【公演レポート】人生はピンチこそが“福”!?小澤雄太主演、舞台『「福」に憑かれた男』

【公演レポート】人生はピンチこそが“福”!?小澤雄太主演、舞台『「福」に憑かれた男』

喜多川泰の著書『「福」に憑かれた男 ⼈⽣を豊かに変える3つの習慣』が、2023年3月、恵比寿・シアターアルファ東京にて舞台化。

他界した父親に代わって実家の書店を継ぐことになる長船秀三を小澤雄太が、そんな長船に憑いてトラブルを引き起こす新人“福の神”秀神を髙橋颯が務め、試練を乗り越えた先の幸福と、さらにその後もずっと続いていく主人公の日常の一部がハートフルに描かれた。
ここに公演レポートをお届けする。

【STORY】

突然他界した父親に代わり、実家の長船堂書店を継いだ秀三。
店舗を大きくすることを夢見ていた彼に訪れたのは、集客が激減するなどのピンチに次ぐ ピンチ。
「もう、やっていけない……」と意気消沈 した秀三は、ついに店を閉めることを決意。
しかし、実はこれらの出来事はすべて秀三に憑いている“福の神”の仕業だった――! ?

劇場に入ると、そこにはまるで神保町にありそうな古き良き書店が広がっていた。 父からこの長船堂書店を継いだ現店主・長船秀三(演・小澤雄太)だったが、あらすじの通り、“福の神”秀神(演・髙橋颯)のせいで、隣にコンビニが建ち、駅ビルの中に大型書店が入り、競合他社多数で店を畳もうかというところまで追いつめられる。

だが、秀神は決して秀三を追い詰めたいわけではなく、むしろ彼に幸せになってほしくてピンチを与えているのだというのだ。

原作の『「福」に憑かれた男 ⼈⽣を豊かに変える3つの習慣』(著・喜多川泰)はストーリー仕立てでありながら、自己啓発本としての側面ももつという少し特殊な作品だ。日常のちょっとした出来事にも意味があり、良くないと思っていたことは実は自分が成長するために必要なことだった、という学びと喜びが描かれており、啓発本でありながらも読みやすい作品になっている。

人が幸せになるためには何かを乗り越えることが必要で、そのために色々な人と縁を結んだり、様々な試練を与えたりする――それこそが“福の神”の仕事、というのがこの物語のセオリーだ。

あらすじだけを見ると、秀三は“福の神”秀神が見えて直接文句でも言いそうな印象を受けるが、面白いと感じたのは、作中で1度も秀三と秀神が会話をしないことだ。秀神が会話をするのは、先輩“福の神”の天神(演・フクシノブキ)だけ。

神様と人間が会話できてしまうと一気にファンタジー感が増すが、今作ではそういった場面がないので、あくまで人間の力で困難を乗り越えていく、という展開にとても共感・感動できるのが素晴らしいと感じた。また、髙橋とフクシによる神出鬼没な“福の神”同士の会話も、コミカルかつ微笑ましく、彼らが出てくるだけでワクワクしてしまう魅力がある。

秀三を支えるのは長船堂書店の経理、海野賢治(演・高橋龍輝)と、アルバイトの川田樹(演・塩澤英真)だ。

軽いノリで場を盛り上げる川田と、厳しいことを言いつつも秀三を思いやる海野のバランスがとても心地よく、秀三の“人運の良さ”を感じることができる。

秀三を成長させるため、“福の神”秀神は他にも様々な縁を彼と結ぶ。近所に出来た大型書店・ブックセラーの雨宮栞(演・鈴野智子)とその部下・風林芽衣(演・真詩)は絵にかいたような高飛車な女性と、彼女に付き従う大人しい女性。

さらに病弱な弟・甲斐二郎(演・堀田竜成)のために本を買いに来た“しごでき”営業マンの甲斐太郎(演・横尾瑠尉)に、不器用で真っ直ぐな強面オトコ・仙頭剛志(演・田中晃平)と、とにかく濃いキャラクターばかりが登場し、観客を飽きさせない。

さらに、“福の神”の先輩・天神が憑いているのが得体の知れない謎の人物・山本天晴(演・IKKAN)。まさに“人徳”という言葉を体現したような人柄の彼は、ピンチの時に現れては金言を残していく。

原作の自己啓発本の側面はこのキャラクターに凝縮されているように感じた。

そして何と言っても、小澤演じる秀三の喜怒哀楽が、観るものを魅了していく。自分が悪い時はすぐに謝り、人からのアドバイスには素直に耳を貸すことができる……そんな彼だからこそ、拳を握りしめて応援したくなり、手を差し伸べてあげたくなる。

非常に感情移入がしやすく、周りから愛される力がある主人公だと感じた。天晴と同じ、それこそが“人徳”であり、“福の神”が憑く人間の条件なのかもしれない。

一方で秀三の幼馴染、湊彩花(演・福岡聖菜(AKB48))は退廃的な雰囲気をまとい、周囲に慕われ、徐々に家業を盛り立てていく秀三を、どこか羨ましそうにみている。

彼女にもかつては仕事に対する情熱があり、生きる目的もあったはずだった。物語の終盤に近付くほどに深くなっていく対照的な2人の溝――その落としどころも、今作の見所だ。

1つの事が成功したからといって、人生は終わりではない。
何かを成し遂げれば、その分、次の不安が襲ってくる……それをどう乗り越えていくか、そもそも人は何のために生き続けるのか。そんなことを考えさせられる作品だ。

しかしながら最初から最後までものすごく大きな事件が起きるわけではない。長船堂書店という街の小さな書店で、店主のほんの些細な日常を垣間見るようなワンシチュエーション作品だ。

それがまた押し付けがましくなく、原作の書籍と同じように、自然と「明日からも頑張ろう」「人との縁を大切にしよう」と、そんな風に感じられるハートフルな物語に仕上がっている。

この作品を観た後ならば、少し大変な事が起きても、きっとそれは“禍を転じて福と為す”ということなのだ、と受け入れられるかもしれない。
大好評につきチケットはほぼ完売、追加公演が行われるほどの大盛況だが、幸運にもこの舞台を生で観ることができた方は、布教という形で、その“福”をぜひ周囲にも分けてあげてほしい。

(文・写真:通崎千穂(SrotaStage))

舞台「福」に憑かれた男

公演期間:2023年3月1日 (水) ~2023年3月10日 (金)
会場:シアター・アルファ東京

出演:
小澤雄太
髙橋颯(WATWING)
福岡聖菜(AKB48)

高橋龍輝
塩澤英真
横尾瑠尉
田中晃平
堀田竜成
鈴野智子
真詩

フクシノブキ
IKKAN


原作:小説「福」に憑かれた男 喜多川 泰(サンマーク出版)
脚本・演出:三浦佑介(あサルとピストル)
プロデューサー:山本直也(東京舞台製作)
企画・製作:東京舞台製作

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