大劇場での経験を凝縮した“夏休みの自由研究”が再演 数々のアワードでノミネートされた話題作 小劇場空間と最新音響が織りなす化学反応

 「ピーターラビット」の作者、ビアトリクス・ポターの生涯をオマージュした、オリジナルミュージカル『Under The Mushroom Shade』は、大手演劇制作会社のプロデューサーとして、大型商業作品を手掛けてきた白石朋子が初めて脚本・作詞・演出に挑戦した作品。昨年6月に上演された初演では、第1回「Musical Awards TOKYO」ノミネート(4部門)や「ステージぴあ10」「Audience Award」小劇場作品部門第3位になるなど、大きな反響を呼んだ。約1年ぶりとなる再演では、加藤梨里香、木内健人、吉沢梨絵が初演に引き続き出演する。
 初演の振り返りや再演の見どころなどを脚本・作詞・演出・プロデューサーの白石朋子と編曲・音楽監督の江草啓太に話を伺った。


———再演のお話に入る前に、まず昨年6月に上演された初演を振り返っていただきたいと思います。普段は商業の大型作品の演劇プロデューサーとして活動する白石さんにとって、初体験尽くしではなかったのでしょうか。

白石「”楽しかった”という一言に尽きますね。脚本を書いてみるのも、演出してみるのも初めてで、やっていく中で『これは性に合わない』とか『上手くいかない』と言いたくなることが出てくるかなと思っていたら、とにかく楽しくて(笑)。スケジュールの都合で、初演の稽古は1か月置きに5日間ぐらいずつ行う分割稽古だったのですが、初期段階から実際に演じるキャストの皆さんに歌ってみていただいて、次の稽古までにブラッシュアップする……。時間をかけてカンパニーのメンバーと一緒にクリエーションしていけたことがすごく良かったのだと思います。
 本番でお客様にどう受け止めてもらえるのかは、全く予想がつきませんでした。『生涯の観劇体験の中でも、ものすごく記憶に残る作品』と思ってくれる人が1人でもいたらいいなとは思っていたんですが、多くのお客様から『大好きな作品です』『すごく良かった』とお声がけいただき、もうそれだけでも嬉しかったです」

———江草さんはこれまで2度白石さんとご一緒されたそうですね。

江草「はい、2度ともすごく楽しくて、今度は白石さんから演出・脚本・作詞もやる自主公演のミュージカルをやりたいと伺って、私を選んでもらえたのはすごく嬉しかったです。初演の感触ですが、私は音楽を食べ物に例えることが多いんですけど、グランドミュージカルは飲食店だと全国展開のチェーン店みたいな感じがするんです。人数がすごく多いので、誰が来てもいいように、決め事をわかりやすくマニュアル化するスタイル。それに対して『Under The Mushroom Shade』は”個人店”。しかも全国展開のファミレスチェーンの仕組みをわかった社長が敢えて個人店を出すというイメージです」

白石「確かにそうかもしれませんね。普段商業演劇で仕事をされている方から『小劇場から始めてだんだん規模が大きくなるというパターンはあるけど、先に大箱を経験してそれを凝縮するみたいな状態はあまりないから面白かった』と言っていただいたのを思い出しました。私は学生時代に演劇を専門的に学んだりはしてこなかったので、何が正解かわかりませんでしたが、脚本・音楽・演出、言葉と音楽の一つ一つに”こうしたい”という意志は確実にあって。そんなこだわりを伝える相手が、別の作品でご一緒してきた話し合えるメンバーばかりだったので、共通認識を丁寧に築きながら進められて、そういう意味では不安はなかったです」

江草「白石さんに”やりたいことがはっきりある”というのは僕らにとっても心強いです。『こういう方法がありますよ』といろいろ提案ができますからね」

———その初演が「Musical Awards TOKYO 2026」の4部門ノミネートをはじめ、数々のアワードで表彰されました。演劇関係者やお客さんから高い評価を受けたということについてどう感じましたか。

