楽しいだけでなく、観る人の心に何かが残るものを 宮沢賢治の名作に新解釈を加えた、大人も子供も夢中にさせるダンス劇

楽しいだけでなく、観る人の心に何かが残るものを 宮沢賢治の名作に新解釈を加えた、大人も子供も夢中にさせるダンス劇

 ダンスカンパニー・コンドルズのメンバーで、個人でも振付、演出、ダンスなどの活動を行っている藤田善宏のダンスカンパニーCAT-A-TAC(キャットアタック)。身体表現と物語を融合させた舞台は世代や性別を超えて楽しめるもので、2024年には夏目漱石『こころ』を、昨年はルイス・キャロル『不思議の国のアリス』を原作とする作品で好評を博した。今年の夏に上演される新作『銀河鉄道の夜の、そのまた夜に』は、宮沢賢治の有名作品をベースに新たな解釈を加えた、もうひとつの銀河鉄道の物語。藤田自身も大きな期待を持って臨む本作について話を聞いた。


誰も置いていかない舞台を作りたい

―――今回、『銀河鉄道の夜』を取り上げようと思ったのはどうしてですか?

藤田「これまで僕たちはお子様からおじいちゃんおばあちゃんまで、いろんな世代に伝わる作品づくりを行ってきました。それを評価していただいた成果の1つが、昨年の『不思議の国のアリス 〜ハートをなくした女王〜』だったと思います。次は何をやろうかなと考えたとき、今年は宮沢賢治生誕130年という記念の年でもありますし、『不思議の国のアリス』以上に幅広い世代のファンがいらっしゃる『銀河鉄道の夜』をチョイスしました」

―――『銀河鉄道の夜』は、必ずしもわかりやすい話とは言えないところもあり、だからこそ新たな創作を入れる余地のある作品だと思います。そのあたりも関係していますか?

藤田「どんな作品を取り上げるときも、そのままやるのではなく、僕たちらしいオリジナリティを入れたいと思っています。前回の『不思議の国のアリス』も、ハートの女王はどうしてあんなに意地悪になってしまったんだろう?というちょっとした疑問から、実は優しかった女王があんな性格になったいきさつを、アナザーストーリーとして入れ込みました。『銀河鉄道の夜』はジョバンニとカンパネルラの物語ですが、カンパネルラがああいうことになってしまう原因であるザネリをもっと深くフィーチャーした3人の物語にしたいと思いました。原作ではいつの間にかカンパネルラと別れてしまったジョバンニが、ちゃんとお別れを言いに行くお話にしたいと思っていて、そこに、カンパネルラに救ってもらったザネリがどう絡んでいくか……というところを膨らませていこうと考えています」

―――『銀河鉄道の夜の、そのまた夜に』というタイトルは、CAT-A-TACらしいひねりがありますね。

藤田「『こころ』はそのままのタイトルでしたし、『不思議の国のアリス』では『〜ハートをなくした女王〜』というサブタイトルを加えましたが、今回はちょっと違った感じの『銀河鉄道の夜』をやるぞ、というのを想起させたい狙いもあって、こういうタイトルにしました」

―――CAT-A-TACは身体表現で物語を伝える無声劇を作ってこられましたが、近年はストーリーテラーと呼ばれる語り手を入れた作品もあります。今回もその形式だそうですね。

藤田「劇場も大きいし、客席には小さいお子様もたくさんいらっしゃるので、イメージだけで通していくと、子供たちは置いていかれる感じがするというか、”あれ何だったんだろう?”みたいになってしまうんですね。イマジネーションが膨らんでいくようなシーンは僕も好きなんですけど、CAT-A-TACは誰も置いていかない舞台を作りたいので、ちゃんと”こういうシーンだよ”ということを伝えて、集中力を散らさないようにするのがストーリーテラーの役割です」

―――『不思議の国のアリス』もストーリーテラーがいましたが、客席の雰囲気を和らげながら、お客さんの想像力を後押ししているようでした。

藤田「ときどき客席に向けて語りかけることで、お客様も作品に参加しているような意識で観てもらえたらという狙いもあります。ストーリーテラーの呼びかけに子供たちが大声で返事をして、大人たちがほっこりするという場面もありますね」

―――『不思議の国のアリス』と同じく、今回もキャストの数が多いですね。CAT-A-TACの舞台ではお馴染みのメンバーが出演される中、新キャストのオーディションもされたそうですが。

藤田「またフレッシュな人たちと出会えたので、そういう人たちと一緒にどんな舞台が作れるかなって、今はとても楽しみです。オーディションでキャストを選ぶときの基準としては、表現がクリアにできる人が僕は好きですね。喜怒哀楽、起承転結をはっきり投げかけてくれると、僕も一緒に作品を作りたいなという気持ちになります」

―――それはそのまま、作品のわかりやすさ、伝わりやすさに繋がりますね。

藤田「あとはもちろん、技術以上に人柄も大切です。大人数で作っていく上では協調性が必要ですし、性格の明るさも求めてます。そして今回も物語がベースになっているので、こんな役にハマりそうだなっていうキャラクター性も、オーディションでは重視していました」

劇場全体を使って作品の世界観を表現

―――ダンスに関して、今回ならではの特徴はありますか?

