【ゲネプロレポート】幻想奇譚のその先を描く劇団ヅカ★ガール10周年公演『蛇姫花伝』

【ゲネプロレポート】幻想奇譚のその先を描く劇団ヅカ★ガール10周年公演『蛇姫花伝』

 舞台『蛇姫花伝』が、10月18日(水) にシアターグリーンBIG TREE THEATER にて開幕した。これに先立ち、18日の公演前に行われたゲネプロの様子をレポートする。鏡と剣の2チーム制で、この日は鏡チームの俳優で上演された。

『蛇姫花伝』は、劇団ヅカ★ガールの10周年公演。2017年に東京バビロン演劇祭でオーディエンス賞を受賞した『ハイヌウェレの骸』を大幅に加筆・再構成・再演出した作品になる。

 ヅカ★ガールは上智大学劇団リトルスクエアより派生した劇団。主人公や主要人物の大半を女性キャラクターで構成した演劇作品を創作している。主宰で脚本・演出を務める飯塚未生は、女が描く女たちの物語を創作することを信条としている。

 初演となった『ハイヌウェレの骸』のハイヌウェレとは、食物起源の神話に登場する女神の名前。殺されることにより、その屍体から五穀豊穣がもたらされるというのが、日本神話にもみられるハイヌウェレ型神話の典型だ。

 『蛇姫花伝』は泉鏡花の『夜叉ヶ池』や、各地に伝わる蛇姫伝説を思わせる生贄の物語が主軸になっている。千年の過去と未来を描くファンタジー大作だ。無垢な娘が生贄になるという自己犠牲の物語は、芝居の題材として昔から人々の涙を誘ってきたが、ヅカ★ガールの描く怪異譚はそれにとどまらない。なぜ犠牲となるのはいつも娘なのかと問いかける。
社会の繁栄のために、生贄となるのは常に弱い立場の者という、現代まで通じる構図に気付かされる。

 とはいえ、あくまで舞台は美しい。女優達が織りなす耽美な世界に日常を忘れて没入できる。大正ロマンや和洋折衷を思わせる着物地の衣装や、シフォン生地をたっぷり使った天女のような衣装も、ディテールまで美麗そのもの。蛇姫たちが袖を翻しながら踊るダンスや、詩のように美しいセリフも堪能して欲しい。歌舞伎や浪曲を思わせる節のあるセリフ回しも、独特な世界観を醸し出している。

 ストーリーは太古の昔にさかのぼる。その土地では「鏡池」の蛇神の元に、若い娘を嫁がせることにより、水害などの災厄を退けることができるという伝説があった。その忌わしい風習を、自らの命と引き換えに途切れさせたのが伝説の巫女・夜叉だった。これが千年前の物語。この伝説は旅の一座、烏丸座の3人によって語られる。

 そして現在、夜叉の生まれ変わりとされる巫女・むらさきの元に、不思議な旅人ナユタが訪れる。ここからストーリーは大きく動き出す。
現代では人身御供の習慣はなくなったが、かつて犠牲となった娘たちの魂を鎮めるため「夜叉祭」が行われていた。むらさきには、金色の目を持つ妹のるりがいた。

 その祭祀を仕切る弥剣ヶ峰(みつるぎがみね)一族の女当主、漣は蛇の鱗のようなアザができる病に冒されていた。鏡池の大蛇を鎮めたという英雄を先祖に持ち、名家と誉高い一族には忌わしい秘密があった…。この一族の跡目争いに、むらさきとるりの姉妹は巻き込まれていく。

物語を通してナユタは、むらさきに繰り返し問いかける「どう生きたいのか?」。

 鏡チームのナユタは青海アキ。謎めいた流浪の民を魅力的に演じている。巫女むらさき役の妃咲歩美と、妹るり役の谷尻まりあ(鏡チーム)も、世間離れした巫女と異形の娘を魅力的に演じている。

 弥剣ヶ峰漣の長女、弥剣ヶ峰周(あまね)役の来栖梨紗も勝気な美女として印象的だ。その妹、咲耶(小林桜子)は対照的に聡明で欲のない性格。唯一の男性キャラクター伊佐八(別當勝輝)は、不思議な色気を放つ。

 物語は終盤に向けて怒涛の展開をみせる。神殺しの異名を持つナユタが、この集落を訪れた本当の目的が明かされる。むらさきとるりの運命は?常に物語の語り部として、狂言回しの役割を担ってきた烏丸一座がキーマンとなっていることにも注目したい。さらに弥剣ヶ峰一族に仕える従者(護り狐)のシロガネ、コクヨウも重要な使命を担う。そして、弥剣ヶ峰邸や鏡池を徘徊する赤子のようで妖女のような…弥剣ヶ峰涼の真意とは。

 弥剣ヶ峰家を頂点とする集落の民は、時に狂信的になるが、共同体の埒外で生きる芸人や旅人は俯瞰で物事を見ることができる。
混沌と激情渦巻く物語で、ナユタは常に飄々とした佇まいを保ちながら葛藤する。共同体の中から見ると異形のものが、時に真実を語るのも必見だ。

 幻想絵巻の結末は、鏡池が虹色に輝く時。何が起こるのかは劇場で目撃して欲しい。22日まで。

(写真・取材・文/新井鏡子)

公演情報

ヅカ★ガール10周年公演『蛇姫花伝』

<期間>
2023年10月18日 (水) ~2023年10月22日 (日)

<公演日・開演時間>
2023年
10月18日(水)19:00《鏡》
10月19日(木)19:00《剣》
10月20日(金)14:00《剣》/19:00《鏡》
10月21日(土)13:30《剣》/18:30《鏡》
10月22日(日)12:00《鏡》/16:30《剣》

【開場時間】
貴族席:40分前開場
一般席・Z席:30分前開場

【上演時間】
125-135分程度

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