岩⽥有弘&奥谷知弘による新プロジェクト始動! 「ココアを飲んだ時のような温かい作品に」青山美智子のベストセラー小説が初舞台化

 「エンターテインメント風集団 秘密兵器」、「大人の麦茶」、「銀岩塩」とさまざまな演劇団体で作品を立ち上げ、“下北沢小劇場の申し子”と称される岩⽥有弘が、元Candy Boyの奥谷知弘とタッグを組み、舞台製作プロジェクト「OWARI NO HAJIMARI」を始動。プロジェクト第1弾として、奥谷が敬愛する小説家・青山美智子のベストセラー作品『木曜日にはココアを』(宝島社刊)を舞台化する。
 オムニバスで綴られる心優しい物語が、最後に1つの物語として繋がっていく本作。初の舞台化にあたり、温かな作風にぴったりな出演者が出揃った。その中でヒロイン・マコ役を演じる佐倉初と、岩田・奥谷の3名に意気込みを聞いた。


―――「OWARI NO HAJIMARI」旗揚げ公演ということで、まずはこのユニット名の由来や、そこに込められた願いを改めて伺えますでしょうか?

岩田「知弘と僕で生きてきた年代が違うので、それぞれ違う考えを持っていると思うのですが……。僕としては、20歳くらいから舞台づくりを始めて、さまざまな方と出会い、細々と活動を続けさせていただいてきましたが、先日45歳になりまして、なんとなく先が見えてきたんです。若い頃は先のことなんて考えなかったんですけどね。
 この先の20年をどうしたいか考えた時に、今までと違う角度で舞台を作りたいなと思って。これまでは自分がやりたいと思うことを中心にやらせていただいて、これからもそれは変わりませんが、よりお客様の見たいものや一緒にプロデュース公演をやるメンバーのやりたいことに寄り添って、委ねるところは委ねて、自分のまだ見たことのない景色が見てみたいなと。そういった考えから、これまでの自分に一区切りをつけて新しいことを始めようと、再出発という意味を込めて“OWARI NO HAJIMARI”という名前をつけました。
 このタイミングで知弘と出会えたのも本当に良かったなと思っていて……彼はいい意味で若々しくないんですよ(笑)。こんなに同世代みたいに落ち着いた気持ちで話せる若手がいるんだなと。スピード感を重視せずに、目の前のモノを大切に、丁寧にやっていこうという感覚が合うので、一緒に温かい作品を作りたいなと思います」

―――おふたりの出会いは?

岩田「僕が代表を務める“銀岩塩”と知弘がレギュラー出演しているtvk(テレビ神奈川)の番組『猫のひたいほどワイド』がコラボした朗読劇(READING STAGE『土砂降りの森よおしえて僕の膝に住んでいた銀色の猫のゆくえ』)で出会いました。その時に僕が一目惚れしました(笑)。その後、“大人の麦茶”にも出演いただいています」

奥谷「ありがたい限りです」

―――奥谷さん視点で、“OWARI NO HAJIMARI”に込めた意味は?

奥谷「今年の7月に長年所属していたCandy Boyが解散して、事務所からも独立させていただきました。僕にとっても今が“OWARI NO HAJIMARI”というか、僕もこれまでの活動を一区切りして、第2の人生を歩みだすタイミングだったんです。
 今後やりたいことを考えた時に、表現者としての活動はもちろん、いつかプロデュースする側もやってみたい、という話をそれこそ今年の1月に“大人の麦茶”で主演をやらせていただいた際に有さんにしていて……そこからお話をいただいて、今に至ります」

―――お互いにとって運命的な出会いだったのですね。奥谷さんはCandy Boyとしても(朗読劇で様々な作品を上演する中で)さまざまな小説に触れていらっしゃったかと思います。
 今回の旗揚げ公演の演目として青山美智子さんの『木曜日にはココアを』を推薦したのは奥谷さんなのでしょうか?

