
ブラボーカンパニー、ゴツプロ!と舞台を中心に活動している佐藤正和と、北区つかこうへい劇団14期生としてつかこうへいの世界で活動してきた井上賢嗣が2020年に結成したユニット「青春の会」。今見せたい「演劇」をより気軽により多くの人々に楽しんでもらうことを目的に、これまで『熱海殺人事件』、『父と暮せば』などを上演してきたが、第7回公演『懐かしき、未来 ‐a nostalgic future‐』では佐藤正和が初の一人舞台に挑む。本作は数多くのゴツプロ!プロジェクト公演を手がけた深井邦彦の書き下ろし。出演の佐藤正和と作・演出の深井邦彦に、意外(?)な理由で決まった公演決定のいきさつや本作への想いなどを聞いた。
―――まず公演のいきさつから教えていただきたいのですが、一人芝居をやろうという発案は佐藤さんからですか。
佐藤「はい。実はもともと一人芝居に全く興味がなくて、なんならやりたくなかったですし、日本には落語というものがあって、落語にかなう一人芝居はないと思っていました。ではなぜ一人芝居をやろうと思ったのかというと、これまで四人芝居の『熱海殺人事件』や二人芝居の『父と暮せば』とやってきて、今後地方でも公演をしたいと思っていた上で、当然人数が増えれば増えるほど、交通費や宿泊費などお金がかかりますし、以前と比べて物価も上昇していることを状況を考えると“一人芝居なら一番お金がかからなんじゃないかな”というところに行き着いたわけで」
一同「(笑)」
佐藤「一人芝居のコンテンツを1つ作っておけば、いろいろな土地に行けるようになれるんじゃないかと思いましたし、4人、2人とくれば、次は1人だなって(笑)。それにすごく勢いのある作・演出家の深井くんがそばにいたので、一人芝居をやろうと決めた時に即オファーしました」
―――深井さんは一人芝居を手掛けるのは初めてですか?
深井「一本物としては初めてです。オムニバス形式で1回だけやったことはありますが、ほとんど初めてのような感じですね」
―――本作は深井さんの書き下ろしということですが、どんなテーマを持って作られましたか。
深井「佐藤さんと話していく中で、「未来を明るく見据えたい」というお互い共有したテーマがひとつありまして、そのテーマを軸に台本を書いていく中で、自分自身未来にあまり希望持ってないということに突きつけられたんです(苦笑)。それに加えて、過去に戻るという描写もちょっとあることを踏まえて、「未来の明るく見据えたい」「現在、自分が明るく見せられてない」「過去の自分を救いたい」という3つのテーマを自分の中で持ちながら書きました。それに、小説のような余白がある作品になっていて、きっと演じられるのは佐藤さんしかいないと思っています」

―――ネタバレにならない程度で、物語のあらすじを教えていただけますか。
深井「本当に最近台本が上がったばかりで、今後修正が必要になるかもしれませんが、母に捨てられた10歳の少年が、ある時変なおじさんと出会い、そこから過去に戻ったり、未来を見据えながら、いかに自分の未来を明るく変えていくかという話になります」
佐藤「僕はまだ台本を一文字も見ていません」
一同「(笑)」
―――ちなみに佐藤さんは何役演じられますか。
深井「主人公の少年時代と大人時代の二役です」
―――私の中では、もっといろいろなキャラクターを演じられると思ったのですが。
深井「自分もそういう構想も考えてみたんですけど、佐藤さんが一人芝居をやるというフォーマットが出来上がった時に、きっとファンの方々は『たくさんのキャラクターを演じるのでは?』というふうに想像出来ちゃうと思うんですよね。今回のチラシビジュアルや佐藤さんのユーモラスな部分を期待して。なので自分は敢えてそれを排除したかったというのがありましたし、自分が書くならば、やはりテーマ性をちゃんと物語に見据えた上での作品にしたかったので、自身1人を演じていただこうと」
佐藤「多くのキャラクターを演じるというイメージは、僕の中にはあまりないですね」
深井「実は執筆の間に、チラシビジュアルが完成して、そのデザインを見ながら台本を完成させました」
佐藤「あ~、それはよかった」
―――脚本ありきのビジュアルだと思っていたんですが、全然違うんですね。
深井「はい。変な帽子とマントをつけているところは、作品的にかなりキーポイントになります」
佐藤「今回、タイトルやチラシデザインなど、最初から丸投げしないでおこうと決めていたんです。まだ内容も決まっていない段階から参加しましたし、チラシに関しても、出来るだけ観に来られる方のハードルを上げたくなかったので、『昔のウエスタンっぽい感じで、“THE・一人芝居”のような芸術的なデザインは避けて欲しい』と宣伝美術の加藤和博氏にオーダーを出しました。僕がちゃんとリクエストをしつつ、スタッフさんと話しながら全部作られてきてるので、今は何の不安もなく、本当に本番が楽しみでしかないです」

