ジョン・キャメロン・ミッチェル、待望の来日決定! なぜヘドウィグは我々を魅了するのか その軌跡と哲学を紐解くスペシャルショー

ジョン・キャメロン・ミッチェル、待望の来日決定! なぜヘドウィグは我々を魅了するのか その軌跡と哲学を紐解くスペシャルショー

 1998年にオフ・ブロードウェイで産声を上げた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』。2001年にジョン・キャメロン・ミッチェルが自ら映画化し数々の賞を受賞、世界的ブームを巻き起こした。日本でも2004年に三上博史主演で初演、以降もキャストを変えながら上演が繰り返されている。
 今回、そんな伝説のミュージカルの生みの親であるジョン・キャメロン・ミッチェルのスペシャルなショーの開催が決定した。『ジョン・キャメロン・ミッチェル ミッドナイト・レディオ -ザ・ヒストリー・オブ・ヘドウィグ-』は、作品を彩る名曲の数々をミッチェル本人が歌い上げ、これまでの軌跡を振り返る。ヘドウィグの誕生秘話や背景に流れる哲学についても語られるとのことで、作品の深部に触れる貴重な機会となりそうだ。
 また、本公演には、これまでの日本語版に出演した中村中・浦井健治・山本耕史らのスペシャルゲスト出演が決定している。かつて「ヘドウィグを演じた人は姉妹であり、兄弟」と語ったミッチェル。彼らの共演にも期待が高まる。


―――誕生から27年経った今もなお、ヘドウィグは多くのファンを魅了し続けています。国も、言語も、時代も超えてヘドウィグが愛され、求められるのは、なぜだと思いますか?

 「この物語の中心となるのは“愛の起源の神話“※のメタファーです。そして、この神話はあらゆるすべての文化に共通する“感覚”です。私たちは皆、自分の“もう半分”を探し求めているという神話的な感覚を持っています。
 この神話は、プラトンによって書かれたものですが、すべての文化、すべての宗教、すべてのジェンダー、すべてのセクシュアリティに共通して響くものです。つまり、これは世界共通、人類共通の神話であり、誰にとっても関係がある話なのです。それが感情的に強く響く理由なのだと思います」

※古代ギリシアの哲学者・プラトンは、「愛の起源」について、「もともと人間は男女両方を兼ね備えた球体人間だったが、天界からの罰として2つに引き裂かれ、それぞれの半身は自分の欠けた部分を補おうと他の人間を求めるようになった」という説を唱えた。

―――最初にヘドウィグを生み出したとき、現在のような状況を予想していましたか? もしくは、目指していましたか?

 「このように成功するとは思っていませんでした。あまりに風変わりな物語だったので、ブロードウェイで上演されることもないだろうと。当時のブロードウェイはもっと保守的でしたし、オスカーにノミネートされることもないと思っていました。
 そして実際、当時のブロードウェイもオスカーもこの作品に関心を持っておらず、成功する可能性やお金が得られる見込みがありませんでした。しかし、商業的な誘惑がなかったことで、かえって私たちはとても個人的かつ特別なものを、純粋な形で創ることができたのです。
 だからこそ、観客がこの作品に出会ったときに“これは本物だ”と感じてくれたのだと思います。お金儲けのためではなく、真実を語ろうとしている、そう感じてもらえたから、長く愛され続けているのでしょう。
 商業的に大ヒットしたことはありませんが、常にカルト的な人気を持つ作品であり、そのことを、私はとても気に入っています。むしろその方が好きです」

―――これまでも、2017年のSPECIAL SHOWに自ら出演されたり、2022年には舞台版の演出を手掛けたりと、日本公演を経験していらっしゃいますが、日本のファンにどんな印象を持たれていますか?

 「日本のファンは、世界で一番好きなファンたちです。長年にわたって作品を大切にしてくれるその姿勢は、本当に日本人ならではだと思います。人生を通してずっと好きなものを大事にし続ける、日本にはそういう文化がありますよね。
 日本のファンからは、ヘドウィグにちなんだ手作りのアート作品など、たくさんの素晴らしい贈り物をいただきました。私はそれらをとても大切にしています。今回また日本に戻って来られることは、私にとってとても意味のあることです。日本の皆さんとの再会が本当に楽しみです」

―――今回はただのショーではなく、ヘドウィグの誕生からこれまでの歴史を振り返るような内容になるそうですね。

 「このショーは、今から7年ほど前に作り始めたのですが、その過程で、ヘドウィグを作った当時のことを思い出すのは、とても感情的な体験でした。スティーヴン・トラスク(作中の音楽を担当)と一緒に作品を作ったこと、そしてバンドのベーシストであり、私の恋人でもあったジャックとの思い出など、様々な記憶が一気によみがえってきたんです。
 このショーを作ることは、まるで自分自身のセラピーのようでもありました。今回のショーでは、ヘドウィグの裏側にあるプライベートな話や、哲学的な背景についてもお話しできればと思っています」

―――観客にどういうところを楽しんでもらいたいですか?