藤田「『不思議の国のアリス』は明るい雰囲気のお話だったので、リズムのはっきりしたダンスがメインでしたが、今回はファンタジーというか幻想的な感じなので、もっとコンテンポラリーダンス的な方向で表現を高めていきたいなとは思ってます。さらに前回は、ダンスのジャンルをいろいろ増やしていくことで、僕たち自身も飽きないし、お客様も飽きさせない工夫ができたと思っているので、今回もその経験を活かして作っていきたいですね」

―――2人ユニット、ニヴァンテでコンビを組んでいるタップダンサーの村田正樹さんも、『不思議の国のアリス』に続いてタップ振付と出演で参加しています。

藤田「彼とは長い付き合いですが、タップダンスって、一言で言うと”ズルい”んですよね(笑)。それだけで非常にアクセントになるし、何より楽しい。村田君には、好きにやってくださいというのではなく、ここにタップを入れる意味はこうだからこういう感じでやってほしいとディレクションしながら一緒にやっています」

―――もともとCAT-A-TACの舞台は、劇場に足を踏み入れた瞬間からスタッフの皆さんの温かいホスピタリティを感じます。今回用意される、劇場のロビーを使った展示やワークショップもその延長線上にあると思いますが、『不思議の国のアリス』のときもフェスやイベントのような楽しさがあって、特にお子様連れにはお勧めしたいところです。

藤田「せっかくの広いスペースを空けておくのはもったいないので、作品の世界観に沿った飾り付けをしたいですし、ワークショップも行いますので、早い時間から来ても楽しんでいただけます。昼公演と夜公演の間もずっといられますし……とにかく、始まる前も終わった後も楽しめる劇場作りをしたいと思っています」

―――そうやって作品の世界観をいろいろな形で伝える中で、やはり軸にあるのは舞台での身体表現だと思います。お客さんの想像に委ねるところがあるからこそ、伝わるものも大きいのかなと。

藤田「”伝える”ということでは、僕たちが予想しない刺さり方をすることもあります。『不思議の国のアリス』では、ハートの女王がハートをなくしてしまった理由として、女王の立場とか責任、義務などから逃げられなかったというようなことを描いたら、公演後のアンケートで、シングルマザーの方からものすごく熱い大量の回答をいただいたんです。日々の仕事がある中で、家庭のこともお子さんのことも一人で頑張っている方に、ものすごく刺さったと。そういう反応にはちょっと驚かされたと同時に、すごく嬉しかったのを覚えています」

―――規模の大きな公演なので、今回初めてCAT-A-TACの舞台を観る方もいらっしゃると思います。そんな方に向けてメッセージをいただけますか?

藤田「宮沢賢治は、”本当の幸せとは何か”をずっと求めていて、それを描きたかったんだと思います。誰もが知っているあの名作に、僕たちCAT-A-TACならではの視点を加えたら、こんなに面白くなるんだ——そう感じていただけたら嬉しいです。ただ楽しいだけじゃなく、ご覧になる方の心に何かが残るものを届けたい。ダンスもパントマイムも、身体表現も美術も、ナレーションも照明も音響も、さらに生演奏まで駆使していくので、お子さんからお年寄りの方まで、何かしら刺さる、面白い、楽しめるシーンが必ずあると思います。原作の内容から考えると、中学〜高校の多感な年代の方にも観ていただきたいですね。ぜひ、たくさんの方に観ていただきたいです」

―――過去の公演のいくつかはYouTubeでダイジェスト版が公開されていて、2021年の『王様の耳はなぜロバの耳?』は全編を観ることができます。初めて観る方にはそれらで予習していただくのも良さそうですね。

藤田「そうですね。さらに今回は『王様の耳〜』よりも出演人数が多く大掛かりな仕掛けもありますので、もっと一般層のお客様が観やすい設計になっています。でもやっぱり生で観るのに勝るものはないと思っています。舞台は初めてという方は二の足を踏むかもしれませんが、チケットもお子様は安い料金に設定していて、お子様連れでいらっしゃるお客さんも多いので、ぜひ気軽に足を運んでいただけたら嬉しいです」

(取材・文:西本 勲)

プロフィール

藤田善宏(ふじた・よしひろ)
振付家・演出家・ダンサー・グッズデザイナー。ダンスカンパニーCAT-A-TAC(キャットアタック)主宰。コンドルズメンバー。文化庁芸術祭舞踊部門新人賞受賞。福井国体開会式典演技振付総合監修。群馬大学非常勤講師。身体表現と道具を駆使した台詞のない物語、ユニークな発想を生かした異ジャンルや伝統芸能とのコラボが得意。三世代間で楽しめるダンス劇や児童演劇・幼児教育教材の監修、障がい者対象のWSやアウトリーチなど多様性を重視した活動にも力をいれる。小栗旬、大泉洋、加藤シゲアキ、桐山照史主演舞台、山田洋次監督・野田秀樹・マギー・河原雅彦などの演出舞台、Eテレほか振付・出演・ステージング多数。

公演情報

CAT-A-TAC『銀河鉄道の夜の、そのまた夜に』

日:2026年8月1日(土)・2日(日) 
場:こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
料:一般5,000円 U25[25歳以下]3,000円 中・高校生・障がい者割引2,000円 小学生以下1,000円 ※U25・中・高校生・障がい者割引は要身分証明書提示/当日券は各券種+500円(全席指定・税込)
HP:https://cat-a-tac.jp/ginga/
問:MITATEYA合同会社 mail:info@cat-a-tac.jp

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