
宝生流シテ方・佐野登が企画する能公演『未来へつながる伝統』。9回目となる今回の演目は、能の中でも極めて大曲である『道成寺』。本公演について佐野に話を聞いた。
「能役者にとって、生涯に1度しかやらない演目は結構ありますが、『道成寺』のような大曲は大概やらないか、やっても1回。家元は別格ですけれど」
そんな大曲を佐野が演じるのは3回目。これ自体が稀有なことだが、毎回それぞれの『道成寺』があるそうだ。
「初めての時は知識や経験値がないところで終わってしまい、もう1回出来たらよかったのになと思いました。それで次の機会を作ったのですが、1回目よりも確かな技術と経験値で出来たけれども、体力的にしんどいなと思ったんです。さらにきついかもしれませんが、もう1回やってみたいと思い今回の挑戦になります」
30代・50代と『道成寺』を演じた佐野が、60代で演じるのは“大人の道成寺”だという。
「例えば早く動けというと、若い時ならただ早く動いてみせるわけだけど、本来の能としての演じ方は、溜めているところがあるから早く見せられるわけで、若い時はそれができないんです。でも年を取ると思いっきりダッシュはできないけれど、舞台上の経験だけじゃなくて、人生経験を重ねて演じる中で、溜めているものを爆発させることが出来るようになる。ひょっとするとそれしか出来ないのかもしれない。そういう意味で、この年齢だからこその今回の提案なんですよね」
さらに今回は、佐野にとって師であり伯父である故・佐野萌氏の追善の意味も含まれる。
「開催日の9月28日は伯父の命日で、今年が17回忌なんです。伯父自身は親の年会とかをあまりやらなかったのだけれど、僕はそういったことをちゃんとしたい方なので。野村万作先生にそのことを伝えたら、早々と『無布施経』と決めてくださいました。『道成寺』の間狂言は野村萬斎さんが息子の裕基くんと共に務めてくれます」
恒例のスペシャルトークでは、会津若松にある仏壇製作会社・アルテマイスター株式会社保志の保志康徳氏を迎える。仏壇を通した伝統の継承は、能楽の継承にも通じるものがあるのだろう。佐野にとって、おそらく最後の『道成寺』。それはつまり観客にとっても、最後のチャンスということ。間違いなく見逃せない一番だと言えるだろう。
(取材・文:渡部晋也 撮影:友澤綾乃)

プロフィール

佐野 登(さの・のぼる)
東京都出身。宝生流能楽師シテ方。18代宗家・宝生英雄に師事。全国各地での演能活動と並行して、積極的に謡曲・仕舞を指導している。「生きる力」をテーマにした学校・幼児教育でのワークショップや、謡つながりのコミュニティ創出と新たな価値観の創造。能を実際に体験していく中長期的プログラム、能楽謡隊を全国で組織する。さらに海外公演への参加や他ジャンルのアーティストとの交流も多く、現代に活きる能楽を目指した積極的な活動を展開する。2024年に一般社団法人日本能楽謡隊協会を一般社団法人未来につながる伝統に団体名を変更。
公演情報
.jpg)
第9回 未来につながる伝統 能公演
日:2025年9月28日(日)14:00開演(13:00開場)
場:宝生能楽堂
料:S席[正面]11,000円 A席[脇正面]8,800円 B席[中正面]7,700円(指定席・税込)
自由席[脇正面後方] 一般 5,500円
学生3,300円 ※要学生証提示(税込)
HP:https://www.nohgaku.jp
問:一般社団法人未来につながる伝統
mail:shihoukai202@gmail.com