岩田「そうです。特にお気に入りなんだよね?」

奥谷「そうなんです!」

岩田「僕はこれまでオリジナルの作品を手掛けることが多かったので、新しいアプローチから舞台を作りたいなと思っていて、そんな時に知弘からこの作品を紹介してもらいました。原作の青山先生ともご縁が深いと聞いて、せっかくの“OWARI NO HAJIMARI”旗揚げ公演なので、2人でしかできないことがやりたいなと……思い切って青山先生にコンタクトを取ってもらいました」

奥谷「Candy Boy時代に自分が好きな本を紹介するイベントがあり、そこで僕が紹介したのがこの『木曜日にはココアを』でした。その時に、僕のファンの方が青山先生のSNSにイベントの配信URLを送ってくれて、それに先生が反応してくださったのが最初のご縁でした。
 その後、スタッフの計らいで青山先生をCandy Boyのイベントにお呼びして、この『木曜日にはココアを』を朗読させていただいたのですが……ありがたいことに『本物のワタルくんがいる』と号泣して喜んでくださって。それ以来、青山先生は僕が出演している舞台をほとんど観に来てくださっているんです」

岩田「小説を読んでも青山先生の温かいお人柄は伝わってくると思うんですけど、本当に優しくて素敵な方なんですよ。舞台化にあたっても僕らのことを信頼して凄く前向きにご協力してくださって……尚のこと、いい作品にしなければと気合が入っています」

―――今回、奥谷さんはワタル役で出演されるのでしょうか?

奥谷「そうです!」

―――キャスティングはどのようにされたのでしょうか?

岩田「僕と知弘で相談しながら進めました。原作があるので、読者の方々の持っているであろうイメージを崩さないように……という観点からキャスティングしましたが、容易ではなかったですね。でも、この役にはこの人しかいない!というキャストが集まってくれました」

―――佐倉さんはヒロインの“ココアさん”ことマコを演じられるんですよね。

岩田「佐倉さんは舞台『スパイ教室』で拝見してとても素晴らしくて、初めましてでしたが思い切ってオファーをしました。実際にお話ししてみたら物凄く言葉遣いが綺麗で、本当にマコ役にぴったりな方で、良かったなと思います」

佐倉「ありがとうございます。私はこれまでアニメやマンガが原作の2.5次元舞台に出演させていただく機会が多かったのですが、岩田さんが私のお芝居を観た上でオファーをくださったというのが嬉しかったです。
 原作小説のこともすぐに調べて、拝読したのですが、読みやすくて一気に読んでしまいました。とても繊細で温かい作品で、ぜひ出演したいなと思ってオファーを受けました」

―――佐倉さん、そして奥谷さんが思う、この作品の魅力とは?

奥谷「僕にこの作品を語らせたら長くなりますが……なるべく手短に(笑)。コロナ禍で自宅で過ごす時間が増えたのをきっかけに色々な小説を読んでいたのですが、この作品はオムニバス形式ですごく読みやすくて、先ほど佐倉さんもおっしゃっていましたが、僕も気が付いたら一気に読んでいました。
 優しくて温かい言葉選びも魅力ですが、小説ならではのトリックが面白くて……1話目の主人公が脇役になって、脇役だった人が何話目かでは主人公になっていくという、数珠つなぎになっているところに夢中になりました。何度も読み返してしまいます。
 日々生活していく中で、忙しくて忘れてしまいがちな大切なこと、日常の中に溢れているちょっとした瞬間の儚さ、美しさ、切なさが詰まっている、自然と涙が出てくるような作品です」

佐倉「久しぶりにデジタルではない小説を読みました。活字だからこそ伝わってくる情景があって、でもきっとその情景って人によってちょっとずつ違うのだろうなとも思うのですが、それも含めて素敵だなと思っています。
 青山先生の読み手の心が温かくなるような言葉の紡ぎ方が凄く好きで……人と人の縁は少しずつ重なって、繋がっているんだという、当たり前のようで当たり前じゃないことを思い出させてくれた作品でした。
 私のファンの方にも青山先生の作品が好きな方がいらして、レギュラー番組に『初ちゃんが青山先生の作品に出るの、嬉しいです!』とメッセージを送ってくださったこともあり、それも本当に嬉しかったんですよね。そういうのもご縁だな、繋がっているなって思います。自分1人では出会えていなかった作品に出会えたことに感謝です。脚本や演出はどうなるんだろうかと、私自身楽しみにしています」

