連続対談企画⑨『“演劇”のある生活』[12月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

連続対談企画⑨『“演劇”のある生活』[12月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

第9回 無料放送局『BS松竹東急』 12月の演劇ラインナップをご紹介!

 BS松竹東急は、映画、歌舞伎、一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、今年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。

 また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという…、なんとも謎に包まれた放送局である。

 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

※過去回は下記リンク先にて公開中!
 (第1回)4月のラインナップ
 (第2回)5月のラインナップ
 (第3回)6月のラインナップ
 (第4回)7月のラインナップ
 (第5回)8月のラインナップ
 (第6回)9月のラインナップ
 (第7回)10月のラインナップ
 (第8回)11月のラインナップ

12月のラインナップはこちら!

土曜ゴールデンシアター
 12月3日(土) 夜6時30分~ NEWシネマ歌舞伎「三人吉三」
 12月10日(土) 夜6時55分~ 「間違いの喜劇」
 12月17日(土) 夜6時55分~ 「吉田拓郎 2019 -Live 73 years- in NAGOYA」
 12月24日(土) 夜6時45分~「The Royal Variety Performance 2021」

週末ミライシアター
 12月3日・17日(土) 深夜0時30分~TRASHMASTERS「黄色い叫び」
 12月10日・24日(土) 深夜0時30分~宇賀那健一監督「魔法少年☆ワイルドバージン」

吉田「2022年を締めくくるのにふさわしい名作ばかりですね。せわしない師走に、ほっと一息家でゆっくり堪能したい作品が揃っていますね。」

湯浅「まず土曜ゴールデンシアターですね、12月3日はNEWシネマ歌舞伎『三人吉三』を放送します。」

吉田「シネマ歌舞伎は、歌舞伎の舞台公演を撮影し、映画館の大スクリーンでデジタル上映するために作られた作品です。舞台美術に映像処理を加え、舞台の情景がさらに美しく、作品の世界観がよりわかりやすくなるよう工夫されています。」

湯浅「本作は演出の串田和美さん自ら、監督を務めてらっしゃいます。『三人吉三』とは、江戸時代に生まれた河竹黙阿弥作の名作で、ひょんなことから知り合った同じ名前をもつ3人の盗賊のお話です。最後の雪舞うシーンでの三人の戦う姿は圧巻です。」

吉田「ちょうどこの作品をシアターコクーンで観ました!出演者も豪華ですし、お話もわかりやすい。歌舞伎ならではの展開や演出が随所にあって楽しめました。これが映画になったら映像作品として舞台セットなどのキレイさが映えるんじゃないかと楽しみにしています。確か演出助手に長塚圭史さんが参加されていませんでした?」

湯浅「そうです!エンドロールで長塚さんのお名前があって驚きました。」

吉田「ですよね!何度も言いますが同世代の星です!」

湯浅「そして、12月10日には、小栗旬さん主演の『間違いの喜劇』を放送します。先月に続いての、蜷川幸雄さんが手掛けたオールメールシリーズになります。」

吉田「大河ドラマで大活躍の小栗さん!通称『蜷川シェイクピア』とも呼ばれるこのシリーズの中で、すべての役を男性俳優が演じる人気シリーズ企画ですね。」

湯浅「本作は2006年の作品となりまして、およそ16年前。小栗さん23歳の頃の作品です。」

吉田「すでにテレビドラマの『ごくせん』などで人気でしたが、 “世界のニナガワ” がつくる世界の古典・シェイクスピアの名作への主役抜擢は当時話題になりましたね。」

湯浅「本作は文字通り、2組の双子の取り違えから端を発した、間違いに次ぐ間違いが起こす喜劇!となっていまして、非常にわかりやすく終始観客からも笑いが耐えない舞台です。」

吉田「実は当時見逃していたので、今から放送が楽しみです。」

湯浅「17日には吉田拓郎さんのライブをお届けします。」

吉田「音楽も放送するんですね!」

湯浅「土曜ゴールデンシアターでは、今後『ステージ』という捉え方を拡大して、演劇だけでなく音楽・ライブといったジャンルもお届けできればと思います。」

吉田「若い頃、それこそ劇団の主宰をやっていた頃、フォークソングが好きな時期がありまして。カラオケに行くと必ず拓郎さんの歌を歌ってましたね。テレビで拓郎さんのライブを観られるのは嬉しいです。これは保存版ですね。」