白石「いずれもお客様の投票で決まる賞で。6月の公演だったので、皆さんその後ご覧になった作品も数多あったでしょうに、年末に振り返った時に『あの作品が良かった』と思い出して、名前を挙げてくださった方が沢山いらしたと思うと、嬉しかったですね」

———江草さんは「Musical Awards TOKYO 2026」で編曲賞・音楽監督賞にノミネートされましたね。

江草「どの部門でもいいから何か一つぐらいは入っていたらいいなと思っていたんですが、個人名で編曲・音楽監督賞にノミネートされていたので、とてもびっくりしました」

白石「この作品で江草さんがノミネートされたのは、いわゆるオーケストレーションではなく、台本と音楽をどう編み込んでいくか、という点を評価していただけたのかなと思って、私もすごく嬉しかったです」

———初演が高い評価を受けた中での再演となります。ちょうど1年ぶりで、しかもキャスト3人全員が続投となりますが、再演が決まるまでの経緯を教えていただけますか。

白石「出演者の皆さんもとても作品を楽しんでくださっていて、本番期間中の楽屋で、『いつ再演できるんだ!?』という話になったんです。すると偶然にもキャスト3人、そして私もこの6月だけ空いていて、”これはもうやるしかない!”と(笑)。すぐに劇場の仮押さえを進め、ものすごいスピードで決まりました。キャスト3人の主戦場が大劇場ゆえに、小さい空間でお届けするこの作品を特に楽しんでいただけたのかなと思っています」

江草「私は別作品のスケジュールが被ってしまったので、初演で担当した演奏は今回できませんが、引き続き編曲と音楽監督を務めることとなりました」

———再演に向けて、ここを変えていこうというプランはございますか。

江草「僕は白石さんについていくだけですけど、ステージが少し大きくなるので、音楽もキャストの動きや間合いに合わせ、少し変わるかもしれません」

白石「台本の後半部分を少し書き直して、それに伴い、一部の曲も変えています。初演のサンモールスタジオは客席と舞台空間との垣根がなかったのですが、今回の会場はある程度の境界線があるので、額縁の中に入った絵画や絵本を見ているような演出にしたいなと思っています」

———既に白石さんの頭の中には「こういう感じ」といったプランが浮かんでいるんですね。

白石「この公演は私の中で『夏季休暇と私財を投じた”夏休みの自由研究”』なんです。今回も研究目標は確実にあって、それに伴う”やりたいことリスト”はたくさんあります!」

———初演に引き続き出演する加藤梨里香さん、木内健人さん、吉沢梨絵さんの印象を教えていただけますか。

白石「お三方とも奇しくも昨年の初演以降、日生劇場のプリンシパルを経験した上で戻ってくるんですよね。もちろんプロデューサーとして接していても信頼できる方々としてお声がけさせていただいたのですが、共通して言えるのは、すごく”考える人たち”ということだと思っています。私にとって初めての挑戦で共同作業をしていくにあたって、一緒に考えてクリエーションくださるのでとても心強くて、やりやすくて。皆さん表現者として常に考えて研鑽を積んでいらっしゃるからこそ、良いパフォーマンスに繋がるのだと改めてリスペクトすることができました」

江草「新作というのは、どうしても試行錯誤がつきものだと思うんです。でも、皆さんはいろいろと相談したりお願いしたりしても、『これはできません』という返事が全くなくて。常に前向きに相談することができましたし、3人のバランスが絶妙で、まるでお母さんとお姉ちゃんと弟みたいというのが僕の感想です。具体的に誰が誰かというのは控えさせていただきます(笑)」

———ありがとうございます。再演をご覧になられる方の中には、既に初演を観劇された方もいれば、初演を観劇できなかった方や口コミなどで初めて観劇される方もいらっしゃると思います。そこで、初演を観劇された方向けと初めて観劇される方向けの注目ポイントを挙げていただけますか。

