【公演レポート】One on One 34th note『face-to-face』

【公演レポート】One on One 34th note『face-to-face』

相手の“顔”、ちゃんと見ている?
新正俊、藤原祐規、野口準ら出演のOne on One最新作『face-to-face』開幕!

浅井さやか主宰のミュージカル劇団One on Oneの最新公演『face-to-face』が開幕!
探偵・コムロ(藤原祐規)とワトソンを目指してコムロの助手(未満)を務めるワダ(新 正俊)を中心に巻き起こる、軽快で心温まる「コムロ探偵事務所」シリーズの最新作だ。

はんだすなおによる生演奏とキャストの伸びやかな歌声も見所である本作の公演レポートをお届けする。

【STORY】

2021 年に上演された 33rd note『back-to-back』に登場した「コムロ探偵事務所」を舞台に、一流好きで超理論派の探偵・コムロ(藤原祐規)、“夢はワトソン”コムロの助手未満で雑用係のワダ(新正俊)、情報屋で発明家のマエクラ(田村良太)達が、様々な人たちを巻き込んで大騒動がまきおこる!
「コムロ探偵事務所」に集まる、ひと癖もふた癖もあるキャラクターたちの新しい物語が始まる――!

「コムロ探偵事務所」シリーズ最新舞台「One on One 34th note『face-to-face』」が9月22日(木)に開幕した。

One on Oneは主宰の浅井さやかが、早稲田大学ミュージカル研究会引退後、作・演出・音楽すべてを自身が担うオリジナルミュージカル劇団として立ち上げ、2021年に20周年を迎えた歴史ある劇団だ。浅井といえば、『最遊記歌劇伝』シリーズの音楽・歌唱指導、近年では舞台『魔法使いの約束』脚本・作詞などでも知られ、2.5次元舞台界でも非常に評価が高い。そんな浅井のオリジナル作品が見られるのもまたこの劇団の魅力と言えるだろう。

今作は同劇団の2021年の作品33rd note『back-to-back』に登場した「コムロ探偵事務所」を舞台にしており、いわば続編ともいえる。しかし前作を観ていなくても十分に楽しめると筆者は感じた。

その理由は後ほど語るとして、まずは今作『face-to-face』のあらすじと個性豊かな登場人物を簡単にご紹介しよう。

探偵・コムロ(藤原祐規)の事務所、通称「コムロ探偵事務所」には、愛読書『シャーロックホームズ』の“ワトソン”を目指してコムロの助手兼雑用係を務めるワダ(新正俊)、情報屋で発明家のマエクラ(田村良太)、事務所の大家の息子で世間知らずのハトムラ(小林優太)、事件があってもなくても事務所に入り浸るようになった刑事のコグレ(千田阿紗子)が今日も勢揃い。

この日はワダの書いた小説が賞レースにノミネートしたということでお祝いに集まったわけだが、そんな主役のワダ自身に甲斐甲斐しく世話を焼かれるコムロ。そんなコムロにコグレたちは「そのうち白い封筒(=辞表)を突き出されるかもよ」と脅しをかける。

そんな警告もどこ吹く風か、今日もマイペースなコムロのもとに、旧知のカネダイチ(鎌田誠樹)が新規依頼を持ち込んでくる。それは自身の小説で新人賞を取り、ネットでも一躍時の人となっている作家・アガサリク(野口準)からの依頼で、「同じく作家であった祖母“アサガナツキ”の未完成の“遺作”を共に完成させてほしい」という奇妙な案件。

依頼人とは思えないリクの横柄な態度も相まって、コムロは有無を言わさず依頼を断ってしまうが、何か思うところはある様子で……?

