連続対談企画⑦『“演劇”のある生活』[10月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

連続対談企画⑦『“演劇”のある生活』[10月放送分] (BS松竹東急プロデューサー・湯浅敦士×カンフェティ編集長・吉田祥二)

第7回 無料放送局『BS松竹東急』 10月の演劇ラインナップをご紹介!

 BS松竹東急は、映画、歌舞伎、一般演劇などのエンターテインメントを通じて人々に感動を届けてきた松竹グループと、渋谷をはじめとした街づくりによって、人々の豊かな暮らしの基盤を構築してきた東急グループがコラボレーションして、今年3月26日開局した放送局。編成コンセプトに、『誰もが楽しめて親しみやすい歌舞伎や劇場文化』を掲げている。

 また演劇以外にも、映画、オリジナルドラマなど、あらゆるジャンルの番組を編成し放送する無料総合編成チャンネルとして、上質感やワクワク感をお届けするという…、なんとも謎に包まれた放送局である。

 この企画では、かねてより親交のあったBS松竹東急の湯浅プロデューサーを迎え、カンフェティ編集長の吉田とともにBS松竹東急のラインナップを紹介しながら、ざっくばらんと各々が思う演劇について月いちペースで語っていく、そういう対談企画である。

※過去回は下記リンク先にて公開中!
 (第1回)4月のラインナップ
 (第2回)5月のラインナップ
 (第3回)6月のラインナップ
 (第4回)7月のラインナップ
 (第5回)8月のラインナップ
 (第6回)9月のラインナップ

10月のラインナップはこちら!

土曜ゴールデンシアター
 10月8日(土)  夜6時30分~ こまつ座&ホリプロ「十一ぴきのネコ」
 10月15日(土) 夜7時~ 二兎社「シングルマザーズ」
 10月22日(土) 夜6時30分~ 歌舞伎 「楼門五三桐」(平成22年3月・歌舞伎座 上演)
           「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」(平成20年9月・歌舞伎座 上演)
 10月29日(土) 夜6時30分~ 東京ヴォードヴィルショー
           「竜馬の妻とその夫と愛人~と、歌使いの唄~」

週末ミライシアター
 10月1日・15日(土) 深夜0時30分~ カクシンハン「ローマ帝国の三島由紀夫」
 10月8日・22日(土) 深夜0時30分~ 「おろかもの」


吉田「今回も多彩なラインナップですね。上演されてから今もなお色褪せない魅力を持つ名作ばかりです。これがすべて無料放送で観られるというのは他ではちょっとあり得ないですね。ミライシアターのカクシンハンも今大注目の劇団です。」

湯浅「色褪せない、というのは…確かに思います!過去の演劇を映像で観ていると感じるのですが決して新しいから良いというわけではないんですよね。あの時、この舞台を観に行ったとか、懐かしい!とか、見逃した!とか、生では味わえない、ある意味での楽しみ方があるのかなと思ったりすることがあります。」

吉田「そのとおりですね。そういう演劇の楽しみ方もあると思います!」

湯浅「土曜ゴールデンシアターですが、まず10月8日にこまつ座&ホリプロ公演『十一ぴきのネコ』です。」

吉田「こまつ座は1983年に結成。座付作者である井上ひさしに関係する作品のみを上演する演劇制作集団で、新作、再演、こまつ座以前の井上作品も織り交ぜて、年平均4~6作品を上演し続けています。 公演ごとに外部から演出家や出演者を招くスタイルをとっているのが特徴ですね。」

湯浅「そして、演出は長塚圭史さんです。」

吉田「長塚圭史さんについては、以前この対談でも話しましたが、現在KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督を務められ、劇作家・演出家・俳優・様々な面で、第一線をずっと走り続けて、日本演劇界をけん引しています。もともと同じ大学で同時期に学生劇団をやっていた私にとっては、本当に同世代の星です。」

湯浅「本作は絵本『十一ぴきのねこ』の話をもとに、井上ひさしさんが書き上げた作品で、大人から子どもまで楽しめるミュージカルになっています。主演は北村有起哉さんなのですが、脇をかためる俳優陣もとても豪華です。僕の大好きな粟根まことさんも出演していて、とてもテンションが上がりました。」

