「劇団鹿殺し」旗揚げから20年。衣装となる肩パットを手に「2Shoulderpads(通称:ショルパ!!)」として初めての海外へ飛び出した2025年。世界最大級の演劇フェスティバルで、1ヶ月全ステージ完売&歴史あるアワードや主要メディアでの星5つを勝ち取った。翌2026年には最優秀作品賞を受賞。招待されたイギリスでの公演は連日完売するなど、大快挙を遂げた本作が、ついに東京と大阪で上演される。
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』を肩パッドだけの衣装で
本作『GALAXY TRAIN』の原作は、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』。ある夜、少年・ジョバンニが目の前にあらわれた銀河鉄道に乗り込んだことで、死と喪失をめぐる旅が始まる。多くの人が知る物語はそのままに、男性陣の衣装は肩パットのみ。しかしその最小限の衣装が、いつしか観客を果てしないイマジネーションの旅へと誘っていく。
海外では言語を越えて「これぞ優れた演劇」と各メディアや批評家、そして連日詰めかけた観客から高い評価を得た。 「これはぜひ日本で上演しなければ」と、2026年11月よりキューブ主催で上演が決定。
帰国直後の興奮冷めやらぬなか、脚本・丸尾丸一郎、演出・菜月チョビ、そして2022年の日本初演ぶりに出演する松浦司に、今回の日本凱旋公演に向けた思いを語ってもらった。
劇場に足を運んだからこそできる経験を
―――8月に海外公演を終えての日本凱旋公演ですが、全く同じものを上演するんですか?
丸尾「そうです。英語は使っていますが、英語がわからなくても楽しめるように作っていますので安心してください。逆に、日本語が堪能でなくても伝わりますので、海外からの旅行者の方も、日本に住む外国出身の方にも観ていただきたい。日本のお芝居って楽しいんだというのを感じてほしいです」
菜月「海外で上演した時は、涙を流してくださる方も結構いました。身内やお友達を亡くされた方が『こんな考え方ができるんだと思って泣いちゃった』と言ってくださったり、イギリスの原作ファンの方や宮沢賢治を研究している方が『原作をこんなに大切にしてくれてありがとう』と言ってくださったり……。残酷だけど優しい、喪失感や死生観をとらえなおせる原作の力が伝わって嬉しかったですね」
―――出演も観劇もされている松浦さんから見て、この作品の見どころは?
松浦「すごくシンプルなんですが、最初はお尻が出ていることの衝撃で笑っちゃうんですけど、いつの間にか『銀河鉄道の夜』の世界にのめり込んでいくんです。物語に浸っている時、ふと冷静になると、目の前には裸がある……。このギャップに頭がぐらんぐらんさせられているうちに、こちらの感情も素っ裸にされて、最後の場面がすごくしっかりと伝わってくるんですよ!」
丸尾「まっちゃん(松浦)が、『価値観ひっくり返る作品ですね』って言ってくれたのはすごい嬉しかった」
松浦「そうそう。もしまったく演劇に興味がない友達が観たら『俺、演劇好き』ってなるかもしれない。ぜひお客さんには『今まで観たことのない楽しさだったな』『今のなんだったんだろう』と価値観がひっくり返って、さらには『なにか新しいことを始めてみようかな』という前向きなテンションになってもらえたら。ショルパ!!は僕が一目惚れした大好きな作品なので、新しい風を吹かせたいです」
菜月「やっぱり客席と舞台で『お互いにどう楽しもうか』という相互作用が大事だなと思うんです。夏の海外公演では、赤ちゃんが泣き止んだり笑ったりするのにこちらも反応して芝居をしたり、お客さんの方も『笑うつもりで来たのに泣いちゃった』といった予想外の気持ちの動きがあったり……。ただ“鑑賞する”だけじゃない体験が、劇場に足を運ぶことによって生まれるのが演劇の良さだなと思います」
帰国して1ヶ月半、未だ心も体もバッキバキ
―――この作品で2025年に初海外でエディンバラ(スコットランド)に行きロングラン全完売&複数賞の受賞など快挙を成し遂げ、さらに2026年にはエディンバラとロンドンでも連日完売、かつアジアンアワードで最優秀賞まで受賞しました。ご自身としてはどういった気持ちですか?
