本編+反省会で役と俳優がリンクするのも魅力 3キャスト60役×6通りの組み合わせ 回ごと役替わり、新鮮な朗読劇

本編+反省会で役と俳優がリンクするのも魅力 3キャスト60役×6通りの組み合わせ 回ごと役替わり、新鮮な朗読劇

 主人公・水川啓人の人生における5年ごとの転機を3章に分けて描く朗読劇『5 years after』。3名の俳優が20歳・25歳・30歳の水川啓人と彼を取り巻く様々な人々、60役を回替わりで演じる。本編終了後には反省会もあり、キャストの役作りや人間性にも触れられる。今まで様々な俳優が本作にチャレンジしてきたが、今回のキャストは室龍太、久保田秀敏、谷佳樹。作・演出はver.1から引き続き堤泰之が担う。本作の面白さや意気込みを、堤泰之と久保田秀敏に聞いた。

―――2020年にver.1を上演し、今回ver.10かと思います。まずは意気込みから教えてください。

久保田「僕は以前参加したことがあり、とんでもない脚本だと感じました。凄く作り込んである脚本だけど、そこにいる人たちがとてもリアル。『こういう人いるな、あんな変な人いたな』と映像が浮かんで、それを自分に映しつつ試行錯誤しました。今回はさらに癖を強く出しながら、人物像をもっと深めていきたいです。記念すべき10回目としてリスタートを切れるような公演にしていきたいです」

堤「最初の頃は決まりを作ることに一生懸命でした。朗読劇って色々な形があるけど、この作品では動いたり目を合わせたりするのは無し、お客さんの方も向かずにあくまで本を読んでいる閉じたスタイルでやろうと。毎回出演する役者が違うのでそのルールは伝えますが、あまり約束が多くても窮屈になってしまうので、遊べる部分は遊んでほしいと思うようになりました。方針を変えたわけじゃないけど、少しルーズな部分があった方が面白いかなと思っています。今回のみんなにはどんどん遊んでほしいです」

久保田「その片鱗は読み合わせで出てきていましたね」

―――堤さんがおっしゃる通り、朗読劇も多様化しています。演じる側からすると、椅子に座って本を読むタイプの朗読劇と普段のお芝居の違い、難しさはどこですか?

久保田「結論から言うと、覚えた方が楽です。役者の中には読みながら頭に入れて口に出す作業が苦手な人もいる。僕も苦手でノッキングを起こしやすいんです。普段は全部覚えて、その中で相手と呼吸を合わせながらやる。この作品は“お客さんを見ない・役者同士で目を合わせない・あくまで本を読んでいる”という状況で、登場人物の心を通わせながらストーリーを進めていく。ベーシックなスタイルの朗読劇だと感じています」

堤「本当は演劇として上演するつもりで書いたものを朗読劇にする場合もありますよね。この作品は最初から朗読劇として書いています。実際に動きながらやることは全く考えていないので、朗読劇ならではの“想像しながら観る”面白さを堪能してもらえると思います。役者がお客さんを見ないのも、舞台から受け取る情報で満足して終わりになってほしくないから。色々な面白さがあるけど、まずはお客さんが役者の声や多少の動き、表情から『今どんな状況だろう』と想像する面白さがあります。役もどんどん変わるので、『今この人が演じているのはどんなキャラクターで、どんな動きをしているんだろう』と想像していく楽しさ・面白さを最初から狙って作っています。そういう意味で、楽はしていません」

―――堤さんの中で、ver.1から9を上演しているうちに変化した部分は何かありますか?

堤「そんなにないですね。決まりごとを作り過ぎず、多少ルーズな部分があってもいいと思うようになったくらい。過去の公演では『椅子から立たない』と決めているのにどうにか表現しようとして座り方大喜利みたいになったり、照明から外れて顔が見えなくなったりしたこともありました。僕らは面白いけど初めて観たお客さんはどうなんだろうというところで縛りを作っていたんですが、それが多少緩くなったくらいですね」

―――今回出演するみなさんの印象を教えてください。

堤「谷くんは『トップスまであと5秒』という朗読劇に出ていただいたことがありますが、その時は稽古を1回くらいしかしませんでした。室くんは5年くらい前に松竹座の『天下一の軽口男 笑いの神さん 米沢彦八』でご一緒し、久しぶり。2人は凄く新鮮にやれる感じがあります。久保田くんとはもう何回も一緒にやっているので安心。谷くんと室くんが何をやってくれるんだろうという期待もあります。まだこの作品の稽古が2回くらいなのでみんな遠慮が見えるけど、色々なことをやってきそうな予感はしていますね」

