演劇ならではの演出で、“古典的な”平成へタイムスリップ 沈丁花香る温泉街を舞台に、“現代”と“20年前の過去”を行き来する物語

演劇ならではの演出で、“古典的な”平成へタイムスリップ 沈丁花香る温泉街を舞台に、“現代”と“20年前の過去”を行き来する物語

 雨。その姿は見えないが、その足音と気配がする。この雨の正体は“化物”である。これから訪れる未曾有の水害を、まだ誰も知らないで居る――。
 CCCreationがプロデュースする舞台『沈丁花』。あやめ十八番を主宰する堀越涼が作・演出を務め、山田真歩・松島庄汰・大沢健らが出演する。どんな舞台になるのか。この4名に話を聞いた。

―――今回なぜこの『沈丁花』をこのタイミングで上演しようと思われたのですか?

堀越「以前ご一緒したことがあったCCCreationのプロデューサーさんに『また何かやりませんか』というお話をいただいたんです。普通のプロデュース公演は、脚本のテーマが指定されたり、原作が決まっていたりすることが多いんですけど、今回はありがたいことに『2時間の範囲で自由に書いていい』と言ってくださった。
 何を書こうかなと考えていたときに、令和元年(2019年)の千葉県豪雨災害が起きました。僕は千葉に住んでいるので、えらい目に遭いましてね。家は2日間停電。漫画喫茶に泊まりにいっても、人が溢れかえっていました。実家の方はもっと大変で、5日間停電しました。実家は飲食店をやっているのですが、冷蔵庫も全部止まっちゃって……。すごく大変な思いをしたので、何かこれを舞台にできないのかなというのがきっかけです。記憶が鮮明なうちに、書いてみようと思ったんです」

―――脚本をお読みになられた感想を教えてください。

山田「古典と現代が混じり合う感じがとても面白いなと思いました。(堀越さんが作・演出している)過去作品を見させていただいたんですけど、私が見た作品は和歌のやりとりがテーマになっていたのですが、そういう今ではあまり見られなくなった昔の風物詩や古典作品のテーマが、ちゃんと今に蘇っている感じで、すごく面白かったんですよね。
 今回私が演じる役は、舞台となる温泉旅館の歴史と深く関わっている役。一瞬で時空間が変わるなど、演劇でしかできないことが詰まっているので、これをどうやるんだろうと今からすごく楽しみです」

松島「古き良き日本というのでしょうか、秘湯が舞台ということで、非常に空気感が好きです。ああいうところにいったときに感じる、人恋しさというか寂しさというか……そういうものが脚本にあふれているんですよね。
 役者としては、二人芝居のような掛け合いが多いので、結構ハードルが高いんだろうなと感じています。それに僕の20年後を大沢さんが演じるということで、大沢さんとたくさんお話させていただきたいです。20年という月日がありながらも、1人の人間を2人の俳優が演じるわけですから、どこか同じ匂いを感じさせることができれば。その点はちゃんとやっていきたいですね」

大沢「時空が瞬時に変わるけれど、それらが重なりあっている部分もあって、その具合が面白かったです。それが舞台になったときに、どういう風になるか率直に楽しみですし、興味深く感じますね」

―――同じ役を2人の俳優で演じるという点はいかがですか?

大沢「映像作品だと、子役が出てくるということはよくあると思うんですけど、舞台ではなかなかないと思いますし、僕自身は初めての経験です。2人の人間がやっているけど、同じ人物を描くので、松島さんとのディスカッションは増えてくるでしょうね」

―――本作品の見どころや、今考えている演出プランを教えてください。

堀越「『古典的な雰囲気』というお話をいただいたんですが、これちょっと変な話でして。令和元年の20年前って、そんなに昔じゃないんですよ。なんですけど、作品の中では意図的に言葉をすごく古くしているんです。20年前だけれども、大正や昭和初期ぐらいの言葉遣いで書いているんです。大沢さんの役がいる令和元年は現代語で書いているんですけど、松島さんの役がいる20年前は昭和初期ぐらいの雰囲気なんです。
 そうすることで、時間軸をずらしたいと思っています。20年前だけれども、もっと古い時代にタイムスリップしちゃったような感覚を出したいと思っています。そこは見どころに挙げたいですね。
 あとはコンテンポラリーダンスの要素を入れることに挑戦しています。主にアンサンブルキャストの方に頑張ってもらおうと思うんですけど、森などを人が身体で表現できないかな……と思っています」

―――ちなみにあやめ十八番のように、生演奏ですか?

