劇団の代表作をブラッシュアップして再演 全編生演奏で描き出す、ある暗殺計画に挑んだ若者たちの姿

劇団の代表作をブラッシュアップして再演 全編生演奏で描き出す、ある暗殺計画に挑んだ若者たちの姿

 2023年5月に、劇団5周年を記念して東京芸術劇場シアターウエストで上演された『スウィングしなけりゃ意味がない Take2』が、再演される。1941年、ドイツ占領下のチェコ プラハを舞台とした本作は、第二次世界大戦中にイギリス政府とチェコスロヴァキア亡命政府によって計画された、ラインハルト・ハイドリヒ暗殺事件を題材とした作品だ。今回の再演では、初演から脚本をブラッシュアップし、新キャストも加えて新たに作り上げる。サルメカンパニー主宰で作・演出の石川湖太朗と、サルメカンパニー初参加となる土屋神葉に公演への思いを聞いた。


―――この作品はどのような発想から生まれた作品なのですか?

石川「サルメカンパニーの旗揚げ公演で、ハイナー・ミュラーの『戦い』という作品を上演したのですが、その作品はナチス・ドイツの話でした。原作は、5つの短編集だったのですが、調べていく中で『エンスラポイド作戦(類人猿作戦)』という暗殺事件を見つけたんです。若き兵士たちが、国のために頑張ったというのを読んで、なんだこれは、と。これは絶対に舞台化するべきだと考えていました。なので、本国以外の国がやるべきではないかと僕は思っていて。特に、日本とドイツは歴史的にも近しいものがあると思っているので、いつか絶対に上演したいと構想を練っていました。
 僕たちサルメカンパニーは、そもそも、旗揚げから5年間で、1000人以上動員ができなかったり、みんなが知っているような劇場でやれないなら、(劇団を)解散しようという気持ちでやってきたのですが、5周年記念のタイミングで、せっかくならこのずっと温めてきた作品をやろうというのが最初のきっかけでした」

―――そしてその初演で、その動員1000人超えや、誰もが知っている劇場という目標をクリアしました。手応えもあったのでは?

石川「そうですね。本当にたくさんの方が観に来てくださいました。ちょうど同時期に、池袋でジャズフェスをやっていたんですよ。それもあって、デートでジャズを聴いて観劇するというのがバズってトレンド入りしたんです。そのおかげで、集客が伸びて、当日券を求めたお客さまがたくさん並ばれていました。その影響もあってか、演劇関連の方たちも観に来てくださいましたし、プロデュース公演のお話をいただくこともあり、手応えはありました」

―――そうした公演を再演するということには、どんな思いがありますか?

石川「今、僕は外部の演出や脚本のお仕事をいただけるようになってきて、サルメの名前をいろいろなところで口にしていただく機会も増えたので、初演でご覧になっていない方たちにもぜひ観ていただきたいという思いがあります。
 今回は、これまでよりも長い期間で上演できるので、それならば、第2章の始まりではないですが、ここからさらに気合いを入れてやっていこうという思いで、この作品を選びました。かなりの体力と精神力が必要な作品でもあるので、若いうちに再び上演したいという思いもありました。ただ、再演とは言っても、台本を書き換えている場所もあるんですよ。キャラクターによっては、性格から結末まで違う人もいますし、新たなシーンもあるので、新作だと思っていただければと思います」

―――土屋さんは今回、サルメカンパニー初参加です。ご出演が決まったときのお気持ちを教えてください。

土屋「実は、以前にもお声がけいただいたことがあったのですが、そのときはタイミングが合わずに、出演することができなかったんです。ただ、湖太朗さんのお名前は、それ以前から知っていて。多分、僕が小さい頃から(名前を)聞いていたと思います。なので、ずっと頭の中の片隅に『サルメカンパニーの湖太朗さん』はいたんです(笑)。
 同年代の人が劇団を始めたというのも聞いていたので、今回、お声がけいただいて、ぜひと。僕は、普段から台本は音読で読むので、今回も音読したのですが、めちゃくちゃ面白かったんですよ。途中からテンションが上がってしまって、自宅で歩き回りながらセリフを読んで(笑)。トイレに行くのも億劫になって、膀胱がギリギリになりながら、結末まで読みました。そのときは、自分がどの役を演じるのかも分からなかったので、フラットな気持ちで台本を読んだのですが、読み物として本当に面白い。これをどうやって演劇として立ち上げていくんだろうと、すごく楽しみでした。自分が演じたら、どういうキャラクターになるんだろうと想像しながら読んで、この脚本の世界に入れることにワクワクしました」

―――この台本のどんなところに面白さを感じましたか?

土屋「台本や本を読んだときに、面白いと思えるのは、続きを読まざるを得ない気持ちになるときかなと思います。読者の欲求を掻き立てる書き方だったり、登場人物の目的やそのキャラクター性に惹かれたり、その配置の仕方が素敵だったり、その理由はさまざまありますが。
 僕は普段、読書が好きですが、台本を面白いと思わせるのは難しいことだと思うんです。台本に役者の演技や演出家の演出が加わって、行間を活かして立体化することで面白くなるものだと思うので、台本だけで面白いというのは、とても難しいのではないかと思います。なので、この作品は、これだけ台本が面白いのだから、お客さんはきっとぼーっと観ているだけで面白い作品になると、勝手に手応えを感じていました(笑)」

―――石川さんが土屋さんに声をかけたのは、どんな思いからだったのですか?

