古稀を迎えた夫婦と家族の話を、リアル古稀の2人を迎えて 枯れてなんかいられない。元気な高齢者が巻き起こすコメディ

古稀を迎えた夫婦と家族の話を、リアル古稀の2人を迎えて 枯れてなんかいられない。元気な高齢者が巻き起こすコメディ

 毎回ハートフルな物語で人気を集めるペテカンの新作『古来稀でも今希なり』は、古稀を迎える両親にお祝いをしようという3姉妹が、周りを巻き込んで繰り広げるコメディ。主演にはペテカンシニア部を称する山口良一と田中真弓がキャスティングされたが、この2人、同い年で今年リアルに古稀を迎えるという。山口が言うところの「ペテカン作品に出演した高齢者」であるペテカンシニア部、第1期生である2人を擁したこの作品について、山口、田中。そして劇団側の代表として大治幸雄から話を聞いた。


―――まずペテカンシニア部を称するお2人を迎えた本公演。実現までの経緯を大治さんに劇団代表として伺いましょう。

大治「まずペテカンの30周年に、節目に出て頂いている山口さん、田中さんにお声がけしようと皆で話していまして。それで調べていたらお2人が同い年でしかも古稀(70歳)だと。それならお祝いしなきゃいけない。30周年と古稀祝いを一緒にやっちゃおうって事で話が進みました」

―――お2人はペテカンシニア部第1期生、ということですが。

大治「シニア部のきっかけは、2011年に客演いただいたときに、ミーハーな僕が皆さんからサインを貰ったんです。その時、山口さんが『じゃあ僕はペテカンシニアだね』って言ってそう書いてくれて、真弓さん、濱崎(けい子:宮崎在住の俳優)さんも『じゃあ私も』って続いてくれました。それがペテカンシニア部の始まりで、次の年にお披露目公演をやろうって、2012年『たかえ先生への手紙』という朗読劇になりました」

―――2つの節目にお祝いも載せた公演ですが、企画を聞いたお2人のお気持ちは?

山口「ペテカン30周年に俺たちの古稀を混ぜていいのか?って一瞬思いました。でもありがたい話です。ペテカンに何回か客演していますが、もの凄いチームワークの良い劇団だし、珍しいぐらい仲が良い。劇団って普通はもっと殺伐してる部分があると思うんですけど、ここはサークルみたいで。せっかく企画してもらえるなら、ありがたいなぁと思ってやらせてもらうことにしました」

田中「ペテカンのメンバーは公演となるとものすごく忙しいので、2011年の公演でも、濱崎かぁちゃん(けい子)と親方(山口)と私の3人は楽屋で待ってる事が多かったんです。それで3人で何かやんない?? ペテカンシニア部?みたいな話になりました。でもそれならペテカン本体に言わないといけないね、となって、この穏やかな3人の中ではイチバンのタカ派に見える私がペテカン本体に話すことになったんです。さらに勝手に稽古もしたらさ、ペテカン本体が知らないペテカンシニア部の稽古はないって本田(誠人)さんが言ってメンバーも来てくれて、2012年の朗読劇につながります」

―――古希を迎えた夫婦は当然お2人が演じられますが、大治さんは終活サービスセンター。一種のサービス業をされている。

大治「そういう会社の社長で、いつしか家族のお祝いに絡んでいく。というか巻き込まれていく役柄です。夫妻には3姉妹がいて、パーティーをやるから手伝って下さいよみたいな感じで誘われ、お願いされて徐々に巻き込まれていっちゃう」

山口「被害者的ポジションね(笑)」

―――ところで山口さんからペテカンは仲がいいという話がありましたが、このお2人の仲の良さはどうですか?

大治「仲良いですね」

田中「妙な仲良しってよく言われます。大森カンパニーの芝居コントシリーズ『更地』でも一緒なので、しょっちゅう一緒にいるような感じですね」

山口「飲み屋でも会ったりしてね」

大治「2人ともいっぱい活動されて元気ですよね」

山口「いやいやでも、今70歳は全然元気でしょ」

田中「寿命が長いんだから」

大治「まさにタイトル通りですね」

―――大治さんは最初に共演した2011年の時にどんな印象でした?

大治「大先輩ですからドキドキしましたけど、会ってみるとお2人ともお優しくて全然気使わなくていいように接して頂きました。僕等も図々しいんで。イイネイイネ!って感じで仲良くさせて頂いて」

山口「2人とも貫禄は無いからね(笑)」

―――そういえばペテカン内では田中さんが船長、山口さんは親方と呼ばれているようですが。

山口「仕込みバラしの時、ペテカンメンバーはやる事が分かっているので仕事が早いんです。僕も手伝おうと思うんだけど、何していいかわからない。一応格好だけは作業できるような形なのだけど、俺、何もやる事ないなと思って全体が見える所で腕組んで手伝える場所を探していたら、その格好が親方に見えたらしいんですよ」

