若い演劇人たちが“出会い”、“演劇で遊び”、“劇場に立つ”ための場を作る。「演劇は、心の充実のためにあっていい」

若い演劇人たちが“出会い”、“演劇で遊び”、“劇場に立つ”ための場を作る。「演劇は、心の充実のためにあっていい」

 劇団モダンスイマーズ旗揚げから22年。作・演出の蓬莱竜太は、いまや劇団公演や商業演劇で数々のドラマを生み出し続けている。今回、初めて蓬莱自身がプロデュースし、個人ユニット「アンカル」を立ち上げた。新作の書下ろしが続き、忙しいであろう中での企画立案。今、なぜ、新たな場を求めたのだろう。
 9月24日から東京芸術劇場シアターイーストで上演予定の『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』は、広島での地元オーディションを経て上演された舞台を、東京公演用にしたものだ。20代の俳優をオーディションで集め、これまで試みてこなかったエチュードの手法を取り入れて創作する。このコロナ禍において、なぜ若い演劇人達とそのような挑戦をするのか。蓬莱の演劇観とともに、作品やユニットの背景について聞いた。


演劇で生きていく──ソロユニットをライフワークにしていきたい

―――蓬莱さんが自分でユニットをプロデュースしようと思ったのは、なぜですか?

 「30代後半くらいからずっと、若い人達の場所をつくりたいなと思っていたんです。自分達の劇団(モダンスイマーズ)で作品をつくるとなると、みんな同い年くらいだし女性が一人で男ばかりなので制約がある。一緒に歳をとっていくことは大事ですが、若い人とやることで新しい創作の力をもらうことも必要だなと感じていました。一方で、若い人にとっては“劇場”という空間で作品をつくる機会がずいぶん減ってきている。自分達で芝居をするとなると喫茶店などで公演する方々もいる中、“劇場”に立てる場所を積極的につくっていかなきゃなという思いもあったんです。
 でも忙しさにかまけて先延ばしにしているうちにコロナになってしまった。コロナによって若い人達の表現の場所がより奪われるのを目の当たりにして、『今やろう』と。この時期に立ち上げることは挑戦でもありますが、それでも新しい出会いは必要だと思い、ようやく実現しました」

―――なぜ一人での「ソロユニット」なのでしょうか。

 「これまでは劇団のみんなで協議しながら色んなことを決めてきたんですけど、劇団員もいい歳になって、それぞれの人生を歩み始めている。僕はといえば、幸運にも演劇で生活している身として、演劇を積極的にやっていかなきゃなという思いがありました。そのために、ライフワークとなる場所を自分でつくることにしたんです」

――― ライフワークとして、若い方々と作品をつくろうと。

 「そうです。大きなきっかけは、広島でオーディションして、2ヶ月滞在して芝居をつくるのを4年ほどやっていた時の体感なんです。『東京でもそういう場所がないかな』という思いがソロユニットに繋がっていて、その時の作品を今回東京版として上演します。
 若い人とやっていくと、色んな悩みを聞きます。究極的には『なんで生きていないといけないんですか』と聞かれるくらい絶望している人も多い。だからこそ演劇って、精神の充足のために必要だなと強く思うんです。売れるかどうかじゃなくて、心の充実のために演劇はあっていい。そういう意味でも、このソロユニットは売れる役者を輩出しようという野心はあまりなく、精神的に切望している人達とクリエイティブな遊びをしたいんですよね」

劇団公演とはまた違う、新たな表現がうまれる作品に

――― 若い人達と創作したい、とのことですが、劇団での公演にも若い俳優は客演していますよね。ソロユニット「アンカル」はそれとはまた違う場所になりそうでしょうか?

 「劇団との大きな違いは2点あって、まずひとつは、大人数の出演者でひとつの作品をつくるということです。今回上演する『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』には、若い人達が27人も登場します。ふたつめは、僕がふだんはやらないエチュードを利用しながら作品づくりをするということですね。僕はいつも必ずかっちり台本を決めて、役者に渡してから稽古するタイプなんですが、ソロユニットでは一緒につくっていける場所にしたい。役者にクリエイティブな脳みそを使ってもらい、僕のクリエイティブと融合していくことで、新しい言語や発想がうまれるんじゃないかと期待しています」

――― オーディションには519名もの応募がありました。そこから26名の出演者が決まりました。かなり丁寧に選考されたそうですね。

 「大変でしたね。最終的には役のバランスを考えて選ばせてもらったので、一緒にやりたい人はもっといっぱいいましたし、難しかったです。動画での選考だったのでどうしても勘に頼ることもあったんですけど、そういう選び方がどうだったのかも稽古を進めていくうえでわかってくるでしょう。まさに実験の場所ですね」

――― 審査の課題「私が(僕が)演劇をやる理由」でした。文章で提出したものを、さらに自分で読んでもらう、という内容です。その意図は?

