子どもが欲しい。あなたを母体として
劇団5454(ランドリー)の2023年秋公演『結晶』が、11月10日~19日東京・赤坂RED/THEATERにて上演される。
劇団5454は脚本家、演出家の春陽漁介を主宰として、2012年4月旗揚げ。以来数々の話題作を創り続け、10周年となった昨年は新体制のもと青春を描いた群像劇『ビギナー♀』を上演し、演出家コンクールの優秀賞に選ばれるなど、躍進を続けている。
そんな新体制1年目の集大成として上演されるのが、「出産」をテーマにした新作『結晶』だ。
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未来設定が実は日常につながっている
舞台は、⽣殖科学の発展により、卵⼦と精⼦を使わない受精の成功が報告されてから1世紀が過ぎようとしている頃。「ベイビーラボ」と呼ばれる人工⼦宮施設が各地に作られ、⺟体ではなく、透明なタマゴから新⽣児が誕⽣するのが当たり前になった時代……という斬新な世界観のなか、あくまでも劇団5454らしいコメディベースの会話劇で、命、家族の絆、親子、兄弟姉妹の情愛、などなどが描かれていく。
そんなあらすじを聞いた刹那「どこからこういう設定やテーマを思いつくんだろう…」と驚く思いを抱いたその気持ちのまま、本番まで約10日となった都内の稽古場を訪ねた。
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一歩足を踏み入れた瞬間から、明るい雰囲気が立ち上ってくるのは、「劇団5454」の常の稽古場と全く変わらない。
今回の作品のテーマは相当シリアス寄り?とちょっと構えていたものが、ふっと軽くなったと思う間もなく稽古があまりにもさりげなくスタートして、こちらがわーわー!と慌てたほど。スタンバイから稽古に入る流れが実にナチュラルだ。
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本番の舞台には中央に今作のテーマの象徴となるモチーフが設置され、その周りに平舞台より高くなる位置があり、椅子がおそらく様々なものとして使われていくのだろうな…と感じさせるなか、まず始まったのはキャスト全員が出演するオープニングシーン。
私⽴ダリア⼩学校教諭の古市真檎(ふるいちしんご)と、広告代理店勤務の杉本柚宇(すぎもとゆう)の結婚披露パーティに柚宇の兄の杉本桃⾺(すぎもととうま)をはじめ、全員が集まっている。
この世界観では「結婚」に関する考え方も変わっていて、真檎が柚宇に結婚指輪をはめる場面が、すでに古式ゆかしいことになっているんだ…をはじめ、キャストたちが語る言葉から、作品の設定や世界観の重要なポイントが語られていく。賑やかなパーティのようでいて相当に情報量の多い場面で、この舞台が、真檎と柚宇に子供が生まれるまでの物語だということまでがわかってくる。
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「劇団5454」が常にこだわりを持っている音楽面の力が早くも発揮されていて、Shinichiro Ozawaのどこか神秘的なメロディーが効果的だが、それだけに「マイクなしでいくので、台詞がつぶれないようにしっかり言って欲しい」という春陽の指摘に、確かにここの台詞は一つひとつものすごく重要だな…と改めて感じた。
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そこから桃馬と柚宇兄妹が交わす会話のシーンへ。桃馬役が窪⽥道聡、柚宇役が森島縁の劇団5454メンバーが兄妹を演じているだけに、披露パーティに対して、また結婚観、子供をどう育てるか?についての考え方の違いで、二人が揉めていく会話の間が絶妙。森島の不思議なほど観る者をホッとさせる温かな個性と、窪田の一見つっけんどんなようで徹底的に冷たくは決してならない芝居力が重なり「もう絶縁だ」的な会話にまで発展する兄妹げんかが、たぶんそうはならないなと感じさせる余韻がある。
そのやりとりを春陽は「兄妹感が出ているのがいい」と言いつつ、窪田の台詞の語尾に「全部(笑)がついているように感じる、ここはもっとデリカシーなく、妹の言っている意味が全くわからない、を出して欲しい」という注文が。なるほど!と思うものの、「窪田さんのその芝居好きなんですが…」と、言う訳にはいかない見学者としては黙って推移を見つめていると、二人のすれ違いにセットや出道具の椅子で高さを使った演出がつき、その動きからみるみる演出意図がわかりやすくなっていくのに目を見張った。
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続いて、真檎の職場のダリア小学校のシーン。
栗原栗之介(くりはらくりのすけ)役の⾼品雄基と、嶋⽥柑奈(しまだかんな)役の榊⽊並、そして真檎役の真辺幸星の三人が、生徒たちの性格を現在ノーマルになっている出産の形態のなかでも、様々なオプション(例えば身長、性格、才能などを選べる)をつけたエリートの子供たちはやはり教えていて違う、など、よく聞いているとかなりシビアな会話が、掃除をしながら繰り返されていく。
