人の空想力は無限です。少し瞳を閉じるだけで、少し思い描くだけで、少し信じるだけで、皆さんはこの世界を超えてなんでも実現する世界へ飛び立てます』と書かれていて、“3.5次元”というジャンルが観客のイマジネーションを掻き立てる未来型の新体感エンターテインメントとして、これからの時代にマッチして定着していく予感がします」
湯浅「個人的に藤沢さんのアカウントをフォローしているのですが、本当に演劇や朗読劇を愛してやまない人なんだなぁとツイートの端々から感じることが多いです。新たな演劇の可能性をぜひ目撃してもらえますと嬉しいです! ちなみに、今月には東京芸術劇場プレイハウスで、最新作「BASE METAL」の上演もあるのでこちらも見逃せません!」
吉田「番組を観て、面白かった!という方は、そのまま舞台に行ける良いタイミングの放送ですね!」
湯浅「21日は歌舞伎ですね!」
吉田「放送が始まって1年、あまり歌舞伎を観る習慣はなかったのですが、最近ようやく見慣れてきました。ただ観れば観るほど、歌舞伎の奥深さを感じますね」
湯浅「歌舞伎は本当に深いですし、面白いですよね。今回お送りするのは、『御存 鈴ヶ森』と『権三と助十』です」
吉田「どちらも存じ上げない演目です」
湯浅「江戸の侠客・幡随院長兵衛と、故郷で殺人事件を起こしお尋ね者になっている白井権八という2人の出会いを描いていた作品ですが、尾上菊五郎さんと中村吉右衛門さんという大顔合わせで、大変見応えがある作品です。また見どころはやはり立ち回りでしょうか。そして『権三と助十』ですね、権三と助十が住む長屋が舞台の世話物です」
吉田「江戸時代より古い時代設定で主に武家社会を描いたものが“時代物”。それに対して、世話物は江戸時代の庶民にとっての“現代劇”で、登場人物は当時の町人、物語は義理人情を中心に描いたものが多いです」
湯浅「本作は『半七捕物帳』シリーズの小説でも知られる岡本綺堂の作品でもあります」
吉田「岡本綺堂と言えば、明治時代から昭和にかけて時代小説や怪談小説を語る上で欠かせない当時の国民的エンターテインメント作家で、新歌舞伎の作者としても活躍しました。『シャーロック・ホームズ』に刺激を受けて書かれた『半七捕物帳』は、誰もが知る代表作ですよね」
湯浅「江戸庶民の暮らしぶりや、様々な人間模様、またとんでもない事件などがおき、ミステリーもどきの喜劇に仕上がった作品で、歌舞伎にあまり見慣れていないという方も大変わかりやすく楽しめる作品なのではないかと思います」
吉田「歌舞伎で、ミステリーですか!」
湯浅「真犯人ははたして……!」
吉田「そんなストーリーなんですか!」
湯浅「ぜひ御覧ください! そして……! 28日には熱海五郎一座の作品です」
吉田「今のお客さんが本当に面白いと思える東京の喜劇“軽演劇”を上演すべく、2004年に伊東四朗座長のもと、第一線で活躍中の喜劇人達が集結し旗揚げしたのが“伊東四朗一座”。『旗揚げ解散公演』と銘打った一度限りの公演の予定のはずが、あまりの反響に『急遽再結成公演』を翌年行い、その後、伊東四朗さんがスケジュールの都合でどうしても参加出来ない時に、その“東京の笑い”を継承すべく、2006年に三宅裕司さんを中心に旗揚げしたのが“熱海五郎一座”です。
湯浅「大人から子供まで楽しめる喜劇なんですが、最後のほろっと感動もしてしまう素敵な舞台です」
吉田「“伊東ならぬ熱海”、“四朗ならぬ五郎”で“熱海五郎一座”、というネーミングセンスがとにかく秀逸ですよね。名前の由来を聞いた時、あまりのセンスの良さに鳥肌が立ったことを覚えています」
湯浅「本当ネーミングセンスが抜群ですよね!」
吉田「ちょうど今月末から、檀れいさんとももいろクローバーZの玉井詩織さんをゲストに迎えて、新橋演舞場にて『幕末ドラゴン~クセ強オンナと時をかけない男たち~』公演が予定されていますね。この放送で“東京喜劇”、“軽演劇”を予習して、新作はぜひ劇場で観てほしいですね」
湯浅「番組冒頭ではまさにそんな公演直前の三宅裕司さんのコメントも……!」
吉田「ますます見逃せませんね!」
湯浅「そして週末ミライシアターでは、“劇団壱劇屋 東京支部“の作品です」
吉田「劇団壱劇屋は、関西を拠点に“世にも奇妙なエンターテインメント”を掲げ、殺陣・パントマイム・ダンス・会話劇・コント・ミュージカルなど、様々なジャンルを複雑に融合させた作風が特徴で、受賞歴も多数のマルチ娯楽劇団です。2019年10月に、関東での知名度向上を目指して東京支部ができ、殺陣を中心としたノンバーバル演劇公演を行っています」
