傑作漫画を戯曲化。キャストを一新し18年ぶりに再演! 精神年齢だけが突然20歳になった小学生少年から見た大人達はなぜこうも幼いのか?

傑作漫画を戯曲化。キャストを一新し18年ぶりに再演! 精神年齢だけが突然20歳になった小学生少年から見た大人達はなぜこうも幼いのか?

 ワンツーワークスを主宰する劇作家・古城十忍が、劇団一跡二跳時代の1992年3月に大島弓子原作の傑作漫画を戯曲化。小学3年生の羽山走次はある日突然、精神年齢だけが20歳になってしまう。一方でなぜか大人達の大半は幼い子どものように。魔法にかけられたかのような世界で、家庭、学校という森をさまよう少年の精神世界を描いた本作は劇団最多上演数を誇るなど多くの支持を集めた。そして今回、キャストを一新して18年ぶりに再演。少年を演じる山下真人、母親役の関谷美香子、そして初演から出演を続け、今回初めて祖父役を演じる奥村洋治に公演への意気込みを聞いた。


―――本作の印象をお聞かせください

山下「最初、脚本を読んだ時にはこれをどう舞台化するんだろうという困惑がありました。物語としてはとても面白くて、カタルシスに向かっていく感覚がある一方で、心の中に残るものもあって。これを全部見せるお芝居は大事(おおごと)になるぞという印象でしたね。任された役も役なので、すごく責任感を感じました。
 物語の核となる実年齢と精神年齢というトピックついては、出会った人との関係性を通じて恐らく皆さんも考えたことがある普遍的なテーマだと思うので、その意味では色んな人に刺さる作品になるだろうなと思いました。主人公の小学生、羽山走次くんは精神年齢20歳という割には、すれていないところがあって。そこにある意味の違和感を持っていて、それが結末に向けてつながっていくのかなと思います。
 お客さんに走次くんを愛してもらえるかどうかが作品の完成度にも影響してくるので、まずは走次くんという存在を掴み取って、僕自身が誰よりも寄り添えるようにしたいと思います」

関谷「過去作では別の役で出演していましたが、一言で言えば元気でカラフルな印象があります。
 精神年齢がその人の実年齢になるという設定はすごく面白いなと思いました。大島弓子先生の原作漫画だと、画でその年齢を表現できますが、舞台だとそれが難しい。大人だけでも子どものように演じるには、もっと内面的な部分で精神年齢を読み取っていくという難しくもあり、面白い作業がありました。
 今回、初めて走次くんの母を演じます。本作は基本、走次くんから見た家族や友人を描く世界なので、子どもの走次くんからみれば、大人の事情も身勝手に感じるわけです。そこのバランスをどのように取っていくか。自分の行動が子どもの目にはどう映るのかというある意味、一歩引いた視点が必要になるかもしれませんね。
 これまで別の役者さんが演じていたお母さんと同じになるのか、また違ったものになるのかは分かりませんが、なるべく自分なりの新しい何かを見つけられたらと思っています」

奥村「私は初演からずっと父親を演じてきて、今回もお父さんだと気合を入れていたら、いつの間にかお爺ちゃんの年齢になってしまって(笑)。ちょうど今日(取材日:6月11日)で69歳になりました。8歳の子供がいる69歳のお父さんだと何かと都合が悪いだろうということで、今回は順当に走次くんの祖父を演じます。リアルお爺ちゃんですね(笑)。
 本作のテーマにもなっている年齢についてですが、自分はあまり深く考えていません。実社会でも大人になっても精神年齢が低いなという人はいて、いわゆる自分のことだけを考えて、相手のことを考えられない人のことを『大人げない人』とか『子供じみている』というじゃないですか。特に人は年を取ると、赤ん坊になると言われていますよね。なので本作では自分が好きなことばかり主張しようと思います(笑)。
 物語としては、”泣かせの古城ここにあり”といった感じですね。古城さんの作品には問題を鋭く抉るような社会派の作品と、泣かせの人情モノの2つがあり、彼は泣かせる作品の方が得意なんじゃないかと思えるぐらい泣けますね。大人が改めて『大人になるってどういうこと?』と考えさせる作品だと言えます」

―――漫画の世界を演劇の手法で描く難しさはありますか?