菜月「未だワクワクもドキドキもしています。この演目を海外に持っていこうと思ったのは、お尻の出ているビジュアルなこともあり、日本ではなかなか新しいお客さんに劇場へ来ていただけなかったんです。1回でも観ると『またやるなら絶対に行く!』と熱いファンになってくださる方はいても、最初の一歩が難しい。そこで違う環境で挑戦してみようと海外に出ると、誰も私たちのことを知らないのに盛り上がってくれ、応援してくれ、刺激と希望をもらいました」
丸尾「本当に大成功で……って自分で言うのも恥ずかしいんですが、お客さんからは『フォーフォー!』と声援をいただいて、作品に対する自信も強度もすごく上がって、心も体もバッキバキな状態です」
菜月「でもこんなにうまくいくなんて思ってもみなかったです。とにかく今の状態から抜け出したくて飛び出したら、奇跡的に初海外で多くの批評家やメディアの方が高評価をくださって、すごく驚きました。2年目には『うちの国でやってほしい』という具体的な声かけもいくつかいただいて、新たな夢を託してくれる人が出てきたんだというのが収穫で、すごく自信をもらいました。さらになんとキューブさんが、『早く日本でやろう』と声をかけてくださったんです」
丸尾「キューブさんはエディンバラでの上演を観てくれて、終演後1時間もしないうちに『やろうよ!』と言ってくださったんですよね。嬉しかったです」
――どんどんショルパ!!の仲間が増えている印象です。ショルダーパッズ公演の初演は「コロナ禍で最小の衣装でやろう」と始まり、それがクラウドファンディングを経て海外公演で成功し、キューブさんの応援を受け、今回はトリプルキャストで東京・大阪で上演する……。観客も含め、どんどん一緒に盛り上がる方が増えているのを感じます。この進化を、初演に出演した松浦さんはどういう思いで見ていましたか?
松浦「青春やなっていうのと、アンダーグラウンド過ぎるやろ!と。何年も日本でやってきたのに、ここからまだ『海外に行ってぶちかましてやろうぜ』って、熱量がないと無理ですからね。もうカッコ良過ぎて」
丸尾「僕は今年49歳なので、40代最後のショルダーパッズで小劇場の中年の星になります!」
松浦「バッキバキだ(笑)」
菜月「破滅願望なのか、来年で活動25周年だから、恥をかくならもうラストチャンスかなという気持ちでした。行く前は、めちゃめちゃ空振りして転んで捻挫してそのまま田舎に行きたい、っていう気持ちと同時に、認められたいっていう気持ちもあって。殺すかめっちゃ愛するかどっちかにしてください……って思ってた。でも愛されたので、驚いたし、嬉しくて」
松浦「歳を重ねると新しいことは怖くなるんじゃないかと思うけど、何歳になっても挑戦する気持ちは大事だし、何歳になっても青春なんだなって、みなさんの背中……じゃない、お尻を見て思いました」
アートワーカーチケット導入や21時開演などの挑戦
―――今回の公演への思いや、新たな取り組みについて聞かせてください。
菜月「いろんなキャストの組み合わせがあるけど、どのチームを観てもスピリッツが変わらない状態を作りたいです。お尻や裸は荒唐無稽に見えるからこそ、何が面白くて、何が美しくて、何が下品で上品か……そこまですり合わせて稽古しないと、泣けるところまでいけない。演劇の魅力や自分の可能性を信じることを共有した人たちが稽古してたどり着いたものを観てもらえたら、お客さんに喜んでいただけると思います」
松浦「まさに“みんなと一緒に挑戦する”という気持ちですね。鹿殺しらしく朝から全員で筋トレして、時間や思いを共有して、ひとつの方向へ向かっていく。ただ僕は海外に行けていないので、丸さんやチョビさんが見てきた海外の空気感もみんなでイメージしていきたい。そうすれば日本のお客さんも、気づけば大きな声で笑って『フォーフォー!』と声援が飛び交う公演にできるかもしれない。そのためには丸さんみたいにバッキバキにならないと(笑)」
丸尾「あと僕は今回、日本で演劇をもっと身近に楽しめる環境を作りたいんです。エディンバラではチケットも安くて、お酒を飲みながら、赤ちゃんから大人まで自由に楽しんでいて羨ましかった。だから渋谷と大阪でも若い方に向けたアンダーチケットや、夜9時の公演を設定したので、お酒を飲んでから来てくださっても構わないし、お子さんとご一緒でもいいし、どんなスタンスで来ても楽しめるお芝居を僕たちは作るので、演劇の自由な時間と空間が流れればいいなと思っています」
松浦「あまり演劇を観ない方も『近くでお祭りをやってるらしいから行こうかな』という感じで来てもらえる環境になったらすごく良いですね」
丸尾「あと、キューブさんにご協力いただいて、どうしてもやりたかった芸術活動従事者支援制度『アートワーカーチケット1,500円』というのも導入しました」
