保坂萌主宰の「ムシラセ」待望の新作! 人生の潮目が変わる歳にスポットを当て、男の一生を描く三人芝居

保坂萌主宰の「ムシラセ」待望の新作! 人生の潮目が変わる歳にスポットを当て、男の一生を描く三人芝居

 作家・演出家・舞台写真家・保坂萌主宰の演劇プロデュースユニット「ムシラセ」の新作『煙の汽水域』の上演が決定! 主役の鈴木誠吾を演じる阿岐之将一と、誠吾の高校時代からの友人を演じる池岡亮介に、本作への思いや、作品にちなんだお話などをたっぷりと語ってもらった。


———『煙の汽水域』のプロットを読んだ際、どのように感じましたか?

阿岐之「まず、”おじさん”という存在に頭を悩ませすぎたから、描いてみようと思ったという(脚本・演出の)保坂(萌)さんの発想がおもしろいなと。しかもそれって、あまりいい気持ちではない頭の悩ませ方だったと思うんですね。それを芝居にすることで理解しようとするというプロセスが、劇作家ならではだなと思いました」

池岡「たしかに」

阿岐之「題材になっている火事で亡くなったおじさんというのが、実際に保坂さんが体験したエピソードなんですよね。でも、そのおじさん自身を描くのではなくて、その息子がおじさんになっていくまでを描くというのがおもしろいなと思ったのと……どんどん感想が出てくるな(笑)。
 僕は、20歳、35歳、50歳の鈴木誠吾を演じるわけですが、35歳はまだしも、20歳と50歳という絶妙に捉えどころのないというか、特徴的に演じる年齢でもないというか……それをどうやってつかんでいけばいいんだろう、難しそうだなっていうのが率直な感想でした」

池岡「おじさんの死というところでいうと……これは本当に個人的な話なのですが、僕が17歳で上京するにあたって、東京にいる親戚のおじさんの家に住まわせてもらうことになったんですね。1年ぐらいで僕は出てしまったんですけど、その後、おじさんは地元の愛知県に帰って、すぐに亡くなっちゃったんです。
 それが、ふわっと消えてしまったなという印象だったんですけど。今回のプロットを読んだときに、あらためてそのことを思い出したんです。僕の役柄的には、誠吾の父親の死はまったく関係ないのですが、いまだに当時の出来事にとらわれていることを再認識させられたというか。それぐらい生々しさがあったし、僕にとっては地続きな作品だなと思いました」

———おじさんが亡くなってから15年くらい経っているわけですよね。

池岡「そうなんですよ。本当に、これほど実感の湧かないことってあるんだなって。”あっ、いなくなっちゃった”という感覚なんですよね」

阿岐之「なるほどね」

池岡「役柄については……ずっと老いなくて中性的、みたいなところで、(演じられるのは)僕以外にはいないんじゃないかなと(笑)」

阿岐之「あははは!」

池岡「でも、いつまで自分は変わらないんだろうって。逆に最近は、変わらないと言われることに対してコンプレックスみたいなものを抱えています」

———阿岐之さんは、ご自身の演じる誠吾という役についてはどう思いましたか?

阿岐之「”おじさん”の一生を演じることには、すごく興味があります。まさに今、僕はおじさんという属性になる歳なので。なにをもっておじさんと思われるのかとか、気になるし。プロットでは50歳の誠吾が『思ってるほどは若く見えませんからね』と言われるんですけど、あれはすごく刺さりますよね。だから、さっき亮ちゃん(池岡)が『変わらないことがコンプレックス』と言ったときに、あっ、おじさんの実感がないんだなって(笑)。僕は、いろんなところでおじさんになったなとすごく思うんだけど」

———たとえば、どういうところで?

阿岐之「いや、もう外見のこと……白髪がすごく増えてきたとかもそうですし。20代の方と共演したときに、もう感覚が違うわーっていう。でも、その感覚が違うことを口にしてしまうと、それはおじさんムーブなんだろうなと思って黙るしかないっていう」

池岡「フフッ」

阿岐之「あとは、LINEのやり取りもそうですよね。僕はメッセージがきたら、すぐに返信するんですよ。でも、最近の……もう、この”最近の”と言うのもおじさんですよね(笑)。でも、20代の方とかとやり取りをしていると、急に返信がこなくなって。1日2日おいて当たり前のように返事がくる、みたいな。そういう感覚のズレみたいなところでも感じます」