田中「格好がちゃんとしているの。ガチ袋(腰につける作業袋)下げてさ。だから『親方だ! 親方!』って」

山口「演劇界で親方と呼んでいるのは、ペテカン関係者だけじゃないですか。他に親方と呼ぶ人は誰もいない」

田中「そうなの? 私、ずっと親方って呼んでるよ」

山口「気に入ってますけれどね。でも初めて会った人に『親方って呼んで下さい』って言いづらいから広がらない(笑)」

―――田中さんの船長は、もちろんアニメ『ONE PIECE』で担当されているルフィからですよね。

田中「そうですね。麦わらの一味の。でもこの人(山口)ね、ワンピース全然見てないの」

山口「全然は語弊がある」

田中「ほとんど知らないのに、Tシャツとかグッズをどこかで買ってきて、いかにもすごいファンのような事をするんです」

山口「カープのユニフォームを着たルフィ人形とか。でもほぼ見てない。ただのグッズ好き。でも、田中さんはそういうファンから見たら、船長でしょ?」

―――ほかでは言われます?

田中「声優チームの麦わらの一味からは言われることはありますね」

―――でも親方もいて、船長もいて。ペテカン側はなにも要らないじゃないですか。

大治「そう、豪華なメンバーです」

―――作品では古稀祝を受ける2人。とは言っても“枯れた2人”ではないようですね。

田中「いろいろチャレンジをしようかなって」

山口「お母さんの方がより元気だからね。たぶんこの年代の夫婦ってお母さんの方が元気だろうね。役柄だと社交ダンスとか色々な趣味がある奥さん」

田中「このくらいの年齢だと趣味が多いですよね。自分もそうだし」

―――実際リアル古稀のお2人は、古稀=70歳をどう感じてますか? 山口さんはさっき今時古稀なんて若いよっていうお話でしたけど。

田中「私はともかく演劇が好きで、減らそう減らそうと思っていても、7本くらいに出ちゃう。そしたら今年なんか9本になっちゃった(笑)」

山口「おかしいでしょ? 忙しいのに。暇な人だってそんなにはやんないよ」

田中「そうよね。毎月新しいものがきても覚えらんないんですよ。いつもアクセクして自分で自分の首絞めていると思うんだけど、覚えるものがないとちょっと寂しいかもしれない」

―――他に声優のお仕事もあるわけですよね。

田中「でも、声優は覚えなくていいので。むしろ目が大変。近くと遠くを焦点合わせるのは時間がかかるのを実感してる。若い頃は、(眼が)シュッシュッと動けたのが、今はズゥ――ッと。なんか遅いんです。(画像の)口が開いたと思って声出しても出遅れる感じ」

―――そもそも田中さん。プロフィールに趣味・演劇ってなってましたよ。

田中「うん。お金にならないので趣味。好きでやってることだから。もう1つ好きでやってると言ったら、ちっとも上手くないジャグリングとけん玉」

山口「まあいずれにしても好奇心は大事みたいよ。歳とってくると、みんなダメになっちゃうから」

田中「親方なんかも、縄跳びとかウサギ跳びをあれだけ出来るものね」

山口「それ、趣味でも特技でもないし、ただ、やったら出来たのをやってるだけなんで」

―――山口さんの運動能力は凄いっていう伝説がありますよね。出来そうに見えないのにテレビ番組でバク転を披露したという。

山口「『欽ドン!良い子、悪い子、普通の子』のね。でも西山君(悪い子)や長江君(普通の子)の2人は凄く運動神経が良かった。長江君はスノボでオリンピック選手を目指したぐらいだし。西山君は子供の頃にバトミントンで県3位。後にスポーツ系バラエティにも出るくらいだから。俺は練習しないと何も出来ない。劇団に入ったころにマットがあったんで、みんなで練習してバク転がようやく出来るようになったんです。だから西山君から『山さん、ちょっとバク転教えてよ』と言われて教えたら、俺が何ヶ月、いや何年もかかって出来たバク転を3時間で出来ちゃった。なんだよコイツ!って思った」

―――じゃあ努力の人じゃないですか。

山口「努力もそんなにしない。最近の自分のキャッチコピーは「楽はしないが努力もしない」。言い得て妙だけど私を知ってる人なら、みんな納得する。楽はしないでそれなりに頑張るけど、人の見てない所で努力する事は一切しない。出来るなら見てる所で努力したい」

―――では、古稀の実感を、山口さんどうですか?

山口「あるようなないような。例えば。体力的に回復力が落ちているような。でも得には感じない。むしろ周囲が70歳? 若いですねって言ってくれるのに、ちょっと気を良くしてるぐらいで。結局今までと同じようにやってきた事をずっと続けています。やめちゃうと、どっかでガクンと来そうな気がする。お芝居もそうかもしれませんしね。ほぼ最近は大森カンパニープロデュースしか出てません。これからは演劇、舞台がリハビリみたいなものですね」

―――ペテカン旗揚げ世代の大治さんが51歳だからおよそ20歳ぐらいの差があるわけですが、舞台芸術学院の同期で始めたペテカンはこのぐらいの世代が多いわけです。そんな若いメンバーと舞台を創るのはどうですか?