真檎役の真辺幸星が持っているとても素朴な雰囲気が、選択肢があまりにも増えてしまった時代だからこそ、原点回帰の出産に憧れを抱いてる真檎の気持ちを伝えてくるし、オプション料金がいくらかかってもいいからプレミアムなエリートの子供を持ちたいと思っている柑奈を、榊がコロコロと変わる会話のトーンで表現して、相変わらずこの人の芝居は群を抜いて上手い。双方の思いを聞き役に回りつつ、ちゃんとわかっている栗之介を演じる⾼品が醸し出す良い人感とのトライアングルも面白い。
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ただ、三人が三人とも達者なだけに、春陽からは「ちょっと安心感がありすぎる。意見の違いによる争いがもう少し出て欲しい」という要望が出て、ここでも高さを使った演出がついていく。
そのなかで、真辺からの「いつもと動きが違ったんですが」との問いに、春陽が「動きの入れ替えは自由でいいから」と答えると「えっ?本当に?」と訊き返した高品に「1番動き変わってたよ!」と春陽が返して爆笑が沸き起こる。俳優たちが、本当にいまこの場で役に生きているんだなぁ、としみじみと感じていたところで、せっかく掃除用具を持っているから、言い争いに使えないかとの試行錯誤があり、視覚的にも場面が追求されていることがよくわかった。
そこから、柚宇の友人で、ベイビーラボで働く横井夏梅(よこいなつめ)に、真檎と柚宇がベイビーラボのシステムについての説明を聞くシーンが。ここで真檎が母体出産という選択肢はないか…と口にして、母体にも子供にも命にかかわることだとわかって言っているのか?と夏梅が顔色を変えて詰め寄る場面が。作品にとっても重要だし、現在「出産」という行為で、どうしても女性が引き受けることになるリスクが明白にされていくようで、観ていてもつい力が入る。
そんなシーンだけに、はじめにこの時代では当たり前のベイビーラボにかかる費用の説明の辺りは「もう少し楽しそうに」という春陽の視点が鋭い。それほど夏梅役の岸⽥百波が、ふつふつと怒りを感じていく流れに説得力があったし、「その怒りがブレないのは素晴らしい!」という春陽の賛辞にも納得だった。
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一転、ひばり園という保育ラボで育った鷹野苺佳(たかのいちか)と、⻑壁くるみ(おさかべくるみ)の会話へ。同じ保育ラボで育った二人は、いま別々の道を歩んでいることがわかってきて、苺佳役の神⽥莉緒⾹のうちに秘めたものを感じさせる陰影の深い演技と、くるみ役の及川詩乃の、やっと再会できたのに、もっと話したい、というもどかしさの表出が強いコントラストを感じさせる。
「二人の動きと、関係性がとてもわかりやすい」と春陽も評価しつつ、常に苺佳が高みにいて、くるみが平場にいる会話のなかで「くるみも昇ることにチャレンジしても良い」とのサジェッションがあり、やはりこの作品は役者がいる高さが相当重要な要素になると感じさせてくれた。
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そのまま苺佳が、自分が生まれたベイビーラボを訪ね、職員の鷹野杏平(たかのきょうへい)と会話するシーンへ。
ベイビーラボで生まれ保育ラボで育った苺佳と、ベイビーラボでもとりわけ優秀な職員である杏平の佐野剛にとって、この時代のシステムそのもの、命を生み出すことに対する考え方や理想は、ある意味当然ながら大きく異なっていて、それぞれの思いが根底のところですれ違う様が悲しい。
春陽も「とても良い、チェックするところがない」と思わず言ったほどで、これはそのまま現代にもつながっていく問題が内包されている場面だな、と感じさせられた。
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その苺佳とくるみが育った保育ラボ「ひばり園」を柚宇が訪ねるシーンへ。いまは「ひばり園」で職員をしているくるみは、苺佳の様子を案じて園長の原⽥橘⽲(はらだきっか)に相談するが、橘⽲は「私はお母さんじゃない」と諄々と説くもののくるみは納得できない。
一方、「ひばり園」は元々真檎が育ったところでもあり、橘⽲から真檎の幼少期の話を聞いた柚宇は、何故真檎が「母体出産」を考えているのか?を理解していく。
母体出産だから絆が深く人工子宮だから浅いということではない、母体出産を選べない人もいる、橘⽲の言葉を阿澄佳奈が的確に伝えてくれるのがとても印象的だった。
春陽からも「メッセージが腑に落ちる説得力を感じる。伝えたいことが整理できているし、台詞もみんなしっかり言えているので、稽古を重ねて感情的に違うというところが見つかったら、また詰めていけばいい」という、何故もう出来上がっているようにさえ思える場面の稽古を重ねるのか?の根本が語られて、芝居って心だな、深いな…と改めて感じさせられた。
この場面は紅茶とクッキーがふるまわれながらの会話なのだが「ちょっと(食べたり飲んだりが)忙しすぎる、もっとゆっくりでいいよ」という指摘に、心当たりが大いにあったらしいキャストたちが賑やかに笑って、場が和んだ。
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そして、稽古見学のラストは真檎と、システムエンジニアで、柑奈とひょんなことからパートナーとなる渡辺吏桜との会話の場面。
吏桜の台詞には独特の節回しがあって、演じる淺川眞來にもちょっと戯画化された未来人のようなイメージがあり、自説を曲げない柑奈の榊のナチュラルで説得力のある台詞とのかみ合わなさが面白い。