湯浅「以前、この週末ミライシアターでは大阪を中心に活躍する壱劇屋さんの作品をお送りしましたが、今回は東京支部です。吉田さんがおっしゃるように、大阪では“マイム”、東京では“殺陣”による舞台公演を行っています。ぜひ、その違いも見比べてみてはどうでしょうか?」
吉田「東京支部というだけあって、東京での活躍ぶりはすごいものがあります。今や東京の舞台業界で知らない人はいない存在になっていますね」
湯浅「昨年はシアターグリーンのBIG TREE THEATERでの公演が記憶に新しいです。本作はノンバーバル作品ですが、敵の妖術やら何やら……本当にいろいろと工夫されていて、台詞がないのでわかるのかなと思っていましたが、十二分に楽しめる。むしろセリフがなくても、こんなに楽しく舞台って成り立つんだなと改めて素直に驚きました」
吉田「ノンバーバル演劇は、湯浅さんの言う通りセリフが一切無い演劇のことですが、子どもから大人まで、さらには言葉の壁を超えて外国の方も楽しめる演劇です。コロナ禍で中断していたインバウンドの本格再開に向けて、今後様々なインバウンドイベントが各地で開催されると思いますが、“ノンバーバル”は重要なキーワードになると思います。2025年には大阪・関西万博もありますし、ぜひ万博のステージで壱劇屋さんのパフォーマンスを観たいですね!」
湯浅「ノンバーバル演劇というと、やっぱり僕は京都の『ギア』が一番に思い浮かびますが、最近吉田さんは特にノンバーバルに注目していますよね? どういうところに惹かれるのでしょうか?」
吉田「ストーリーを期待するお客さんには難解と思われることもあるかもしれませんが、元々私がコンテンポラリーダンスや舞踏を観るのが好きで、特に若い時は大駱駝艦や山海塾をよく観ていて、幕が開くと一瞬で別世界、非現実の世界に連れて行ってくれるところが、他の舞台では味わえない魅力です」
湯浅「話を聞いていて、僕は維新派が本当に良かったなぁと思い出しました。なかでも瀬戸内国際芸術祭で自然にバックに繰り広げるノンバーバル舞台は、まさに非現実なんだけど、そこに劇場空間では提示できない、ある種のリアリティという対比が本当に演劇ならではという感じもして、感動したのを覚えています」
吉田「ノンバーバルの舞台は、日本よりも海外で評価が高いですよね。日本よりも世界ツアーを敢行している数の方が多いイメージです」
湯浅「そしてさらに、この話を聞いて、僕は“バナ学“と“革命アイドルちゃん“を思い出しました(笑)」
吉田「二階堂瞳子さんですね! だいぶ話が飛びましたね(笑)!」
湯浅「当時知り合いの俳優が瞳子さんの舞台に出て、あまりの動きの激しさでとても痩せるらしく、“バナ学ブートキャンプ“と呼んでいました。懐かしい!」
吉田「壱劇屋もいずれは世界基準になるかもしれませんね! 応援したいです」
湯浅「さあ、そして以下、フリートークですが……先日は花見、お疲れ様でした。すごく良い会だったように思います」
吉田「神田川沿いの桜が、少し時期は遅れましたがとてもキレイでしたね! 縦走と同じく季節を味わうイベントとして続けていきたいです」
湯浅「下北の本番終わりに駆けつけてくれる俳優さんもいて、いやぁ、演劇人って相変わらずだなぁと、いくつになっても演劇人だなぁと良い意味で感じました」
吉田「本当にそうですね……。演劇人がひとところに集まって、大人らしく遊びましたね。これからも演劇人の心を失わず、大切にしていきたいです。最近は大阪駅直結の新しい劇場“SkyシアターMBS“の話題に注目しています」
湯浅「藤原竜也さんがこけら落としに出演されることでも話題ですよね」
吉田「東京には東急歌舞伎町タワーの“THEATER MILANO-Za“、そして大阪にも(来年ではありますが)新劇場がオープンして新たな演劇作品が上演されるので、これを機に新しい観劇ファンが増えていくといいなと思います」
湯浅「MBSというと、毎日放送ですが、テレビ局として劇場運営に関わるというのはやはり羨ましい気持ちもあります。勝手な野望ですが、今年はなにかイベントの実施に向けて動きたい気持ちがあります。あくまで野望です」
吉田「ぜひ一緒になにかできるといいですね」
湯浅「ぜひ!」
プロフィール
湯浅敦士(ゆあさ・あつし)
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。
吉田祥二(よしだ・しょうじ)
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。
【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official