「誰かに認めてほしい」── 女性アイドル達の不思議な物語 役は当て書き、役名は自分。日常と非日常が混ざりあう舞台を 

「誰かに認めてほしい」── 女性アイドル達の不思議な物語 役は当て書き、役名は自分。日常と非日常が混ざりあう舞台を 

 コロナ禍により演劇界は大きな転換期を迎えた。その最中、2020年に立ち上がった「サヨナラワーク」は、オンライン演劇や新しい演劇のかたちを追求し、3回のオンライン配信をおこなった。脚本のArryと、プロデューサー・演出の深寅芥(みとら・あくた)は出会って約10年。それぞれに演劇活動を行なっていたが、お互いの演劇に求めるものが一致しサヨナラワークを立ち上げた。劇場での多数の演劇上演の経験を持ったうえで、新しいエンタメに向かってサヨナラする活動を試みている。
 そんなサヨナラワークにとってvol.4となる『眠れぬ姫は夢を見る』は初の劇場公演となる。これまでオンライン配信では映像を活かしてきた。長年の演劇経験と、オンラインならではの表現を経て、たどり着く次のステージはいったいどんな景色を見せてくれるのだろう。出演者の彩原双葉、桜羽萌子、美澄優羽、水野奈月、南岡萌愛に作品に臨む率直な思いを聞いた。

華やかなアイドルの物語かと思いきや……ジェットコースターのような展開に!?

──脚本を読まれての印象はいかがでしたか?

桜羽「最初は日常的な話だったり、女の子特有のアレコレがある人間模様が描かれるんですけど、だんだんファンタジーのような世界観になる。最後は、すごく素敵なエンドだなと!」

水野「そうですね。女の子達8人によるアイドルの話で、華やかに始まるんです。これがテーマかなと感じたのは、誰しもが持っている承認欲求や“自分ってどういう人間だろう?”という不安ですね。
 最近、コロナ禍で自分と向き合う時間が増えたんですけど、そうやってふと気づいたら何気なく考えてしまうような、根本的なことが描かれている気がします。華やかな反面、考えさせられる要素がいっぱい詰まっているなぁと思いました。ただ、表現するのがすごく難しそうなのでどうみんなで作っていこうかなと考えています」

桜羽「本当にどう演出されるんでしょう。深寅さんはすごく綺麗な演出をされる方なので、実際にどういう色彩の照明や音響で組み立てられていくのかすごく楽しみになる脚本です」

美澄「ト書きだけでも“これはどうなるんだろう!”“ここどういう演出が入るのかな”とワクワクしますね。私は脚本を読み終わった時に“なんだこれはー!”とプラスの意味で驚いたんです。話の展開が、普通なら山あり谷ありなところを、山あり谷あり一周回ってまた谷からの山みたいな印象なんです。
 あっちへ行ったりこっちへ行ったりとジェットコースターに乗ってるような感覚で、読んでいるだけでイメージが広がっていく。だから実際に人が立って劇場ってやった時にどうなるのかすごく気になっています」

──皆さん、当て書きだそうですね。

南岡「みんな、役名が本人の名前なんですよ。自分では“これ、かなり私だな”と驚きました。こんなに“ほぼ私”の状態で舞台に立つ経験はないからちょっと恥ずかしい……。いつも舞台では他の人間になるから、大勢の人前で変なことができたり真剣な言葉が言えたりするけど、自分に近い役ならどうなるんだろう。未知なことばかりですけれど、変わり者でまっすぐな役なので、とにかくまっすぐ届けたい。まっすぐ精一杯やろうと思います」

美澄「ちょっと恥ずかしい感覚、わかります。私の役もかなり自分に当てはまりました。でも役の方はいろんな人からすごく憧れられるキャラなので、私も頑張らなきゃなと思っています。他の皆さんともまだお互いのことを知らないのですが、印象では全員が当て書きされているかのように感じています。一人ひとりのキャラが個性的で濃いので、そのいろんな色がどうやって混ざり合っていくかなというのも楽しみです」