山口「でも『更地』も周りはだいたい年下。僕達が一番上ということは多いのであんまり違和感とかはないですよね。むしろ、ああ、よく動くなぁとか、セリフ覚えるの早いなぁとか、それで、若いってのは凄いなぁとは思いますね」

田中「セリフ覚え悪くなったし、この間、親方に触発されて親方がするようなウサギ跳びを私も出来るかしらと思って、誰もいない楽屋で1人でトライしたら、まずしゃがめなかった」

山口「蹲踞(そんきょ)が?」

田中「ダメだった。だから和式の便所は良かったんだね(笑)。昔はみんなあれだったわけ。おばあちゃんだってしゃがんでた」

山口「そう。あれが出来なかったら、もう排泄が出来ないわけよ」

田中「だからちょっとは鍛えようとは思ってます。見習ってね」

―――ではそろそろ皆さんからのメッセージをいただきたいと思うんですが。

山口「ペテカンが作る舞台ですので、社会問題に鋭く切り込むとか、観終わった後にものすごく考え込むとか、そんなことはなく。観終わった後はホンワカして、40代・50代の方は離れて暮らす親御さんに会いたくなる。年配の方なら、娘、息子がどうしてるかなと思ったり。そんな優しい気持ちになれる舞台になるんじゃないかと思いますので、ぜひご覧いただきたいと思います」

田中「私は学生演劇からずっと演劇をやっていて、劇団テアトルエコーに23歳で入ってからも演劇をやっているんですけど、実はペテカンに客演することで学ぶことが多かったんです。これまで何をしていたんだろうと思うくらい。声優が長いせいか言葉だけ、声だけが浮いていて、人間が描けてない。そこを本田さん(本田誠人:ペテカンの脚本・演出家兼役者。2021年他界)が優しく指摘してくれて。それで気付き出していろんな演劇に出るようになった感じなんですよ。そんな私がさらに演劇好きになった最初の劇団に出させてもらえる、それまた新しい発見をきっとさせてくれるんじゃないかなぁと思って楽しみにしてます」

大治「今回お2方に出ていただきますが、あとはお祭りなんで、お2人には神輿に乗ってもらい、メンバーがそれを担いでワッショイワッショイ。そしてお客様が希望だったり、夢だったり、元気だったりをもらって帰れる。そんなお芝居にしたいなと思っています」

(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

山口良一(やまぐち・りょういち)
広島県出身。19歳半の時に上京して1977年に東映演技研修所に入所し2年間通う。その後の1979年、佐藤B作率いる劇団東京ヴォードヴィルショーに入団。フジテレビ系列のバラエティ番組『欽ドン!良い子悪い子普通の子』のヨシ夫役でブレイクして、バラエティはもとよりテレビドラマ、映画、舞台で活躍。舞台では東京ヴォードビルショーや劇団内ユニットである花組エキスプレス等の公演に出演している。

田中真弓(たなか・まゆみ)
東京都出身。舞台女優を目指して中学、高校、短期大学と演劇部に所属し、演劇科への進学を試みるが不合格。女優としての活動の場を求めて、文学座や青年座、演劇養成所などに応募するも全て不合格。歌手として歌っていたころに、テアトル・エコーのスタッフに紹介してもらい所属することとなる。劇団作品などに出演する傍ら、1978年、『激走!ルーベンカイザー』の高木涼子役で声優デビュー。『ドラゴンボール』のクリリンや『ONE PIECE』のモンキー・D・ルフィ等の役で人気を獲得する。しかしながら本業は女優であり、年間7本ペースで舞台作品に出演。また、劇団「おっ、ぺれった」も主宰している。

大治幸雄(おおはる・ゆきお)
埼玉県出身。映画好きが高じて将来その方向に進むことを考えていたところ、情報誌「ぴあ」に掲載されていた舞台芸術学院夜間部を広告を見て、高校に通う傍ら夜間部に通う。高校卒業後に同校の45期生として入学。その後、同期だった濱田龍司、本田誠人ほか、男5人でペテカンを旗揚げ。現在まで劇団作品はもちろん、商業演劇の舞台でも活躍している。

公演情報

ペテカン30周年記念公演 vol.44
『古来稀まれでも今希のぞみなり』

日:2025年10月1日(水)~5日(日)
場:新宿シアタートップス
料:一般5,500円 30周年記念U-30割[30歳以下]3,000円 古希ペア割[2枚1組/ペアのどちらか一方が満70歳以上]7,000円 ※30周年記念U-30割・古希ペア割は要身分証明書提示(全席指定・税込)
HP:https://www.petekan.com/
問:ペテカン mail:petekan.1995@gmail.com

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