久保田「室くんも関西の人ですもんね。1回目の稽古で、稽古じゃない時間でボケてきたりしました。僕がバイクで稽古場に行き、終わったから、さぁ帰ろうと準備をしていたら室くんが無言で僕のヘルメットを持って『お疲れ様でした~』っていうから『いやおかしいおかしい』ってなって(笑)。急に関西人っぽいことをするのでとんでもない人が来たなと思いました。
 谷やんとは何度か共演したことがあって、ご飯なども行きます。ボケもツッコミもするけど、どっちかっていうとツッコミタイプなのかな。谷やんも関西人ですから本番はいい意味で荒れる気がします。恐怖でしかないですね」

堤「でも久保田くんも福岡だし、西の人間でしょ?」

久保田「そうですね。頑張って椅子から離れないようにします」

―――久保田さんから見て、堤さんの作品の印象や参加する楽しさはいかがでしょう。

久保田「堤さんの現場は稽古期間が短いです。初めてご一緒した『トリスケリオンの靴音』は稽古が2週間。三人芝居でごまかしもきかないので、ひたすら台本と睨めっこしていた記憶があります。また、稽古が毎日1場からスタートするんです。初日は1場をやって、次の日は1と2、次は123……と進んでいく。必然的に最後の方は全然稽古をやれないまま本番を迎えるので、予習していないと難しいです。でもすごく自由にやらせてもらえますし、自然体で舞台に立てるような空気作りをしてくれる。それも特徴なのかなと思います」

堤「芝居を観に行った時、最初の10分が凄く大事だと思うんです。そこでグッと掴めたら次の10分、また次とどんどん観たくなる。だからとにかく導入や前半は大事に作っています。後半はドラマチックな展開になっているのでお客さんも観てくれるだろうと思うし(笑)」

―――久保田さんは昨年、同じく堤さん作・演出の『ダブルブッキング-2023-』に出演されていました。2つの劇場を階段で行き来しながら演じる『ダブルブッキング』と、椅子から立たずに本を読む『5 years after』は対照的な作品ですが、どちらがより大変なんでしょう。

久保田「『ダブルブッキング-2023-』は猛暑の中、人ごみをかき分けながらキャスト・スタッフの総力戦で挑みました。秒単位で計算して作っていた特殊な演劇なので色々な面で大変さはありました。『5 years after』は役者同士で目を合わせて会話できない辛さはありますが、その分お客さんの頭の中で生きることができる。言葉の持つ意味をいかにきちんと伝えられるかという役者の力量が試されると思います。堤さんが毎回言うんですが、朗読劇は噛んだら終わり。言葉をデリケートに扱わないといけないという点では、僕にとっては朗読劇の方が難しいかもしれません」

―――これまで100回を超える上演の中で、誰も噛まずにできた公演は数回だと聞きました。普段は舞台で滑らかにセリフを発しているキャストさんたちなので、ちょっと意外な感じがします。

堤「セリフが膨大というのもあるでしょうね。1時間の公演で、3人がそれぞれ20役近く演じますから。普通の芝居で1人の役を演じる方が気持ちの流れも作れてやりやすいのかもしれない」

久保田「セリフを覚えていると勝手に体が動くんです。朝起きて歯を磨いて顔を洗うみたいに、自然と言葉が出てくる状態。だから滑らかにセリフが出てくると思うんですが、朗読劇だと1回頭で認識する作業が入ってくる」

堤「その大変さを狙って作ったところもあるんだけどね」

久保田「物理的なストレスが役を通してより力強い言葉として発信できる部分もあります。『ダブルブッキング』も肉体的負荷がかかることでよりリアルにその役が生きてくる。全部連動していると思いますね」

―――『5 years after』のタイトルにちなんで、この5年の振り返りとこの先5年のビジョンを教えてください。

堤「この作品はコロナ禍になり、制約がある中で生まれた企画。逆にいうとコロナ禍がなければ生まれていなかったかもしれないので感慨深いです。僕は稽古終わりに飲みにいくことをあまりしない。でも、飲みにいけない状況になってから振り返ると、そういう場所でのコミュニケーションも大事だと改めて思いました。公演はできているけど、人の芝居を観に行ってまっすぐ帰るだけで、『あの場面は良かったね』『あれはどういうこと?』と話せないのは豊かじゃない。しばらくはこの状態が続くと思いますが、1つの芝居に関わる人たちがもっと濃密に関われるようにしたいなと思っています」