桜羽「私は自分の役については“私、これを任されたんだ!”という気持ちが大きかったです。シリアスというよりはほっこりさせる役柄なので、面白いことができないし、私で務まるかなって。 するとそれを察したのかArryさんから『こういうわけであなたにこの役を任せました、信頼してます』という連絡がきたんです。それがすごく嬉しくて! 不安もあるけど、信じてくれる人がいるんだからやってみようと思っています」

水野「私も“あっ、この立ち位置を任されたか”という衝撃がありました。脚本を読み始めると、みんなとは一歩引いた第三者として関わっていく印象だったので“座組でも一番歳上だし、一歩引いたところからみんなを支えていけたらいいなぁ”という気持ちでいたのですが、読んでいくうちにかなりキーパーソンであることに気づいて……。 すごく大事な役を任せていただいたんだなと嬉しいですし、プレッシャーも感じています」

彩原「どの役も、迷いながら頑張っていますよね。私の役も、歌詞に出てくるようなかっこいい台詞や、自分では言えないようなちょっと恥ずかしい台詞があるんですけど、それを言えるのはこの役だから。まっすぐ伝えられたらとても素敵だなと思っています。“自分とはかけ離れたアイドルの世界を演じられるのかな?”という不安もあったけれど、その世界の中にも人間関係のごちゃごちゃや、“誰かに認めて欲しい”という思いなどの、共感できることがたくさん散りばめられているので、お客さんにも共感してもらえたらすごく嬉しいな」

「気が合いそうなメンバーを選んだ」オーディション

──水野さんと桜羽さんはサヨナラワークによるオンライン配信公演に2回出演されていましたね。今回は劇場での上演ですが、いかがですか?

水野「脚本を読んで、Arryさん節が炸裂している作品だなと思いました。独特な空気感の日常のお話に、いつからか非日常のことが加わって、境目がわからなくなってくる不思議な感覚に陥る。これまではオンラインだったのでその不思議な感覚を映像で表現できたんですけれど、劇場でやるとなるとどういった形で表現していくのか楽しみだなぁとワクワクしています」

桜羽「面白いですよね。あと、私は外部の舞台に初めて出演した時が2015年の公演で、Arryさんと深寅さんのタッグだったんです。当時は右も左もわからなかったので、今回改めてご一緒できた時にどう自分が取り組めて、どういった気持ちになるのか、どんな景色をみんなで作れるのかがすごく楽しみです」

──美澄さん、彩原さん、南岡さんは今年9月のオーディションに参加されましたね。プロデューサーでもある演出の深寅さんは「気が合いそうなメンバーを集めた」とのことですが。

美澄「私は初めてのサヨナラワークなんですけど、なぜオーディションに参加したかと言うと、(水野)奈月さんのTwitterを見ていたからなんです」

水野「そうだったんだ……!」

美澄「そうなんです! 奈月さんとは一度ご一緒させていただいていて、やっぱりもう一度共演したいなと思って勝手に応募しました」

水野「嬉しい! 言ってよ~!」

美澄「すみません、今言いました……(笑)! オーディションを受けるにあたって過去の作品を全て見たら、非現実に吸い込まれていくような初めての感覚がすごく気持ちよかったです。これは絶対に受かりたいという気持ちでオーディションに臨みました。受かった時には全部が一気に叶ってしまったようでした!」

彩原「オーディションはワークショップみたいですごく楽しかったですね。よりサヨナラワークに関わりたくなったので、出られることになってすごく嬉しかったです。ただ私自身が、このコロナ禍でまったく舞台ができなかったり、観に行くことも怖かったりもしました。でもやっぱり舞台がやりたかったから、全18公演という長いスパンを覚悟して楽しみたいです」

──WSオーディションはどういうことをされたんですか?