―――佐倉さんがおっしゃった通り、オムニバス作品ということでどんな脚本・演出になるのか、原作ファンの方も気になっていると思います。

岩田「数か月前から脚本の上野友之さんと打ち合わせを重ねています。当たり前なのですが、原作小説が1本の作品として完成されているので、それをどう舞台作品に落とし込むかが難しくて。
 でもこの作品の魅力を引き出すために一番は“リアリティ”が必要だなと思っています。舞台で表現するとなると、文字ではなくて目の前で実際に起こることで伝わるものがあるので、青山先生が描く優しい世界、優しい登場人物たちをセリフ以外のところでも表現できたらと思っています。もしかしたら舞台っぽくない舞台になるかもしれません(笑)。
 観てくださった方には「これぞ『木曜日にはココアを』の舞台化だ!」と思っていただけるようにと、上野さんが脚本を書いてくださっています」

―――奥谷さんはワタル役だけでなく、今回は初の舞台演出にも挑戦されるのですよね。

奥谷「Candy Boy時代に公演の演出、ステージングのようなものは少しだけやっていましたが、舞台の演出は初めてになります。キャストの皆様にはご迷惑もおかけすると思いますが……」

岩田「演出家がやりたいことを全て言ってくれた方が役者はやりやすいから、遠慮せずに何でも言って! やっぱりこの作品を1番愛している知弘が演出をやるのが、この舞台にとってベストだと僕は思っているので。凄く楽しみです」

奥谷「ありがとうございます。今回は演出家という立場ではありますけど、どんな作品でもどんな立場でも、現場の雰囲気が一番大事だと思っているので、皆で温かい雰囲気を作っていけたらいいなと思っています」

―――ビジュアル撮影も終えたとのことで、この作品は先ほど奥谷さんが“ジャケットにも惹かれてしまった”という、田中達也さんのミニチュア写真を使用した表紙も印象的です。こちらをもとに、ビジュアルや舞台セットなどを作っているのでしょうか?

岩田「そうですね! キャストや衣装チームにも見せて、相談しながら衣装案を出してもらいました。本から飛び出してきたような、イメージ通りのビジュアルが仕上がったかなと思います」

佐倉「それぞれの登場人物にテーマカラーがあるのですが、私が演じるマコさんは“白”なんです。私自身、大好きな色で、私服も白が多いので、そんなところにもご縁を感じました。地毛でヘアメイクしていただく作品が実は久しぶりで、ちょっとドキドキしています(笑)」

岩田「新鮮な感想!」

佐倉「ウィッグをつけて舞台に出ることが多くて(笑)」

岩田「2.5次元系の舞台が多いキャストさんからしたら、そうだよね。佐倉さんらしさも残しながらマコという役を演じてもらうことで、よりマコが実在していそうな、まさに“リアリティ”を感じてもらえるかもしれません」

―――楽しみにしています! では最後に、ファンの皆様へメッセージをお願いします。

佐倉「久しぶりにストレート作品に出演するので、私自身も楽しみであり、ドキドキもしています。劇場は新宿シアタートップスということで、お客様とステージの距離も近く、私たちの息遣いまで聞こえてしまうのではないかなと……。ぜひリアルに生きる『木曜日にはココアを』の登場人物たちを楽しんでいただけたらと思います。沢山の方に観に来ていただきたいです! それぞれのオムニバス作品の魅力を皆さんにお届けできるように、私も精一杯努めます」

