連続対談企画⑩『“演劇”のある生活』[1月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

連続対談企画⑩『“演劇”のある生活』[1月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

第10回 無料放送局『BS松竹東急』 1月の演劇ラインナップをご紹介!

 BS松竹東急は、映画・歌舞伎・一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、昨年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。
 また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという……、なんとも謎に包まれた放送局である。
 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

※過去回は下記リンク先にて公開中!
 (第1回)4月のラインナップ
 (第2回)5月のラインナップ
 (第3回)6月のラインナップ
 (第4回)7月のラインナップ
 
(第5回)8月のラインナップ
 (第6回)9月のラインナップ
 (第7回)10月のラインナップ
 (第8回)11月のラインナップ
 (第9回)12月のラインナップ

1月のラインナップはこちら!

土曜ゴールデンシアタ
 1月7日(土) 夜6時30分~ 東京ヴォードヴィルショー『アパッチ砦の攻防』
 1月14日(土) 夜7時~  こまつ座『てんぷくトリオのコント~井上ひさしの笑いの原点~』
 1月21日(土) 夜6時45分~ 歌舞伎『上州土産百両首』(平成26年1月・浅草公会堂)
 1月28日(土) 夜7時~ 舞台『小野寺の弟 小野寺の姉~お茶と映画~』

週末ミライシアター
 1月7日21日(土) 深夜0時30分~ 壱劇屋『劇の劇」
 1月14日・28日(土) 深夜0時30分~ 長尾元監督『いつかのふたり』

吉田「あけましておめでとうございます」

湯浅「あけましておめでとうございます。といっても、これを収録しているのが12月なんですが……ちなみにどんな年越し予定ですか?」

吉田「普通に実家で年越しですね。山と海が近くにあるので、どちらかで初日の出を見て、そして1月2日・3日は箱根駅伝ですね。毎年沿道からランナーに触れるくらいの至近距離で声援、送ってます」

湯浅「すごい! THE正月ですね。僕はいわゆる東京っぽい年越しをしてみようかと思ってます。アメ横でカニ買って、正月には浅草寺で初詣……みたいな」

吉田「じゃあそのあと、浅草の東洋館で寄席を見て初笑いもいいですね。初席は元日からやってるみたいですよ」

湯浅「東洋館は何度か行ったことがあります。確かに優雅なお正月ですね、検討します」

湯浅「それでは早速……土曜ゴールデンシアターから! 1月7日は東京ヴォードヴィルショーの『アパッチ砦の攻防』です。三谷幸喜さんの脚本による喜劇です。年明け早々なのでやっぱり笑える楽しい舞台をお届けしたいと思いました」

吉田「今年、創立50周年を迎える東京ヴォードヴィルショーは、佐藤B作さんを中心に結成された劇団です。劇団を立ち上げてから19年経った頃に三谷幸喜さんの戯曲を初めて上演しました。それから何度も三谷作品を上演されていまして、今回放送する作品も何度も再演されている名作のひとつですね。私もその昔劇団をやっていましたが、劇団というのは続けていくことが何よりも大変なことなので、それを一代で50年というのは私にとっては神の領域です」

湯浅「確かに調べたところ、佐藤B作さん73歳なんですね! 驚きです。さらに今年は50周年記念公演『その場しのぎの男たち』が上演されますよね。こちらの作品はまさに東京ヴォーヴィルショーさんが初めて初めて上演した三谷幸喜さんの作品でもあります。ということで、やはり三谷さんとの深い繋がりや東京ヴォードヴィルショーさんの喜劇のひとつの柱に三谷作品がなっているのではないかと感じます」

湯浅「そして14日には、こまつ座の『てんぷくトリオのコント~井上ひさしの笑いの原点~』です」

吉田「こまつ座は、1983年に結成された井上ひさしさんの戯曲のみを上演する演劇制作集団です。2010年に井上さんが亡くなられた後も、鵜山仁さん・栗山民也さん・長塚圭史さんら、名だたる演出家の方々が井上戯曲の作品を上演しつづけています」

湯浅「この作品ですが、ただ単にてんぷくトリオのコントをお届けするだけでなく、その背景にあった「井上ひさし」という作家の人となりや思いみたいなところも描かれていて、終盤のシーンは、ほろっとしてしまいました。井上ひさしさんの三女・井上麻矢さん役の俳優も登場して、親子のやりとりのような場面もあり、井上ひさしさんってこんな人だったんだなあと感じるシーンが多々ありました」

