
我が国のシャンソン界における一大祭典として知られる『パリ祭』。第63回となる今回も数多くの歌手達が出演。そのゲストとして、「鬼無里(きなさ)まり」という歌手がクレジットされている。実は70年代に元祖アクション女優として一世を風靡した志穂美悦子のシャンソン歌手としての名前だ。
「活動を始めた時から、昔の名前は使わないと決めていました。ゼロから始めるので全くの別人格で歌いたい。だからコンクールにも出ようと決めていました。鬼無里まりとして。シャンソン歌手として立つことを決めた時に、降りてきました」
まさに生まれ変わったといえる彼女だが、シャンソンとの出逢いは女優時代に遡る。
「20代前半の頃、銀巴里(日本で初めて本格的にシャンソンを聞かせた店)に通っていました。金子由香利さんが好きだったんです。当時は仕事でアクションをしながら、家ではシャンソンを聞いているという生活。剛と柔ですね(笑)」
その後、徐々に役柄に幅が出て、歌う仕事も手掛けるようになったという。
「20代の後半には、私が所属していたジャパンアクションクラブでミュージカルを上演する気運が高まってきて、歌ったり踊ったりする機会が増えました。その経験が深作欣二監督の映画『上海バンスキング』への出演に繋がっていったんです」
結婚後は家庭に入り、暫くして花を用いた花創作家としての活動を展開していたが、シャンソンへの愛情は無くならなかった。そして昨年、歌手としての花は湯川れい子氏が主催するコンサートでシャンソン歌手として開くことになる。
「私がシャンソンを愛する理由に4つの柱があるんです。まず私自身が持っている傷を埋めることが出来たこと。そして先人による日本語の訳詞が美しく、素晴らし過ぎること。若い頃に聴いていたシャンソンの小さな分子が私の中で一杯になってきたこと。私自身、夢中になれるものは目一杯取り組もうと思っていて、それが今はシャンソンだということ」
大舞台を前にしての意気込みを語ってくれた。
「これほどの舞台、しかもシャンソン通のお客さまの前に出ることができて有り難いですが、私の声と歌は唯一無二でありたいと思っています。150%で挑み、私が思うシャンソンの魅力が1人でも多くの皆さんに伝わったら良いなと思っています。シャンソン一筋に何十年も生きてこられた先人の方達とご一緒させて頂くのですから、心から敬意と憧憬を持ち、真摯に臨むつもりです」
(取材・文:渡部晋也 撮影:広田成太)
プロフィール

鬼無里まり(きなさ・まり)/志穂美悦子(しほみ・えつこ)
岡山県出身。高校在学中にジャパンアクションクラブ(JAC)に合格して上京。テレビ・映画で数々のアクションシーンをこなし、アクション女優の先駆けとなる。1987年、結婚を機に芸能界を引退。その後、フラワーアレンジメントを学んで花創作家としての活動を展開。20代の頃から好きだったシャンソンに近年本格的に取り組み、2024年に歌手デビュー。同年、日本シャンソンコンクールにて歌唱した「赤いポスター」で優秀賞に輝く。2025年、東日本JCCプラチナコンクールでカンツォーネの名曲「Più su」で歌唱賞を獲得。芸名の「鬼無里」は長野県にある地名から。「まり」はかつて自らが演じた『ビジンダー・マリ』からによる。
公演情報

シャンソンの祭典『第63回パリ祭』
日:2025年7月7日(月)・8日(火)17:00開演(16:30開場)
場:文京シビックホール 大ホール
料:S席12,000円 A席8,000円 B席5,000円
学生席[25歳以下]1,000円 ※要学生証提示(全席指定・税込)
HP:http://www.paris-sai.com
問:ジェイステージナビ
tel.03-6672-2421(平日12:00~18:00)