
結成から10周年を迎える劇団マカリスターは作・演出も手がける井上テテと俳優の宮澤翔、2人だけの劇団。独特なセンスを見せる井上の作品を上演しているが、12回目の公演となる最新作『嫌いな上司のプレゼントを買わなくちゃ』は、タイトル通り、皆から嫌われている上司のプレゼントを買いに行く役を押しつけられた、悩めるOLを中心にした物語。その主役はモデルから活動を始め、『動物戦隊ジュウオウジャー』のヒロインとして映像作品に進出。映画、テレビドラマ、さらに舞台作品でも活躍する柳美稀が務めることとなった。作品に対する井上の姿勢や現在の気持ちを2人に聞いた。
―――結成10周年になるそうですね。
井上「そもそも僕は演劇をするようになったのがだいぶ遅いんです。高校生くらいから始める人が多い中で、僕の初めての作・演出は26歳の頃でしたから。以前は劇団にも参加していましたが、それを辞めて1人で演劇の脚本や演出を手がけていた頃、2015年に堤幸彦監督の映画『イニシエーション・ラブ』の脚本を担当したんです。そもそも僕が脚本を手がけたきっかけは堤監督の作品だったので、まさかの夢が叶ったようなものです。その時、演劇を改めてきちんとやってみようと思いまして、気の合う宮澤と一緒にやることにして、マカリスターを旗揚げしたんです」
―――作品のスタイルはコメディとのことですが。
井上「結成当初からコメディが中心ですが、大好きな堤監督の『池袋ウエストゲートパーク』『ケイゾク』『TRICK』等の影響が強いですね」
―――今回の公演は10周年記念という意識があるんですか。
井上「基本的にはいつも通りですが、今まで出てくれた人や関わりのある人にゲスト出演してもらう予定です。そこは記念公演らしいかも知れませんね。とはいえ、ただ登場して花を添えるのではなく、ちゃんと物語に絡む形で出てもらうつもりです」

―――主人公を演じる柳さんは、マカリスター2回目のご出演ですね。
柳「はい。23年の『なんだコイツ』に続いてですが……、私でいいんですか?(笑)」
井上「もちろん(笑)」
柳「嬉しいですね。私はモデル活動から戦隊モノでドラマデビューをして、今ではだいぶ舞台に出演させていただく機会もいただけるようになってきました」
―――そんな柳さんから見て、マカリスターでの井上さんはどんな印象ですか。
柳「純粋に楽しい方です。井上さんはこちらの意見を尊重してくみ取ってくださるので、やりやすいですね。凄く自然に演じられます。でも最初はどういった方針で進めていくべきか悩んでいました」
井上「そうそう、最近の僕のやり方は、台本は作るものの、台本通りにやらなくて良いよ、というスタンスなんです。やりたいことに合うキャラクターが出来たら、セリフの順番や言葉が多少違ってもいいと、役者に放り投げるんです」
柳「ええ。放り投げられて、とても戸惑いました。今までそんなやり方をしたことがなかったので、どうしたらいいんだろうと。周りからは『柳らしさを出せばいいんじゃない』といわれますが、思うように出来なくて、頭を抱えていました。やっていくうちにあまり考えすぎず、自分らしさを出す方法を井上さんから学んだんです」

―――放り投げるけれど、台本はある?
井上「ええ、書きます。口立てというわけではありません。役者の皆さんは気を遣ってその通りにやってくれるんですが、文字を読んでいる感じだと僕は不満なんですね。ただ台本を読んでいるようだと自然に見えるのはなかなか難しい。だから台本通りでなくてもいいんじゃないかと。柳さんはこのスタイルに向いていると思うんですね。最初は僕が関わっていたヒーローショーで出逢ったのですが」
―――ヒーローショーって、あの遊園地の?
柳「ええ。デビューして間もない頃ですね」
井上「そうそう、まだ初々しくて、なんか“アホな子”みたいで(笑)。だけど、それが可愛らしくて印象に残っていたんです。でも僕の印象は無かったでしょ?」
柳「いえいえ、テテさんの事は憶えてました。名前が……」
井上「変な名前だからね(笑)。まあそれで『なんだコイツ』でお願いしました。僕の稽古場では役者が台本通りにしゃべると『それ、台本通りだろ!』って怒られるんですが(笑)、柳さんはその中で縦横無尽に動いてくれて、いわばジャズの人ですね」
柳「言われて納得ですが(笑)。私はむしろガチガチに芝居を固められない人なんですね。いろいろ事前に考えてもいざ本番になると違ってくる。そういうことからいえばジャズですかね、客席の温度でも変わりますからね」
―――今作はそんな柳さんを主演にした物語ですね。
井上「とっかかりは、昨年の僕の誕生日が、稽古中だったので制作スタッフがお祝いを用意してくれたのですが、その時『オレのことが嫌いなら用意するのは嫌だろうな』と思ったことでした。主人公は慢性的に自分には心当たりがないのに心を許した友人や恋人などが急に冷たく、要は嫌われてしまう経験に悩んでいる女性です」
柳「でも自分からは離れていってないと。気づいていないだけかもしれませんけど。メールでは仲良かったのに、実際あって話すと話が進まなかったり。そんなことはありますね」