 「多くの人が、ヘドウィグの裏にあるラブストーリー、つまり、私の恋人だったジャックとの物語に強く心を動かされるのではないかと思っています。ジャックは、私のベースプレイヤーであり、人生で最も深く愛した人でした。けれど彼はもう、この世にはいません。
 今回のショーでは、その“人生で最大の愛”について語ります。ある意味でヘドウィグという作品は、彼との愛から生まれたものなのです。そしてこの物語は、ずっと胸の奥にしまってきた“秘密のストーリー”でもあります。
 私は、このラブストーリーから皆さんが何かを感じ取ってくれることを心から願っています。ジャックへの愛があったからこそ、ヘドウィグという物語は生まれました」

―――どれも印象的な、素晴らしい楽曲ばかりですが、あえて1曲、最も思い入れの深い曲を選ぶとしたらどれになりますか? その理由も教えてください。

 「もし1曲だけ選ばなければならないとしたら、それは『Midnight Radio』だと思います。『Midnight Radio』は、ヘドウィグが観客に向かって、“私はあなたで、あなたは私。私たちは皆、人生を生きながら、愛を感じようとし、愛を与えようとし、愛を広めようとしている”と語りかける曲です。
 『Midnight Radio』は、孤独な夜に私たちを慰めてくれる音楽、ひとりぼっちの時にそっと寄り添ってくれる声です。そして手を掲げるその瞬間、私たちは思い出すのです。私たちは同じ空間にいる、ネットでもラジオでもない、本物で、“今ここ”にいるんだと」

―――最後に、ヘドウィグを愛する日本のファンへメッセージをお願いします。

 「2002年に映画が公開された時から、長きにわたって私たち(作品)と共に歩んでくださって、本当にありがとうございます。これまでの年月を通じて、皆さんとの素晴らしい関係を築けたことを、心から感謝しています。長年にわたりこの物語を日本で伝え続けてくれた関係者の方はじめ、すべての方々にも深くお礼を申し上げます。
 今回の公演は情熱的で、美しい“祝祭”になるはずです。きっと涙あり、笑いありの時間になるでしょう。本当に楽しみにしています。最高の時間を一緒に過ごしましょう!」

(取材・文:前田有貴)

プロフィール

ジョン・キャメロン・ミッチェル
1963年生まれ、アメリカ テキサス州出身。脚本家・映画監督・俳優としてマルチに活躍。1998年に「ジェーン・ストリート・シアター」で上演した『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』では、オビー賞、ニューヨーク・マガジン賞、ドラマ・リーグ賞など、数々の賞を受賞。その後、ミッチェル自身が主演・脚本・監督を務めた映画版も制作され、世界中で人気を博した。他の主な舞台作品に、『Six Degrees of Separation あなたまでの6人』、『ビッグ・リバー』などがある。映画監督としては、第2作目である『ショートバス』で独自の視点から愛と孤独を描いた。ピューリッツァー賞に輝いた、デヴィッド・リンゼイ=アベアーの戯曲を映画化した第3作目『ラビット・ホール』では、ニコール・キッドマン製作・主演で幼い息子を失った夫婦の再生を描き、好評を得た。2017年には、第4作目の『パーティTICKET ーで女の子に話しかけるには』が公開された。

公演情報

『ジョン・キャメロン・ミッチェル ミッドナイト・レディオ -The History of Hedwig-』

【東京公演】
日:2025年7月19日(土)~21日(月・祝)
場:東急シアターオーブ
料:S席12,000円 A席9,000円(全席指定・税込)
問:サンライズプロモーション東京
  tel.0570-00-3337(平日12:00~15:00)

【大阪公演】
日:2025年7月23日(水)13:00/18:00開演
場:NHK大阪ホール
料:S席12,000円 A席9,000円
  B席6,000円(全席指定・税込)
問:キョードーインフォメーション
  tel.0570-200-888(12:00~17:00/土日祝休)

HP:https://www.midnightradio.jp

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