【公演レポート】朗読会「PLANET KENJI」 出演:竹中直人 / 伊藤健太郎 / 佐藤江梨子

【公演レポート】朗読会「PLANET KENJI」 出演:竹中直人 / 伊藤健太郎 / 佐藤江梨子

宮沢賢治の名作を元に、島田健司が脚本、ロジャー・パルバースが演出を手掛けた朗読会『Planet KENJI』が、2024年1月14日(土)~15日(日)に銀座・博品館劇場で上演された。

出演は竹中直人、伊藤健太郎、佐藤江梨子の3名。

冒頭で竹中が “銀河鉄道快速 イーハトーブ行き” 乗車に関するアナウンスをし、不思議な世界へと観客を誘う。

「イーハトーブ」とは、宮沢賢治が生まれ育った岩手の地をモチーフに作り出した理想郷のことだ。
豊かで厳しい自然の中で育まれた感性を持って数多くの名作を生み出した賢治。
美しい言葉で紡がれた物語が、竹中と伊藤、佐藤による朗読とチェロの生演奏でイキイキと描き出されていた。

物語は、伊藤演じる青年が不思議な列車で目を覚ますところから始まる。

南十字星やさそり座の停車場など、様々な駅に向かう道中で『注文の多い料理店』、『オツベルと象』、『インドラの網』、『よだかの星』、『雨ニモマケズ』の朗読が披露されるスタイルで進んでいく。

人間かどうかわからない乗客たちや風景が登場し、現実と幻想が交錯するような感覚が魅力的だ。
繰り返し演奏される「星めぐりの歌」の力もあって、あっという間に『Planet KENJI』の世界に引き込まれた。

まずは誰もが知っているだろう『雨ニモマケズ』。

竹中がどっしりと落ち着いた声で語り、この詩が持つ力強さを丁寧に表現する。佐藤も芯の通った語り口で一つひとつの言葉を大切に紡ぎ、短い詩ながら非常に強い印象を残した。

ここがどこで自分が誰か思い出せない青年は、突然目の前で始まる朗読に戸惑いながらだんだんと状況に順応していく。朗読の合間に交わされる会話に登場したキーワードが賢治の作品とリンクする構図が楽しい。照明などは決して派手にはせず、言葉と音楽によって想像力を刺激され、美しい星空や物語が鮮明に浮かび上がってくる。

『よだかの星』では、理不尽な差別や孤独に苦しむよだかを佐藤が演じた。

仲間たちに嫌われ、鷹に殺されることに怯えるよだかが、自分もたくさんの虫を殺して生きていることに気付き、自分の居場所を探して夜空を彷徨う。佐藤はそのいじらしさを魅力的に演じ、よだかの切ない運命を美しく描いた。

よだかをいじめる鷹や様々な鳥、ナレーションを担当したのは竹中。声色を様々に変え、佐藤が演じるよだかを引き立てている。また、朗読で聴くことで、賢治が紡ぐ言葉の美しさ、リズムの面白さが改めて感じられた。

続いては、雰囲気を変え、『注文の多い料理店』。

山の中で不思議なレストランを見つけた二人の紳士を演じる伊藤と竹中の軽やかな掛け合いが楽しい。二人の呑気な会話と、ドアに書かれている様々な“注文”を読み上げる佐藤の凛とした声の対比に、ストーリーを知っていてもハラハラドキドキしてしまう。

また、紳士たちが事態に気付いたところで登場する山猫の子分も伊藤と竹中が演じた。

恐ろしい状況に震えてパニックになる紳士たちと、詰めの甘い親分に毒付きながら紳士たちを追い詰める子分を巧みに演じ分ける様子が見事だ。恐ろしいがユーモラスなところもある子分の芝居はどこか可愛らしく、ドキドキしながらも笑ってしまう。

『オツベルと象』は、稲扱器械が動く時の「のんのんのんのん」をはじめとする擬音や、台詞回しのリズムが心地よい。

3人が次々にオツベルや象、ナレーションを演じることでシーンごとに印象が変化し、面白さにつながっている。白象を助けるために立ち上がる象たち、それを迎え撃とうとするオツベル、早々に降参する農民たちといった緊迫感あるシーンでは3人の声の重なりによって迫力を生み出しており、グッと盛り上がりを見せていた。

青年が迷い込んだ列車が終点のイーハトーブに近付き、幻想的な風景や青年の心情が描かれる中で「ちょっとした寄り道」として語られるのが『インドラの網』。

主人公が天の世界に入り込む物語で、様々な鉱物や宗教、宇宙など、賢治が大切にしたモチーフが多数登場し、美しく幻想的な描写が広がる。賢治の感性が存分に発揮された独特な世界観の作品だが、3人の柔らかい語りによってスッと耳に入ってくる。

ラストは朗読された物語たちをつなぎ、不思議な温かさとどこかノスタルジックな余韻を残す。冒頭のアナウンスにあったように、宮沢賢治の作品を知っている方や好きな方はもちろん、よく知らない方や「宮沢賢治は難解でよくわからない」という方も楽しく旅をできる作品だと感じた。

劇場公演は終了しているが、1月21日(日)23:59まで配信が行われており、配信チケットは21日(日)21:00まで販売されている。
この機会に、賢治が描き出したユニークで幻想的な世界に触れてみてはどうだろうか。

(文・撮影:吉田沙奈)

朗読会「PLANET KENJI」

およそ125年前に、地球規模の作家が日本の東北地方で生まれました。
ユニークな世界観をクリエイトした宮沢賢治、
2024年1月PLANET KENJIが東京の舞台の上に現れます!
「注文の多い料理店」「オツベルと象」「インドラの網」「よだかの星」「雨ニモマケズ」

◇アフタートーク「21世紀宮沢賢治宇宙の旅」
各公演後アフタートークにて演出 ロジャー氏と出演者が宮沢賢治について語ります。

出演
竹中直人 / 伊藤健太郎 / 佐藤江梨子

原作:宮沢賢治
演出:ロジャー・パルバース

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