吉田「個性的な俳優さんがたくさん出演されていて、また多種多様なネコを演じきっていて、本当に子供でも楽しめると作品だと思います。」

湯浅「10月15日には、二兎社『シングルマザーズ』を放送します。この作品は沢口靖子さんが主演を務められています。」

吉田「はい。私世代だと知らない人はいない国民的な女優さんだと思います。個人的には、こまつ座の井上ひさしさん戯曲で劇団☆新感線 のいのうえひでのりさん演出の『天保十二年のシェイクスピア』でのお光/おさち役が今も記憶に残っています。」

湯浅「本作は、派遣社員として働くかたわら、シングルマザーの支援団体、“ひとりママ・ネット”の新米事務局長としても忙しい、直(なお)という女性を沢口さんは演じてらっしゃいます。二兎社の作品はいわゆる゛社会派゛と呼ばれる舞台作品が多いのですが、この作品もタイトルからもわかるように、シングルマザーの問題を描いています。2002年から2007年にかけてのシングルマザーを取り巻く状況を描いていて、さっきの話と重複しますが、近年の作品ではないからこそ、当時はこうだったのかということも垣間見えるからこその楽しみ方もある作品と思います。」

吉田「私は未見で、ホームページを見たのですが、永井愛さんのコメントがあって、ある日テレビを付けたら知り合いがシングルマザーの活動をしていて、それを目の当たりにして、これは作品にしようという思いに駆られたそうです。それを聞いたときに、いわゆる社会派劇団とは違って、身近な地続きのものをテーマにしていて、他作品にもそれは当てはまるのかなと思っていて、二兎社のそこが魅力、特徴と思いますね。だからこそ入りやすい、見やすいのだとも思います。ああ、自分ものこの中で生きているのだな、と嫌な感じではなく楽しめるんだなと思います。」

湯浅「そして10月22日には二代目中村吉右衛門一周忌追善と題して、中村吉右衛門さん主演の歌舞伎を2作品お届けします。」

吉田「ちょうど今月9月にも秀山祭が歌舞伎座で行われていましたね。」

湯浅「『楼門五三桐』は天下の大盗賊・石川五右衛門を主人公にした作品のひとつで、全五幕の長編のうち今回は南禅寺山門で五右衛門と真柴久吉(豊臣秀吉)が対峙する有名な場面をお届けします。また五右衛門の名ゼリフ『絶景かな、絶景かな』は聞きどころです。そして、『近江源氏先陣館 盛綱陣屋』は仕える主(あるじ)が敵味方になれば、たとえ兄弟であっても敵味方になり、肉親の情よりも忠義を優先させなければならない封建社会において、戦のために引き裂かれる家族の悲劇を描いた名作です。」

吉田「名ゼリフ『絶景かな、絶景かな』、一見の価値ありですね。」

湯浅「10月29日には東京ヴォードヴィルショー『竜馬の妻とその夫と愛人~と、歌使いの唄~』を放送します。」

吉田「この作品は本当に楽しみです。『竜馬の妻とその夫と愛人』は映画化もされた名作ですが、舞台版を観る機会は本当にないので、あとこの作品はDVD化もされていませんよね?」

湯浅「はい、しかも劇場はスズナリです。まさにあの名作の最初の舞台版となります。」

吉田「すごい!東京ヴォードヴィルショーは1973年、佐藤B作さんを中心に結成された劇団で、来年で創立50周年を迎えます。本作は、三谷幸喜さん脚本で、初演後、反響が大きく、ューヨークでの公演も行われたほどの超人気作です。また、ザ・スズナリというのがアツいですね。下北沢は『演劇の街』として知られていますが、スズナリはその起源となった本多劇場グループ系列の最初の劇場です。以前、柄本明さんに取材させていただいた時、『スズナリは日本一の劇場』とおっしゃっていました。この歴史的な小劇場スズナリの臨場感はきっと映像でも味わえると思うので、そこも見どころですね。」

湯浅「この前、下北沢に行きましたが再開発で、とてもおしゃれになっていて驚きました。言い方があれですが、そこに不釣り合い?な感じのスズナリの存在感がとてもよく、変わること、変わらないもの、やはり過去の演劇をテレビで観るなかでそんな思い出の保管物としてのような楽しみ方もあるのだなあと思います。というわけで、10月は演劇好きでも、観たことがない!見逃していた!とつい口に出してしまいそうな魅力的な舞台作品をお届けします。」

10月の週末ミライシアターにはカクシンハンが登場!