池岡「そっか。僕は、そこまでなにかを期待しているわけではないというか……わかりますかね」

阿岐之「わからない(笑)」

池岡「早く返信がほしいってことでしょ?」

阿岐之「やめて! 恥ずかしい!」

池岡「返信がこなかったらこなかったでいいや、という考え方になっちゃったんですよね。でも、ちゃんと歳をとっているなとは感じますよ。僕はもう、それを自分で先に言うようにしています。誰かに『おじさんになったね』と言われる前の防御策として(笑)。そうしないと後々、傷つくのは自分だから」

阿岐之「あっ、それは僕も言っちゃう。でも、こちらとしては本当に歳をとったと思っているんですけど、言われたほうとしては、『そんなことないですよ』と言うしかないわけじゃないですか。もうそれは、カツアゲだなと思って(笑)」

池岡「だから、自分で自分のことをおじさんとは言わないよ。たとえば、最近流行っているK-POPやアイドルの話を振られたりするじゃん。そのときに、『いやー、わからないな』っていうなかに含まれる”もう自分はちょっとおじさんなんだから”を感じとってよ、みたいなオーラを出すわけじゃん」

阿岐之「その先の『歳をとったからなー』のひと言を言わないんだ?」

池岡「言わない言わない。でも、そのニュアンスを込めて『いや、わからんわ~』って言う」

阿岐之「偉いなー。見習おう」

———本作は「誕生日」がキーワードの1つだと思いますが、お2人は自分の誕生日は気になりますか?

阿岐之「いや、やっぱり気にしなくなっているな」

池岡「本当に!? いつから?」

阿岐之「亮ちゃんぐらいの歳からかもしれない。さすがに”忘れてた!”まではいかないけど、”そっか、今日、誕生日か”みたいな」

池岡「僕は誕生日が9月3日なので、9と3という数字が大好きなんですよ。たとえば、銭湯のロッカーとかの番号を選ぶときも、絶対に9か3を選ぶんです。だからもう、(誕生日のことを)一年中考えています(笑)」

———阿岐之さんは、誕生日を1人で過ごすのも大丈夫ですか?

阿岐之「それは寂しい。だから、祝ってもらいたいなと思って、近所の居酒屋に行ったりして。なんか、ふと落ち込むんですよね。母ちゃんからは毎年、必ずお祝いのLINEがくるんだけど、30数年生きていて、祝ってくれるのが母ちゃんのみなのかー。俺の人生って、なんなんだろう? みたいに思っちゃう」

池岡「誰かの誕生日に、自分からお祝いメッセージを送ったりする人?」

阿岐之「あー、大学時代の親友だけかもな。わざわざ祝うのは。というか、どうでもいいな。祝うとか祝われるとか」

池岡「そうそうそう」

阿岐之「俺、記念日とかプレゼント交換とかが好きじゃなくて。お土産とかも、最近まであげるのがすっごく苦手だったんです。あと、サプライズとかもすごく苦手なんですよね。なんで、こんなに嫌なんだろう?」

池岡「でも、俺もすごくわかっちゃうから、なにもフォローできないわ(笑)」

阿岐之「あっ、わかる? プレゼントって、うれしいけどクリティカルにほしいものではないときってないですか? でも、感謝は伝えないといけない。やっぱりカツアゲ文化なんですよ(笑)」

池岡「僕も、今まではそうやって気を遣うこと自体は当たり前のことだと思っていたし、全然嫌いなことでもなかったんですけど。”えっ、そんなにがんばる必要ある?”みたいな人たちが周りに増えてきたんです。僕のなかで、そういう考え方の人がすごくいいなと思った時期があって。だから、期待しないというか、がんばらない。たとえばプレゼントも、相手が喜ばなかったとしても、自分が選んだものだからしょうがないっていう。
 でも、プレゼントをあげたいという気持ちには変わりがないから。そういうふうに考えるようにしたら、プレゼント選びにもあまり困らなくなりましたね。だから、おすすめよ」

阿岐之「うーん、でも俺は、プレゼントのし合いをなくしたいの(笑)」

池岡「そういうことが苦手なのは、昔から?」

阿岐之「昔から。僕、中学生のときに初めて彼女ができたんですけど。誕生日プレゼントを考えるのが苦手すぎて、発狂しそうでしたもん(笑)。何をあげたら一番喜ぶんだろうって、たぶん正解を求めちゃうところがあるんでしょうね。当時の僕は何10周も考えた結果、訳が分からなくなって。実用性と喜びを両立させようと、ダックスフント型の筆箱という一番訳の分からないチョイスを(笑)。それを渡したときの彼女の顔は、いまだに忘れられない」

池岡「本当に!? うれしいけどね。かわいいし」

阿岐之「いや、中学生には微妙なんだよ。だから、今思ったけど、それがトラウマになっているのかもしれないですね」

———お2人の関係についても伺いたいのですが、そもそもの出会いというのは?