奥村「これはネタバレにつながるので詳細は言えませんが、演劇では役者が台詞で『これはこうだ』と言えばそうなるんです。例えば、何もない空間で扉を開ける動作をすれば、そこに扉があるという約束がお客さんと出来てしまう。本作ではそういうところを利用しているとだけ言っておきます。これ以上は話せませんが、是非注目して欲しいポイントでもあります」

山下「なるほど! 説明がとてもうまいなと感心しました。めっちゃ分かりやすい。確かにそこに約束事があるからこそのラストシーンだなと再認識しました」

関谷「あそこで泣かない人はいないよね、恐らく。台本読み合わせの段階でみんな泣いていたぐらいだから。
 普通の演劇の場合、役者はこの場面では役の心情をいかに表現できるかが醍醐味ですが、走次から見た世界という約束がある本作については、あまりそういう風にしないほうが良いと思っていて、母の心情よりも、走次の心情が引き立つような手助けをしたいと思っています。でも舞台上ではあくまでも母がそう思っているように見せないといけない。ここが難しくもあり役者としての腕の見せ所でもありますね」

―――観る側として、どこに視点を置くとより作品を楽しめますか?

奥村「やっぱり走次の気持ちをずっと追いかけた方が、分かりやすいし大いに泣けます」

関谷「多分、そういう風につくられると思います。私達もそのようにサポートをしながらラストにつなげていくことになると思うので、特に何も考えずに観ていれば、自然と走次を追いかけていると思います」

山下「ある意味、走次の偏見の世界のお話ですが、それでもそこで皆必死に生きていて、見つけて欲しくて。なんかこの人達は愛おしいなという感情を持ってもらえたらいいなと思っています。
 30年以上も前の作品ですが、僕は今の若い世代にこそ刺さる作品だと思っています。今はえげつないほどの情報が溢れていて、自分でそれらを精査しないといけない時代。その正解を求める行動自体がまるで大人らしくいることを強要されている感じがしてるんですね。その正解すら変わっていく世の中なのに。だからこそ、走次が見つめる世界にこそ普遍性があって、若い世代の人には新鮮に映るものがある気がしています」

―――皆さんそれぞれの推しポイントを教えてください

山下「僕は走次の20歳という精神年齢が面白いと思います。成人という区切りではありますが、人格的にもまだ完成しきっていない感じがあって。そういうところに面白みや可愛さを感じてもらえるんじゃないかと。精神年齢と実年齢が同じ同級生たちに戸惑いながらも合わせていくところも楽しんでもらえると思います」

関谷「私はラストシーンですね。本当に泣けます。そこは外せないポイントです。あとは空間の使い方に注目してもらいたいですね。リアルなセットを建てるのではなく、ほぼ何もない空間が家になったり、公園や学校になったりする。それらがどういう風に映し出されるのかも楽しんでもらいたいです」

奥村「実年齢のお爺ちゃんが演じますので、どんな感じで終活に向かっているかを見て頂きたいです。親の世代が観ても楽しめる作品はお子さんが観ても同様に楽しめます。是非、ご家族で観に来て欲しいです」

(取材・文&撮影:小笠原大介)

プロフィール

山下真人(やました・まさと)
埼玉出身。主な出演作に、ドラマ『瀬戸内少年野球団』、 NHK 連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、『なつぞら』、『レッシェンドで進め』、 『ソロモンの偽証』をはじめ、舞台 ヒラタオフィス+TAAC『世界が消えないように』再々演、ワンツーワークス #42『パラサイト・パラダイス』など、多数出演。

関谷美香子(せきや・みかこ)
1973年7月生まれ、千葉県出身。2009年、ワンツーワークスの旗揚げから参加。#43『仙人草の凱歌 イン・ヨーロッパ』(2025年11月)、#42『パラサイト・パラダイス』(2025年7月)など、全作品に出演。

奥村洋治(おくむら・ようじ)
1957年6月生まれ、熊本県出身。2009年、ワンツーワークスの旗揚げから参加。直近のワンツーワークス出演作に、#43『仙人草の凱歌 イン・ヨーロッパ』(2025年11月)、外部出演に、加藤健一事務所『二人の主人を一度に持つと』(2024年)など。

公演情報

ワンツーワークス『夏の夜の貘』

日:2026年7月25日(土)~8月2日(日) 
場:シアター風姿花伝
料:前売5,500円 当日6,000円
  ※他、各種割引あり。詳細は下記HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://www.onetwo-works.jp/works/natsubaku/
問:ワンツーワークス tel.03-5929-9130(平日12:00~18:00)

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