冒頭は怒涛の情報量と登場人物たちの強い個性に少し戸惑うこともあるが、物語の進行と同時に、「コムロ探偵所」をモチーフに小説を書くワダの取材という形でマエクラ・ハトムラ・コグレ、それぞれの人物とコムロの出会いが歌とともに紡がれる。この歌唱パートでのコムロと各キャラクターのやりとりが軽快で、それぞれがどうしてコムロを慕うようになったのかがスッと頭に入ってくる。

さらには、前作のあらすじにも触れつつ、今作のキーとなるリクの祖母“アサガナツキ”とコムロの関係性にも少しずつ繋がってくる、なんともよく出来た構成だ。

リクを連れてきたカネダイチは、職を転々としている食えない人物で、以前はコムロと同様、探偵だったこともあった。以前に起きた人気作家の原稿が次々と盗まれる事件にカネダイチとコムロの両者が関わっていた時、コムロは“アサガナツキ”の原稿だけは、他の作家と同様に盗まれたわけではなく、違う事件だと主張。

実はコムロは“アサガナツキ”が書く小説の大ファンで、この事件には、ある違和感を覚えていたのだ。

大ファンである“アサガナツキ”の未完成原稿――興味がないはずがない。そんなコムロの複雑な心境を汲んで、まさに憧れの“ワトソン”よろしく彼のサポートをするワダだが、彼もまた、事件とは別で何か思い悩んでいる様子。

事務所のソファーでうたたねをする彼の手元には1通の「白い封筒」が……!それを見つけてしまったコムロは、まさかこれは例の“辞表”ではと苦悩することになる。

さらに、思い悩んでいるのはワダ、コムロだけではなく、今回の依頼人・リクもまた悩める若者だ。最近ケータイを取り出しては、ため息ばかりだとカネダイチは心配していた。おそらくは先日獲った新人賞が「“アサガナツキ”の孫だからだ、七光りだ」とネットで誹謗中傷されていることを気にしているのではないかとのこと。「顔が見えない人間が投げつけるゴミを気にするなんて」「自分だって(受賞には納得しておらず)正直ゴミを投げつけたい側かもしれないぞ」と一蹴するコムロだが、それは彼の書いた小説を読んでから言ってほしい、と真剣な表情を浮かべるカネダイチ。

ネットに溢れる罵詈雑言に対し“それは面と向かって言えることか?”と観客側に問いかける――このシーンに、今回のタイトル『face-to-face』の1つの意図を感じた。
果たして、“遺作”問題と共にリクの悩みは解決するのだろうか。

今回のもう1つの見所は劇中劇。“アサガナツキ”の“遺作”の内容をメインキャスト陣がA子、B村、C賀……といった調子でコミカルに演じてみせる。探偵ものにありがちな“少しご都合主義”な展開もご愛嬌。

ミュージカルの楽しさを十二分に感じられるパートでもあり、色々な伏線や人間関係を紐解きながら見る本編とのいい落差になっている。

また、事件調査の裏側で暗躍するのは、前作『back-to-back』のメインキャラクター・アンドウアイリ(法月康平)。
今回は声の出演のみとなるが、それでもその存在感は抜群で、流石「コムロ探偵所」の一員と言わざるをえない。前作を観た人も楽しめる要素もありつつ、今作から初めて観る人も置いてきぼりにはならずに楽しめる本作。ワダとリク、悩める若者たちの“気がかり”と今回の事件が綺麗に解決する大団円はあまりにも鮮やかだ。

9月27日(火)18時公演で千秋楽を迎えるものの、10月3日までアーカイブの視聴が可能。推理要素もあり、1度観たらまた頭から観たくなってしまうこと間違いなしなので、気になる方はぜひチェックを!

文・写真:通崎千穂(SrotaStage)

One on One 34th note『face-to-face』

公演期間:2022年9月22日 (木) ~2022年9月27日 (火)
会場:新宿シアタートップス
作・演出・音楽: 浅井さやか
出演:新正俊 / 田村良太 / 野口準 / 小林優太 / 千田阿紗子 / 鎌田誠樹 / 藤原祐規 / 声の出演: 法月康平 / 演奏: はんだすなお

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