白石「初演を観た方は、前回からブラッシュアップした点が注目ポイントになると思いますので、ぜひ感想をお聞かせいただきたいです。それも含めて自由研究なので(笑)。初演の会場があまりにも濃密だったがゆえに、違いを感じるところがたくさんあると思うので、一緒に体験できたら嬉しいです。
 初めての方は、あまり”ミュージカル”を意識せずに観ていただきたいです。”ミュージカル”と名がつくとどうしても、朗々と歌い上げる華やかなグランドミュージカルのイメージが強くて、”ミュージカルはこういうものだろう”という固定観念が皆様の中に確実に先立ってしまうと思うんです。初演時『お芝居の延長線上に歌がある』ということを個人的な研究テーマに創作した作品なので、私自身、”ミュージカルらしさ”という固定観念は限りなく排除して立ち上げています。実際に『これはミュージカルなのだろうか、音楽劇なのだろうか』というご感想をくださった方もいました。”ミュージカルなんだ”と構えずに、”とある作家の女性の半生を描いたお話らしい”くらいの気持ちで観に来ていただけたら嬉しいです」

江草「初演を観た方にとっても発見がいろいろとあると思いますが、一番違うのはピアノが石倉江里子さんに変わるところですね。ピアノは人が違うと表現の仕方が変わるので、そこを楽しんでいただけたらと思います。
 今回初めて観劇される方は、音響にAFCというヤマハの立体音響システムを使っているんですけど、これが本当に素晴らしくて。サンモールの時でも使用しましたが、100人規模の小さな劇場なのにまるで大ホールで聴いているような奥行きが感じられて、本当にすごいんですよ。AFCはもともと壁にスピーカーを埋め込んで劇場全体で表現する前提の設計なので、本来は常設されている劇場でないとAFCを体験できないんですが、今回もAFCを使うことができるので、ぜひ体感していただきたいですね」

———ちなみにプロデューサーとして、今後こんなことやってみたいプランなどありますか。

白石「実は最近別の作品で作曲の小杉紗代さんに新曲を書いていただいたんですが、これがまたとても素敵で、そのイメージから2本目の作品を構想していたり……その時はぜひまた江草さんにアレンジをお願いできたらと思っています」

江草「ありがとうございます」

白石「あとは、初演と再演が6月だったので……”6月と言えば”という恒例行事にしていきましょうか(笑)。じゃあインタビューが終わったら来年6月のスケジュールを(笑)」

———ぜひ6月の恒例行事になっていただきたいです。では最後に公演を楽しみにされている方に向けてメッセージを江草さんからお願いします。

江草「去年が1号店だとすれば、今回は2号店です。おそらく違う趣きになると思うんですけど、この作品でしかできない表現があると思うので、楽しみに体験していただけたらと思います」

白石「立場や肩書きではなく、演劇に対する興味100%でやっているプロジェクトです。スタッフの皆さんとはプロデューサーとしてのお仕事でも普段ご一緒していますけれど、その環境ではしきれない、純度の高いクリエイティブな会話がこのプロジェクトでは出来ているような気がして、とても楽しいんです。そんな楽しい自由研究の良い”研究発表”を今年も出来たらと思っていますので、ぜひ沢山の方に劇場で見届けていただけたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:冨岡弘行)

プロフィール

白石朋子(しらいし・ともこ)
東宝株式会社演劇部プロデューサーとして、プレミア音楽朗読劇『VOICARION』シリーズ、ミュージカル『CROSS ROAD ~悪魔のヴァイオリニスト パガニーニ~』、『四月は君の嘘』、『SPY×FAMILY』、『Once』などの企画・プロデュースを務める。

江草啓太(えぐさ・けいた)
ピアニスト・作編曲家。伊藤多喜雄、加藤登紀子などのサポートを務め、KERA、植松伸夫などのアルバムにも参加。ミュージカルでは『9to5』『RAGTIME』などの音楽監督を務める。

公演情報

Musical『Under The Mushroom Shade』

日:2026年6月5日(金)~14日(日)
場:シアターグリーンBIG TREE THEATER
料:S席11,000円
  A席8,800円(全席指定・税込)
HP:https://underthemushroomshade2026.studio.site
問:SHROOMLAB
  mail:shroomlab2025@gmail.com

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