彩原「5分ほどのインプロ(即興)をやって、テーマが『自分のバイト』だったんです。いろんな人も特殊なバイトとかも知れたのも楽しかったです」

南岡「どういうバイトが似合うか?と互いに言い合ったりもしましたよね。彩原さんと美澄さんとはオーディションの日時が同じだったんですけど、インプロでも美澄さんがすごく引っ張ってくれて。私は『はい!』しか言えなくて……。なんでこんなにできひんのやろ、とすごく落ち込んでいたんです。
 最後の面接では“ここで頑張らないと受からへん!”と、とにかく誠心誠意『一緒に舞台がしたいんです!』と目を見て訴えました。そしたら『なんか面白いね』と言ってくださってすごく嬉しくて。面白いという褒め言葉をいただけたので、目を見て話せてよかった!」

一同「(笑)」


サヨナラワークという“演劇を楽しむ”場所

──これまでサヨナラワークに出演されている桜羽さんと水野さんに伺いたいのですが、脚本のArryさんと演出の深寅さんはどんなタッグですか?

水野「深寅さんが、Arryさんの脚本をとても深く読み取っていくんです。私が“これはどうやって表現するんだろう?”と想像が及ばないことも、深寅さんは『Arryくん、これどうやったらいいんだよ』と言いながらも全部実現していく。2人の相性から生まれた作品がとても素敵なんです。今回もすごく楽しみですし、関わることができて光栄ですね」

桜羽「私もまたご一緒できてとても嬉しいです。6年前に初めて出演した時が印象的で、私はプライベートなことでちょっと落ち込んでいたんです。そしたら深寅さんに『マインドがクローズしてるね。声が出ていないし、心が全然届いてない』と言われました。その作品でも自分の名前と同じ役名で、Arryさんがかなり当て書きをしてくれたこともあって、その言葉にハッとしました。“自分はクローズしていたんだ……!”って。それがきっかけでクローズしていたものがちょっと開かれたし、未来が切り拓かれていく作品だったので、すごく救われました」

──おふたりの言葉や声からも、サヨナラワークが心地の良い場所なんだろうなと伝わってきます。では、サヨナラワーク経験者の2人になにか聞いてみたいことはありますか?

美澄「あの……サヨナラワークの皆さんが作品を作っていくうえで意識しているはありますか? ちょっと緊張しているので、稽古が始まる前に聞けたら嬉しいなと」

水野「稽古場にはとくに不安なく入れますよ」

桜羽「そうですね。奈月ちゃんと2人芝居をやった時も“とにかく楽しもう”という印象でした。稽古では『何が不安? じゃあそれをなくすためにどうする?』というのを繰り返して、不安を無くして本番楽しもう!という感じがあったよね」

水野「うんうん、稽古はリラックスできますね」

美澄「良かったです! 深寅さんもArryさんもフランクに話しかけてくださるので安心していましたが、さらに楽しみになりました!」

(取材・文:河野桃子 撮影:友澤綾乃)

もしあなたのところにサンタクロースが来るとしたら、どんなプレゼントをお願いしますか?

美澄優羽さん
「どこでもドア。いつでも好きな場所に行くことができるので、欲しいです! 『どこでもドア』があれば、人生の限られた時間の中でより多くの世界各国の様々な景色を見ることができ、その場所を体感することができる。長時間の移動が困難な場合でも、年齢を重ねてからでも、扉を開けばすぐに目的地なので、家族旅行だって自由にできる。
 『ちょっと寒いから沖縄味わってこよ~』とか、『あ、韓国料理食べたい! 行ってきまーす!』って、できるのも良いところですよね♪ 今からみんなと遊園地に遊びに行くことも……考えれば考えるほど『どこでもドア』欲しくなっちゃいます(笑)! ちなみに今行きたい場所は、オーストラリア。世界遺産をめぐりたいです」

水野奈月さん
「今特に欲しい物がないので……サンタさんとソリで一緒に世界中をまわれる券をお願いします! サンタさんとたくさんお話ししてみたいし、空から見る世界中の夜景は息を呑むほどの美しさだと思うから。一度見てみたい」