こうした回想シーンが無理なくインサートされながら、真檎との会話もよどみない構成が、ライティングが入る舞台でどう見えるのかに興味が高まった。
春陽も「真檎と吏桜の関係性はとてもよくなっているので、吏桜が喜びで熱を帯びていく様子に対して、真檎のキャラクターは残しつつ対吏桜としては、もう少し熱を下げた方がいい」という緻密な指摘があって、あぁ、やっぱり芝居って深い……とこの日、何度思ったかわからない気持ちに満たされた。
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全体に、多くの役柄の関係性が、必ずどこかでつながっている脚本同様に、前の場面から次の場面のキャストが重なって登場したり、過去の場面がインサートされたりと言った流れが途切れない演出の断片が感じられ、通して観た時に、飛び飛びに各場面を見せてもらった今日とは、印象がどれほど変わり、深まるのだろうとドキドキさせられる稽古見学になった。そんな、一見日常からはかけ離れているように感じる設定が、逆に日常と見事に地続きであることが伝わってくるドラマが、どう完成するのだろうかを想像しながら、スタッフ、キャストが躍動する稽古場を後にした。
「劇団5454」が理念とする「自分と他人をもっと大切に出来る『新たな視点』を、お客様と共に探しています」が、きっとより強く感じられる舞台が生まれることだろう。不思議なほど難しくなく、笑いも多い物語から生まれるそんな「新たな視点」を多くの人に赤坂RED/THEATERの濃密な空間で共有して欲しい。
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(取材・文・撮影/橘涼香)
劇団5454 2023年秋公演『結晶』
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公演期間:2023年11月10日(金)~19日(日)
劇場:赤坂RED/THEATER
チケット
前売:5,000円
当日:5,500円
車椅子席:5,000円(お付添様1名様まで無料)※団体のみ取り扱い
オープン割価格:4,500円(11月10日、11日公演のみ)
(全席指定・税込)
※オープン割価格(500円引き)は前売、当日、車椅子席すべて共通
※未就学児童はご入場いただけません
◇出演
森島縁
榊木並
窪田道聡
及川詩乃
(以上劇団5454)
淺川眞來
阿澄佳奈
神田莉緒香(ストロボミュージック)
岸田百波
佐野剛(江古田のガールズ)
高品雄基
真辺幸星
スタッフ
作・演出:春陽漁介
音楽:Shinichiro Ozawa
舞台監督:住知三郎
舞台美術:愛知康子
照明:安永瞬
音響:游也(stray sound)
演出助手:柴田ありす
宣伝美術・デザイナー:横山真理乃
マネージャー:堀萌々子
スチール撮影:滝沢たきお
配信・撮影:TWO-FACE
票券:米田基(株式会社style office)・森島縁
企画・制作: 劇団5454
主催:株式会社LLR
協力:株式会社舞夢プロ ロングランプランニング株式会社 株式会社style office
81プロデュース 江古田のガールズ ストロボミュージック ハイイロ
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What’s 5454
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「5454」と書いて「ランドリー」
脚本家、演出家の春陽漁介を主宰として、2012年4月旗揚げ。
青空の下になびいている真っ白いTシャツのように
日々当たり前に見えている風景をリフレッシュさせたい
日常の汚れた気分を“ゴシゴシ(5454)と洗い流したい”
というのが劇団名の由来。
作風は、人間の心理的な部分から作られるヒューマンコメディー。
俳優陣は、自然な会話劇を得意としながらも、
日常のどこかで見たことがあるような人間をデフォルメさせたキャラ作りに定評がある。
劇団外でも幅広く活躍中。
全ての作品にオリジナル楽曲を起用をし、
台詞とメロディーが融合した、ポエトリーリーディングが作品の価値を高めている。
また、舞台美術は、抽象的でシンプルな作品が多く、
照明の演出により映画さながらの展開スピードが強み。
第二回公演「ト音」は、劇作家協会の第19回新人戯曲賞の最終選考に選ばれ、
同作は高校演劇を中心に、各地で上演されて続けている。
2015年より大阪公演をスタートさせ、総動員1500名を突破。
2017年より大分公演をスタートさせ、総動員2000名を突破。
2022年に俳優部を解体し、主にプロデュースの公演形態で再始動。
現在は、劇団員7名で活動中。
「自分の心を守る、脳の仕事」
毎日のように見聞きする、
ありふれた事象を徹底的に掘り下げていくと、
無意識のうちに受け入れている感覚に出会います。
その無意識は、
スムーズに生きていく為に欠かせない能力であり、
自分の心の弱さを守るために
脳がせっせと働いてくれているということ。
それが劇団 5454の作品の主なコンセプト。
心理的な物語=サイコロジカルフィクションです。
コメディをベースにしながら
人の心を分解していく作品で、
自分と他人をもっと大切に出来る「新たな視点」を、
お客様と共に探しています。
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