1968年に日本バレエ界初の合議制バレエ団として設立され、古典と創作の両輪で上演をおこなってきた東京シティ・バレエ団。その創立メンバーである石田種生の代表作『白鳥の湖』 ~大いなる愛の賛歌~ が新たなキャスティングで全幕上演となる。再演演出の金井利久により、“王子の成長の物語”としてブラシュアップ。各キャラクターの心情や演技、ドラマ性がより際立った本作に挑むのは、2021年4月にプリンシパルに就任した清水愛恵(オデット/オディール役)とキム・セジョン(ジークフリート王子役)の2人だ。
難易度が高く誤魔化しがきかない演目
―――――バレエ界の代名詞とも言えるチャイコフスキーの大作に挑むお二人のお気持ちを聞かせてください。
清水「出産の為に暫く舞台から離れていましたが、今年1月に復帰をしてから初めての全幕が大作なので、今まで以上のエネルギーを持って準備を進めているところです。『白鳥の湖』には何度か出演経験がありますが、オデットとオディールはリハーサルをしてみて相当難しいと感じました。ステップの難易度も高いですし、グラン・パ・ド・ドゥ(2人の踊り)もある上に、王子との愛の物語の繊細な表現が求められる。とにかく誤魔化がきかない演目なので、基礎や表現方法を何度も見直してからリハーサルに入りました」
キム「東京シティ・バレエ団に入団して10年になりますが、やはり『白鳥の湖』は特別な作品と言えます。歩き方や目線、手先のマイムなどジークフリート王子をどのように表現するか。自然に見せることが一番難しいです。表現をすることばかりに意識を取られると逆に固くなってしまい、パートナーとの演技が不自然に見えてしまいます。何度も踊ってきた役ですが、前回の公演を見返してもまだどこか不自然な感じがします。どれだけ意識せずに自然な演技ができるか。それが今の一番のテーマですね。同じ作品でも毎回初めての気持ちで挑んでいるので、今回も楽しみで仕方がありません」
2人でステージを創っていく
―――――お二人での共演についてはどのような印象をお持ちですか?
キム「清水さんは復帰後、一回合わせただけですぐ感覚を取り戻していました。他の作品でもそうですが、2人でステージを創るという感覚がすごく楽しい。それは踊りに対して同じ目線で取り組むことが出来ているからだと思います。ちょっとした視線の動きでも『離れ際にもう少し残そう』といった感じで細かいニュアンスもくみ取ってくれるので、それが積み重なって作品の全体の質が上がっていくような気がします。
彼女はオデットとオディールという正反対の役を1人で演じる難しい役どころでもりますし、体力的な面も含めて不安があるかもしれないので、僕がリードして彼女がステージでより輝けるように全力でサポートしたいと思っています」
清水「すぐに息を合わせることができるパートナーとして、とても頼りにしています。ストーリーを大切にして心で踊っている一方で、客席から見た自分の角度やラインなども客観的に見る事ができる。安心感だけでなく、私も多くの事を勉強させてもらっています。演出家の要求や指示はベースにありますが、私達なりの表現や呼吸やタイミングは2人にしかできない事なので、今回もしっかりコミュニケーションを取って創っていけたらなと思っています」
―――――オデットとオディール、1人2役をどの様に演じたいですか?
清水「オディールの強さとは対照的により繊細さを求められるオデットの方が難しいような気がします。私の性格的にオデットを踊っていても、オディールっぽくなってしまう部分があるので、オデットの表現や動きを磨いていく必要があると感じました」
第4幕のクライマックスは必見
―――――個人的に注目して欲しいパートはありますか?
