ノックノックスの代表作ともいえる作品を再び その場で生きる植物と、呼吸をするかのような音楽に包まれたユニークな舞台

ノックノックスの代表作ともいえる作品を再び その場で生きる植物と、呼吸をするかのような音楽に包まれたユニークな舞台

 これまでも演劇者は「劇場」という枠の中でいろいろユニークな手法を試みてきたが、その中でも劇作家・演出家のヤストミフルタと植物を扱うガーデナーの柵山直之によるノックノックスは、舞台に沢山の植物を持ち込み、生演奏や独特の視覚効果を用いるという極めてユニークな作品作りを続けているユニットだといえるだろう。
 そんな彼らがこの春に送るのは、ノックノックスの代表作であり、2017年にツアー(東京・名古屋・大阪・沖縄)を敢行した『幸せの標本』。環境の変化に敏感な蜜蜂をモチーフに、それを囲む人々や動物たちが紡ぎ出す物語だという。出演者は5人だけというシンプルな舞台。
 その中で前回公演にも参加した扉座の伴美奈子。AKB48卒業後は舞台を中心に活躍し、ノックノックス作品にも何本か出演している藤田奈那。テレビや映画で活躍する池田努。さらに作・演出を手がけるヤストミフルタに話を聞く。

―――ノックノックスさんは公演の度に俳優さんを集めるスタイルですね。

ヤストミ「メンバーは僕とガーデナーの柵山直之さんの二人だけで、俳優がいないんです。だから自ずとプロデュース公演になりますね」

 ―――この作品は代表作だと伺いました。

ヤストミ「初演したのは2016年です。もともと名古屋で活動をしていましたが、この作品は上京前につくりました。上京後に更なる役を追加してつくりなおし、そのヴァージョンでツアーをしました」

伴「『完全版』と銘打ってましたね。そのツアーに私と藤谷みきさんが出演していたんです」

ヤストミ「内容は変わりませんが、脚本にはずいぶん手を入れました。実はコロナ感染症の影響で以前はできたことができなかったりするんです。例えば役者が客席から登場することとか。一ヶ所変えると連動して変えないといけなくなりますし」

 ―――俳優陣からみて、ノックノックス作品にはどんな印象を持たれていますか。

伴「柵山さんのガーデニングが関わるのが大きな特徴ですね。それはひとつのセットですが、同時に植物も出演者の一部だと思っています。だから植物が変わるとだいぶ作品も変わるでしょう。植物だって生き物ですし上演期間が長くなると成長もしますから。共演の藤谷さんとも話すんですが、植物が話しかけてくる感覚がありますね。そういった面でも楽しみですし、新しい共演者との出会いも楽しみです」

藤田「私は2019年の『人魚姫』から出演しているのですが、この作品は初めてです。でもこれが代表作で愛されている作品だということは、以前から話を聞いていて、興味があったんです。環境のことや命のことを考えさせる作品なのに、重すぎない。終わった後にふわっと頭に入ってくる作品という印象ですね。私が出た『人魚姫』は海洋プラスチックがテーマになっていて、ご覧頂いたお客さんからは『考えるきっかけになった』という声を沢山もらいました。今回も重く深くではなく、考えるきっかけになる作品に仕上げていきたいです」

池田「僕は初めての参加です。寓話的な物語ですよね、確かに環境問題とかも入っているけれど、愛らしい。台本からも愛らしいキャラクターが愛らしい会話をする。子供が観ても通じるなあと思って予定表を見たら、なんと子供が騒いでいい日があるんですね。大体劇場って子供にとって窮屈な場所だから、騒いでいいとは(笑)。初めてですね。子供だって排除せずどこにでも届くように、でも人間を見つめ直すという軸はしっかりしている。観やすそうな作品だと思います」

 ―――書き手としてはどんな気持ちで生み出した作品ですか?

ヤストミ「僕の作品の中で4作品目ですが、それまでも高齢化とか街の不活性とか、社会問題を自分なりに切り取ってきました。今作は、たまたま今回も歌ってくれるAsumiさんが養蜂を体験していて、彼女を通して養蜂家さんと知り合ったのがきっかけでした。ガーデナーの柵山さんともこの作品で出会ったんですが、彼は元々環境問題に意識が高くて、いろいろ話をしながら書き上げました。そういった人との出会いの中から環境について書くようになった感じです。それにこういったモチーフは他に無いものだと思いました。あってもグッと重かったり。だから僕は分かり易く軽く、観た人が後で考えることができるようにと思ってつくっています」

 ―――舞台に持ち込まれる沢山の植物やバンドが入っての生演奏。そしてOHP(オーバー・ヘッド・プロジェクター:会議などでスクリーンに資料を映し出すプロジェクター)を利用した幻燈。どれもアナログな手法を多用されていますね。

ヤストミ「僕は“生”を大事にしています。もともとミュージシャンだったこともあるかも知れませんが、劇作を始めた頃には音楽に俳優が合わせない方がいいな、音楽が合わせればいいのに……と思っていました。でもそれをするなら生演奏でないと実現できません。音が生で背景も“生”となると、もはやデジタル的なものはうまくマッチしないと思って。幻燈はOHPの上にのせた水槽に水やインクを浮かべて視覚効果を作り出す仕掛けですが、同じことは2度とできないんです。でも作品にはそれが合うと思っています」