湯浅「そして、10月の週末ミライシアターでは、カクシンハンが登場します。今回は古川日出男さんの戯曲『ローマ帝国の三島由紀夫』をお送りします。実力派俳優6人によるリーディング公演となっています。」

吉田「Theatre Company カクシンハンは、さまざまなシェイクスピアの戯曲を中心に上演する団体です。シェイクスピアシアター、蜷川カンパニー、文学座附属演劇研究所などで俳優・演出を学んだ主宰の木村龍之介さんが劇団カクシンハンを立ち上げ、 2020年に劇団体制からプロデュースチームに移行。古典演劇と呼ばれるシェイクスピアの可能性を信じ、劇団のアイデンティティとして400年前の世界に“新しい視点“を加え、海外の演劇祭などから招待を受けるなど、国内外から評価される今注目の団体です。」

湯浅「この前、本作品の放送決定を告知したのですが、まさかこの作品が…!という反応が多くて。素直に尖った、そして熱量あふれる作品で見応えは抜群と思います。」

吉田「(カクシンハンは)コロナ禍の影響で、昨年・今年に予定していた本公演は敢えなく中止となってしまいましたが、この放送で、ぜひ全国の方々にカクシンハンの魅力を知ってほしいです。」

湯浅「あと、この対談企画にゲストでもお越しいただいた、七味まゆ味さんも出演されています。本当に素晴らしい女優さんなので、まだご存知ない方は必見と思います!」

湯浅「そして、映画は『おろかもの』をお送りします。」

吉田「どういう作品なんですか?」

湯浅「高校生の洋子が結婚を目前に控えた兄が、他の女性と浮気をしている現場を目撃するところから物語は始まり、一方で、兄の婚約相手に対して言いようのない違和感と不満を感じていたこともあり、一緒に結婚式を止めてみますか?という展開になります。」

吉田「気になりますね!」

湯浅「また本作は若手映画監督の登竜門 田辺・弁慶映画祭にてグランプリを含む史上初の最多5冠を受賞するほか、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019にて観客賞を受賞し、ドイツ・ニッポンコネクション2020にも正式招待されるなど、数々の賞を受賞した名作となっています。」

吉田「ますます見逃せませんね。」

湯浅「ぜひ視聴ください!」

吉田「はい!」


湯浅「さて話は変わるんですが…最近夏休みを取らなきゃいけないんですよ。」

吉田「夏休み!遅くないですか!」

湯浅「(笑) なかなか休みが取れなくて…ちょうど知り合いの沖縄の劇団が、10月に沖縄でお芝居をするそうなので、沖縄旅行もいいなかあと思ったりしています。」

吉田「実感として、コロナも落ち着いてきて、リアルな公演が多くなってきていると思うので、僕も休みたいところですが、公演を紹介する立場としては今こそコロナで劇場を離れたお客さんを取り戻すために頑張りどころかなと思っています。だから湯浅さんも頑張ってください。」

湯浅「いや、休めないじゃないですか…!と言いつつ、もう年末年始の準備も進めています。」

吉田「特番とか?」

湯浅「12月には思いがけないラインナップを準備していますので、ご期待ください!」

吉田「気になりますね!」

湯浅「それでは引き続きよろしくお願いします!」

吉田「はい!」

プロフィール

●湯浅敦士(ゆあさ・あつし)
日本大学芸術学部演劇学科卒。他局を経て、2021年にBS松竹東急に入社。BS松竹東急の演劇編成、週末ミライシアターなどのプロデューサーを担当。プライベートでも舞台の脚本を手掛けるなど、演劇を愛する気持ちに満ちている。

●吉田祥二(よしだしょうじ)
シアター情報誌[カンフェティ]編集長。早稲田大学第一文学部卒。在学中に劇団を旗揚げし、以来約10年に渡って同劇団の主宰・脚本家・演出家を務める。2004年に「エンタテインメントを、もっと身近なものに。」を理念に掲げ、ロングランプランニング株式会社を起業。趣味は登山(縦走)。

【放送局】 BS松竹東急(BS260ch/総合編成全国無料放送)
【局公式Twitter】 @BS260_official

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