 「今回の作品で、演劇部の一人が『なんで自分は演劇をやってるんだろう?』と思いながら生活をしているんです。そのテーマを演劇のオーディションの課題として自分の言葉で書き、さらに自分でしゃべるという、いわば自己演出をしてもらうことでどういう人間性が見えるのかに興味がありました。このソロユニットでは、どういう技術を持っているかよりも、どういう人と一緒にやるかを大事にしているので、良い出会いがうまれるためにもどんな人間なのかを感じたかったんです」

――― 登場人物の設定が中学生なのはなぜですか。

 「まず企画の前提として、大勢の人が出てくることで、役者同士がより多く知り合えるシチュエーションをつくりたかった。そのためにはクラスという単位がぴったりだと、中学での1年間を大人になってから振り返るという群像劇にしたんです。中学生って、高校生よりも人間的な部分が多いんですよね。まだ大人になりきれていないので、自己調整ができないし、恥も晒してしまう。その中でも、大人になる前のむき出しの小学生みたいな子がいたり、先に大人になりはじめちゃった子がいたりして、バラエティに富んでいる年代だからこそ群像劇として面白く、退屈させないものができるんじゃないかなと思いました」

――― 稽古が始まっていかがですか?

 「みんな緊張していますよね。でもこの現場を凄く楽しみにしてくれている感じが伝わっているので安心しています。全員、出自が違っていて、『あ、テレビで見た人だ』という人もいれば、初舞台の人もいて、色んな人が入り交じった現場です。ここからどんどん知り合っていくでしょうね。あとはコロナに対して各々が自覚を持って生活することが大事。陽性者が出ても誰も責めないというルールは決めました」

ロナ禍だからこそ、「なんで演劇をやるのか」に向き合うことの大事さ

――― 「アンカル」はまさに蓬莱さんの演劇観に繋がっているんですね。

 「そうですね。僕にとって、演劇にはふたつの意味があります。ひとつは、生活のため。昔は『演劇でご飯が食べられるといいな』と思っていたし、いざそうなると演劇でしかご飯が食べられないという状況がありますが、それは幸運なことですね。
 もうひとつは、人を知っていくため。それによって自分の人生を充実させるためです。ふだん手掛けている商業演劇も人生の充実に繋がっているんですが、仕事であり生活と結びついています。でも劇団やソロユニットでは、もう少し自分のマイノリティな気持ちに向き合ったり、演劇で遊ぶことの方を大事にしていくつもりです。商業演劇と、劇団・ソロユニット。それぞれでしか会えない才能がいっぱいいて、それぞれでハイクオリティなことができる。自分はちょうど両方の場所にいるので、おこがましいですけど橋渡しのような役目ができたらいいですね。両者の垣根を消していき、お互いが知り合っていけると刺激し合えるんじゃないかなと」

――― 蓬莱さんと俳優との出会いだけでなく、人と人とが出会える場づくりなんですね。

 「そうなんです。僕も出会いたいし、役者同士も出会ってほしい。それが演劇をやっていくなかで精神の肥料になればいいですね。とくにこういう時代だと、どういうモチベーションで演劇を続けていくかは凄く難しい状況になっていて、心の肥料が足りていない。とくに若い人は、演劇をやる場所もないし、生活も大変でしょう。そうすると演劇をやる人が少なくなってくる。新しい才能や場所がなくなってくることは、向こう10年20年の演劇界の未来にとってとても危機的状況ですよね。だから今こそ、精神の肥料が必要だなと思います。『演劇って楽しいな』『演劇ってこういう充実があるな』と今、実感しないと、心が折れてしまいますから。きっとこの時期に作品を共にできた人は、戦友ですよ」

――― この状況、いつまで続くかわからないですしね……

 「この前、稽古で一人ずつ自己紹介をしたんです。一日かけて色々質問してみると、コロナで心が病になったという人がいっぱいいた。やっぱりそうなんだな、と。『だからとにかく応募したんです』と切望している感じがひしひしと伝わってきました。きっと応募してくださった500人よりももっと多くの人達が『現場が欲しい』とか『精神に肥しが欲しい』と思っているんだろうなと実感しましたね」

――― 蓬莱さん自身は、コロナの影響をどう感じていますか?