桜羽萌子さん
「空を飛んでいるかのごとくふんわり高くジャンプできるようなスニーカーを発明してプレゼントしてほしいです。先日ポートレート撮影に行った際、銀杏と空の青とのコントラストがすごく綺麗で日差しがあたたかく風が気持ち良かったので“あの銀杏の木の上の方にふわり飛んで行って座ってるところを撮られたい……きっとファンタジックだろうな”と思ったんです。スニーカーの力で空を飛ぶのはなんとなく怖い感覚のイメージしか沸かないのでふんわり高くジャンプできるやつでお願いします……!
 なんて、サンタクロースさんには大人になってもどんな夢のような願いも素直に話せてしまう不思議な力がありますね」

彩原双葉さん
「サンタさんが寝てる間に枕元に置いてくれるならディズニーのチケットが3枚欲しいです。舞台が終わったら大好きな妹2人と東京デートする予定なんです。もっと欲張れるなら、お揃いの可愛いミッキーのカチューシャも欲しいですね。
 もし起きてる間にサンタさんにお会いして直接頼めるなら家賃と光熱費を払って頂きたい。とっても助かります(笑)」

南岡萌愛さん
「『なんでもいいの?』って聞いて『ホーホーホー! 萌愛だけなんでもいいよ!』って言ってくれたら『じゃあ豪邸といっぱいのお金をください!』って言うと思います。
 私は物欲が全然ないのでとっても難しかったです。何かな~って考えに考えたら、もっと大人になった時にお金とでっかいお家を持ってたら幸せやろな~と思いました。な のでサンタさん宜しくお願い致します」

プロフィール

美澄優羽(みすみ・ゆう)
7月16日生まれ、東京都出身。音楽系の学校を卒業後、舞台・映像・イベント・配信など幅広く活動。2018年、rabbit youth riot「花を岸に投ぐ」MVに出演。最近では、2021年3月、8月にWORLD of the CHARACTERS『失われた反逆者』、『始まりの魔女と終わりの時』に出演し、自身が演じた『始まりの魔女』のテーマソングの作詞も担当した。10月には、アパレルブランドSHELLFLAN 主催のファッションショーなどに出演。

水野奈月(みずの・なつき)
2月28日生まれ、愛知県出身。舞台を中心にイベントや配信、企業CMのモデルやナレーション等広く活動。近年ではmuse of soul「覗きたい女は、覗かれたい男に覗かれる」で主演を務める。サヨナラワークでは『アロンアロング』、『ネバーエンディング・ガールズストーリー』に出演。映像出演は「全力坂」資生堂CM「TSUBAKI」他。

桜羽萌子(さくらば・もえこ)
7月3日生まれ、東京都出身。D3P公認劇団ドリームクラブ第3期3体目アイリ役を務めたほか、舞台・イベントにも出演。サヨナラワーク関連では2015年劇団エリザベス『サヨナラワーク』、ネリムプロデュース『劇場版サヨナラワーク』、『消えるカラー』、『ネバーエンディング・ガールズストーリー』に出演。

彩原双葉(あやはら・ふたば)
11月10日生まれ、福岡県出身。小学4年生で舞台に憧れ、翌年オーディションを受け初舞台を踏む。桐朋学園芸術短期大学演劇専攻を卒業。在学中の2019年にストレイトプレイコース試演会『冒険者たち』、2020年に同卒業公演『ひめゆりの塔』に出演、同年雷5656会館『浅草夢やしき』に出演。

南岡萌愛(みなみおか・もえ)
2月22日生まれ、奈良県出身。劇団「悪い芝居」に所属し、2020年退団。近年は映画『鬼ガール!!』など映像作品への出演のほか、舞台ではオンライン版泊まれる演劇In Your Room『ANOTHER DOOR』、『サイバーガール~あるいは寛容論について~』、悪い芝居『今日もしんでるあいしてる』などに出演。

公演情報

サヨナラワーク #4
『眠れぬ姫は夢を見る』

日:2021年12月15日(水)~26日(日)
場:中野 劇場HOPE
料:前売3,800円 当日4,300円
  特典パンフレット付前売チケット6,300円
 (全席自由・税込)
  ライブ配信チケット3,000円(税込)
HP:https://note.com/sayonarawork/
問:サヨナラワーク mail:sayonarawork@gmail.com

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