阿岐之「『CHIMERICA チャイメリカ』?」

池岡「あれが、はじめましてだっけ?」

阿岐之「そうだと思うな。2019年だから、7年前か。僕が今の事務所に入って2年目くらいで。歳は池岡くんのほうが下だけど、芸歴や事務所の所属歴はすごく長かったんです。だから、どう接したらいいかわからなくて、その座組での初めての飲み会で、『友達になろう』と言ったんです(笑)」

池岡「あー! 言ってたかも」

阿岐之「亮ちゃんは、ビックリした顔をしていた気がする」

池岡「『友達になろう』って、スゴいセリフですもんね。でも僕は、自分に対して矢印が向いている人のことを無下にはできないので、すごくうれしかったですよ。そこから、共演も3回?」

阿岐之「そうだね。来年はさらに、(共演作が)もう1本あるでしょ? すごく縁が深いし、ダントツで最多共演ですよ」

池岡「フツーに飲みにもいくしね」

阿岐之「亮ちゃんはすごくフラットな人だから、全然がんばらなくていいんです。ものすごくローテンションで、一緒にメシを食ったりするもんね(笑)。その感じが、すごく居心地がよくて」

———役者としての印象はいかがですか?

池岡「それが、今回、初めて絡みがあるんですよ。前回の『イノセント・ピープル~』のときは、同じシーンにはいたけど……」

阿岐之「2秒だけ目が合ったね(笑)」

池岡「2秒だけね(笑)。言葉での絡みはなかったから、今回、それに対しての緊張はすごくある。今までは友達みたいな……もちろん共演者だけど、芝居の話をしても、一緒のシーンがないから……」

阿岐之「お互いに無責任に」

池岡「そう、無責任に言ってたところがあるから。今回どうなるのか、めちゃくちゃ楽しみ」

阿岐之「僕は、安心しかないですね。カッコつける必要がないというのが、一番デカいかもしれない。緊張って、よく思ってもらいたいという気持ちが要因になっている気がするんですけど、池岡くんに対してはそれが1ミリもないから」

池岡「たしかにな。3回も一緒にやっていたら、現場でお互いのことをいっぱい見ているし」

阿岐之「最初に共演した『チャイメリカ』はすごく規模の大きな作品で。たくさんセリフがある役を初めていただいたんですよ。今、『コーカサスの白墨の輪』でご一緒している(取材時)眞島(秀和)さんもその作品のキャストだったので、当時の思い出を話したりしたんですけど。
 劇中で僕が階段を下りていって、下から3段目で止まるというシーンがあったんです。簡単なことですよね? でも、僕は緊張のあまり、何回やっても4段目で止まっちゃうんです。そんなふうに、わけのわからない状態を亮ちゃんにはいっぱい見せているから。今さら、よく見せようなんて気持ちはまったくありません(笑)」

———『煙の汽水域』を、どんな作品にしたいと思っていますか?

池岡「プロットを読んだだけで、作品の持つ”なにか”にとらわれてしまったくらいなので、没入感の詰まった舞台になると思います。僕自身は小劇場B1に立つのは初めてですが、きっと、あの独特の空間でおもしろいことになると思うので、ぜひ足を運んでいただけたらうれしいです」

阿岐之「保坂さんの文章を読むと、素直におもしろいなと感じるんです。その感覚が合うということは、自分と似たところがあるんだろうなと思うんですけど。素直におもしろいものを観たな、という作品になればいいなと。演劇って意義深いテーマを提示するような教育的な面もあるけど、そればっかりを押しつけられてもなー、という気がするし。おもしろいなーって観ているうちに、気づいたら考えさせられていたというのが僕は好きなので、とにかく楽しみにきてほしいなと思います」

(取材・文:林 桃 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

阿岐之将一(あきの・まさかず)
1989年11月20日生まれ、広島県出身。主な出演作に、NHK 連続テレビ小説『ちむどんどん』、舞台「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男」、音楽劇『コーカサスの白墨の輪』など。

池岡亮介(いけおか・りょうすけ)
1993年9月3日生まれ、愛知県出身。主な出演作に、ドラマ『パーフェクトワールド』、舞台『絢爛とか爛漫とか』、『シッダールタ』など。

公演情報

ムシラセ 『煙の汽水域』

日:2026年7月11日(土)~19日(日)
場:下北沢 小劇場B1
料:汽水域シート[特典付]7,000円
  一般5,500円
  U-25[25歳以下]3,500円
  ※他、前半割引あり。詳細は下記HPにて
  (全席指定・税込)
HP:https://mushirase.net
問:ムシラセ mail:mushirase@gmail.com

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