【「板尾のめ゙」第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』「だから演劇として観るに値するんでしょうね」/「見事にやられた」と思いました

【「板尾のめ゙」第二回】Hauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』「だから演劇として観るに値するんでしょうね」/「見事にやられた」と思いました

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」
第二回は、2022年6月に上演されたHauptbahnhof(ハウプトバンホフ)『回復』。団体名のHauptbahnhofは、ドイツ語で「中央駅」の意味。この物語も、とある駅から始まっていく。

あらすじ

コロナ禍、大学時代の友達であるえっちゃん(外村道子)となっちゃん(田実陽子)は、駅の改札口で5年ぶりで偶然に再会する。後日、なっちゃんの行きつけの居酒屋(店主役・大和田悠太)を訪れたとき、常連のいくちゃん(大野美穂)を見てえっちゃんは驚く。いくちゃんは、亡くなった高校時代の友人・小宮にそっくりだった。

「見事にやられた」と思いました

──印象的だったことはなんですか?

観ている間はなにも感じさせてくれないっていう感じが、僕はすごく好きですね。なにかおおきなことが起こるわけでもないし、創作ですけどなんかリアルな雰囲気がある。
ある女性が昔の女友達と再会するところからはじまりますが、そのふたりの会話からしてリアリティーがあって、ずっと日常が続いている感覚。「この先になにか起こるのかな」っていう期待をさせない感じがすごくうまいなと思いました。

──ずっと続いていく感覚になりますね。何時間でも観ていられそうです。

友達同士のやりとりとか、ずっとぼーっと見られますね。いや、「見事にやられた」と思いました。
なにも起こらないし、対立もないし、誰にでもありえるようなことが続くんですけど、なんか気持ちいいというか、心地いいような感覚になりました。「こういう風に日常を過ごせたらいいな」とか、「友達とこういう付き合いができたらいいな」とか、「こんな居酒屋に行きたいな」とか「店員さんはこういふうに商売すればいいのにな」とか……観客は自分に照らし合わせて感じたことを自分の日常に持ってかえるんじゃないかな。

──「からあげチャンス!」があるお店がリアルにあったらいいですよね。と思っていたら、実際にあるお店だそうです。

いいですね。唐揚げ、食べてみたいですね。
作品を通して振り返ると、共感できる部分は少なかったけど、そもそも「そうそうこんな感じだよね」と思いながら観る作品じゃないんじゃないかなと思うんですよ。笑わせてやろうとかという感じもないし、本当に「生活している」という感覚。観客はいるんでしょうけど、途中、お客さんはいないような気がしてきます。

マイムでの表現「だから演劇として観るに値するんでしょうね」

──冒頭も、女性ふたりがカルボナーラを作っている、というだけなんですよね。でもその間に、このふたりがどういう関係性なのか、どのくらい仲がいいのかといったことがなんとなくわかってきます。

わかりますよね。

──しかも美術も小道具もほぼ登場しない。カルボナーラを作っている光景がマイムだけで見えてくるし、そうなったときにはもうその世界にのめり込んでいるような。

そうそう。ほぼマイムじゃないですか。それもやりすぎることなく、ちゃんと細かいところまで表現している。これは役者さんの技量と演出のどちらの力もあると思います。丁寧なんですよね。
だから演劇として観るに値するんでしょうね。だってこの作品、ラジオでもできると思うんですよ。マイムがなくて、台詞だけでも成立するんじゃないかな。それが舞台では、丁寧なマイムによって立ち上がってくる光景がある。それを最後までやりきっていて、やっぱり舞台ならではの、練習して見せるべきものがある作品だなと思います。
僕が出演者なら、この脚本をもらうと最初はすごく不安に感じると思いますよ。モノも展開もなにかがあるわけではないので、どう演じればいいんだろうかという難しさがある。役者さんはどう思って稽古して公演したんだろう。

