制作会社を舞台に、“何者でもない”男たちの奮闘を描く おぶちゃ9周年公演『シルバーコレクターズ』 稽古場レポート

制作会社を舞台に、“何者でもない”男たちの奮闘を描く おぶちゃ9周年公演『シルバーコレクターズ』 稽古場レポート

大部恭平の個人企画「おぶちゃ」の9周年記念公演は、男性キャスト9名で描く新作会話劇だ。稽古も佳境に入ったタイミングで、稽古場取材を行った。


本作は、小さな制作会社の社長・新塚京斗と、何者かになりたくて彼のもとに集う男たちの物語。
気の合う仲間たちとともに小さいながらも確実に成果を積み重ね、徐々に仲間を増やしていく京斗。だが、仕事と仲間が増えるにつれてそれぞれの思惑、傷も見えてくる。
作中でも語られるが、タイトルになっている「シルバーコレクター」とは、スポーツなどで実力がありながらも優勝を逃している人やチームのこと。 「1位を逃している人間たち」がどう生きていくか、何をモチベーションにするかという物語は、社会人はもちろん、進路を考える学生など、多くの人に刺さるのではないだろうか。

また、新作だが、おぶちゃがこれまでに上演した『ポエム同好会』の松原、『LALL HOSTEL』の坂間といったキャラクターも登場するため、「あのキャラクターの新たな一面」を知ることができるという楽しみも。もちろん、過去作を見ていない方でも、個性豊かなキャラクターたちが仕事に打ち込む姿に共感しながら楽しめるはずだ。

リアリティのある物語と芝居を全員で作り上げる

客入れとしてラジオ番組のような音声と音楽が流れる中、主人公・京斗(橋本真一)が前説を語り出し、物語がスタートする。
開演前の注意喚起にキャスト陣が合いの手を入れるなど賑やかな雰囲気だが、この時点で一人ひとりが演じるキャラクターの個性や立ち位置が見えるのが面白い。
橋本は、人当たりがよく、ついて行きたくなるリーダーを好演。表情や態度から京斗が真面目で仕事への意欲と愛に満ちた善人であることが伝わり、多くの人から慕われる理由がわかる。

そんな京斗を支える会社の仲間が、松原(真野拓実)、坂間(笹翼)、蒔田(堀田竜成阿部大介)。それぞれ個性的なキャラクターとしてインパクトを放つとともに、気心の知れた仲間らしい掛け合いでも笑いを産んでいる。

さらに、取引先の社員であり京斗の同級生・吉良(鈴木達也)やラジオパーソナリティーのヨモギ(岩佐祐樹)、行きつけのバーの店員・赤嶺(冴木陽)、バーで意気投合して仲間に加わる優善(石賀和輝)など、仕事への想いや夢を共有できる仲間達が加わっていく。

「こんな仲間がいたら」と思える眩しさだが、物語が進むにつれ、友人だから生じる甘さ、仕事仲間への複雑な思いなど、シビアな現実も見えてくる。京斗との関係性の違い、仕事に対する向き合い方の差から起きるすれ違いのリアルさ、そこから一人ひとりが選ぶ道も本作の見どころと言えるだろう。

京斗の元に集う仲間達とは違う立場におり、いい意味での異質感を放っているのが、冨岡健翔演じる興梠だ。ラストまで見るとわかる伏線もあるため、一度見た後で視点や注目するキャラクターを変えてみたくなるはずだ。

休憩中はもちろん、場面通しが終わった後の確認中もわいわいと盛り上がっており、どこまでが役でどこからが本人たちかわからなくなるような感覚があった。
その賑やかな雰囲気を大切にしつつ、大部からはセリフや言い回しといった細やかな部分にまで演出が入る。リアルな人間関係を描く会話劇だからこそ、演出も各々が体験したことのある感覚をもとに作っていた。見ている側も「このノリ、わかる」と共感し、「こういう同僚・友達いる」と笑えるのではないだろうか。

