東映発信“最少人数”での“演劇”を届ける意欲的プロジェクト 演劇に1人で向き合う。そこで生まれるものを楽しみに

東映発信“最少人数”での“演劇”を届ける意欲的プロジェクト 演劇に1人で向き合う。そこで生まれるものを楽しみに

 東映が手掛ける“ひとり芝居”プロジェクト「SOLO Performance ENGEKI」。ひとり芝居という形で演劇というエンターテインメントを届ける試みは、今年で4回目を迎える。プロジェクトの第1弾・第3弾に出演した梅津瑞樹が、脚本・赤澤ムック、演出・毛利亘宏という布陣で3度目のひとり芝居に挑む。過去の2公演にまつわる思い出、そして今回の公演についての想いなど、じっくり話を聞いた。


―――『SOLO Performance ENGEKI』に3度目の声が掛かったときのお気持ちは?

 「ひとり芝居を2年サイクルでやっていきたいという話をしていて、“また2年経ったか”という気持ちです。本当にあっという間の2年という感覚で、年末に“来年の頭はひとり芝居だな”と思うと同時に、“ひとり芝居をやるということは、2年経ったのか”と、時の経過に気づかされるんですよね。
 ひとり芝居を定期的にやるというのは、2年かけて集積したものを全て出すということ。板の上で1人だからこそ、自分の成長をより実感として得られる場所であり、ずっと続けていきたいと思っています。長い付き合いになりますね(笑)」

―――ひとり芝居というとハードルが高い印象ですが、梅津さんの場合、キャリアの初期からひとり芝居に取り組まれていますね。

 「虚構の劇団の話ですが、研修生から劇団員になる通過儀礼的なものとして、お客さまが入った場で、自分が作・演出したひとり芝居をやるという試験があったんです。そうした経験の分、ひとり芝居をやることに対して身構える気持ちがないのかな。1人でやることの難しさを意識して“ひとり芝居をやろう”と思ったわけではなく、自分というコンテンツを打ち立てていく中で、“1人きりでやりたい”という想いがあって挑んでいます。人と一緒にやることで生まれるものもありますが、1人だからこそ生まれるものもあるなと思っていて。
 今まで、わりと孤独な人生を生きてきているという実感があって(笑)。1人ということに対して抵抗感がないんですよね。演出家さんをはじめとしてスタッフさんもいますから、厳密にいえば1人で作るわけではないですし」

―――「1人きりでやりたい」と思う理由は何でしょうか?

 「今までの人生、俯瞰で見たら色々な人に助けてもらってここまで来ていますが、根っこのところでは“結局、自分の人生は自分で全うしなければいけない”という考えがあります。“1人で全部やれたほうがいい”、“1人でやれるにこしたことはない”という想いが、学生時代からずっとありました。本を書いたり、モノを作ったりする作業はだいたい1人でやるものなので、“何かをする=1人”というのが自分のベースにあるのだと思います。1人でやるのが、一番気楽ですし(笑)」

―――2021年・2023年にご出演された前作の上演で、印象に残っていることは?

 「どちらも脚本が宮本武史さん、脚色・演出は粟島瑞丸さんという座組でした。だからどちらも(粟島)瑞さんと2人、稽古場でやりとりしたという記憶しかない……(笑)。
 稽古も上演も寒い時期にやるので、寒いな~と思っていた印象です。瑞さんとは第1弾で初めてお会いして、孤独で寂しい稽古場でお互いのことを知っていき、『じゃあ、また2年後にね』と別れ、2回目はお互いを分かった稽古場で試行錯誤、と4年間積み重ねたものがあり、それは僕の中にも手応えとして残っています。
 ひとり芝居を経験して得た学びとは、何をするにしても1人であるということは、板の上においては自分が責任を取らなければいけないということです。自分の演技に責任を持つという意識は前からありましたが、それがより強くなったと思います。
 例えば木製の楽器はその日の気温や湿度で音色が変わります。役者の身体はそれに近しく、自分のコンディション次第で芝居も変わるのを日々、感じていました。役者の“仕事道具”とは、自らの身体なのだと改めて認識しました」