石川「先ほど、(土屋が)頭の片隅にいたと言ってくれましたが、僕が高校生のときに彼のお姉さんとお仕事をして、彼の話を聞いていたので、僕もずっと頭の片隅にいたんですよ。すごく体が効く『神葉』という弟がいる、と。それからしばらく経って、舞台を拝見したことがあったのですが、パッションがあって、すごく華があるなと感じました。まず目が行くんです。しかも歌も歌えて、声もいい。僕はオーディションをする際、声を特に重視しているのですが、彼はとにかく声も良かった。そうしたこともあり、いつかご一緒したいと思っていました。なので、今回、ご一緒できることが嬉しいです。前回、お声がけした作品に出ていただいたとしたら、お芝居で会話するシーンがほとんどなかったと思いますが、今回は、相棒役なので、(劇中で)ほぼ一緒にいてお芝居ができることも、演出することも楽しみです」

―――おふたりが演じる役柄についても教えてください。

石川「これは僕から説明させてください。この物語は、1941年のドイツ占領下のチェコを舞台にしています。ハイドリヒという、ナチスドイツの高官である人物を、イギリスに亡命した若い兵士たちが、暗殺しようとするというストーリーです。彼らは、私服を着たままパラシュートから降下して、潜入して、ハイドリヒを暗殺するという計画を遂行していました。その実行部隊として選ばれたのは、2人の青年でした。1人は、チェコ代表のヤン、そしてもう1人はスロヴァキアの代表として選ばれたヨゼフですが、この2人は親友だったんです。本来は、チェコの代表は別の人物だったのですが、その人が怪我をしてしまい、行けなくなってしまったので、スロヴァキア代表のヨゼフが、『俺の親友がいる』と言って、2人に決まったということです。それは、史実でもそうなっています。その後、2人が、潜入先で、恋をしたり、いろいろな体験をしますが、最終的にハイドリヒを暗殺できるのか……という物語になっています。すごく心優しい温厚な青年と、ある種、殺人ロボットのようにこのミッションに賭けているという全くタイプの違う2人が相棒として、その作戦をどう遂行できるのかを描いていきます。ヤンを土屋くんが、ヨゼフを僕が演じます」

―――なるほど。そうすると、おふたりのシーンがたくさんあるということですね。

石川「そうですね。初演のときは、お互いにそれぞれの女性とのラブシーンがあるのですが、それよりも2人のシーンの方がラブシーンだったと言われるくらい濃密なシーンもあります(笑)」

土屋「初演の映像を観させていただきましたが、多分、あのシーンですよね(笑)」

―――そうしたシーンも含めて楽しみですね。先ほど、台本を大幅に書き直しているとおっしゃっていましたが、作品としてどのようにブラッシュアップをしていく予定なのでしょうか?

石川「今よりさらに若い頃に書いた作品なので、若かったからこそ書けたセリフやできた演出もあると思います。なので、それはいい塩梅で残しながらも、新たに参加してくださる方に向けて変えていきたいと思っています。僕は基本、当て書きなので、特に新しい方たちのシーンが変わります。その役をフィットさせていくというのでしょうか。実在した人物たちの話ではあるのですが、彼らについては成績表だったり、どういう生い立ちだったかという資料しか残っていないんですよ。余白があるので、そうした想像の部分を、演じてくださる役者の方とすり合わせながら書いていくと、自ずと物語も変わっていくというイメージです」

―――土屋さんが演じるヤンもまた、初演とは変わってくるんですね。

石川「そうですね。ただ、僕たちは今回初共演で、今日、初めてしっかりとお話をさせていただいたので、これまでは想像ベースで書いているところもありました。これから、テーブルワークや読み合わせをしながら、もう少し台本を変更していきたいと思っています」

―――土屋さんは、ご自身の演じるヤンという役柄についてどのような印象をお持ちですか?

土屋「今、お話を聞いて、当て書きをしてくださっているからなのかと納得しましたが、初演の映像を拝見したときの感触とは、また違うものになるなという印象がありました。それぞれのとんがり方が違っているのですが、それは当て書きによるものなのかもしれないと思います。
 僕はどの役であっても、僕の中で『こういうキャラクターとして演じたい』と考えているものと、演出の中で求められているキャラクターの2つがあると思っています。僕は、『演出の歯車になりたい』というのが優先順位としては一番高いんですよ。でも、今回、自分に当て書きで書いてくださるということなので、それもまた変わってくるのかなと思います。稽古が楽しみです」

石川「ヤンというキャラクターの良い部分は残しながら神葉くんが演じる意味を見い出していけたらと思っています」

―――初演ではジャズファンの方もいらっしゃったというお話がありましたが、今作でも、やはりそうした音楽やダンスも見どころになるのでは?