 ―――他とは違うユニークな舞台になると思いますが、皆さん経験ありますか。

池田「こういった環境でやったことはないですね。雨のシーンで水が大量に降ってくることはありましたが。写真で見ましたが、これほどの植物で埋め尽くす舞台の様子はものすごく綺麗ですね。植物って気を出していると思うんです。そういった気に劇場が埋め尽くされるんだろうなと。きっとそれにも助けられると思ってます。心強いですね」

藤田「私はもともと緊張し易いタイプなんですが、ノックノックス作品で植物に囲まれていると、あまり緊張せず構えずに自然体でいられるんです。舞台に立っているというよりも、その場所で“生きている”。そんな感じがします」

伴「そもそも人間がアナログなので(笑)。でも演劇そのものもアナログですから、植物が参加することも自然ですね。劇場入りするとみんな草木に挨拶していましたから。さらに音楽や幻燈ともセッションする感覚です。舞台にいると日によって音楽の聞こえ方が違うんですが、後から考えると演奏側が変えてくれているからでまさにセッション。植物からのパワーをもらえるのもひとつの武器だと思います」

 ―――では皆さんから観客へのメッセージを頂きましょう。

伴「蜜蜂がいなくなるという現象の中で紡がれる再生の物語でしょうか。この2年間というもの、希望が生まれると潰される、その繰り返しでした。そもそも人同士の接触が駄目だと演劇は成立しませんから、最初の頃はどう対応したらいいかもわからないし、配信が出てきても“それはいったいどうあるべきか”と考えたり。やがて徐々に折り合いをつけていけるようになって今があります。そういった時期に上演する作品として、皆さんにも希望を見せることができると良いなと思います」

池田「僕もコロナ感染症の影響もあり、舞台に出演するのが1年数ヶ月ぶりです。その中でいろいろ考えさせられましたが、この作品で声をかけて頂くことがありがたいです。ヤストミさんの想いを集めて生まれたこの舞台は、今の時期に上演することで更なる重みがあると思います。台本にもエネルギーが感じられ、それが劇場を満たすことと思います。初心に返った気持ちで、心を込めてお届けしたいです」

藤田「楽しみにしていてほしいですし、劇場に来るまでの間の日々も頑張ろうと思ってほしいですね。そうやって期待してきてもらって、満足してもらえる物語ですから。もちろん私達も頑張りますので、大変な日常の中での楽しみにしてほしいです」

ヤストミ「環境問題を描いたとはいえ、紡ぎ出すのは普段の生活なんです。地球に生きる色々な生き物に美しい世界を残すという意識もありますが、それ以前にシンプルに“生きようぜ”というメッセージです。諦めずに今、生きる。そんな力を持った、前向きな作品だと思っています。だからこそこんな大変なことが色々起きている時期にやる意味もあると思います。全ての人ではなくても、多くの人にエネルギーを伝えることができると思います」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

伴 美奈子(ばん・みなこ)
神奈川県出身。桐朋学園演劇科から俳優座を経て1989年に劇団善人会議(現・劇団扉座)に入団。以降、劇団の主要メンバーとして公演の出演するほか、外部の客演も多い。さらに映画やテレビドラマでも活躍している。

藤田奈那(ふじた・なな)
東京都出身。2010年に開催されたAKB48第10期研究生オーディションに合格し、メンバー入り。さらに2015年にはシングル「右足エビデンス」でソロデビューを果たす。2019年にAKB48から卒業。以降は舞台を中心に活躍の場を拡げている。

池田 努(いけだ・つとむ)
神奈川県出身。2000年に開催されたオーディションで最終選考に残り、それをきっかけに俳優としてデビュー。石原プロモーションに所属し数々のテレビドラマや映画に出演。2007年から1年間、俳優修業として活動を停止するが、その後も様々な作品に出演を果たしている。舞台にも2010年の「飛龍伝2010 ラストプリンセス」以降、十数本に出演。さらに画家としての一面も持ち、2016年に初の個展を開催している。昨年4月より舘プロに所属。

ヤストミフルタ(やすとみ・ふるた)
東京都出身の愛知県育ち。専門学校を卒業後、ミュージシャンを経て演劇の世界へ。舞台の脚本を書き、演出し、また自身も俳優として舞台に立つようになる。ケーブルテレビ制作のショートドラマの脚本や舞台作品をいくつか創作したのち、ノックノックスを立ち上げ、以降すべての作品の作・演出を担当。2016年より創作の拠点を愛知から東京へと移し、主に自然環境と家族をテーマに、大人から子どもまで楽しむことのできる舞台作品を精力的に創作している。

公演情報

ノックノックス『幸せの標本』

日:2022年4月23日(土) ~5月1日(日)
場:赤坂レッドシアター
料:前売5,500円 当日6,000円
 (全席指定・税込)
HP:https://knock-knocks.jp/
問:ノックノックス mail:knockknocks.info@gmail.com

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