大部が主導するだけでなく、冨岡が観客席からの見え方や芝居の印象について意見を出したり、堀田や岩佐が動線について提案したりすることも。
それを受けて橋本が「この場面の感情はこうだもんね」と解釈を共有する場面や、各自が自分の動きや立ち位置を確認してアイデアを出す場面もあり、キャスト陣が主体性を持って作品を深めているのが印象的だった。

役の設定に合わせた笹のアドリブ、作中で披露される真野のポエムには、大部はもちろんキャスト陣やスタッフからも大きな笑いが起き、全員が作品を楽しんでいる様子が伝わってくる。その空気が作中の関係性にもうまく作用しているのだろうと感じた。

演劇の面白さに触れてもらえる、パワーのある作品になるはず

稽古の合間に、主演を務める橋本に本作の見所や意気込みを聞いた。

――和気あいあいとした様子が伝わりますが、稽古場エピソードなどはありますか?

ずっと男子校のような雰囲気で、しょうもないことで盛り上がっています。誰かが止めるわけでもなく、大部さんも入ってきて(笑)。今回はネオスレッドという制作会社の仲間達の話で、学生時代の同級生や後輩もいるという関係性なので、普段の空気が作品に繋がっている気がします。ネオスレッドという会社名も雑談する中で「社名があったほうがいいよね」ということになって、みんなで案を出して決めました。短期間で密度濃く盛り上げて、楽しくやれていると感じます。

――本作の見どころはいかがでしょう。

(大部の「真一くんに相談したことから構想ができ、みんなと話しながら書いた」という言葉を受けて)僕ら役者がプロの脚本家の力になれているかと言ったら、そんなに大したことはできていません。
ただ、当て書きじゃないけど僕らの生の感覚や言葉、大部さん自身がリアルタイムで感じていることなどを物語に落とし込んでくださっている。お芝居だけど、生きているセリフや感情があると感じます。

――改めて、開幕を前にした今の意気込みを教えてください。

僕自身出ずっぱりなこともあって、あまり客観視できていませんでした。作品が持つパワーや意義などをしっかり咀嚼できるようになったのは数日前から。届ける側の心持ちも整理されてきて、ちゃんといい作品になる、誰かの心に届いてほしいと思っています。

――最後に、読者の方へのメッセージをお願いします。

演劇は無数に作品があるので、出会わず、知らないまま終わっていくものもたくさんあると思っています。それぞれの好みもありますが、出会ってもらえたら「面白いな」と思ってもらえる演劇になっていると思います。
会話劇や演劇を初めて観た人が「こんなもんな」と思ったら、その人にとっての観劇人生はストップしてしまう気がしていて。役者としてはそうなってほしくないといつも思っています。
この作品は、会話劇や演劇、役者、脚本、演出など、面白いと思えるフックが詰まっていると思うので、興味があったら観ていただけたら。きっと人生の可能性がちょっと広がると思います。

(文・吉田 沙奈)

公演概要

シルバーコレクターズ
2026年9月17日(木)~9月27日(日)
新宿シアタートップス

作・演出:大部恭平

出演:
橋本真一
真野拓実
岩佐祐樹
笹翼
石賀和輝
堀田竜成(21日、26日以外出演)/阿部大介(21日、26日)出演
鈴木達也
冴木陽
冨岡健翔

舞台監督・美術:宮島カズキ
運搬:グランディング
音楽:IKE
音響:前田マサヒロ
照明プラン:大塚之英(大塚組)
照明オペ:二川亜沙美(大塚組)
宣伝美術:株山
メイク:fuuko
演出助手:藤田瀬奈
演出補:北館英奈
票券:アンデム
制作:ofcha.biz
制作協力:野元綾希子
映像:コヤムービー
スチール:高橋優太
Web:鈴木莉菜
衣装:片岡翔
衣装進行:姫野美咲
ヘアメイク:金澤佑奈、ERIKA MIURA
メイキング:小野塚圭太

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