―――今回の公演は脚本を赤澤ムックさん、演出を毛利亘宏さんが手掛けます。布陣が大きく変わりましたね。

 「2回目のときに、瑞さんの方から『次は、俺じゃない人とやるのもアリなんじゃない?』と言ってくださったんです。その心は『自分もその4年の間に演出家として成長するから、その間に梅も役者として成長して、お互い成長した状態でまた次、やろうよ』ということ。この関係性を長いスパンで考えていてくださるのがわかり、それが凄く嬉しかったので、だったらその言葉に乗りたいと思いました。
 毛利さんは、少年社中さんの公演や、毛利さん演出の作品に呼んで頂きお付き合いがあります。赤澤さんの本でひとり芝居なので、どういう演出をされるのか未知数で、凄く楽しみです」

―――毛利さんはどんな演出家だと感じていますか?

 「僕はまだ、毛利さんのことを掴み切れていないんじゃないかなと思っています。これまで稽古場などで多く見てきた姿でいうと、まるで菩薩のような優しい印象ですが、それだけではないというのもわかっていますから。2人の稽古ではどんな毛利さんなのか……と。
 これまで社中さんの公演などで毛利さんの演出を受ける中で、良くも悪くも腑に落ちなかったことがなくて。ただ、摩擦があることで、演出家の方のこだわりが見えるという側面もあるので、今回、毛利さんと一緒に取り組むことで新しく見えてくることがあるのかなと思っています」

―――プロットを読んでの感想を聞かせてください。

「昨夜、初稿を頂いたところで、今後また色々変わってくるだろうという前提でのお話ですが……。これまでの2作はハッピー寄りなお話でしたが、今作はハッピーではないかなと、感じました。くすっと笑えたりほっと気持ちが緩んだり、という要素は控えめかも⁉ 前回・前々回の作品はそういった笑いが物悲しさや切なさに帰結する部分がありましたが、そういう要素はなさそうです。だからといって、今回は『Not for meだな』とすぐには思わないでほしいのですが……。
 僕自身は明るくコミカルな作品も、シリアスで重めの作品も好きです。贅沢な話で、僕に限らず役者はみんな、HAPPYなザ・コメディ的作品をやっていると真面目でヘヴィなものをやりたくなるし、重めな作品をやり続けていると、コメディがやりたいとなるんですよね(笑)」

―――『MAGENTA』ではどのような挑戦ができそうでしょう?

 「1作目は演じる人物の年代が変わり、2作目は異なる人物を演じるという“変化”がありました。今回は主人公の胸中で変化が生じ、見た目にわかりやすく変化があるわけではなさそうです。だからこそ、しっかり構築した感情を最初から最後までお見せすることができるかなと思っています。ご覧頂く以上、物語のクオリティを一定に保たなければなりませんが、例えば日によっては怒りの感情が常より上回ったり、悲しみの感情が大きく振れたり、そういう違いを僕自身も楽しみながら演じられそうだなと。
 プロデューサーさんからは、『ひとり芝居で、会話劇をやってほしい』と言われています。先日、仲代達矢さんのひとり芝居『バリモア』を観て、あの年齢で、あれだけの観客の前で、1人でやるというのは凄いことだと感じ入りました。役のひとり語りだけできちんと成立させられる、シンプルにいえば観客を飽きさせない。僕も、そこが目標です。これまでの2作はコメディ的要素に助けられた部分もありますが、今作はそういった要素が少ない分、どこで観客を惹きつけるかを考えていかなければと思っています」

―――2年ぶりのひとり芝居。今はどのような心境ですか?