久保田「最近になって色々と戻ってきてはいますが、気を使うのはこの後も続くんだろうなと思います。初日乾杯や打ち上げ、稽古中の飲みもなく、作品が終わったら現地解散なので、終わったのに終わっていないような感覚です。そんな中でお仕事ができているのは凄くありがたいですが、コミュニケーションが少なくなったことで考えることもありました。フラストレーションをぶつける場は劇場やカメラの前しかない中で、情報交換をして人の意見を聞き、自分に足りないものをインプットして、自分からも発信していくのは今1番必要なことだと思います。表現者として常にアップデートしないといけない時代にもなってきているので、歩みを止めずに新しいものを発見・吸収し、自分のものにする作業を日頃からしないといけないと思いますね。お客さんの前でエンタメを提供し、世の中に笑顔を増やしていくのが僕らの1番の任務なので、全力疾走を続けていこうと思います」

堤「公演がある12回『enjoy your life!』と言い続けますからね」

―――この先5年についてはいかがですか? 配信がメジャーになるなど進化した部分もあると思いますが、新たに挑戦したいことなどもあれば教えてください。

久保田「便利になった分、効率が悪くなったところも出てくると思うし、結局元に戻るのかなと思っています。僕個人としては、さっきも言った通り役者としての幅を広げ、自分をバージョンアップさせていくのが使命だと思っています。僕のファンの方もそうですが、観てくれた方が『あの役者さんいつ観に来ても違う顔をしているね』と言っていただけるのが1番のご褒美かなと思うので、色々なものを観察して役者としての自分に取り入れていきたいです。僕ら役者にとって生きることが稽古場。常にアンテナを張ってビジョンを広げていきたいです」

堤「僕はもうすぐ64歳なので、1本1本の芝居を大事にっていう感じですね。若い頃は未来が無限に続くと思っていたけど、だんだんおじいちゃんおばあちゃんの気持ちがわかるようになってきた(笑)。芝居の中身について、新しいことにはさほど興味がない。足を運んでくれたお客さんを楽しませることだけです。作品に関わる人・お客さんにとって豊かなものを育てることに打ち込みたいです。
 あと、今ってSNS上でみんな褒め言葉しか言わないじゃないですか。お店などで面と向かってなら言えても、不特定多数の目に触れる場所だと炎上するから。そこをもう少し正常な状態というか、自由に感想を言える状態に戻していった方がいいのかなとは思います

―――最後に、楽しみにしているみなさんへのメッセージをお願いします。

堤「朗読劇をやるために書いて、朗読劇として面白いものを目指して作り上げてきたので、絶対に面白いと思います。『朗読劇か、つまんない』という先入観を持っている方もいるかもしれませんが、そうではないものをお見せしますのでぜひいらしてください」

久保田「今回、出演者は全員、西の人間。結果何が起きるかというと、みんな暴れます。ぜひ瞠目ください!」

(取材・文&撮影:吉田沙奈)

プロフィール

堤 泰之(つつみ・やすゆき)
1960年生まれ、愛媛県出身。東京大学教育学部中退。在学中よりネヴァーランド・ミュージカル・コミュニティにてオリジナルミュージカルを創作。 1992年にプラチナ・ペーパーズを設立。 また1995年にスタートさせたオーディションシステム「ラフカット」は、若手役者の登竜門となっている。最近の主な作品は、『ダブルブッキング-2023-』(脚本・演出/紀伊國屋ホール&新宿シアタートップス)、『サンシャイン・ボーイズ』(演出/下北沢 本多劇場)、『赤ひげ』(脚本/明治座)など。

久保田秀敏(くぼた・ひでとし)
1987年1月12日生まれ、福岡県出身。ミュージカル『テニスの王子様』2nd シーズンに仁王雅治役で出演し注目を集める。2013年、舞台『心霊探偵八雲』斉藤八雲役で主演。近年の出演作に、ミュージカル『憂国のモリアーティ』シリーズ、『薄桜鬼』シリーズ、舞台『血界戦線』シリーズ、『文豪とアルケミスト』シリーズなど。堤泰之作品への出演は7作目となる。

公演情報

役替わり朗読劇『5 years after』 ~enjoy your life!~

日:2024年2月20日(火)~25日(日)
場:赤坂RED/THEATER
料:7,000円(全席指定・税込)
HP:https://no-4.biz/5yearsafter/ver10/
問:エヌオーフォー mail:info@no-4.biz

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