湯浅「今回お届けするのは2019年のライブツアーの模様で、全曲、吉田拓郎さんご自身作詞・作曲の楽曲となります。」

吉田「心にしみる曲がたくさんあって、拓郎さんにしか書けない歌詞やメロディがあって…これは見逃せません!」

湯浅「そして、その翌週には『The Royal Variety Performance 2021』を日本初放送でお送りします。」

吉田「初めて聞きました!どういう内容なんですか?」

湯浅「英国王がパトロンを務める音楽芸術基金(ロイヤル・バラエティ・チャリティ)のため、毎年クリスマス時に英国で開催されるイベントです。ロンドンの有名劇場からのライブバラエティとして上演され、コメディ、音楽、ダンス、ミュージカルなどその年のイギリスを代表するアーティストたちが集うもので、毎年世界で150万人以上が視聴する一大イベントでもあります。」

吉田「これはライブのほかに配信しているんですか?」

湯浅「本国ではテレビ番組として放送もされています。今回お送りする2021年はウィリアム皇太子、キャサリン皇太子妃がロイヤルメンバーとして観劇されており、ロッド・スチュワート、エド・シーラン、ジェームス・ブラント、Keala Settle、Anne-Marieといった豪華歌手のほか、シルクドソレイユやミュージカル『ムーラン・ルージュ』のパフォーマンスをお送りします。」

吉田「すごい!日本に置き換えたらどういったイベントになるのでしょう?思い当たりません。俳優から歌手まで一堂に集まってパフォーマンスを披露する。素晴らしいですね!とても気になります。」

湯浅「ちょうどクリスマスイブで、クリスマスコンサートでもあるのでょうどいいのではと思います。エド・シーランのクリスマスソングも必見です!」

吉田「クリスマスにイギリスのコンサートなんて、なんだか素敵ですね。」

12月の週末ミライシアターには、TRASHMASTERSが登場!

湯浅「そして、12月の週末ミライシアターは、TRASHMASTERSの『黄色い叫び』を放送します。」

吉田「TRASHMASTERSは中津留章仁さんを中心に2000年旗揚げされた劇団で、初期の頃はコメディタッチで毒のある作品が特徴でしたね。」

湯浅「コメディなんですね!意外です。本作は2011年に上演された戯曲の再演で、第46回紀伊國屋演劇賞個人賞、第19回 讀賣演劇大賞優秀演出家賞などを受賞した名作です。とある町の、台風による水害に苦しむ地方の、公民館を舞台に展開されていく会話劇なのですが、地方地域における災害対策の脆弱性をめぐっての台詞のひとつひとつに重みがあって、また『黄色い叫び』というタイトルが本当にドスンと腑に落ちるところがありました。最後の余韻が本当にすごい作品です。」

吉田「今では、ストレートプレイの枠組みの中で、より独創的で革新性あふれる舞台表現を求めて作風を一新し、現代社会が抱える問題等を取り入れた骨太な物語で、観る者の魂を揺さぶる重厚な人間ドラマを中心に描いています。中津留さんとは何度かお会いしたことがあるのですが、とても腰が低くて気さくにお話しくださる方で、心の奥を見つめるような、やさしく鋭い眼差しが印象的でした。世界観が確立されているので、一度ハマってしまうとここでしか味わえない魅力を持っているのでこういう作品こそまずはテレビで観て、劇場で観てほしいです。」

湯浅「友達の俳優が言っていたのですが、中津留さんってすごい身長高いんですか?」

吉田「すごい(身長が高いわけ)でもないですが、オーラはすごいです。」

湯浅「(笑)」

湯浅「そして映画は先月に続いて宇賀那監督の作品でもある『魔法少年☆ワイルドバージン』を放送します!」

吉田「先月はゲストで参加いただいた宇賀那監督ですね。約束通り、11月の『転がるビー玉』を拝見したのですが、おっしゃっていたことがよくわかりました。非常にタイムリーに景色や人の生活様式が変わろうとしている描写が映っていて、大変楽しく視聴しました。」

湯浅「今度は打って変わってのコメディ要素満載の内容です。」

吉田「どんな内容なんですか?」

湯浅「29歳で保険会社勤務の星村幹夫(前野朋哉)は営業成績が一番悪く、これまで恋人ができたことはないのですが、『童貞のまま30歳を迎えると魔法使いになる』という都市伝説にちなんで、後輩たちからは魔法使いと呼ばれていたところ…。」