──すくなくともマイムと台詞での表現を実現するのは大変だったのではないかなと想像します。

これは難しいですよ。すごい練習量なんじゃないかな。どれほど脚本に忠実なのかはわからないですが、台詞に聞こえないくらいにリアリティを感じられる。
舞台上にはモノがないのに見えてくるということをきちんと達成できていて、計算して作られているんだろうなと思いました。ここまでくると、やはりお金を取れますよね。

──劇中では、ある人のことを思い出すという特別な出来事が起こります。

そうそう。衝撃的な事件というわけではないけれど、それによって少しだけ関係性や気持ちに変化が起こる。その時に起こることとか、ちょっとした気持ちの揺れって、自分たちの日常でもあるんですよね。悪気がないことでギクシャクしたり、嫌な気持ちになったり……でもそれをお互いにちゃんと理解していくのは、みんな良い人だし、こんな友人関係でありたいなと思ったりするだろうな。

──そういった日常に照らし合わせられるエピソードがいろいろと出てきます。登場人物のひとりが劇団をやっていることもあって、いかにも演劇らしいエピソードも出てきますね。これは演劇が好きな人、演劇に関わる人は共感できるかもしれません。

そうですね。劇団に入っていたり、劇団ならではの問題があったりする。この作品に登場する人からは「好きで演劇をやっている」ということが感じられますね。好きなものはしょうがないからと、楽しんでいる。彼女を観ていると、「こういうふうに考えられたら劇団って楽しいだろうな」とか「演劇って、もっと売れたいとか、もっと映像で活躍したいといった野心だけじゃないよね」という気持ちになりそうです。

「いい匂いだな」「美味しかったな」というような作品

──タイトルについてはどう思いましたか?

『回復』って、どういう思いでつけられたのか聞いてみたいですね。
たとえば、久しぶりに昔の友達に会ってまた仲良くなったり、あらたな出会いがあったりして、自分の精神状態とか今までやってきたことがまた回復していく……ともとれるかもしれない。それぞれの回復があるんじゃないですかね。深いタイトルですよね。

──この作品にすごく共感をした人は、客席でなにかを回復するかもしれません。

そうですよね。心に引っかかっていることがあると、友達と会話することで回復することがあるじゃないですか。それに似たことも起こるかもしれない。

──見終わって「見て良かったな」という不思議な充実感がありました。でも、なにが良かったのかうまく言葉にできない……

できないですね(笑)。なんでしょうね(笑)。
観る人によるとは思いますが、仕事の大変さとか、日常生活の苦しさとか、そういったいろんな悩みや思いが、この芝居を見るとすーっと浄化されていくように感じるんじゃないかな。「明日から頑張ろう!」みたいなことでもなく、なんかすっきりするというか……平穏な気持ちになったような感じで劇場を出るというか。人っていろいろあるけど「人間っていいな」って思ったり……自分のなかだけで「いい匂い嗅いだな」とか「とくに高級なものでもないけど、美味しかったなー!」とか。そんな感じの気持ちになる作品でした。なかなかなかなか人に説明できへんな(笑)。

──説明は難しいですが、いま言われた感覚はわかります。ちょっとムカついていたことがあったんですが「べつにいいかも」っていう気になりましたから(笑)。

(笑)。角が取れるというかね、そんな作品でしたね。

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(12)、『火花』(17)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

Hauptbahnhof『回復』配信中!

2024年8月31日(土)までカンフェティカンフェティストリーミングシアターにて配信中!

Hauptbahnhof Gleis9『回復』特別配信
作・演出:金田一央紀
出演:外村道子/田実陽子/大和田悠太/大野美穂

[視聴券販売期間]
5月15日(水) 10:00~8月31日(土) 23:59
[配信期間]
5月15日(水) 10:00~9月3日(火) 23:59
※レンタル視聴可能時間 3日間(72時間)
[視聴券]1,500円(税込)
 

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