キム「第1幕で、誕生日を祝う宴のあとに王位を継ぐ王子が空を自由に飛ぶ白鳥の群れを見て思いにふけるところでしょうか。一見明るい表情を取り繕っていても心は沈む王子の心情をいかに表現できるかが重要になります。あとは第3幕のオディール(黒鳥)とのシーンです。オデット(白鳥)に永遠の愛を誓った王子でしたが、突然舞踏会に現れたオディールに誘惑されて心を奪われてしまうシーンは特に鮮烈です」
清水「第2幕のオデットの登場シーンですね。あとは第4幕のクライマックス、オデットと王子の真実の愛を描くシーンは本作最大の見どころだと思います」
言葉のいらない芸術を是非、体験してほしい
―――――東京シティ・バレエ団は「バレエの楽しさと豊かさを全ての人に分かち合う」というコンセプトで活動を続けてこられました。バレエの中でも名作中の名作とも言える「白鳥の湖」ですが、初めて観る方にバレエ鑑賞の楽しみ方を教えてください
清水「古典バレエなので、初めて観る方には敷居が高いと思われるかもしれませんが、分かりやすい物語になっているので、映画を観る感覚で物語を楽しんでもらうのが良いかもしれません。それがきっかけになってよりバレエの世界に興味を持ってもられたら嬉しいですし。やはりバレエはライブなので、本番ならではの空気感を感じて観て頂くことが一番だと思います」
キム「ミュージカルのように言葉がないので難しいと思われがちですが、舞台装置や音楽、衣裳、ダンサー達のテクニックなどで伝える総合芸術としての力があると思います。ダンサーの目線や表情、指の動きを通してその感情を推察するのもバレエならではの魅力です。是非一度体験してもらいたいです」
―――――最後に公演への意気込みを教えてください。
清水「『白鳥の湖』はバレリーナにとっての一番の憧れです。でもいざ自分が演じるとなると、嬉しいという気持ちだけでは出来ません。お客様の心に届く踊りを披露するためには残りの時間で悩みながらも1つ1つの課題を乗り越えていき、最高の舞台にしたいと思います。皆様のご来場を心からお待ちしております」
キム「自分の中だけで満足せずにお客様を満足させるダンサーでありたいと思っています。その為には再演であっても毎回初めての舞台に上がる気持ちを大切にしたいと思います。プリンシパルとして最高の踊りを見せてお客様に恩返しをしたいです。皆様のお越しをお待ちしております」
(取材・文&撮影:小笠原大介)
プロフイール
清水愛恵(しみず・まなえ)
東京バレエ劇場にてバレエを始める。上原裕子バレエスタジオにて上原裕子に師事。モスクワ国立ボリショイバレエ学校短期留学。ティアラジュニアバレエ教室にて安達悦子らに師事。
2009年、東京シティ・バレエ団入団。2021年4月、プリンシパルに就任。
【主な出演作品】
『眠れる森の美女』オーロラ姫、『くるみ割り人形』金平糖の女王、『ロミオとジュリエット』ジュリエット、『コッペリア』スワニルダ、『ジゼル』ミルタ、『ベートーヴェン交響曲第7番』(ウヴェ・ショルツ振付)、『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付)ソリスト、『L’ Heure Bleue』(イリ・ブベニチェク振付/日本初演/東京シティ・バレエ団スペシャルバージョン)、『真夏の夜の夢』妖精(ソリスト)。その他、『サロメ』、『アーサー王』等のオペラ公演にも出演。
キム・セジョン
韓国カンウォン国立大学バレエ学部舞踊学科卒業。2002年韓国バレエ協会男子クラシックバレエ部門にて大賞受賞。2005年韓国ユニバーサル・バレエ団に入団し、ドゥミソリストとして多くの作品に出演。在団中、2006年韓国舞踊協会新人舞踊コンクールバレエ部門男子第1位、2007年韓国舞踊協会新人舞踊コンクールバレエ部門男子特賞、2009年韓国バレエ協会新人賞、バレエ部門銀賞を受賞。
2011年東京シティ・バレエ入団。2021年4月、プリンシパルに就任。
【主な出演作品】
『白鳥の湖』ジークフリード王子、『眠れる森の美女』デジレ王子、『くるみ割り人形』コクリューシュ王子、『ロミオとジュリエット』ロミオ、『ジゼル』アルブレヒト、『パキータ』エトワール、『コッペリア』フランツ、『ベートーヴェン交響曲第7番』(ウヴェ・ショルツ振付)ソリスト、『死と乙女』(レオ・ムジック振付)、『Octet』(ウヴェ・ショルツ振付)ソリスト、『天地創造』よりパ・ド・ドゥ(ウヴェ・ショルツ振付)
公演情報
東京シティ・バレエ団
『白鳥の湖』~大いなる愛の讃歌~
日:2021年7月17日(土)17:00開演・18日(日)14:00開演 ※開場は開演の30分前
場:ティアラこうとう 大ホール
料:SS席10,000円 S席8,000円 A席5,000円
当日学生券[高校生以上、25歳以下]2,500円 ※要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:http://www.tokyocityballet.org/
問:東京シティ・バレエ団
mail:contact@tokyocityballet.org