 「多大な影響がありましたよね! 『演劇ってなんだ』と改めて思ったし、『演劇界ってどうなっていくんだろう』と先行きのことも考えました。やっぱりこういう状況だと、スターさんは強いですね。スターって『それでも観たい!』と需要を供給に変えていく力がある。僕達はそうじゃなくて、自分で手を挙げて『観てほしい』と言わなければいけない。どういうふうにお客さんの安全確保をしながら観に来てもらうシステムをつくるかとか、どういうふうな宣伝の在り方が良いのか、ということも含めて考えていかなければいけない。凄く難しい時代に入っています。こんなことがやってくるなんて信じられないし、しかもいつまで続くかもわからない。だからこそ生まれてくる作品が名作なのかもしれないし、そうなるといいなと思いながら作っています。もう良い機会だと思うしかないみたいなところもありますが……まずは上演できたらいいなと願っています」

演劇を盛り上げることは、今、急務

――― 蓬莱さん自身が新しい場所を熱望しているんですね。

 「僕自身、凄く色んなものを欲しがっていますね。やっぱり作家って消耗していくので、インプットしなきゃいけない。日常からもインプットすることはできるんですけど、役者に触発されることは影響が大きいです。その役者がどういう人間かで、方向性が決まっていくものづくりをしたい。これは商業演劇でもなかなかやれない方法ですね。商業演劇はどうしてもどんどん決めて作品を完成させていかなければいけないので。そうではなくて、じっくり一人ひとりの俳優がどんな人かと向き合って作品をつくることへの手ごたえを掴む場にしたいです」

――― ソロユニット「アンカル」の目標は?

 「精力的にライフワークとしてやっていきたいですね。たとえば僕が脚本を書かなくても、演出をしなくてもいい。僕が誰かにお願いして作品をつくってもらうかもしれない。そうやってどんどん色んなものや人と出会う場になっていってほしい。すこしずつでも『あのユニットに参加することで出会えるんだ』と認識されることが大事で、当面の目標です。若い人達にとって『ここがあるからちょっと安心できる』とか『こういう場所があるからちょっと頑張れる』と励みになる場所になるといいですね。お互いが恥をかくことが恥ずかしくない場所になるところは目指しています。そこから、役者だけでなく、新たな作家さんが生まれてもいいなと。いずれは興味がある人は役者以外もどんどん稽古に参加してもらえるようにもしたいです」

――― 作品をつくるだけでなく、演劇の場をつくっていかれている。

 「みんなそういうふうにつくっていけるといいなと思いますね。演劇を盛り上げるというのは、今、急務だと思います。こんな時だからこそ希望ばかりを見ていこうと(笑)」

(取材・文&撮影:河野桃子)

プロフィール

蓬莱竜太(ほうらい・りゅうた)
1976年1月7日生まれ、兵庫県出身。
舞台芸術学院演劇科本科を卒業し、1999年に同期生・西條義将と劇団モダンスイマーズを旗揚げ。以降、全公演の作・演出を手がける。劇団のほか、舞台版『世界の中心で、愛をさけぶ』、舞台版『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』などの脚本を執筆。2009年『まほろば』で第53回岸田國士戯曲賞受賞。2017年『母と惑星について、および自転する女たちの記録』で第20回鶴屋南北戯曲賞受賞。2019年『消えていくなら朝』で第6回ハヤカワ悲劇喜劇賞受賞。2021年個人ユニット・アンカラを立ち上げる。

公演情報

アンカル 旗揚げ公演
『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』

日:2021年9月24日(金)~10月3日(日) 
場:東京芸術劇場 シアターイースト
料:3,500円(全席自由・整理番号付・税込)
HP:http://www.modernswimmers.com/
問:ヨルノハテの劇場 tel. 070-1483-2563

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