MAO WORKS 04 「不在の彼らはそこにいる」劇評 何ものでもない若者が、存在を主張する。普遍的でありながら極めて現代的な前衛劇

MAO WORKS 04 「不在の彼らはそこにいる」劇評 何ものでもない若者が、存在を主張する。普遍的でありながら極めて現代的な前衛劇

9月19日、高田馬場ラピネストでMAO WORKSの「不在の彼らはそこにいる」を観た。MAO WORKSは2023年に結成された俳優の田村真央が作・演出を手がける演劇ユニット。メンバーには白神冴京小谷俊輔がいる。今作で4作目となる意欲作だ。田村真央は1998年生まれの26歳。出演者にはメンバーのほかに楠友葉喜田裕也野村今日子が加わった。全員20代〜30代の若手ばかりだ。

ポーランドの前衛演劇家、タデウシュ・カントルの「死の教室」からインスパイアされた本作には、明解なストーリーはない。舞台上手には、小学校の教室にあるような机と椅子があり、そこに座っているのはグレーの髪で皺が刻まれた男女の人形だ。
冒頭、学生風の姿をした田村真央が現れ、その人形を見て「誰かが私の席に座ってるんですけど」と訴える。よく見るとその人形の顔はどこか自分に似ている。田村に続いて、白塗りの男女5人が教室にやってくるが皆、自分の席にいる人形を容赦なくゴミ箱に投げ入れ、そこに座ってしまう。

黒いベールをつけた妊婦もいれば、体に自動車のハンドルをつけている男、窓枠をまとっている女、黒いスーツの男など姿も様々だ。
田村だけは人形をどけず、その傍に立っていることを選んだ。
そこから始まる彼らの語る「アカルイミライ」はどこかダークだ。音楽もそれに呼応するように一貫して不穏な気配を放っている。音楽に関して言えば赤ちゃん誕生を祝う歌も短調なのだ。

そして田村は席に着かない限り、そこにいるという存在を認めてもらえないようだ。この椅子取りゲームが何を意味するのか?田村は、最終的には座るのか?そんなことを考えながら観ていくうちに禅問答のような先生不在の授業は進む。
「正しい言葉とは?」「正しさとは」の答えに「正しさとは関係性によって変化する」など芯を喰ったような言葉が出るので、聞き逃せない。

ここまで観て一見難解なように感じるかも知れない。でも50半ばの筆者には、どこか懐かしく劇中のセリフにもあったように「いつか来た道」のように思えた。かつての友人たちに再会したような不思議な感覚だ。

誰もが通る道である「まだ何ものでもない」20 代。
「未来」は莫大にある時間でしかないのに「明るいものだ」と勝手に決めつけられて違和感があった。存在を認めてもらえない葛藤や、漠然とした不安、高みに上りたいという欲望、その逆に自分に居心地の良い世界から出たくないという思い、モンスターを産み出してしまうのではないかという出産や育児への怖れ、老いや死に対する根源的な恐怖。
通過してしまえばそれほどでもない事柄の数々が不安で不可解だった。
共感できるところは多々あったが、全てではない。円は同じ軌道を廻っているようで、時代に応じて確実に変化しているのだ。そう感じさせるハッとする言葉やシーンもあった。太古の昔から続く普遍的な若者の姿を描きながら、今、実際に令和7年を生きる若者の姿を描いているのだ。今、この時に観るべき舞台だと思った。

物語終盤で舞台背後のスクリーンが外れ、壁一面の鏡が現れる。役者はその鏡に向かって老けメイクをするのだが、同時にうっすらと客席に座る私たち観客の姿が映る。そこで私は、どちらかというと、もう人形側の人間なのだと気づく。でも別人ではない。20代の頃に感じた今の自分とは全く違う心を持った老人ではなく、地続きなのだ。同時に20代の感覚も持ち合わせている。終劇後、私は彼らのその後の物語が観たいと思った。そう考えると本作は序章なのだ。印象的な幕開けの物語だ。彼らが、これからどのように変化していくのか、それともいかないのか楽しみだ。

最後に特筆したいのは、音の心地よさとグルーヴ感だ。役者の声質や抑揚が、当たり前かもしれないがはっきりと聞き取りやすく、とても耳に心地よい。それが言葉を際立たせていると感じる。突然挟み込まれるラップの導入も自然だ。効果音の音質も素晴らしく、特に青い箱の中で暮らす男が箱の外に出て中を覗き込むシーンなどは、地下の劇場にいながら明るい日差しを感じたほどだ。目をつぶっていても音楽的に優れた舞台だと感じる。
ラップもスクリーンに映されるリリックもポップで、これまでにない前衛劇を感じた。

途中クスッと笑えてしまうようなコミカルなシーンもあったことも伝えたい。周りの空気を読んで笑わなかったが、そういう観客もいたのではないだろうか。難解な前衛劇だと構えずに多くの人に見て欲しい。そして世代ごとの感想を聞きたい。

(ライター/新井鏡子)

公演概要

MAO WORKS 04 「不在の彼らはそこにいる」
期間:2025年9月19日(金)~9月21日(日)
会場:高田馬場ラビネスト

作・演出:田村真央

■出演
田村真央
小谷俊輔
白神冴京
楠友葉
喜田裕也(はちどり空港)
野村今日子(フクダ&Co.)

■スタッフ
舞台監督:しますえ茶髪(劇団美辞女)
舞台美術:藤原李菜
演出助手:田中美紗樹
音響:白神冴京
照明:上原可琳
宣伝美術:吉谷弦
制作:安藤櫂

■協力
フクダ&Co.

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