Q+の新作「ANGERSWING」が7月3日(水)から下北沢の駅前劇場で上演される。
公演まであと2週間に迫った稽古場を取材した。タイトルの「ANGERSWING」はアンガーズ・ウイングとアンガー・スウィングの2つの読み方を持っている。それぞれ「怒りの翼」と「怒りの揺れ動き」という意味だ。
ストーリーはバラバラになっていた家族が父の訃報を機に実家に集まるところから始まる。家族だからこそ本音でぶつかり合う生々しい怒りと、真実を知って揺れ動く心を繊細に描いている。
また「WING」と「SWING」はダブルキャストのチーム名でもある。今回は「WING」チームの稽古をみた。稽古場は中学校の旧校舎を利用したパブリックスペース。明るい陽光が差し込む多目的室にはカラフルな小道具も用意されていた。
父が愛した庭で葬儀を
物語は長女シンディ(はらみか)とその夫フィリップ(布施勇弥)が父と共に暮らしている家に、葬儀屋ヤマダ(今井勝法)とその見習いヤマダジュニア(ゆうた)が訪ねてくる所から始まった。
父ロイ・ミュール(益田恭平)の希望通り、父が愛した庭で葬儀を行いたいというシンディ。
父の死という沈痛なシーンでも、庭を褒めるヤマダのコミカルな表情に救われる。まるで目の前に美しいバラの庭が広がっているような気分にさせられる。
そこに長男オルバニー(中西良介)と長男の妻アナスタシア(佳乃香澄)がやってくる。いかにも成功した実業家風情の長男と、美しく自信に溢れる妻。二人に圧倒されるようなシンディ夫妻に、きょうだいの力関係を瞬時に見て取れる。
父の死は、風呂場で転んだことによる事故死だった。同居していた長女の不注意を責める長男のオルバニー。 そして葬儀の段取りを自分主導で決めようとする。
きょうだいの名前は西洋風で、舞台となる庭もイングリッシュガーデンを思わせるが、こうしたやりとりは、今日も日本のどこかで繰り返されていると思われる普遍的なテーマだ。
葬儀屋親子が狂言回し
父親の遺体を前にしてシリアスになりがちな会話劇を、なぜか一人だけ日本名の葬儀屋ヤマダが狂言回し役になり、盛り上げていく。ヤマダの台詞「葬儀は半分は故人のために、もう半分は遺族のために」が刺さる。狂言回し的な役が一番核心をついたセリフを放ち、会話劇にさらに深みを加えている。
そこに、疎遠になっていた次男のエドウィン(林新太)と次女のミリー(柳本璃音)も帰ってくる。エドウィンは恋人のサーシャ(北澤小夜子)を伴っている。エドウィンはなぜかアジアの民族衣装のような服装だ。父親の死にあからさまに取り乱し、自分のせいと捉えるエドウィン。繊細で傷つきやすい性格が見てとれる。
次女のミリーは売れないシンガーソングライターだ。いつまでも夢みがちで地に足をつけない生活を兄にとがめられる。これも古今東西の夢を追いかける若者が昔から言われ続けていることだ。家族の中では、はぐれ者扱いのミリーだがそれゆえに距離を置いて家族を俯瞰することができるようだ。
天真爛漫な魅力あふれる女優の母
そこに22年前に家を出た母、アルバ・デジュネ(佐乃美千子)が帰ってくる。
きょうだいにとっては家族を捨てた母であり、招かれざる客だ。ミリーの言葉によると「女優のアルバ・デジュネは、テレビでも街中のポスターでもよく見かける超有名人」。
奔放で天真爛漫な女優そのものを佐乃美千子が実に魅力的に演じている。アルバの明るさの所以は、自分が見たいようにしか世界を見ないこと。残された子供は自分に関心が向けられなかったことを知り、傷を深くする。
そして彼女が現れたことによって、父とその友人ユーリ(森本遼)との秘密が明らかになってくる。かつて母アルバと父ロイ、そしてユーリは同じ劇団の仲間であった。
ウィットに富んだ会話劇で描く青春
そこから42年前の過去にさかのぼり「ロミオとジュリエット」の稽古をするアルバとロイたちが現れる。そこに芝居仲間も加わり熱がこもる。
今、棺に横たわっている父にも、こんなにみずみずしい青春時代があった。そんなことを思い起こさせてくれるような生き生きとした会話劇が続く。
一旦の結末は、演出家のロイと花形女優アルバの結婚だが、その大団円の裏には隠された秘密があった。後に取り返しのつかない悲劇へと繋がっていくのだが、台本の読後感は意外にも爽やかだった。
ウィットに富んだ会話で描く甘く切ない青春時代、夢を追いかけた仲間達との日々、そして初夏の庭に家族が集まった美しい光景が記憶に残る。繰り返し出てくる詩篇の言葉にも注目したい。
(取材・文・撮影/新井鏡子)
公演情報
劇団Q+
アンガーズウイング・アンガースウィング『ANGERSWING』
■会場:下北沢 駅前劇場(X(Twitter)/@ekimaegekijo )
〒155-0031 東京都世田谷区北沢2-11-8TAROビル3階 ( googlemap )
■日時:2024年7月3日(水)~7月7日(日)(全8ステージ)
W(Team Wing) | S(Team Swing)
7月3日(水) W 19時00分~
7月4日(木) S 19時00分~
7月5日(金) W 14時00分~/S 19時00分~
7月6日(土) S 13時00分~/W 18時00分~
7月7日(日) W12時30分~/S 16時30分~
■チケット [日時指定・全席自由]
チケット発売日=5月1日(水)
前売一般 = 4,500円
当日一般 = 5,000円
U22(22歳以下前売/当日枚数限定)= 3,000円
アーカイブ配信チケット= 3,000円
■スタッフ
照明=松本伸一郎(あかりとり)
音響=上妻圭志(S.S.E.D.)
舞台美術=根来美咲
舞台監督=緑慎一郎(演劇プロデュース『螺旋階段』)
衣装=柳本璃音
アートディレクション=柳本順也
ステージング=前田美沙
宣伝美術・WEBサイト=Boundspike Design
パンフレット制作=平成レチナ
宣伝動画=蘭
稽古・公演写真撮影=照井岳
演出助手=河本百華
スーパーバイザー=田中雄一朗(文学座)
キャスティング協力=佳乃香澄
助成=文化庁文化芸術振興費補助金(舞台芸術等総合支援事業(芸術家等人材育成))|独立行政法人日本芸術文化振興会
主催・制作=公益社団法人日本劇団協議会
制作協力=劇団Q+/デルトロ企画/田村恭子/佳乃香澄