―――チラシ表では、拳銃を持っていると思っていたら実はガラケーだったり、チラシ裏も佐藤さんが近未来的なメガネをしたりと細かい部分までこだわっているなと感じました。
佐藤「近くの公民館で撮影したとは思えない出来だと思います」
一同「(笑)」
佐藤「演劇を見たことない人でも『あれっ?これなんだろう?』と思ってもらえるようにこだわりました」
深井「公演を観終わって、このチラシが素敵だなと思って欲しいなって。普通の流れは「チラシを見た→面白そうだから観劇しようとチケット購入→公演を観た→終わり」だけど、このチラシってインパクトがあるし、もっとパワーがあると思っているので、公演を観終わって、改めてチラシを見て欲しいというのはありますね」
―――9月の東京公演に続いて、10月には台湾公演が控えています。これまでもゴツプロ!公演で何度も台湾で上演したりと、台湾とは縁が深いですね。
佐藤「会場のリッジシアターは、僕らの仲間でもあるユアンが倉庫を改装して作った劇場ですが、席数が20人ぐらいの小劇場がゆえに、上演出来る作品がある程度限られてしまうんです。だから一人芝居をやるという時に、これならリッジシアターでもやれるかなと思って問い合わせたら、ぜひ来て欲しいと言ってもらえて実現することが出来ました。現地の若いスタッフたちがよく手伝ってくれたので、彼らにも観て欲しいと思っているんですけど、全員来ちゃったら、他の一般のお客さんは入れないんじゃないかって」
一同「(笑)」
佐藤「だから台湾では、1日3回公演というのも考えています」
―――体力的に大丈夫ですか?
深井「きっと体力的な部分というよりも、膨大なセリフ量のほうが大変だと思いますよ」
佐藤「膨大なセリフを覚えるとか、僕レベルの役者が一人芝居で集客できるかとかいろいろなことを考えていたら、リスクしかないですし、ここまで来たら勢いでしかないですよ」
深井「そうですね。結婚と一人芝居は“勢い”で乗り越えるかもしれないです」
一同「(笑)」
深井「本当に頭で考えない方がいいと思います」
―――勢いで9月・10月と駆け抜けていただきたいです。さてこんな方に本作を観て欲しいという希望や願いなどありますか。
佐藤「今回は中文と英語の字幕付きの上演となるので、下北沢にいるありとあらゆる人たちに観て欲しいとは思います。上演時間も2~3時間やるわけではないですし。ちなみに上演時間はどのくらいの予定?」
深井「長くて1時間20分くらい……」
佐藤「わりとですね」
一同「(笑)」
佐藤「『父と暮せば』は1時間25分ぐらいだったけど」
深井「それよりは長くありません‼」
佐藤「『父と暮せば』よりも長かったら、逃げるかもしれない」
一同「(笑)」
佐藤「普段芝居を観ない人に観て欲しいというのは常々思っていて、芝居を観たことない人たちにとって、この作品が観劇への入口がになってくれたらなと思いますね」
深井「きっとほとんどの方が該当すると思いますが、『過去を変えたいな』と一度でも思ったことある人には特に観て欲しいです。あとは「助けたい過去の自分がいる人」たちや「あの時誰かに助けてほしかった瞬間がある人たち」もですね」
―――ありがとうございます。では最後にこのインタビューをご覧になられている方に向けてメッセージをお願いします。
深井「初めての佐藤さんの挑戦、青春の会の挑戦、そして僕の挑戦を少し半笑いになりながら観てもらえたらすごく嬉しいと思います。ぜひ劇場でお待ちしております」
佐藤「お客さんは、1時間ちょっとの間、僕の顔しか見られないということに最近気づきました(苦笑)。だから、その責任を全うできるように今から頑張りますので、1時間ちょっとの僕だけの時間をぜひ共有しに来て欲しいなと思います」
(取材・文・写真:冨岡弘行)

プロフィール

佐藤正和(さとう・まさかず)
1970年7月7日生まれ、福岡県出身。主な出演作に、ドラマ『勇者ヨシヒコ』シリーズ、WOWOW×ハリウッド共同制作オリジナルドラマ『TOKYO VICE』、ゴツプロ!『流浪樹~The Wanderer Tree~』など。

深井邦彦(ふかい・くにひこ)
1985年11月29日生まれ、兵庫県出身。主な作・演出作品に、トローチ『熱く、沼る』、ゴツプロ!『ブロッケン』、HIGHcolors『或る、かぎり』など。
公演情報

ゴツプロ!Presents 青春の会 第7回公演
『懐かしき、未来 -a nostalgic future-』
日:2025年9月11日(木)~15日(月・祝)
※他、台湾公演あり
場:下北沢 シアター711
料:【指定席】応援シート[特典付]5,500円
【自由席】一般3,800円 高校生以下2,500円
(税込)
HP:https://seishun-no-kai.jimdosite.com
問:青春の会制作部 mail:staff@52pro.info