 「ひとり芝居は毎回、楽しみです。1人でやる以上、楽しくなければ絶対にやらないんですよ。“ひとり芝居”というと試練的なものとして捉える流れがありますが、僕は果たしてそうかな?と思っていて……。ひとり芝居をやれたら、一人前の役者というわけでもないし、ひとり芝居を経験していなくても上手な役者さんはたくさんいます。僕は、1人で演劇を作るという環境が好きなんです。演劇は1人でやる機会の方が圧倒的に少なく、自ら動かなければそういう環境にはなかなか身を置けない。その点で貴重な取り組みだと思いますし、これだけ続けられているのはありがたいです。こうして機会をいただいた以上は、作品を経ていろいろ成長できたらと思います。
 昨夜、自分が60歳まで芝居をすると仮定した場合、あと20数年。年間、携わる芝居が平均6本だから、あと120本しか芝居できないんだな……と考えていたんです。120本ってたくさんのようで、実は少ない。そう考えると、あたり前ですが1作1作、大切に臨まなければいけないし、今やっていることが110本目、120本目に繋がっているんだと思ったら、色々考えてやっていかなければいけない。その中で、ひとり芝居という取り組みはやっぱり凄く大事だなとしみじみ思っていました」

―――今回は東京の後、愛知・福岡・大阪も回りますね。

 「本当に贅沢ですよね! 1人だぞ?と思いましたが(笑)。でも『やろうよ』と言ってもらえるのであれば、たくさんの方に来て頂けるような芝居を作ろうと思います。みなさんにまだ何もお見せできない中、チケットを買っていただくことになるので、このインタビューを読んだ方には自信をもって、面白い作品だと言えるものを作ろうという気概だけはありますと、お伝えしたいです。
 僕は演劇ユニット言式(げんしき)もやっていて、みなさんに何を担保に観に来てもらうかということを常々考えるのですが、やっぱり『面白いものがあるから、観に来てください』と言うしかないなと思うんです。本当に、それしかない。当然、作品が刺さらない方もいて、観た上でつまらないと思われれば、それも1つの感想として受け入れる。その覚悟のうえで、僕としては面白くします!と言うことに尽きるなと」

―――梅津さんがお芝居をやっていて、喜びを得られる瞬間は?

 「いっぱいあります! 今日、いい芝居したぜ!って思うわけではないですが(笑)。板の上に立っている満足感や充実感はあるし、相手役に変化が表れたときは嬉しくなります。劇場という空間に満ちている何かを掌握したぞと実感する瞬間があって、それが自分の思惑通りだったら凄く楽しいし……。言式で脚本と演出も手掛けるようになってからは、作品性などで褒められることも嬉しいです。演劇は色々な方向で、自分を満たしてくれるものが多い。尚且つ、日常において自分が“苦しいな”と思うことや“生きづらいな”と思う瞬間も、板の上では赦される。それをどう使っても、役として生きる上では正解にし得る可能性があるというのは、自分にとって救いになっています。そういう意味で、演劇をやるということ自体、ポップに言うと“楽しい”ですね(笑)。今回の稽古場でも、新たな楽しさに出会えればいいなと思っています」

(取材・文:木下千寿 撮影:間野真由美 ヘアメイク:渡邉真夕 スタイリスト:小田優士)

新生活! 最近新調したグッズを教えてください

「本棚を新調しました。新調というか増設ですが。でもまだ入れきれない書物が床を埋め尽くしています」

プロフィール

梅津瑞樹(うめつ・みずき)
1992年12月8日生まれ。千葉県出身。2015年、「虚構の劇団」にて舞台俳優としてデビューする。劇団公演に出演するほか、2.5次元ミュージカルから朗読劇まで、多彩なジャンルの舞台作品に携わる。2023年には演劇ユニット「言式(げんしき)」を立ち上げ、旗揚げ公演『解なし』で脚本と演出を手掛けた。

公演情報

SOLO Performance ENGEKI 『MAGENTA』

【東京公演】
日:2025年4月16日(水)~27日(日)
場:シアターサンモール

【大阪公演】
日:2025年5月24日(土)・25日(日)
場:梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

料:プレミアム席[前方座席]9,800円 
  S席7,800円(全席指定・税込)
HP:https://solo-engeki.com
問:上記HPよりお問い合わせください

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