
1993年、巨匠 モーリス・ベジャールが東京バレエ団のために演出・振付を行ったオリジナル作品『M』。日本文化への関心が深いベジャールは、歌舞伎の『仮名手本忠臣蔵』をバレエ化した『ザ・カブキ』、黛敏郎の同名曲を用いた『舞楽』を東京バレエ団に提供してきた。その2作に続いて、三島由紀夫の人生と作品をモチーフに創り上げた演目が『M』である。日本国内だけでなくパリ、ミラノ、ベルリンなどでも上演され喝采を浴びてきた同作が、5年ぶりに上演される。三島の理想を体現するアイコン的キャラクター 聖セバスチャンを前回に続いて演じる樋口祐輝は、「今まで東京バレエ団で踊った役・作品の中で一番苦戦したと思う」と胸の内を明かす。
「2020年、『M』にキャスティングされたときは、この作品のことをまだ知らなかったんです。それから初めて映像で観たのですが、自分にこの役が踊れるのか不安でした。実際に踊ってみても、『ザ・カブキ』などと違って全体を通して明確な物語がないので、難しかったのを覚えています」
キリスト教の殉教者の1人で、三島が心酔した聖セバスチャン。『M』では、数々の宗教画で知られるシンボリックな姿で登場する。
「個人的に、中性的な面やナルシスティックな面を踊りで表現するのが苦手なので、そういう点でも、聖セバスチャンを演じるのは苦労しました」
そう話す樋口だが、これまでにさまざまな役で参加してきたべジャール作品で再び踊れることは、自身にとって喜びでもあるようだ。
「ベジャール作品の魅力は、踊っていて自ずと作品の中に入っていけること、そして感情を踊りで表現して役に生きやすいことだと思います。特に、男性はベジャール作品をいきいきと踊っている印象です」
『潮騒』、『金閣寺』といった三島作品のイメージが絵巻物のように次々と現れる中、高度な技巧がふんだんに盛り込まれた踊りの洪水は美しさに満ちている。そんな『M』に再び取り組む樋口も意気込み十分だ。
「5年前は踊ることに必死になっていた部分もあると思うので、今回は聖セバスチャンという役と踊りをもっと深めていけたらと思います。初めて『M』を観る方には、少し難しい場面もあると思いますが、作品の良さを伝えられるように頑張りますので、楽しんでいただけると嬉しいです」
(取材・文:西本 勲 撮影:Kiyonori Hasegawa)

プロフィール

樋口祐輝(ひぐち・ゆうき)
鹿児島県出身。12歳より母のもとでバレエを始める。大阪芸術大学舞台芸術学科を卒業後、2015年に東京バレエ団に入団。『小さな死』、『ベジャール・セレブレーション』、『アルレキナーダ』、『海賊』の東京バレエ団初演に参加。2020年4月、ソリストに昇進。主なレパートリーに、ベジャール振付『春の祭典』生贄、ブルメイステル版『白鳥の湖』パ・ド・カトル、チャルダッシュ ソリスト、『ドン・キホーテ』ガマーシュ、闘牛士、『くるみ割り人形』ピエロ、フランス、『ザ・カブキ』塩冶判官、勘平、『真夏の夜の夢』ライサンダーなどがある。
公演情報
.jpg)
東京バレエ団『M』
日:2025年9月20日(土)~23日(火・祝)
場:東京文化会館 大ホール
料:S席15,000円 A席12,000円
※他、各席種あり。詳細は下記HPにて
(全席指定・税込)
HP:https://www.nbs.or.jp
問:NBSチケットセンター tel.03-3791-8888(月~金10:00~16:00/土日祝休)