菜月「アートワーカーチケットはチャレンジですよね。エディンバラ国際フェスティバルでは、100ポンドくらいする作品が10ポンドで観れるんです。演劇をやっている人が観に行けないというのは自分たちもぶち当たった壁です。センスや見識を広げなきゃいけないのに、お金的にも時間的にも観るものを絞り込まないとキツくて。結果、恩がある人の公演を観合うようなことになってしまう。そこに一石を投じたいという思いと、1公演1,500円で演劇界が繋がりたいんだよという心意気を込めています。
ただ、やっぱりお客さん自身が自分で鼻を利かせて当たりを引いた時の『くうっ』っていう感動は大事だと思うんですよ。なので足の運びやすさは1つのきっかけとして、興味を感じていただき、来てくれた人が絶対に満足する作品をこちらは作ります」
丸尾「作品としても、やっとやりたいことが全部やれるという感覚があります。エディンバラでは準備時間が毎回15分しかなくて照明も小道具も最低限だったけど、今回は自分たちの劇場でしっかり準備ができる。バッキバキを越えてどこまで行っちゃうんだろう! もはやお客さんの『フォーフォー!』待ちなので、恥ずかしがらずに一緒に楽しんでいただきたい! 絶対に楽しいので!」
菜月「お尻がネックになっている人もいるかもしれないけど、現地の由緒正しき演劇メディアが『これは正しい演劇だ』と書いてくれて、5,000組のアーティストの中で10%しかもらえない星をいただけたので、安心してください……! きっと想像できなかったような演劇体験ができます。お尻からの演劇というギャップがどう埋まっていくのかを確かめに来てほしい。裸のお尻で泣いた人が、世界にたくさんいますから!」
(取材・文&撮影:河野桃子)
プロフィール
丸尾丸一郎(まるお・まるいちろう)
大阪府出身。作家・演出家・俳優。2000年、「劇団鹿殺し」を旗揚げ。家族や仲間・夢と現実といった普遍的なテーマを、等身大の言葉と叙情的な歌詞を用いて、独特の世界観で描き出す。代表作『スーパースター』は、 第55回岸田國士戯曲賞最終候補に選出された。作・演出として、OFFICE SHIKA×Cocco『ジルゼの事情』、劇団4ドル50セント『新しき國』、『ピエロになりたい』などの舞台で活躍。脚本家としても、ドラマ『下北沢ダイハード』、『マジムリ学園』、『福岡美人がゆく!』など、多くの作品を手掛けている。脚本を務めた映画『Gメン』が、第97回キネマ旬報ベスト・テン 読者選出日本映画賞で1位に選ばれた。
菜月チョビ(なつき・ちょび)
福岡県出身。演出家・俳優。2000年、「劇団鹿殺し」を旗揚げ。感情の解放と音楽が融合する、ミュージカルとは異なる独自の音楽劇を確立。俳優が楽器を演奏するスタイルやロックバンドによる全編生演奏など、そのオリジナリティを近年さらに色濃くする。2013年10月から1年間、文化庁 新進芸術家海外派遣制度でカナダへ留学。外部では、劇団☆新感線、G2プロデュース、キャラメルボックスなどに出演。舞台『曇天に笑う』、『真NINJA ILLUSION LIVE -The REAL-』、歌劇『桜蘭高校ホスト部』、「THE GREATEST SHOW-NEN 銀河鉄道の夜」では演出を担当。2024年、企画・演出を務める新シリーズ「海外児童文学シリーズ」を立ち上げ、第1弾として 音楽劇『姉さんは、暖炉の上の、壺の中』を上演。
松浦 司(まつうら・つかさ)
1988年3月15日生まれ、大阪府出身。舞台を中心に活躍。『ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー』でオーディションにより主人公の勇者役に抜擢された他、『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stages、『ALTARBOYZ』、地球ゴージャス『星の大地に降る涙 THE MUSICAL』、『るろうに剣心 京都編』、大阪国際文化芸術『FOLKER』、『ワンピース音宴』など、様々なカンパニー、シリーズに出演中。
公演情報
CUBE GLOBAL STAGE PRESENTS 2Shoulderpads 『GALAXY TRAIN-銀河鉄道の夜-』
【東京公演】
日:2026年11月11日(水)〜15日(日)
場:CBGKシブゲキ!!
【大阪公演】
日:2026年11月18日(水)〜20日(金)
場:ABCホール
【東京凱旋公演】
日:2026年11月25日(水)〜29日(日)
場:CBGKシブゲキ!!
料:一般5,900円 U18[18歳以下]2,500円(全席指定・税込)
HP:https://www.cubeinc.co.jp
問:キューブ tel.03-5485-2252(平日12:00~17:00)