石川「そうですね、盛りだくさんです。バンドだけでもサックス・トランペット・トロンボーン・ギター・ベース・ピアノ・ドラムという豪華な編成になっています。全編生演奏なんですよ。それに加えて、ダンサーもプロのダンサーの方たちが踊ってくれるので、かなり見応えのあるものになると思います。なので、役者たちが頑張らないと、『ずっと踊っていてほしい』となってしまう(苦笑)。そうならないように、ダンスと芝居がいいバランスで見せられるように、そしてアーティストたちの意見も聞きながら創っていけたら、面白いものになるのではないかと思っています」

―――生バンドでジャズって贅沢ですね。

土屋「生演奏でパフォーマンスするというのが、僕は大好きです。観客として舞台を観たときに、生演奏であるが故の奇跡が起こることがあると思うので、今回、観に来てくださる方も、目の前のお芝居やダンス・音楽・パフォーマンスが、真実なのではないかと思ってもらえることを期待して頑張りたいと思っています。それから、実は、僕は勝手に踊る気満々でいたんですよ(笑)。だから、『このダンスは何てジャンルの音楽なんですか?』と聞いていたんです。ジャズならチャチャチャを踊れた方が良いのかなと、考えていたんですが、よくよく映像を見返したら、ヤンは踊っていなかったんです(笑)」

石川「もしかしたら、ダンスをするかもしれないので、そこはまだ分かりませんよ(笑)。稽古の中で、急にお願いすることも多いので。先ほど、ギターを弾けると聞いたので、もしかしたら、ギターを弾くかもしれないし、もしかしたら踊るかもしれない」

―――それも楽しみにしています。石川さんは、ジャズがもともと好きで取り入れたのですか?

石川「音楽が好きで、サルメではずっと生演奏でやっているのですが、今回の作品は、当時、スウィングキッズと呼ばれる子たちがいて、その子たちが時代に抵抗するために踊っていたという時代背景がありました。彼らにとって踊ることは、抵抗運動でもあったんです。そうした背景は、この作品とも絶対マッチするだろうなと考えて取り入れています。ヨゼフは、スウィングキッズだったという設定にも変えていますし、ジャズがこの作品をよりドラマチックにしてくれるのではないかと思います」

―――ありがとうございました。最後に、公演に向けた意気込みと読者にメッセージをお願いします。

土屋「昔から、心が踊るときに体を動かしたり、ダンスをしたくなると思います。この作品では、その心の動きが“抵抗”でした。抵抗するのは、心が自由になりたいと思っているからです。時代に揉まれながら、心の中で何かが疼いて、踊り狂うように、一生懸命生きている人たちがたくさん登場します。戦争といった側面と同時に、普遍的な人間の生きるエネルギーが描かれていると思うので、きっとお客さまにも楽しんでいただけるのではないかと思います。
 一度完成されたものを再び上演する公演ですが、すでにできた土壌の上で、のびのびとやらせてもらえるので、楽しみながら、そして新しい葉っぱを生やして、花を咲かせられるように頑張りたいと思っています。初演をご覧になった方も、全く違うと感じていただけると思います」

石川「ラストシーンで、レジスタンスのみんなが、1人ずつ長ゼリフを話すシーンがあるのですが、そのシーンは、ジャズのソロをイメージしています。ベースがソロをやって、ドラムがソロをやって……というような。また、別のシーンでは、僕たちがパラシュートから降りるムーブメントがあり、それはダンスシーンに見えるのかもしれません。僕は、芝居をすることで、それが演奏だったり、ダンスに見えたりするような作品にできたらいいなと思っています。初演のときに、やれることはやり切りましたが、もちろん、やれなかったこともたくさんあった。同じ作品をブラッシュアップして再び上演することができるという機会はなかなかないことなので、だからこそ、守りに入らずに攻めたいと思っています。ぜひみなさんに生でご覧いただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:嶋田真己)

プロフィール

石川湖太朗(いしかわ・こたろう)
静岡県出身。サルメカンパニー主宰・脚本家・演出家・俳優。近年の出演作品に、舞台『東京原子核クラブ』、『モンローによろしく』、『豪華客船タイクツニック号沈没』など。

土屋神葉(つちや・しんば)
1996年4月4日生まれ、東京都出身。2016年に声優デビュー。同年、アニメ『ハイキュー!!』に五色工役で出演。2017年、『ボールルームへようこそ』富士田多々良役で初主演。以降、アニメ・吹替・舞台など幅広く活動。2026年も、アニメ『ワールド イズ ダンシング』、『幻想水滸伝』など、多数の作品に出演している。

公演情報

サルメカンパニー 第12回公演『スウィングしなけりゃ意味がない Take2』

日:2026年11月7日(土)~15日(日) 
場:東京芸術劇場 シアターウエスト
料:S席7,500円 A席6,500円 ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて(全席指定・税込)
HP:https://www.salmecompany.com
問:サルメカンパニー mail:salmecompany.event@gmail.com

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