吉田「ところ?」

湯浅「このあとは視聴してのお楽しみですが、『童貞のまま30歳を迎えると魔法使いになる』という都市伝説をテーマにしたラブコメですね。バカバカしくて終始笑って見ました。」

吉田「斎藤工さんも出演されているんですね!」

湯浅「そのほか、佐野ひなこさんら、豪華出演者です。放送が10日と24日を予定しており、クリスマスイブにはぴったりな作品じゃないかと思います(笑)」

吉田「テーマ聞いただけでも、面白いのでは今回も楽しみです!」

湯浅「はい、今回は以上にはなりますが…話は打って変わって、弊社では今、年末年始の準備を進めています。」

吉田「年末年始編成ってやつですね!演劇はどういったことを?」

湯浅「まだ調整中なので何も言えないのですが、正月といえば…というような企画を準備しています。」

吉田「舞台俳優による隠し芸大会ですか!」

湯浅「違います!でも見たいですね!(笑)」

吉田「残念。舞台俳優っていろいろ特技を持っているのでやってみると面白いと思いますし、ファンも増える気がします!」

湯浅「企画書、書いてみますね!」

吉田「ありがとうございます!ぜひ!やりましょう!」

湯浅「ちなみに、カンフェティさんの年末年始ってどうなんですか?」

吉田「やっぱり12月は年末までいろんなイベント、公演が目白押しなので忙しいですけど、一方で、すでに来年の春以降の公演の準備も今お手伝い、打ち合わせとかも始まったりしています。」

湯浅「ズバリ感触として、2023年の演劇はどんな印象ですか?」

吉田「来年はコロナに負けない業界づくり、土台づくりが強化されていっているように思います。」

湯浅「わかるようでわからないです!(笑)具体的には言えないかもしれないですが、コロナ禍を経た後の動き方に劇団や団体がなっているとことですかね?」

吉田「そうですね。あとは、舞台ってチケット収入とグッズ販売がメインじゃないですか?それだけだとリスクが高いので、収益化の多様化というワードがよく出てきてます。配信もひとつなんですが、舞台公演ということだけでなく、それをやることでの収益化をもっと幅広いところでしてきましょう、という動きがあるんですよね。」

湯浅「テレビ局でいう『放送外収入』と同じことですね!」

吉田「まさにそれです。生(ライブ)を核としているが、配信だけじゃない楽しみ方。という多様化がもっと進むんじゃないかと思います。さらには『生(ライブ)』を核とした企画が今後強くなってくるんじゃないかと思います。」

湯浅「個人的にはやっぱりこれからはイマーシブシアターに注目していて、実際来年どこかでプライベートで上演したいなと思ってます。そのほか、メタバース演劇もしてみたい気持ちがあります。生(ライブ)でもありつつ、リスクも低い。何より劇場費もかからない。すごく収益化しやすいんじゃないかと目下、仕組みやスキームを休みの日に調べてます。」

吉田「あと、劇場での公演の場合、やっぱりチケット代が高いっていうのも問題だと思っています。極端な話、ゼロ円でやる公演が収益的に成立する構造も考えてみたいと思ってるんです。そうすれば、集客に困らないんですよね。ゼロ円演劇だからお客さんも来る。それで予約待ちの状態を創り上げる。オリジナルというよりは何か強いIPと組んでじゃないとできないとは思うんですけど、本当少数限定での公演というのはアリなんじゃないかと思っています。」

湯浅「とてもおもしろいと思います。少人数に向けた演劇って、1回あたりの収益額を求められる企業だと手を出しづらいですよね。桁があと1個、2個足りないってなるので。でも、少人数だからこその劇体験はともすれば深く観客に刺さるとも思うので、エンタメとしては間違いなくアリなんです。でもやっぱり大きい企業は手が出しづらい。そういう意味では、劇団や団体が着手するというところでは、イマーシブやゼロ円演劇は親和性があるかもしれませんよね。」

吉田「確かに大きくないからこその演劇を考えるのも大事ですね。」

湯浅「…と、これからの演劇を考えてみたところで今回は終わりです。」

吉田「今年も1年ありがとうございました。」

湯浅「いや、12月中に1月放送分もやりますよ。」

吉田「あ、そうでした。ではまた!」

湯浅「はい、よろしくお願いします!」

プロフィール

●湯浅敦士(ゆあさ・あつし)

日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

●吉田祥二(よしだしょうじ)

シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official

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