堀越「はい! 生演奏です! あやめ十八番の相方の吉田能が音楽監督をやってくれます。SE(※効果音のこと)がないので、例えばセミの声が欲しいなと思ったら、みんなで『しゅわしゅわしゅわ……』とやります。いろいろと実験をしながら、音を探していきたいですね」

―――稽古場で楽しみにされていることや、逆に不安に思っていることなどを教えてください。

大沢「不安はやはり、2人の俳優が同じ人物をやることです。どこまで信憑性を求めるべきか……。見ている人に『2人の人がやっている?』と思われないよう、同じ人物のように見えたらなと思います。
 本を読んだとき、古典的な言葉を使っていることもあって、普段の現実とは違う世界を感じたんですよね。楢山節考のような雰囲気もあるし、閉鎖された村ならではの土臭さみたいなものがあって。僕の役は現代を生きる役ですけど、そういう古典的な部分と現代がリンクするのは面白いなと思うので、楽しみに思っています」

松島「僕は、長い一人台詞がありまして……。1人で喋る量としては、多分僕の舞台経験の中では初めてぐらいの長さです。不安もありますが、逆に楽しみでもあるところですね」

山田「脚本を読んだ時の印象なんですけど、音の印象が強くて。真っ暗な中で聞こえてくる雨音や人の声があるんですね。昔の人は村から一生出ないのかな? 声の出し方もくぐもっているのかな?と、音や声のことを稽古の過程で探れるのも面白そうですよね。過去に誘うような音や声をどんなふうに劇空間の中で表現していくのか、見ている人がゾクゾクするような音をみんなでつくるのが楽しみです」

―――観劇を楽しみにされている皆さんに一言お願いします!

大沢「古典的な言葉が入り、何とも言えない土臭い古めかしい雰囲気と現代の雰囲気が混ざっている作品です。混ざっているとはいえ、ある種のリズムみたいなものを感じいただけたら。また、1人の人間を2人の俳優やるというのも演劇の面白さ。1人の人間がやる方法もある中で、あえて2人にしているわけですからね。ありそうでない試みかなと思います」

松島「最近やってた舞台が中止になったので、とにかく僕たちは感染対策をしっかりとして、いいものを届けるために頑張ります。観劇納めにこの作品を選んでいただけるようにしたいですね。ぜひよろしくお願いします!」

山田「コロナでなかなか劇場に行けなくなった方もいるかもしれません。でも舞台って、生でしか見られない感動や衝撃があると思います。今回は生演奏ですし、役者が目の前に立って芝居をしているという空気を感じられる作品になると思うので、ぜひ劇場に足を運んでいただけたらと思います」

堀越「オリジナル脚本で、こうして豪華なキャストの方に集まっていただいて、KAATで上演できるのが嬉しいです。1人も欠けることなく、千秋楽まで走り切りたいなと思います。劇場でお会いできたら嬉しいです」

(取材・文&撮影:五月女菜穂)

プロフィール

山田真歩(やまだ・まほ)
1981年9月29日生まれ、東京都出身。2011年公開の映画『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』で本格的に女優デビュー。主な出演作に、【映画】『SRサイタマノラッパー2女子ラッパー☆傷だらけのライム』、『アレノ』、『すばらしき世界』、【TVドラマ】『救命病棟24』第5シリーズ、『トットちゃん!』、『あなたの番です』、NHK連続テレビ小説『花子とアン』、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』など。

松島庄汰(まつしま・しょうた)
1990年12月26日生まれ、兵庫県出身。2007年「アミューズ30周年全国オーディション」準グランプリ受賞。2009年に上京し、俳優としての活動を開始。主な出演作は、【映画】『勝手にふるえてろ』、【TVドラマ】『仮面ライダードライブ』、『シャーロック』、【舞台】Nana Produce Vol.16『ゼロ番区』、PARCO劇場 オープニング・シリーズ『ゲルニカ』、舞台『染、色』、舞台『アンタッチャブル・ビューティー 〜浪花探偵狂騒曲〜』など。

大沢 健(おおさわ・けん)
1974年12月28日生まれ、東京都出身。俳優。1988年、映画『ぼくらの七日間戦争』で脚光を浴びる。主な出演作に、【TVドラマ】NHK連続テレビ小説『梅ちゃん先生』、連続ドラマW『坂の途中の家』、【映画】『ファンシイダンス』(周防正行監督)、『海辺の映画館 -キネマの玉手箱-』(大林宣彦監督)など。舞台では『王女メディア』(蜷川幸雄 演出)、『ジャンヌ -ノーベル賞作家が暴く 聖女ジャンヌ・ダルクの真実-』、『焼肉ドラゴン』、ミュージカル『ふたり阿国』、「新 かぼちゃといもがら物語」第5弾『神舞の庭』など。近作では、ミュージカル『HOPE』、Dramatico-musical『BLUE RAIN』に出演。重厚な作品から特技の日本舞踊を生かした舞踊劇まで幅広い作品に出演している。

堀越 涼(ほりこし・りょう)
1984年7月1日生まれ。千葉県出身。青山学院大学卒業後、花組芝居に俳優として入座(2021年退団)。2012年に「あやめ十八番(あやめじゅうはちばん)」を旗揚げし、作・演出を務める。歌舞伎、能、浄瑠璃など、さまざまな日本の古典芸能を基礎とし、古典のエッセンスを盗み現代劇の中に昇華することと、現代人の感覚で古典演劇を再構築することの、両面から創作活動を行う。

公演情報

CCCreation Presents 『沈丁花』

日:2022年12月16日(金)~20日(火)
場:KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
料:パンフレット付前売券8,300円
  前売券6,900円
  学割[18歳以下]5,500円
  ※要身分証明証提示(全席指定・税込)
HP:https://www.cccreation.co.jp/
問:CCCreation
  mail:cccreation2019@gmail.com

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