吉田「当時、お笑いトリオ我が家の3人がてんぷくトリオを演じるということで話題になった作品です。井上ひさしさんと言えば、「むずかしいことをやさしく」「やさしいことをふかく」「ふかいことをおもしろく」が、やっぱり一番好きな言葉です。様々なことに通じる普遍的な言葉だと思います。てんぷくトリオは世代じゃない方も多いかもしれませんが、井上ひさしさんご本人のことも描かれているこの作品は、こまつ座作品の中でもとても貴重です。これは必見ですね」

湯浅「特に、放送作家として人気を集めていた井上ひさしさんがどうして劇作家になろうと思ったのか、など知られざる井上ひさしエピソードにもご注目ください!」

湯浅「1月21日には歌舞伎ですね、市川猿之助さん主演の『上州土産百両首』です。この作品は歌舞伎ファンでも観たことはないという方も多いかもしれません」

吉田「はい。私も存じ上げませんでした」

湯浅「ちょうど今、新春浅草歌舞伎が3年ぶりに浅草公会堂で上演していますが、この作品は過去の新春浅草歌舞伎ということで編成した一方で、個人的に大好きな作品なので是非観ていただきたいです」

吉田「楽しみです。どういう話なんですか?」

湯浅「泥棒の2人がいて、片方はちょっと馬鹿な人間。もう1人は粗暴だけど実直な人間。仲の良いふたりはまっとうな人間になろうと誓い、10年後に再会するという約束をします。そして時は流れ、10年後となるのですが……はたして。とにかく、本当に胸に刺さるところが多いので最後まで見逃せません。歌舞伎だけでなく、松竹新喜劇でも上演されている作品でもあります」

吉田「それは楽しみですね。新春浅草歌舞伎が行われる浅草公会堂は、浅草寺の仲見世通りから入ってすぐなので、浅草寺初詣の帰りに公演を見て、そして『上州土産百両首』を観る。素敵な1年の観劇ライフのスタートになりますね。皆さんぜひ」

湯浅「1月28日には舞台『小野寺の弟・小野寺の姉~お茶と映画~』ですね。片桐はいりさんと向井理さんが出演されています」

吉田「映画化もされた作品ですよね! 脚本・演出の西田征史さんは、『ガチ☆ボーイ』や『TIGER & BUNNY』などの人気作を手掛けられた方ですよね。舞台も映画も同じ方が脚本・演出をやられるというのは、実は珍しいですよね。しかも主演のお2人も両方出演されていて。これは、両方チェックしたくなります」

湯浅「不器用ながらお互いを思いやる姉弟に起こるハプニングを描いたハートウォーミング・コメディになっています。昭和テイストな雰囲気とDJ役として声で出演されている松任谷由実さんにも注目です」

1月の週末ミライシアターには、壱劇屋が登場!

湯浅「そして、1月の週末ミライシアターは、壱劇屋の『劇の劇』を放送します」

吉田「壱劇屋は、関西を拠点に2008年高校演劇全国大会出場メンバーで結成された劇団です。「世にも奇妙なエンターテインメント」を掲げ、殺陣・パントマイム・ダンス・会話劇・コント・ミュージカルなど、様々なジャンルを複雑に融合させた作風が特徴で、受賞歴も多数のマルチ娯楽劇団です。今、関西で面白い劇団どこ?っていう話になったら必ず名前が上がりますね」

湯浅「僕が大阪で演劇ユニットをプロデュースしていた、10年くらい前にも関西で面白い劇団どこ?って聞いたら、壱劇屋、匿名劇壇は必ず名前が挙がっていた気がします。今でもどちらの劇団も大活躍ですよね」

吉田「2019年10月に、関東での知名度向上を目指して東京支部ができて、その後コロナ禍の影響は受けつつも、精力的に公演を重ねて、今や東京の舞台業界で知らない人はいない存在になっています。大阪で人気が出て東京へ出てくる劇団さんは多いですが、拠点である関西での活動も大切にされているところが素敵ですね。ぜひ私が実行委員をしている関西演劇祭に参加いただきたい劇団さんです」

