【「板尾のめ゙」第一回】□字ック『剥愛』 覗き見たな……という感覚です/見ごたえのあるエンターテイメントでしたね。

【「板尾のめ゙」第一回】□字ック『剥愛』 覗き見たな……という感覚です/見ごたえのあるエンターテイメントでしたね。

さまざまな舞台映像を、前に出ない天才 板尾創路 の眼(フィルター)を通して語る「板尾のめ゙」
第一回は、2023年11月に上演された□字ックの『剥愛』。岸田國士戯曲賞 最終候補にもノミネートされた。
物語のテーマとなるのは、死後の動物の皮を剝ぎ、生命を吹き込み直す「剥製師」。業界のピークから50年が経ち、時代に取り残されつつある剥製師の一家を描く。

あらすじ

『剥愛』の舞台となるのは、剥製師である父(吉見一豊)の工房兼家。そこでは、出戻りの長女(さとうほなみ)、寡黙な次女(瀬戸さおり)、軽度知的障害を持つ甥(岩男海史)が暮らしている。時々、たくさんの猫と暮らす近所の独居女性(柿丸美智恵)が顔を出す。互いに不満を抱えながら、鬱屈とした日々を送っている。そんな山間の集落にある工房に、ある日、男(山中聡)が転がり込んでくることで、家族それぞれの抱える思いや過去がすこしずつ剥き出されていく。

終演後は「覗き見たな……」という感覚です

──120分の会話劇です。映像でご覧になって、どうでしたか?

笑ったとか、楽しかったとか、爽快だったという作品ではないですよね。覗き見たなぁ……という感覚です。剥製ってそれほど身近なものではないので、「動物を殺生している特殊な仕事の人たちだ」という思いで作品を見ました。たとえるなら『犬神家の一族』かな。特殊な家族の重たい物語を覗き見て、終わってみると「良いもの見たな」と感じる。見ごたえのあるエンターテイメントでしたね。山田さんのほかの作品をもっと見てみたくなりました。

──作・演出の山田佳奈さんは、舞台だけでなく、映画やドラマの脚本・監督も手がけていますね。今回、舞台で「剥製」を題材にしたのは、20代の頃に縁あって剥製工房に行った際に聞いた「剥製は新たに命を吹き込むことだ」という話が魚の骨のように引っかかっていたことがもとになっているそうです。作中には、剥製の細かな作り方が登場しますが、剥製そのものの姿は暗がりにまぎれていてはっきりとは見えず、終始不穏でした。

舞台となっている剥製工房は、職場であり、家庭であり、その家に生まれたら剥製にかかわることは宿命になる。そういう仕事環境と、この作品から感じる怖さみたいなものがすごく合っていると思う。動物の怨念のようなことがはっきり言われているわけではないけれど、形を残されて晒され続けることって、昔からある人間の怖い部分というか、命に対する残虐性のようなものも感じましたね。

剥製をテーマにした映画を撮ったことがあるんですよ

──剥製は、あまり万人にとって身近とはいえないと思うんです。でも板尾さん自身は、ずいぶんと前に剥製をテーマにした映画を撮ったことがあるそうですね。

死んだら剥製にされて、生前に悪いことをした人は変な格好(ポーズ)をさせられるっていう話でした(笑)

──それは……嫌ですね(笑)。でも剥製にされた後にどうなっているかなんて、本人にはわからないですものね。

そうなんです。最近、子どもと上野の国立科学博物館へ行って、初めてハチ公の剥製を見たんです。亡くなって皮だけ剥がれて残ってるわけですけど、それを見た時に、バイオハザードみたいにずる剥けになったハチ公が先生と再会して「ハチ」って言われている光景を想像しちゃって……。ハチと先生は剥製になることをどう思っているのかな、と思いましたね。僕らは「ハチ公はこんなやったんや~」って思いながら見ますから、忘れられずに後世に残っていきますけれど、当人が頼んだわけじゃなくて、勝手に剥製にされているわけですからね。
やっぱり剥製って、人間のエゴじゃないですか。ペットと一緒にいたいとか、狩りをしたものを残しておくとか、美術品とか……いろんな考え方があるとは思うんですけど。自分の可愛がっていたペットが亡くなって「剥製にして近くに置いておきたい」「忘れないようにしたい」という気持ちもわかります。たぶん多くの方は、飾りたい、見せたいんでしょう。それも生きている人の側の思いですよね。

「ああ、面白かった」と思える快感があった

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──作品で印象的だったことはなんですか?

過去にあったことを演じるときに、役者さんがそのままの恰好でほかの役を演じる。あんまり見たことがなかった表現方法で、いいなと思いました。「この作品にはそういう法則があるんだな」とわかると、テンポ良く、より深く物語が理解できますね。
あと、たとえば冒頭の賑やかな男性(甥)って、正直、すごくうるさくてうざいなって思っていたんですよ。そうしてストレスを感じさせるように、たぶん、計算されて演出しているんでしょう。
そしてどの俳優さんもすごく上手い!初めて見る俳優さんたちばかりの舞台で「ああ、面白かったな」と思えるのは快感ですね。

──映像編集についてはいかがでしょうか。アップになることもあり、俳優の表情や小道具の汚れ具合などがよく見え、作り込まれていることがわかります。剥製工房の仄暗さに重みをもたせるとともに、家族の歴史がこびりついているようでもありました。

今回は映像で見ましたが、それでも集中力を途切れさせず、見応えがあってじゅうぶん楽しめました。最近は撮影の技術もすごいし、テクノロジーも発展しているから、以前と比べてすごく見やすくなりましたね。劇場で見るのとは感じ方もアングルもちょっと違うのでそれが面白い。同時に、映像だと見えていないことや感じられていないことがたくさんあると思うので、ぜひ再演があるなら観に行きたいです。

(インタビュアー・文&撮影:河野桃子)

板尾創路プロフィール

1963年生まれ。大阪府出身。NSC大阪校4期生。相方のほんこんとお笑いコンビ=130Rを組み数々の番組で活躍。2010年には『板尾創路の脱獄王』で長編映画監督デビューを果たし、『月光ノ仮面』(12)、『火花』(17)を監督。映画・TVドラマのみならず舞台作品にも多く出演し、2019年の初回から『関西演劇祭』のフェスティバルディレクターを務めている。

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