岩田「原作小説に『わたしたちは、知らないうちに誰かを救っている――』というキャッチコピーがありまして、まさにそんな舞台になっていたらいいなと思います。
 紆余曲折や起承転結がある作品というよりは、すーっと心に入ってくる、優しい感動が小さくもいっぱいある作品になると思うので、原作ファンの方も、今作をきっかけに初めて原作に触れる方も、皆で温かいココアを飲んでいるかのような気持ちでカーテンコールを迎えられるのではないかなと。
 キャスト1人1人がこだわって、1つ1つのシーンを作ってくれると思うので、一瞬一瞬を見逃さないでほしいです。全部が伏線として、最後に繋がってくると思います。新宿シアタートップスが劇中に登場するマーブルカフェだと思って、ぜひ一緒に『木曜日にはココアを』の世界でぬくぬくと温まりにきてください」

奥谷「初めに話した通り、僕が青山先生と出会うきっかけをくださったのは僕を応援してくださっているファンの皆様で、今回この作品を舞台化することができたのは有さんとの出会いがあったからで……そして有さんのキャスティングで佐倉さんをはじめとしたキャストの皆様とも出会えたり、脚本の上野さんとも出会えたりと、1つの作品を通じてこんなに沢山のご縁が繋がるんだなとありがたく思っています。
 人は独りぼっちじゃない、誰かが必ず助けてくれるんだなと……まさにこの原作小説の世界のような話ですよね。僕が感じたこの原作の温かさを舞台でも伝えられるように……観てくださった方に『明日も頑張ろう』、『日々を丁寧に過ごそう』と思ってもらえるような、いい年始めの舞台になればいいなと思います。よろしくお願いします」

(取材・文&撮影:通崎千穂)

プロフィール

岩田有弘(いわた・ありひろ)
10月30日生まれ、東京都出身。「エンターテインメント風集団 秘密兵器」の主宰をはじめ、舞台プロデュースユニット「銀岩塩」の代表、劇団「大人の麦茶」の劇団員でもある。これまで下北沢 本多グループで500ステージ以上の舞台出演と制作をおこない、“下北沢小劇場の申し子”の異名を得る。近年の主な出演作品に、ドラマ『神ノ牙-JINGA-』、YouTube初特撮ドラマ『華衛士F8ABA6ジサリス』、大森カンパニープロデュース人情喜劇シリーズvol.13『トコトン、いじはり』、大人の麦茶 第31杯目公演 ラストオーダー『ネムレナイト』など。

奥谷知弘(おくたに・ちひろ)
12月26日生まれ、埼玉県出身。テレビ朝日系全国放送「Break Out」で誕生したエンターテイメント集団「Candy Boy」のリーダーとして約9年間活動。『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』シリーズや舞台『ジョーカー・ゲーム』などの2.5次元舞台、ドラマ『トットちゃん!』や『無用庵隠居修行3』などに出演。tvk「猫のひたいほどワイド」のレギュラーとして出演中。近年の主な出演作品に、映画『ファストブレイク』、舞台『あの春は、いつまでも青い』-永南高校バスケットボール部-、アナログスイッチ 21st situation『寝不足の高杉晋作』など。

佐倉 初(さくら・うい)
5月26日生まれ、福岡県出身。秋元康が手掛けるアイドルグループ「22/7」のメンバーとして活動の後、2023年6月に“佐倉初”に改名し、現在は女優業を中心に活躍。舞台『アサルトリリィ』シリーズの岸本・ルチア・来夢役を長く務めたほか、近年では舞台『スパイ教室』エルナ役、舞台『歌舞伎町シャーロック』メアリ・モーンスタン役、『戦国妖狐 THE STAGE 世直し姉弟編』灼岩役など、涼やかな声質を活かして様々な作品に出演している。

公演情報

OWARI NO HAJIMARI #1『木曜日にはココアを』

日:2025年1月18日(土)〜26日(日)
場:新宿シアタートップス
料:6,500円 U-25[25歳以下]4,500円
  学割3,000円 ※要学生証提示
  (全席指定・税込)
HP:https://owarinohajimari.com
問:OWARI NO HAJIMARI
  mail:info.owari.no.hajimari@gmail.com

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