湯浅「主宰の大熊さんにお聞きしたところ、東京支部は殺陣を中心としたノンバーバル演劇を、大阪ではマイムを取り入れた演劇をという分け方をしているそうで、劇団員みなさん器用な団体なのだと思います。本作は3人による芝居で、ところどころに得意のマイムも登場します。とても不思議な内容なので説明するのは難しいのですが、いわゆるマトリョーシカ芝居のような構成になっていて、自分の軸足が今どこにいるのかだんだん不安になっていく、終始ワクワクする内容です。
それこそ、三谷幸喜さんの『マトリョーシカ』を思い出しましたが、この作品はもう少し違った意味でのマトリョーシカ芝居なので、ぜひ御覧ください。ともすれば非常に収拾が難しい戯曲になりがちなテーマではあるのですが、マイムという表現をうまく利用して、見ごたえのある芝居になっているなあ、すごいなあと感じました」

吉田「マトリョーシカって入り込んでいくけど、こういう作品って終わり方が難しいですよね。ただ面白い作品は本当に入り込めますよね」

湯浅「この作品は入り込める舞台と思います! 結末も是非、放送でチェックしてみてください!」

湯浅「映画では、長尾元監督の『いつかのふたり』を放送します」

吉田「どういう内容なんですか?」

湯浅「非常にわかるわかるとなる親子関係を描いた作品です。中島ひろ子さんは、少し変わった&抜けたお母さんを演じてらっしゃいます。そんな母のことが気がかりで、でも大学進学のために引っ越しをしなければならない娘の葛藤が丁寧に描かれています。母を1人にして本当に大丈夫なのか、でも自分の人生も大事。母のために夢を諦める=人生を犠牲にされているという思いに囚われ、苦悩する……という、きっと共感できる方も多いのではないでしょうか」

吉田「あらすじを拝見したのですが、レザークラフトの教室がやっぱりこのテーマを象徴するようなものなんですか?」

湯浅「ある日、娘が引っ越しすることからかもしれませんが、何か打ち込めるものはないか、というところで、母がレザークラフトと出会うんですが、それからその楽しさを没頭。僕の解釈では、子育てを卒業して、新しい世界に飛び込んでいく、それぞれの親子の姿を描きたかったんではないかなと思います。そういう意味でも『いつかのふたり』というタイトルにもかかってくるのかなと。結局、親子なのでお互いがお互いに心配しあっていて、お互いがお互いに新しい生活に踏み出していく、そんな「いつか」という過去でもあり、未来でもある、ふたりを描いた作品のように感じました」

吉田「なるほど! これは観たくなりました」

湯浅「ぜひご覧ください!」

湯浅「さて! しつこいようですが、これを収録している今は12月です。どんな1年でしたか?」

吉田「この1年はコロナも少し落ち着いてきて、コロナを経た新たなエンタメがたくさん生まれつつある一方で、第7波・第8波の影響も強く受けて、でももう立ち止まっていられない……前を向いていくしか無いというライブエンタメ業界のたくましさを感じながら、カンフェティとしても新たな挑戦をできた年かなと思います。来年はさらにそのギアを上げていきます。あと趣味の縦走も4回、5回行けたので、仕事もプライベートも充実した1年でした。湯浅さんはどうですか?」

湯浅「縦走と出会えた1年でした」

吉田「(笑)」

湯浅「1月頃に吉田さんと縦走に行こうとなって、まさか1年4~5回も縦走するなんて思いも寄りませんでした。来年は富士山には挑みたい気持ちがありますね」

吉田「気づいたんですが、富士山だと縦走する次の山が近くにないので、縦走できませんよね」

湯浅「あ……。目標が断たれましたね」

吉田「でもまあ、来年はより高い標高の縦走を積み重ねていけるといいですね」

湯浅「わかりました。たしかに見える景色は少しだけ変わっていますもんね」

吉田「きっとコロナを乗り越えたエンタメ業界も同じで、少しだけ変わった景色が来年は見れるんじゃないかなと思います!」

湯浅「うまいこと言いましたね! 来年もよろしくお願いします!」

吉田「よろしくお願いします!」

プロフィール

湯浅敦士(ゆあさ・あつし)
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。 BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

吉田祥二(よしだ・しょうじ)
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成無料放送)

【局公式Twitter】 @BS260_official

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