―――そんな主人公が、社員たちから嫌われている面倒な上司の誕生日プレゼントを選びに行く。そこに今度は闇バイト専門の殺し屋が絡んでくるわけですが、“闇バイト専門の殺し屋”ってなんですか(笑)。
井上「ともかくサスペンスにしたいんです。無理矢理にでも。そのために現れる殺し屋です。プロフェッショナルではなく、バイトの殺し屋。でも現代ではそれがリアルに近いかも知れませんね。まあ思慮に欠けるものだから、うっかり彼女をターゲットだと思ってしまう」
柳「ポンコツなんですね」
井上「そう、ポンコツ(笑)。柳さんには前作で、完全なるサイコパス……人間の負の部分の固まりみたいなキャラクターを演じてもらいました。最後はライフルを持って人を追いかける役でしたが、それをケラケラ笑いながらやってくれました。だから今回は逆に追い込まれる役をやってもらおうと思います」
柳「逆なんですね、追い込まれたらどうなるんだろう」
―――劇団のメンバーは井上さんと宮澤さんの2人だけなんですね。

井上「2人しかいないので、いつも客演の方に入ってもらってます。今はそこに制作スタッフも入って3人ですが、馬が合うメンバーなんですね。だからもしも更に入れるとしたら、相性のいい人になるでしょうね」
―――それではお2人の抱負を聞かせてください
柳「マカリスターならではの雰囲気を大切にしていきたいです。稽古では井上さんから『台本のままでしょ』と言われないように気を付けながら、柳はこんなこともできるんだと思われるように頑張りたいです」
井上「ウチのコメディは最近特にホラーやサスペンスの雰囲気で追い詰めていって、最後に笑えるというスタイルなんです。だから普通のコメディとはちょっと違います。そんな皆さんが見たことがないコメディをお送りします。それに10周年ですから、さらに名前を広めることができるよう頑張ります」
(取材・文&撮影:渡部晋也)

プロフィール

井上テテ(いのうえ・てて)
千葉県出身。堤幸彦作品への憧れから脚本を書くようになり、舞台作品を手がけている中、2015年に堤幸彦監督作品『イニシエーション・ラブ』の脚本家に抜擢、映像作品にデビューする。同時期に俳優の宮澤翔と劇団マカリスターを立ち上げ、全作品の作演出を担当する。さらにドラマ作品ではサスペンスからコメディ、特撮モノまで幅広く手がけ、舞台ではシアターGロッソの公式ヒーローショーなどのエンターテインメントから、新国立劇場での『六番目の小夜子』のようなストレートプレイまで幅広く作品を手がけている。

柳 美稀(やなぎ・みき)
愛知県出身。2016年、テレビ朝日系『動物戦隊ジュウオウジャー』のジュウオウシャーク/セラ役でドラマ初出演を果たす。同年、映画『セーラー服と機関銃~卒業~』で映画デビューをしたほか、翌年には女性ファッション誌『mini』のレギュラーモデルを務める。主な出演作に『賭けグルイ』『ふたりモノローグ』『科捜研の女Season21』などの映像作品、舞台『なんだコイツ』『西遊記』など舞台作品への出演も増えており、活動の幅を拡げている。
公演情報
劇団マカリスター10周年記念公演
『嫌いな上司のプレゼントを買わなくちゃ』
日:2025年5月3日(土・祝)~11日(日)
場:下北沢 駅前劇場
料:前売 5,500円 ペア割引[2枚1組]10,500円
当日 6,000円 ペア割引[2枚1組]11,500円(全席指定・税込)
HP:http://mccallister.jp
問:劇団マカリスター
mai:mail@McCallister.jp